期待値は、ある勝負を、同じ条件で、何度もくり返したときに、1回あたり、平均していくら得をするか(損をするか)を表す数字です。それぞれの結果に、それが起きる確率をかけて、ぜんぶ足すと、出てきます。
私は、仕入れるか、見送るか。待つか、切るか。続けるか、やめるか。仕事の判断の大半を、この数字で決めています。性格が冷たいからでは、ありません。物を仕入れて売る仕事は、1回1回の当たりはずれが、読めないからです。読めないものを、読もうとするのを、やめました。かわりに、「同じ判断を100回したら、合計でプラスか」だけを、見ています。
この記事では、計算のしかたを先に書きます。次に、期待値だけで決めると、あぶない場面を書きます。そのあとで、私が実際に使っている場面を、6つ書きます。
1. 期待値とは
期待値 =(結果1 × その確率)+(結果2 × その確率)+ …
1-1. サイコロ
サイコロを1回ふって、出た目の数だけ、100円玉をもらえるとします。目は1から6まで。どれも、6分の1です。
(1+2+3+4+5+6)÷ 6 = 3.5。期待値は、350円です。参加するのに、300円かかるなら、1回あたり、50円の得。400円かかるなら、50円の損です。3.5という目は、サイコロには、ありません。期待値は、「次に出る目」の予想では、ないからです。くり返したときの、平均です。
1-2. 身近なものの、期待値
| もの | 1万円を使ったときの、期待値のめやす | 根拠 |
|---|---|---|
| 宝くじ | 5,000円より下 | 法律で、当せん金の総額は、売上の5割をこえてはならない、と決まっている |
| 競馬などの公営競技 | 7,000円から8,000円ほど | 売上から、決まった割合を引いた残りを、当たった人で分ける |
| 保険 | 1万円より下 | 保険会社の経費と利益が、引かれている |
3つとも、期待値は、マイナスです。それでも、保険には、入る意味があります。理由は、2章に書きます。
2. 期待値だけで決めると、あぶない場面
2-1. 1回しか、できない勝負
期待値は、何度もくり返したときの、平均です。回数が少ないと、結果は、期待値から、大きくはなれます。回数をふやすほど、平均が期待値に近づいていく。この性質を、大数の法則と呼びます。逆に言うと、1回きりの勝負では、期待値は、あまり、あてになりません。
2-2. 負けたら、続けられなくなる勝負
「5割の確率で、全財産が3倍。5割の確率で、全財産がゼロ」。期待値は、プラスです。でも、受けては、いけません。ゼロになったら、次の勝負が、できないからです。期待値がプラスでも、賭ける割合が大きすぎると、お金は、先に尽きます。この計算は、破産確率の記事に書きました。
保険は、この裏返しです。期待値は、マイナス。でも、「家が燃えて、続けられなくなる」を、消してくれます。続けられなくなる損は、金額の大きさ以上に、重い。だから、払う意味があります。逆に、起きても暮らしがこわれない損に、保険をかけるのは、期待値のマイナスを、ただ払っているだけです。
2-3. 確率を、自分に都合よく、置いてしまう
期待値の計算は、確率を入れないと、できません。そして、たいていの場合、本当の確率は、分かりません。自分が「やりたい」と思っているとき、人は、うまくいく確率を、高めに置きます。計算は正しくても、入れた数字が、願望になっています。
3. よくある例
- 新しい事業の提案。うまくいけば大きいが、失敗したら、提案した人の責任になる。会社にとっての期待値はプラスでも、提案する人にとっての期待値は、マイナス。だから、だれも、提案しない
- 値引きをすれば、決まる確率は上がる。利益は、へる。どちらが得かは、かけ算をしないと、分からない
- 転職。年収が上がる確率と、上がる額。合わなかったときの損。「不安だから、やめておく」は、計算を、していない
- 資格の勉強。受かる確率 × 受かったあとに増える収入 − かかる時間とお金
1つ目が、組織の中で、いちばん痛いところです。会社の期待値と、自分の期待値が、ずれています。失敗の責任だけを個人に負わせる組織では、期待値がプラスの挑戦が、静かに、消えていきます。
4. 私の使い方
4-1. 仕入れ|「何割の確率で直せるなら、買っていいか」を、先に出す
壊れた機械を仕入れて、直して売るとき、本当の「直せる確率」は、分かりません。だから、順番を、逆にします。先に、「損と得が、釣り合う確率」を、出します。
釣り合う成功率 = 直せなかったときの損 ÷(直せたときの利益 + 直せなかったときの損)
直せたら8,000円の利益。直せなかったら2,000円の損。このとき、釣り合う成功率は、20%です。5台に1台、直せれば、損はしません。あとは、「自分は、5台に1台より多く、直せそうか」だけを、考えます。正確な確率は、いりません。線より上か、下か、だけです。
| 損と得が釣り合う確率 | 20% |
| 1回あたりの期待値 | 4,000円 |
| 1時間あたりの期待値 | 2,667円 |
