フレーミング効果とは、中身がまったく同じでも、「どう言うか」で、人の判断が変わる現象です。「成功率90%の手術」と、「10人に1人が失敗する手術」。数字は、同じです。けれど、受けたくなるのは、前のほうです。フレームは、「わく」という意味です。同じ絵でも、わくを変えると、ちがって見えます。
先に、書いておきます。私は、直した中古品を売るとき、直したところを、かならず、書いてきました。同じ1行が、「故障の歴がある品」とも、「弱いところを、対策してある品」とも、読めます。事実は、同じです。わくが、ちがいます。そして、自分の学生時代についても、2つのわくを、持っています。この記事は、わくを変えてよい場面と、変えてはいけないものを、分けて、書きます。
この記事では、意味と実験を先に書いて、そのあとで、計算機、私の例、使うときの注意を書きます。
1. フレーミング効果とは
1-1. 有名な実験
1981年に、エイモス・トヴェルスキーと、ダニエル・カーネマンが発表した、実験です。「600人が死ぬと予想される病気が、はやろうとしている。2つの対策から、えらんでください」と、聞きます。
| 聞き方 | 対策 | えらんだ人 |
|---|---|---|
| 「助かる」のわく | A:200人が、助かる | 72% |
| B:3分の1の確率で600人が助かり、3分の2の確率で、だれも助からない | 28% | |
| 「死ぬ」のわく | C:400人が、死ぬ | 22% |
| D:3分の1の確率でだれも死なず、3分の2の確率で、600人が死ぬ | 78% |
AとCは、同じです。BとDも、同じです。それなのに、「助かる」で聞かれると、確実なほうを、えらびます。「死ぬ」で聞かれると、かけに出るほうを、えらびます。人は、得の場面では安全を、損の場面では、かけを、えらびやすい。これは、プロスペクト理論で、説明されます。
1-2. 3つの種類
| 種類 | 何のわくを、変えるか | 例 |
|---|---|---|
| リスクのある選択 | 結果を、得で言うか、損で言うか | 上の、病気の実験 |
| 特徴 | 1つの特徴を、よい面で言うか、悪い面で言うか | 「赤身75%のひき肉」と、「脂肪25%のひき肉」。前のほうが、おいしそうに、評価される |
| 目標 | 「やれば得をする」と言うか、「やらないと損をする」と言うか | 「検査を受ければ、早く見つかる」と、「受けないと、見つけるのが、おくれる」 |
1-3. 近い言葉との、ちがい
2. 身近な例
- 値段:「年に36,500円」と、「1日100円」。
- 割引:1,000円の品なら「20%オフ」。10万円の品なら「2万円引き」。大きく見えるほうが、使われます。
- 食品:「レモン50個分のビタミンC」。ミリグラムで書くより、多く感じます。
- 仕事:「3割の人が、やめる職場」と、「7割の人が、続けている職場」。
- 投資:「年に5%ふえる」と、「20年に1回は、半分になる」。同じ商品の、両方の顔です。
3. 計算機:同じ数字を、別のわくで、言いかえる
数字を入れると、同じ中身の、別の言い方を、出します。売る側なら、どのわくを使うかを、えらぶ道具。買う側なら、見せられたわくを、もとにもどす道具です。
定価 円 値引きの額 円
使う期間 か月
うまくいく割合 %
値引きの言い方:
値段の言い方:
結果の言い方:
はじめの数字だと、「10.2%オフ」と「10,000円引き」。「88,000円」と「1日あたり489円」。「90%が、うまくいく」と「100人のうち10人が、うまくいかない」。どれも、うそでは、ありません。買う側のときは、かならず、全部のわくに、直してから、決めてください。
4. 私の例:わくは変える。事実は変えない
4-1. 「こわれていた品」か、「ここを直した品」か
私は、こわれた中古品を仕入れて、直して、売ってきました。直した品を出品するとき、直したところは、かならず、書きます。書かないと、あとで、トラブルになるからです。
そして、書いたほうが、高く売れます。直したところは、もとの弱点への対策に、なっていることが、あります。部品を新しくして、もとより性能が上がっていることも、あります。「故障の歴がある品」と見るか、「弱いところを、対策してある品」と見るか。事実は、同じです。わくが、ちがいます。後ろのわくで、事実を全部書くと、それは、値打ちとして、受け取られます。
ここで大事なのは、かくしていない、ということです。フレーミングは、「何を言わないか」では、なく、「同じことを、どう言うか」の技です。言わないことで印象を変えるのは、フレーミングではなく、ただの、かくしごとです。
