平均への回帰は、とびぬけて良い結果や、とびぬけて悪い結果のあとには、ふつうの結果が来やすい、という統計の性質です。1回目が極端だったとき、2回目は、平均に近づきます。
だれかが何かをしたから、そうなるのでは、ありません。何もしなくても、そうなります。ところが、人は、そこに理由をさがします。「しかったから、良くなった」「ほめたから、だめになった」「この薬を飲んだから、治った」。この取りちがえを、回帰の誤謬(ごびゅう)と呼びます。
私は、月の利益が80万円から200万円まで動く仕事で、いちばん良かった月を基準にして、支出を決めました。FXでは、100個以上の自動売買から、成績のいちばん良いものを選んで、動かしました。どちらも、同じまちがいです。この記事では、しくみを先に書いて、そのあとで、私の例と、使い方を書きます。
1. 平均への回帰とは
見つけたのは、イギリスの学者、フランシス・ゴルトンです。1886年に、親と子の身長を調べました。背がとても高い親の子は、平均より高い。でも、親ほどには、高くない。背がとても低い親の子は、平均より低い。でも、親ほどには、低くない。子の身長は、親よりも、平均のほうへ寄っていました。
1-1. なぜ、そうなるのか
ほとんどの結果は、2つのものが合わさって、できています。
結果 = 実力 + 運
とびぬけて良い結果が出たとき、その中身は、たいてい、「実力も高くて、運も良かった」です。次の回、実力は、同じです。でも、運は、毎回、引きなおしです。前回ほどの良い運を、もう1回引く見こみは、低い。だから、次の結果は、前回より、平均に近づきます。悪いほうも、同じです。
大事なのは、これが、力のようなものでは、ないことです。何かが、結果を平均へ引っぱっているわけでは、ありません。「良いことが続いたから、次は悪いことが起きて、つり合いが取れる」のでも、ありません。極端な運は、続けて出にくい。それだけです。
1-2. 近い言葉との違い
| 言葉 | 中身 | 正しいか |
|---|---|---|
| 平均への回帰 | 極端な結果のあとは、平均に近い結果が来やすい | 正しい。統計の性質 |
| 回帰の誤謬 | 平均への回帰で起きた変化を、自分のやったことの効果だと思いこむ | まちがい |
| ギャンブラーの誤謬 | 赤が続いたから、次は黒が出やすい、と考える。過去を、うめ合わせる力があると思いこむ | まちがい |
| 相場の平均回帰 | 上がりすぎた値段は、下がる。下がりすぎた値段は、もどる、という相場の見かた | 成り立つ場合もあるが、保証はない。統計の「平均への回帰」とは、別の話 |
| 大数の法則 | 回数をふやすほど、結果の平均が、本当の確率に近づく | 正しい。こちらは、たくさんの回数をならした話 |
ギャンブラーの誤謬との違いは、まちがえやすいところです。ルーレットで、赤が5回続いた。平均への回帰が言うのは、「次の5回で、また赤が5回続く見こみは低い」までです。「次の1回は、黒が出やすい」とは、言っていません。次の1回は、やはり半々です。この取りちがえで口座を飛ばした話は、ギャンブラーの誤謬の記事に書きました。
2. しかると伸びて、ほめると落ちる、の正体
心理学者のダニエル・カーネマンが、イスラエル空軍で、飛行の教官たちに教えていたときの話です。カーネマンは、「ほめるほうが、しかるより、効果がある」と説明しました。ベテランの教官が、反対しました。
教官の経験は、こうでした。みごとな着陸をした訓練生を、ほめる。次の回は、たいてい、前より悪くなる。ひどい着陸をした訓練生を、どなりつける。次の回は、たいてい、前より良くなる。だから、しかるほうが効く。
カーネマンは、これが、平均への回帰だと気づきました。みごとな着陸は、その訓練生の、ふだんの力より、上にぶれた結果です。次は、ほめても、ほめなくても、ふだんの力に近づきます。つまり、悪くなります。ひどい着陸は、下にぶれた結果です。次は、しかっても、しからなくても、良くなります。
