ギャンブラーの誤謬は、「同じ結果が続いたから、次は、反対の結果が出やすいはずだ」と思いこんでしまう、考え方のあやまりです。コインを投げて、表が5回続いた。次は、そろそろ裏だろう。そう感じます。でも、6回目に裏が出る確率は、やはり半分です。コインは、前の5回を、覚えていません。
「ギャンブラーの誤り」「モンテカルロの誤謬」とも呼ばれます。
私は、この誤りで、FXの口座を、1つ、破綻させました。感情で賭けたのでは、ありません。決めたルールを、機械が、1回もやぶらずに実行する自動売買で、破綻させました。誤りは、ルールを守るかどうかではなく、ルールの設計そのものの中に、入っていたからです。この記事では、その話を書きます。
1. ギャンブラーの誤謬とは
別名の「モンテカルロの誤謬」は、1913年の、モナコのモンテカルロのカジノでの出来事から来ています。ルーレットで、黒が、26回、続けて出ました。客たちは、「次こそ赤だ」と、赤に賭け続けました。黒が続くほど、赤に賭ける額を、増やしました。そして、大きなお金を、失いました。
ルーレットの玉は、前に何が出たかを、知りません。1回ごとの確率は、毎回、同じです。このように、前の結果が、次の結果に影響しないことを、「独立している」と言います。
人がこの誤りにおちいる理由を、心理学者のトベルスキーとカーネマンは、こう説明しました。人は、「長い目で見れば半々になる」という性質を、「短いあいだでも半々になるはずだ」と、取りちがえる。10回や20回の短い並びの中でも、つり合いが取れるはずだ、と感じてしまう。
| 言葉 | 中身 |
|---|---|
| ギャンブラーの誤謬 | 同じ結果が続いたから、次は反対が出る、と思う |
| ホットハンドの誤謬 | 同じ結果が続いたから、次も同じが出る、と思う。向きが反対の誤り |
| 大数の法則 | 回数をとても多くすれば、結果の割合は、本当の確率に近づく。ただし、「負けたぶんを、あとで取り返してくれる」という意味ではない |
| 平均への回帰 | 極端な結果のあとは、ふつうの結果が出やすい。これは正しい。ただし、反対側の極端が出やすくなるわけではない |
3行目が、大事です。表が5回続いたあと、大数の法則は、裏を多めに出して、つり合いを取ってくれるわけでは、ありません。そのあと何万回も投げるうちに、最初の5回のかたよりが、うすまって、目立たなくなるだけです。
2. 誤謬を、しくみにしたもの|マーチンゲール法
この誤りを、そのまま賭け方のルールにしたのが、マーチンゲール法です。負けたら、次は、賭ける額を2倍にする。勝つまで、くり返す。1回でも勝てば、それまでの負けを全部取り返して、最初の1単位ぶんが、もうかります。
「いつかは、勝つ」。これは、正しいです。問題は、その「いつか」が来るまでに、いくら要るかです。
| 何連敗したあとか | 次に賭ける額 | そこまでに失った合計 |
|---|---|---|
| 1連敗 | 2 | 1 |
| 3連敗 | 8 | 7 |
| 5連敗 | 32 | 31 |
| 7連敗 | 128 | 127 |
| 10連敗 | 1,024 | 1,023 |
最初に賭けた額を1とした表です。10連敗すると、次の1回に、最初の1,024倍を賭けなければ、なりません。勝って手に入るのは、最初の1単位ぶんだけです。
半々の勝負で、10回続けて負ける確率は、1,024分の1です。めったに、起きません。だから、この賭け方は、ほとんどの日は、勝ちます。小さな利益が、毎日、きれいに積み上がります。そして、1,024分の1が来た日に、それまでの利益の全部と、元手の全部を、失います。回数を重ねるほど、その日には、かならず当たります。
3. 私の例|ナンピン・マーチンゲールの自動売買で、口座を破綻させた
私は2010年から2014年ごろ、FXの自動売買に、本気で取り組みました。売られている自動売買のしくみを、100個以上、検証しました。その中に、「ナンピン・マーチンゲール型」と呼ばれるものがあります。
しくみは、こうです。ドルを買う。値段が下がったら、もっと多く、買い足す。さらに下がったら、さらに多く、買い足す。買った値段の平均が下がっていくので、少し値段がもどっただけで、全体が、利益になります。
このしくみは、ある前提の上に、作られていました。「ドルと円の値動きは、一方向に動く幅が、かぎられている。だから、買い足していけば、どこかで、かならず、もどる」。過去のデータで検証すると、そのとおりでした。利益の線は、右肩上がりに、きれいに伸びていました。
私は、これを動かしました。そして、1ドルが80円前後になった、歴史的な円高のころに、口座を、破綻させました。
値段は、前提にしていた幅を、こえて、動きました。もどりませんでした。買い足すたびに、持っている量は増え、損は、速さを増して、ふくらみました。表の、下のほうの行に、実際に、着いたのです。
4. ルールを守っても、設計がまちがっていれば、助からない
この経験で、私がいちばん学んだのは、ここです。
投資の本には、よく、こう書いてあります。「負ける人は、感情で売り買いをする。ルールを決めて、機械のように守れば、勝てる」。自動売買は、その理想の形です。決めたルールを、感情なしに、1回もやぶらずに、実行してくれます。
私の自動売買は、ルールを、完ぺきに守りました。守ったから、破綻しました。