4-2. 「責任をのがれる文」か、「合わない人に帰ってもらう文」か
オークションの説明文に書く、「ノークレーム・ノーリターン」。多くの人は、これを、売り手が責任をのがれるための文だと、読みます。私は、ちがうわくで、使っています。完璧を求める人が、入札しなくなる。そのための、選別の文です(カリギュラ効果の記事に、くわしく書きました)。
同じ1行でも、書く側がどのわくで書いているかで、まわりの文が、変わります。責任のがれのわくで書く人は、その1行だけを、書きます。選別のわくで書く人は、状態と、欠けているものを、先に全部、書きます。
4-3. 説明文は、AIに、わくをえらばせる
いまの私は、商品の説明文は、AIに書かせたほうがいい、という立場です。人が書くと、トラブルの火種に、なりやすい。AIには、状態や、欠けているものを、先に伝えます。AIは、その内容を変えずに、買いたくなる言い方を、さがします。フリマでは、これが、とくに、ききました。高い値段で売れた経験が、何度も、あります。
やっていることは、3章の計算機と、同じです。事実は、こちらが、決める。わくは、AIに、えらばせる。事実のほうをAIに作らせたら、それは、うそです。
4-4. 自分の過去にも、わくは、2つある
私の大学は、卒業研究が、必修では、ありませんでした。行きたい研究室もなく、私は、研究室に、入りませんでした。代わりに、大学3年のころから、古本を仕入れて売ることを始めて、学費も、教科書代も、定期代も、自分で、払いました。アルバイトは、していません。
これを、世の中のふつうのわくで言うと、「卒業研究すら、やらせてもらえなかった、落ちこぼれ」です。別のわくで言うと、「早い時期に、経済的に自立した、若者」です。事実は、1つです。どちらも、うそでは、ありません。
私が言いたいのは、「よいほうのわくだけを、見ろ」では、ありません。片方のわくしか持っていないと、判断が、そのわくに、引っぱられる、ということです。1章の実験で、人が、AとCで、ちがう答えを出したのは、わくが、1つしか見えていなかったからです。2つ見えていれば、「同じだ」と、気づけます。
4-5. 時間のわく
もう1つ、わくが、あります。時間の長さです。私は、支払わない落札者を、ブラックリストに、入れます。入札できる人がへるので、短い期間で見れば、損です。けれど、参加する人は、ふえ続けるので、しばらくすれば、また、相場どおりに、売れます。長い期間で見れば、自分のストレスと、お金の流れを、守る行為です。同じ行動が、1か月のわくでは損で、1年のわくでは、得になります。
5. 使うとき、使われるときの、注意
5-1. 使う側
- 事実は、全部、書く:わくを変えていいのは、全部を見せたうえでの、言い方だけです。
- 相手が、別のわくに直したときに、おこらないか:「1日あたり489円」で買った人が、あとで「88,000円」に気づいて、だまされたと感じるなら、その使い方は、まちがいです。両方を、ならべて、書いてください。
- 割合を言うなら、もとの数も:「満足度95%」は、20人に聞いたのか、2万人に聞いたのかで、意味が変わります。根拠のない数字の表示は、景品表示法の、問題になります。
- 人の健康や、お金にかかわる場面では、損のわくで、おどさない:「やらないと、こうなる」は、強く、ききます。ききすぎるので、使う場面を、えらんでください。
5-2. 使われる側
- 逆のわくに、言いかえる:「成功率90%」を見たら、「10人に1人は、失敗する」と、声に出します。それでも同じ判断なら、その判断は、わくに、動かされていません。
- 割合は、人数と、金額に、直す:3章の計算機の、使い方です。
- いそがされているときほど、やる:期限をつけられると(希少性)、わくを直す時間が、なくなります。売る側は、それを、知っています。
- 自分のことにも、やる:「失敗した」「おくれている」と感じたら、同じ事実を、別のわくで、書いてみます。気休めのためではなく、判断の材料を、そろえるためです。
6. まとめ
- フレーミング効果とは、同じ中身でも、言い方のわくで、判断が変わる現象です。1981年、トヴェルスキーとカーネマンが、実験で示しました。
- 得のわくでは、人は安全を、損のわくでは、かけを、えらびやすくなります。
- 種類は、リスクのある選択、特徴、目標の、3つです。
- 私は、直した品を、「ここを直した品」のわくで、事実を全部書いて、売ってきました。わくは変えても、事実は、変えません。
- 買う側のときは、逆のわくに、言いかえます。それでも同じ答えなら、その判断は、自分のものです。

コメント