教官は、自分がやったことの効果を、まったく逆に、学んでいました。人をしかると、相手が良くなったように見える。人をほめると、相手が悪くなったように見える。世の中で、しかる人が減らない理由の1つは、これです。期待が人の成果を変える話は、ゴーレム効果の記事に書きました。
3. よくある例
- 新人で大活躍した選手が、2年目に成績を落とす。「2年目のジンクス」
- 雑誌の表紙になった選手が、そのあと調子を落とす。表紙になるのは、いちばん調子が良いときだから
- いちばん具合が悪いときに、薬やサプリを飲む。そのあと、良くなる。飲まなくても、良くなっていたかもしれない
- 成績がいちばん悪い店に、本部が指導に入る。翌月、数字がもどる。指導の成果として、報告される
- 過去最高の売上の翌年に、その数字を土台にして、目標を立てる。届かない
- 成績がいちばん良かった投資信託を、買う。買ったあとは、ふつうの成績になる
組織の中で痛いのは、下から3つ目と、2つ目です。いちばん悪いときに手を入れたことは、何でも、効いたように見えます。いちばん良い数字を土台にした目標は、はじめから、届きにくい。目標が上にしか動かないしくみと合わさると、現場は、苦しくなります。こちらは、ラチェット効果の記事に書きました。
4. 私の例①|いちばん良かった月を、ふつうの月だと思った
2019年から2022年ごろ、私は、ブランド品のバッグを仕入れて、直して売る仕事をしていました。人件費を引く前の利益は、月に80万円から200万円。月によって、大きく動きました。
私は、200万円の月を見て、人をふやし、自分の取り分を決めました。毎月出ていく額は、145万円から150万円になりました。200万円の月は、私の頭の中で、「これからの、ふつう」になっていました。
200万円は、ふつうでは、ありませんでした。仕入れが当たり、高いものが続けて売れた、上にぶれた月でした。次の月は、平均のほうへ、もどります。もどった月に、145万円は、払えません。ならすと、逆ザヤでした。数字は、パーキンソンの法則の記事に書いています。
下の計算機は、「次は、どのくらいになりそうか」の、ごくかんたんな目安です。はじめに入っている数字は、説明のための、仮のものです。
| 次の回の見こみ | 158 |
| 今回の結果のうち、運だったと見るぶん | 42 |
平均が140、今回が200、実力の割合が0.3なら、次の見こみは、158です。200では、ありません。毎月かならず出ていくお金を、200に合わせては、いけません。158に合わせても、まだ、あぶない。合わせるのは、いちばん悪い月です。
5. 私の例②|100個の中から、いちばん良いものを選んだ
2010年から2014年ごろ、私は、FXの自動売買のプログラムを、100個以上、検証しました。毎日、10個くらいずつ、過去の値動きに当てはめて、成績を出します。成績の良いものを選んで、実際のお金で、動かしました。結果は、200万円以上の損です。くわしくは、FXで人生終わった人の記事に書きました。
いま考えると、選び方そのものが、平均への回帰の、わなでした。
100個の成績は、それぞれ、「実力+運」で、できています。その中から、成績のいちばん良いものを選ぶ。選ばれるのは、実力が高いものより、運がいちばん上にぶれたものです。数が多いほど、そうなります。そして、動かしはじめると、運は、引きなおされます。成績は、平均へ、もどります。自動売買の場合、その平均は、手数料を引くと、ゼロより下でした。
たくさんの中から、過去の成績で、いちばんを選ぶ。このやり方は、投資信託を選ぶときも、人を採用するときも、仕入れる商品を選ぶときも、同じ形で出てきます。選んだものは、選んだあとで、ふつうに、なります。過去のチャートが、あとから見るとかんたんに見える話は、後知恵バイアスの記事に書きました。
6. 私の例③|売られているのは、いちばん風が強かった日の記録
稼ぎ方を教える教材の多くは、売る人が、いちばんうまくいった時期の数字を、切り出して作られています。うそでは、ありません。その月は、本当に、その数字が出たのでしょう。ただ、それは、上にぶれた月です。買った人が同じことをしても、出てくるのは、平均のほうです。