「下がり続けたのだから、そろそろ、もどるはずだ」。これは、ギャンブラーの誤謬そのものです。この誤りが、売り買いをする人の頭の中ではなく、ルールを設計した人の頭の中に、入っていました。機械は、その誤りを、忠実に、くり返し、実行しただけです。
ルールを守れる環境を作っても、ルールの設計が思いこみに支配されていれば、どうにもなりません。むしろ、人間なら、こわくなって途中でやめる場面でも、機械は、やめません。
そして、過去のデータでの検証は、この誤りを、見つけてくれませんでした。検証に使った期間の中に、「前提の幅をこえて動いた日」が、入っていなかったからです。入っていない出来事は、検証の結果には、出てきません。きれいな右肩上がりの線は、「このしくみは安全だ」という意味ではなく、「この期間には、まだ、その日が来ていない」という意味でした。
FXでの損失の全体は、FXで人生終わった人と、終わらなかった私の差に、いまも小さな口座でやめられていない話は、コンコルド効果の記事に書きました。
5. 物の売り買いにも、同じ形がある
これは、投資だけの話では、ありません。
- 「3回続けて仕入れに失敗したから、次は当たるはずだ」。失敗の原因が、目利きにあるなら、4回目も、同じ確率で失敗します。前の3回は、4回目の確率を、上げてくれません
- 「これだけ長く売れなかったのだから、そろそろ売れるはずだ」。売れない在庫は、時間がたったから売れやすくなる、ということは、ありません。値段か、写真か、売る場所を変えないかぎり、明日も、同じです
- 「値下がりした在庫を、安くなったからと、買い足す」。これは、ナンピンと、同じ形です。下がった理由を確かめずに、平均の仕入れ値を下げるために買い足すのは、私が口座を破綻させた動きと、同じです
売れない在庫を、いつ、どう手放すかは、せどりの損切りに書きました。
計算機:連敗は、どのくらい、ふつうに起きるか
「こんなに続くのは、おかしい」と感じる連続が、実際には、どのくらいの確率で起きるかを、出します。
1回あたりの、負ける確率 %
くり返す回数 回
気になる連敗の長さ 連敗
その回数の中で、この連敗が1度でも起きる確率:
いまから始めて、いきなりこの連敗になる確率:
この連敗のあと、次の1回で負ける確率:
はじめの数字だと、勝ち負けが半々の勝負を100回やると、7連敗は、31.8%の確率で、どこかで、起きます。3回に1回です。「いまから7連敗する確率」は、0.8%しか、ありません。人は、こちらの数字の感覚で、「7連敗なんて、ありえない」と、感じます。けれど、100回の中のどこかで起きる確率は、その40倍です。そして、7連敗したあとの8回目に負ける確率は、50%のまま、変わりません。
回数を1,000回にすると、7連敗は、ほぼ、かならず、起きます。長く続ける人ほど、「ありえない連続」に、かならず、出会います。
6. 守り方
- 「そろそろ」という言葉が頭に出たら、止まる。「そろそろ勝つ」「そろそろもどる」「そろそろ売れる」。この言葉の根っこにあるのは、たいてい、この誤りです
- 前の結果が、次の結果に、本当に影響するのかを、確かめる。影響しないなら、何連敗していても、次の確率は、同じです
- 負けたあとに、賭ける量を増やすルールを、持たない。増やしていいのは、勝つ見こみが上がった証拠が、別にあるときだけです。「負けが続いたこと」は、その証拠に、なりません
- 「もどるはずだ」を前提にしたしくみは、もどらなかったときに、いくら失うかを、先に計算する。失う額に上限がないしくみは、どれだけ勝率が高くても、使いません
- きれいすぎる成績を、うたがう。小さな利益が、負けなしで、まっすぐ積み上がっている線は、どこかに、まとめて払う日を、かくしていることが多いです
- ルールを守ることと、ルールが正しいことは、別だと知っておく。ルールを決める前に、そのルールの前提を、言葉にして書き出します。「値動きの幅はかぎられている」のように。書き出すと、それが事実なのか、願いなのかが、見えます
これは、投資の勧めでも、特定の売り買いのやり方を、すすめる話でもありません。私の場合は、こうだった、という記録です。
7. まとめ
- ギャンブラーの誤謬は、同じ結果が続いたから次は反対が出やすい、と思いこむあやまり。前の結果が次に影響しない(独立している)とき、確率は、毎回、同じ
- 大数の法則は、負けたぶんを、あとで取り返してくれる法則ではない。回数が増えて、かたよりがうすまるだけ
- マーチンゲール法は、この誤りを、賭け方のルールにしたもの。ほとんどの日は勝ち、まれな1日に、全部を失う。10連敗で、次の賭けは最初の1,024倍になる
- 私は、ナンピン・マーチンゲール型の自動売買で、口座を破綻させた。「ドルと円の値動きの幅はかぎられている」という前提で作られていたが、1ドル80円前後の円高のころ、値段はその幅をこえて動いた
- 機械はルールを完ぺきに守った。守ったから破綻した。誤りは、ルールの設計の中にあった
- 過去のデータでの検証は、検証の期間に入っていない出来事を、教えてくれない
- 「そろそろ」という言葉が出たら、止まる。失う額に上限のないしくみは、使わない
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