ウィンザー効果とは、本人が言うより、利害のない第三者が言ったほうが、信じられやすい、という現象です。「うちの商品は、いいですよ」より、「あの店の商品は、よかったよ」のほうが、人は、動きます。口コミ、レビュー、お客様の声が効くのは、このためです。
先に、書いておきます。私は、ネットで物を売るとき、入札してきた人の「言葉」は、ほとんど見ません。見るのは、その人に、ほかの人がつけた「評価」です。そして、その評価も、そのままは、信じません。評価が、取引の材料にされる場面を、自分で、見たからです。この記事は、第三者の声を「使う側」ではなく、「読む側」の目で、書きます。
この記事では、意味としくみを先に書いて、そのあとで、計算機、私の例、使うときの注意を書きます。
1. ウィンザー効果とは
1-1. 意味
同じ内容でも、当事者から聞くより、第三者から聞いたほうが、信頼されやすい。これが、ウィンザー効果です。
| だれが言うか | 例 | 受け取られ方 |
|---|---|---|
| 本人 | 「当店の修理は、ていねいです」 | 売りたいから言っている、と、割り引かれる |
| 第三者 | 「あの店の修理は、ていねいだった」 | 得をしない人が言っている、と、受け取られる |
1-2. 名前の由来と、注意
名前は、ミステリー小説『伯爵夫人はスパイ』に出てくる、ウィンザー伯爵夫人のせりふ(第三者のほめ言葉が、いちばん効く、という内容)から来ている、と言われています。私は、原書で、確かめていません。
もう1つ、注意があります。「ウィンザー効果」は、心理学の論文で使われる、正式な用語では、ありません。日本の、マーケティングの世界で広まった、呼び名です。研究の世界で近いのは、「情報源の信頼性」(だれが言ったかで、説得のされ方が変わる)や、口コミの研究です。名前は通称、中身は、よく調べられている現象、と考えてください。
2. なぜ、第三者の声は、効くのか
2-1. 効いているのは、「利害がない」という前提
しくみは、単純です。人は、話を聞くとき、「この人は、これを言うと、得をするか」を、見ています。売り手は、ほめれば、得をします。だから、割り引かれます。第三者は、ほめても、得をしません。だから、割り引かれません。
ここが、大事です。効いているのは、「第三者である」ことではなく、「利害がない、と思われている」ことです。だから、利害があると分かったとたんに、効果は、消えます。消えるだけでなく、「だまされた」に、変わります。
2-2. 近い言葉との、ちがい
| 言葉 | 何が効くか |
|---|---|
| ウィンザー効果 | 利害のない「第三者」が言った、ということ |
| 社会的証明 | 「おおぜい」がそうしている、ということ |
| 権威性 | 「くわしい人、立場のある人」が言った、ということ |
| ハロー効果 | 1つの目立つ特徴が、ほかの評価まで、引っぱること |
レビューが1,000件ついている商品は、ウィンザー効果(第三者)と、社会的証明(おおぜい)が、同時に、はたらいています。
3. 計算機:星の平均を、件数で、割り引く
第三者の声を「読む側」の、道具です。星4.9で8件の商品と、星4.4で350件の商品。どちらを、信じるか。件数が少ない星は、たまたまや、身内の評価で、かんたんに動きます。そこで、「件数が少ないうちは、世の中のふつうの点に、寄せて読む」という計算をします(ベイズ平均と、呼ばれる考え方です)。
商品A 星の平均 件数
商品B 星の平均 件数
その売り場の、ふつうの星 割り引きの強さ(件)
割り引いたあとの、Aの星:
割り引いたあとの、Bの星:
高いのは:
はじめの数字だと、見た目は、Aの4.9が上です。割り引くと、Aは4.26、Bは4.38で、Bが上になります。「割り引きの強さ」は、「何件たまったら、その商品自身の星を、信じはじめるか」の目安です。20は、私が置いた、仮の数字です。売り場に合わせて、変えてください。
この計算が直すのは、「件数が少ない」という弱点だけです。評価そのものが、ゆがめられている場合は、直せません。それが、次の章です。
4. 私の例:評価を見る。そして、評価も、割り引く
4-1. 入札者の言葉ではなく、評価を見る
私は、オークションに出品するとき、評価が悪すぎる人と、評価がまったくない人の入札を、取り消すことが、よくあります。その人が、どんなにていねいな言葉を書いていても、です。見ているのは、本人の言葉ではなく、過去の取引相手という、第三者がつけた記録です。
フリマの値下げの依頼も、同じです。「子どもの誕生日なので」「友達へのプレゼントなので」と、理由をつけて値下げを求めてくる人は、値下げをしても、買わないことが、何度もありました。「いまお金がないので、◯日まで取り置きしてください」は、1回も、購入に、いたっていません。本人の言葉は、本人の得になる方向に、書かれます。ウィンザー効果を、うら返した形です。
