ピークエンドの法則とは、人は、ある体験を、「いちばん気持ちが動いた瞬間(ピーク)」と、「終わり方(エンド)」の、2つだけで、おぼえている、という法則です。とちゅうの長さや、平均は、ほとんど、記憶に、残りません。「終わりよければ、すべてよし」は、だいたい、正しいのです。
先に、書いておきます。私は、ネットで物を売るとき、取引の「終わり」を、早く、きれいに閉じることに、こだわってきました。売れた翌日には、発送を終える。売り手として、いちばんありがたかった相手は、受け取りの連絡が、その日か、次の日に来る相手でした。そして、たくさんの人がうまくいった売り方を、たった1件の、悪い終わり方で、やめたことも、あります。この記事は、その話を、書きます。
この記事では、意味と実験を先に書いて、そのあとで、計算機、私の例、使い方を書きます。
1. ピークエンドの法則とは
1-1. 実験
この法則を示したのは、ダニエル・カーネマンたちです。1993年の実験では、参加した人に、2つの体験を、してもらいました。
| 内容 | |
|---|---|
| 体験A | いたいほど冷たい水(14度)に、片手を、60秒、つける |
| 体験B | 同じ水に60秒つけたあと、そのまま、さらに30秒。ただし、その30秒で、水の温度を、1度だけ、上げる |
体験Bは、体験Aの全部をふくんだうえに、冷たい30秒が、足されています。苦痛の合計は、Bのほうが、多い。ところが、「もう1回やるなら、どちらにしますか」と聞くと、約7割の人が、Bを、えらびました。終わりが、少しだけ、ましだったからです。
1996年には、実際の病院で、大腸の検査を受けた人たちの記録が、調べられました。検査のつらさの記憶は、検査の長さとは、ほとんど、関係がありませんでした。いちばんつらかった瞬間と、終わりの数分のつらさで、決まっていました。
1-2. 2つの、ポイント
- 記憶は、平均では、ない:体験している最中の自分と、あとで思い出す自分は、べつの採点を、します。次にどうするかを決めるのは、思い出すほうの、自分です。
- 長さは、ほとんど、無視される:これを、「持続時間の無視」と、呼びます。1時間の行列も、3時間の行列も、記憶の中では、あまり、変わりません。
2. 計算機:平均と、記憶の点数は、どれだけ、ずれるか
1つの体験を、5つの場面に分けて、それぞれの満足度を、0から10で、入れてください。
場面1 場面2 場面3 場面4 場面5(終わり)
5つの平均:
記憶に残る点数の目安(いちばんよかった場面と、終わりの、平均):
終わりだけを、8に変えた場合:
はじめの数字だと、平均は6、記憶の目安も、6です。終わりだけを、3から8に変えると、平均は、7にしか、上がりません。記憶の目安は、8.5まで、上がります。5つの場面を全部少しずつよくするより、終わりの1つを直すほうが、記憶には、ききます。これは、実験の結果をもとにした、かんたんな目安です。いやな体験の場合は、「いちばんよかった場面」を、「いちばんつらかった場面」に、読みかえてください。
3. 私の例:取引の、終わり方
3-1. 売れた翌日には、発送を、終える
ネットで物を買う体験の「終わり」は、品物が、とどいて、箱をあける瞬間です。私は、売れた翌日には、発送を終えて、すっきりさせたい。フリマのプロフィールにも、24時間以内に発送する、と書いています。土曜、日曜、祝日には発送しないことも、先に、書いています。
後ろの1行が、大事です。終わりの点数は、「期待とくらべて、どうだったか」で、決まります。金曜の夜に買った人が、土曜に発送されると思っていたら、月曜の発送は、悪い終わりに、なります。先に知っていれば、同じ月曜の発送が、「書いてあったとおり」に、変わります。
3-2. 売り手から見た、いちばんよい「終わり」
ブランド品を売っていたころ、海外の買い手の代わりに落札する、代行の会社に、何百回も、買ってもらいました。トラブルは、0。クレームも、0。支払いは、その日か、次の日。受け取りの連絡は、とどいたその日か、おそくても、次の日でした。売り手の立場では、これほどありがたい相手は、いませんでした。