はじめに入っている数字は、説明のための、仮のものです。3行目の、1時間あたりの数字を、かならず見てください。期待値がプラスでも、1時間あたりに直すと、ほかの仕事より安い、ということが、よくあります。時間を入れた計算は、機会費用の記事に書きました。修理の仕入れに使う、くわしい計算機は、修理転売の4台目の記事にあります。
4-2. 待つか、切るか
ヤフオクで、落札されたのに、お金が払われないことがあります。私は、24時間待って、払われなければ、取引を取り消して、出しなおします。
さらに何日か待てば、払う人も、います。でも、待って払ってもらえる期待値と、取り消して出しなおして、その日のうちに次の入札が入る期待値をくらべると、私の単価では、出しなおすほうが、上でした。1万円から始める出品なら、答えは、変わります。待つ時間は、性格ではなく、単価で決まります。くわしくは、ヤフオクの未払いの記事に書きました。
4-3. どの店を回るか
店で仕入れをしていたころ、だれもが、「掘り出し物の多い店」に、通っていました。そこは、早い者勝ちです。着いたときには、もう、ありません。
| ライバルが多い | ライバルが少ない | |
|---|---|---|
| 掘り出し物が多い店 | 見つかる確率は高い。取れる確率は低い | 理想。ほとんど、ない |
| 掘り出し物が少ない店 | 行かない | 見つかる確率は低い。見つかれば、かならず取れる |
期待値は、「見つかる確率 × 取れる確率 × 利益」です。右下は、だれも行きません。でも、かけ算をすると、左上を上回ることが、ふつうに、ありました。くわしくは、店舗せどりが儲からない理由の記事に書いています。
4-4. やめどき|期待値の上限が見えたら、止める
私は、自分のネットショップを、50品ほど登録したところで、更新を止めました。作業にかけたのは、合計で4時間くらいです。つらくて止めたのでは、ありません。その店で取れる期待値の上限に、届いたからです。それ以上、時間を入れても、ふえるぶんが、ほとんど、なかった。上限が見えたら、時間を、次へ回します。ECサイト運営に向いてる人の記事に書きました。
4-5. 期待値がゼロでも、100個試せば、「当たり」は出る
失敗のほうも、書きます。私は、FXの自動売買を、100個以上、過去の値動きで検証して、成績の良いものを選びました。
優位性が、まったくないプログラムを考えます。ある1年がプラスで終わる確率を、5割と置きます。5年続けてプラスになる確率は、約3%です。1個だけなら、まず、起きません。でも、100個試すと、期待値で、約3個が、「5年連続プラス」になります。1個以上出る確率は、約96%です。
つまり、100個を検証して、上位を選べば、中身の期待値がゼロでも、「ずっと勝っているプログラム」が、ほぼ確実に、手に入ります。私がやっていたのは、期待値を見つける作業ではなく、偶然の当たりを、集める作業でした。FXで人生終わった人の記事に、計算機つきで書いています。
4-6. 期待値は、1回では、確かめられない
業者向けのオークションで、理論上は2万円の価値がある、モニターのまとめ売りを、3,400円で落としたことがあります。結果は、全損でした。ぜんぶ、使えませんでした。
これだけを見て、「あの仕入れは、まちがいだった」とは、言えません。同じ条件の仕入れを、10回やって、合計でどうだったか。そこまで見て、はじめて、判断の良し悪しが、分かります。1回の結果で判断を評価しない話は、後知恵バイアスの記事に書きました。ただし、私は、この市場では、10回やる前に、やめています。1回ごとの参加費が高くて、回数をかさねる前に、費用が、期待値を食うと見たからです。トレファクオークションの記事に書きました。
5. 使うときの、5つの決まり
- 確率が分からないときは、釣り合う確率を、先に出す。「それより上か、下か」だけなら、判断できることが、多い
- 時間を、入れる。1回あたりではなく、1時間あたりで、くらべる
- 回数を、かせげる形にする。大きな1回の勝負を、小さな100回に、分ける。1回が小さければ、期待値どおりの結果に、近づきます
- 期待値がプラスでも、負けたら続けられなくなる額は、賭けない。
- 自分が置いた確率を、あとで、答え合わせする。「6割で直せる」と見こんだ仕入れを、20台やって、実際は何台直せたか。ずれていたら、次から、直します。これをやらないと、確率は、いつまでも、願望のままです
まとめ
- 期待値は、同じ勝負を何度もくり返したときの、1回あたりの平均。結果に確率をかけて、足す
- 次の1回の予想では、ない。回数が少ないと、結果は、期待値から大きくはなれる
- 期待値がプラスでも、負けたら続けられなくなる賭け方は、しない。保険は、その裏返し
- 確率が分からないときは、「損と得が釣り合う確率」を先に出して、それより上か下かだけを、考える
- 1回あたりではなく、1時間あたりで、くらべる
- たくさん試して、成績の良いものを選ぶと、期待値がゼロでも、「当たり」が、手に入ってしまう

コメント