代わりに見るのは、相手が自分では書きかえにくい情報です。出品数が0なら、買付が専門の業者。評価の数と、出品の数が、大きくはなれている。アカウント名が、取引の速さをうたっている。こういう、まわりの情報のほうが、当たります。
4-2. その評価が、取引の材料にされるのを、見た
ブランド品を仕入れていたころ、オークションで買った品が、偽物でした。それを相手に伝えると、「評価を消したら、返品を受け付ける」と、言われました。その相手は、そのあとも、偽物を、売っていました。
買う人が見ている「よい評価ばかりの出品者」は、こうして、作られることがあります。悪い評価は、返品と引きかえに、消されます。残るのは、よい評価だけです。第三者の声は、集まったあとで、当事者の手が、入ります。売り手だけが品物の中身を知っている市場で何が起きるかは、レモン市場の記事に書きました。
4-3. 評価に「入らない情報」が、ふえた
もう1つ、あります。私の理解では、いまのオークションでは、落札したのに支払わない人を、落札者の都合として削除しても、相手に、悪い評価が、自動では入らなくなりました(以前は、つきました)。不払いをしても、記録に残りにくい、ということです。私の体感では、これで、不払いは、ふえました。
評価の点数は、同じに見えても、そこに入ってくる情報の量は、しくみの変更で、変わります。評価が「目標」になると、評価が測っていたものが、測れなくなります。これは、グッドハートの法則と、同じ形です。
4-4. レビューは、書いた人の声だけ
読む側の注意を、もう1つ。レビューは、書いた人の声しか、のっていません。満足して、何も書かなかった人。不満だったけれど、書くのがめんどうだった人。評価を消す取引に、応じた人。この人たちは、見えません。見えている声だけで判断すると、生存者バイアスに、はまります。
そして、レビューは、書いた人には、1円も、入りません。読む人だけが、得をします。みんなが読むだけで、だれも書かなければ、レビューは、なくなります。この形は、フリーライダーの記事で書いた、公共財と、同じです。だから、売り場は、レビューを書いた人に、ポイントを出します。すると今度は、「ポイントのために書かれた声」が、まざります。利害のない声を、利害なしで集めるのは、むずかしいのです。
5. 使う側に回るときの、注意
5-1. 利害をかくした第三者は、法律にふれる
日本では、2023年10月から、広告であることをかくした表示(いわゆるステルスマーケティング)が、景品表示法の、不当表示になりました。事業者がたのんで書いてもらった口コミを、ふつうの口コミに見せるのは、この対象です。責任を問われるのは、書いた人ではなく、たのんだ事業者です。こまかい線引きは、消費者庁の、運用基準を、見てください。
2章で書いたとおり、ウィンザー効果の中身は、「利害がない、と思われている」ことです。利害をかくして第三者を作るのは、その前提を、うそで作ることです。法律の前に、ばれたときに、信頼が、まとめて消えます。
5-2. 私の立場:利害は、先に書く
私は、このブログで、仕入先やサービスを紹介するとき、「私は、いま、紹介する側にいます」と、利害を、先に書くようにしています。私は、読者から見て、利害のない第三者では、ありません。だから、ウィンザー効果は、私には、はたらきません。はたらかない前提で、数字と、失敗の記録を、出すことにしています。
逆の話も、あります。買って、使えると思った本があっても、翻訳が読みにくくて、人にすすめると、自分の信用が下がると思ったものは、記事で、あつかっていません。第三者として何かをほめる人は、自分の信用を、そこに、かけています。「だれがほめているか」と同じくらい、「その人は、外れたら、何を失うか」を見ると、声の重さが、分かります。
5-3. 正しく使うなら
- たのまない声を、そのまま見せる:都合の悪い声も、消さずに残します。悪い評価が1つもない店より、悪い評価に、どう返事をしたかが見える店のほうが、読む側は、判断できます。
- たのんだ声は、たのんだと書く:提供を受けた、報酬がある、と、はっきり書きます。効果は弱くなりますが、消えは、しません。
- 公的な調査を、引用する:国や、大きな会社の調査は、あなたの商品に、利害がありません。私が、自分の言葉の代わりに使っているのは、おもに、これです。
6. まとめ
- ウィンザー効果とは、本人より、利害のない第三者が言ったほうが、信じられやすい現象です。正式な学術用語ではなく、通称です。
- 効いているのは、「利害がない、と思われている」ことです。利害が見えたら、効果は消えて、不信に変わります。
- 読む側は、件数の少ない星を割り引き、消された声と、書かれなかった声があることを、前提にします。
- 私は、入札者の言葉より評価を見ますが、「評価を消したら返品する」と言われた経験から、評価も、そのままは、信じていません。
- 使う側は、利害をかくさないこと。2023年10月から、かくした広告は、景品表示法の対象です。

コメント