私は、これを、「最大瞬間風速は、再現性を担保してくれない」と言っています。買った人が手にするのは、風速の記録であって、風では、ありません。私自身の最初の教材も、自分がいちばん稼げたやり方を、そのまま教材にしたものでした。同じように稼げる人は、出ませんでした。この話は、儲け話の記事と、生存者バイアスの記事に書いています。
7. 私の例④|「もどるはず」は、平均への回帰では、説明できない
2026年9月の時点で、私の株の口座には、元本に対して+120%と表示されている商品と、−40%と表示されている商品が、いっしょに入っています。どちらも、指数の何倍かで動く、レバレッジ型の商品です。
−40%のほうを、私は、「もどす」と考えて、持っています。正直に書くと、これは、平均への回帰を、根拠にできません。
統計の平均への回帰は、「実力は同じで、運だけが引きなおされる」ときの話です。相場の値段には、もどるべき平均が、決まっていません。下がったまま、もどらない銘柄は、いくらでもあります。しかも、レバレッジ型の商品は、上がり下がりをくり返すだけで、中身が、へっていきます。「下がりすぎたから、もどるはず」は、1章の表でいうと、ギャンブラーの誤謬のほうに、近い考えです。
私が持ちつづけられているのは、もどると分かっているからでは、ありません。借りたお金ではなく、生活費でもないので、もどらなくても、暮らしがこわれないからです。中身は、株で人生終わった人の記事に書きました。これは、私の考えと、私の口座の話です。どの商品を買うべきか、という話では、ありません。
8. 使い方
8-1. 極端な結果の直後に、大きなことを決めない
過去最高の月のあとで、人をやとう。事務所を借りる。家賃を上げる。過去最悪の月のあとで、やり方を、ぜんぶ変える。どちらも、ぶれた数字を見て、決めています。決めるなら、ならした数字を見ます。私は、毎月かならず出ていく支出は、いちばん悪い月に合わせる、と決めています。
8-2. 「効いた」と言う前に、何もしなかった場合を考える
いちばん悪いときに、何かをした。そのあと、良くなった。このとき、「何もしなくても、良くなっていたのでは」と、1回、考えます。確かめる方法は、1つです。同じくらい悪かったのに、何もしなかった相手と、くらべる。店でも、人でも、商品でも、同じです。
8-3. 1回の結果で、人を評価しない
1回の大成功で、人を引き上げる。1回の大失敗で、人をはずす。どちらも、運を評価しています。見るのは、回数をかさねた、ならした数字です。ほめたあとに成績が落ちても、それは、ほめたせいでは、ありません。しかったあとに成績が上がっても、それは、しかったおかげでは、ありません。
8-4. たくさんの中から選んだものは、割り引く
100個の中のいちばん、10年の中のいちばん良い年、何十人の中のいちばん良い実績。選ばれた数字は、運が上にぶれたぶんを、ふくんでいます。選ぶもとの数が多いほど、大きく割り引きます。売る人の実績を見るときは、「それは、いつの数字ですか。ならすと、いくらですか」と聞きます。
まとめ
- 平均への回帰は、極端な結果のあとには、平均に近い結果が来やすい、という統計の性質。結果は、実力と運でできていて、極端な運は、続けて出にくいから
- 何かの力で、もどるのではない。過去を、うめ合わせるのでもない。ギャンブラーの誤謬とは、別のもの
- しかると伸びて、ほめると落ちるように見えるのは、平均への回帰。しかった効果では、ない
- 私は、いちばん良かった月を、ふつうの月だと思って、支出を決めた。ならすと、逆ザヤだった
- 100個の中から、成績がいちばん良いものを選ぶと、運がいちばん上にぶれたものを、選ぶことになる
- 相場の「下がりすぎたから、もどるはず」は、平均への回帰では、説明できない
- 極端な結果の直後に、大きなことを決めない。見るのは、ならした数字
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