取引の中身は、ほかの買い手と、同じです。ちがうのは、終わり方が、毎回、早くて、同じだったことです。終わりがきれいな相手とは、また、取引したくなります。ピークエンドの法則は、お客の側だけでなく、売り手の側の記憶にも、はたらきます。
3-3. 1件の悪い終わりで、売り方を、やめた
以前、私は、期日を決めて、目標を達成しなければ、先の教材をわたさない、という売り方を、していました。販売ページにも、そう、書いていました。達成する人は、たくさん、出ました。けれど、達成できなかった1人から、弁護士を通して、返金を求められました。私は、返金して、この売り方を、やめました。
数で見れば、うまくいった人のほうが、ずっと、多かった。平均で採点すれば、よい売り方です。それでも、やめました。1件の終わり方が、売り方ぜんたいの評価を、決めた形です。ピークエンドの法則は、お客の側だけでなく、判断する私の側にも、はたらきうる、ということです。
これが、正しい判断だったかは、分かりません。ただ、1つ、言えることが、あります。お客にとっても、売り手にとっても、「いちばん悪い終わり方が、どこまで悪くなりうるか」は、平均とは、べつに、見ておく必要が、あります。
3-4. 終わったあとに、つきまとわない
私は、買ってもらったあとに、こちらから、メッセージを送りません。プロフィールに、そう、書いています。取引は、品物がとどいて、評価がついたところで、終わりです。
逆の経験も、あります。以前、雇っていた人は、よく、働いてくれました。けれど、やめたあとも、書類のことで、何度も、連絡が来ました。終わったはずの関係が、終わらない。ピークエンドの法則で読めば、それは、それまでの印象まで、ぬりかえうる出来事です。きれいに終わる、というのは、「終わったあとに、相手の時間を取らない」ことでも、あります。
4. 使い方
4-1. 売る側、サービスを出す側
- 終わりに、お金と手間を、かける:梱包、発送の速さ、とどいたあとの案内。飲食店なら、会計と、見送り。
- いちばん悪い瞬間を、ましにする:待ち時間、手続き、支払い。なくせないなら、長さでは、なく、つらさの山を、低くします。
- 期待を、先に、合わせておく:3章の1つ目です。終わりの点数は、期待との差で、決まります。
- 悪い知らせは、先に。よい知らせは、あとに:同じ内容でも、順番で、記憶が、変わります。
- とちゅうの手を、ぬく理由には、しない:中身が悪ければ、「いちばん悪い瞬間」が、そこに、できます。
4-2. 自分の判断に、使う
- 記憶の点数を、うたがう:「あの仕事は、最悪だった」は、最後の1か月だけの記憶かも、しれません。続けるか、やめるかを決めるときは、記録(日記、数字)で、平均も、見ます。
- 仕事の1日を、よい終わり方に、する:きりの悪いところで止めて、次の日の最初の1歩を、決めておく(ツァイガルニク効果の記事)。
- 「終わりがよかった」だけで、くり返さない:最後に少し勝って終わったかけごとや、投資は、全体では負けていても、「よい体験」として、記憶されます。
5. まとめ
- ピークエンドの法則とは、体験の記憶が、いちばん気持ちが動いた瞬間と、終わり方で、決まる、という法則です。カーネマンたちが、1993年に、実験で示しました。
- 長さは、ほとんど、無視されます。苦痛の合計が多くても、終わりがましなら、そちらが、えらばれます。
- 5つの場面を全部少しずつ直すより、終わりの1つを直すほうが、記憶には、ききます。
- 私は、売れた翌日には発送を終え、発送しない日は、先に、書いています。そして、多くの人がうまくいった売り方を、1件の悪い終わり方で、やめました。
- 自分の「あれは最悪だった」「あれはよかった」も、終わりに引っぱられています。大きな判断の前には、記録で、平均も、見てください。

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