後知恵バイアスとは|意味と具体例。「あのとき売らなければ」は、判断の反省になっていない

後知恵バイアスとは|意味と具体例。「あのとき売らなければ」は、判断の反省になっていない 心理学・バイアス

後知恵バイアスは、結果を知ったあとで、「はじめから、そうなると分かっていた」と感じてしまう心の働きです。「だから言ったのに」「やっぱりね」「あのとき売っておけばよかった」。どれも、この働きから出てくる言葉です。

やっかいなのは、うそをついている自覚が、ないことです。結果を知った頭は、結果を知る前の自分が、何を、どのくらい分かっていたかを、正しく思い出せません。

私は、FXの自動売買、仮想通貨、株に、自分のお金を入れてきました。FXでは、200万円以上を失っています。相場は、後知恵バイアスが、いちばんはっきり出る場所です。終わったチャートは、だれが見ても、かんたんだからです。この記事では、定義と実験を先に書きます。そのあとで、私の例と、結果ではなく、判断のほうを評価するための方法を書きます。

1. 後知恵バイアスとは

研究を始めたのは、心理学者のバルーク・フィッシュホフです。1975年に、2つの有名な研究を出しました。

1つは、1972年の、ニクソン大統領の中国訪問を使ったものです。訪問の前に、学生たちに、「会談が実現する」「共同声明が出る」といった出来事が、どのくらいの確率で起きるかを、予想してもらいました。訪問が終わったあとで、同じ学生に、「あなたは、前に、何%と予想しましたか」と聞きました。

実際に起きた出来事については、学生たちは、自分の予想を、実際よりも高く思い出しました。起きなかった出来事については、低く思い出しました。自分の記憶を、結果に合わせて、書きかえていたのです。

1-1. 3つの段階

その後の研究では、後知恵バイアスは、3つの段階に分けて整理されています。

段階 中身 出てくる言葉
記憶のゆがみ 前に自分が言ったこと、思ったことを、結果に合わせて思い出す 「私は、前から、そう言っていた」
必然だったという感覚 その結果は、起こるべくして起きた、と感じる 「ああなるのは、当たり前だった」
予見できたという感覚 自分にも、ほかの人にも、前もって分かったはずだ、と感じる 「なぜ、気づかなかったのか」

3つ目が、人を責めるときに、使われます。自分を責めるときにも、使われます。

1-2. 近い言葉との違い

言葉 中身
後知恵バイアス 結果を知ったあとで、前から分かっていたと感じる
結果バイアス 判断の良し悪しを、結果の良し悪しで決めてしまう。後知恵バイアスと、よくいっしょに起きる
確証バイアス 自分の考えに合う情報だけを、集める。こちらは、結果を知る前から働く
生存者バイアス 残ったものだけを見て、判断する。成功した人の「こうなると思っていた」は、2つが重なっている
知識の呪い 知ってしまうと、知らなかったころの頭に、もどれない。後知恵バイアスと、同じ根

結果バイアスとの違いは、大事です。良い判断でも、悪い結果になることは、あります。悪い判断でも、良い結果になることは、あります。サイコロで、6つのうち5つが当たりの勝負に出て、はずれた。これは、悪い結果ですが、悪い判断では、ありません。結果だけを見ていると、この区別が、消えます。

2. よくある例

  • 失敗したプロジェクトの反省会で、「最初から、無理があると思っていた」と言う人が、何人も出てくる。始める前の会議では、だれも言っていなかった
  • 事故や不祥事のあとで、「なぜ、あの兆候を見のがしたのか」と責められる。兆候は、事故が起きたあとで、はじめて、兆候に見える
  • 人事の評価が、結果の数字だけで決まる。運が良かった人が上がり、正しい判断をして運が悪かった人が、下がる
  • 別れたあとで、「最初から、合わないと思っていた」
  • 試験の答えを見たあとで、「これは、分かっていた」。次の試験でも、同じところを、まちがえる

組織の中でいちばん痛いのは、上の3つです。後から責められると分かっている場所では、人は、正しい判断ではなく、あとで責められない判断を、するようになります。記録に残る反対意見だけを言って、あとは何もしない。新しいことには、手を出さない。後知恵で人を責める組織は、こうして、動かなくなります。

3. 私の例①|終わったチャートは、だれにでも読める

私は、2010年から2014年ごろ、FXの自動売買のプログラムを、集中的に調べていました。市販のものを、100個以上、検証しました。買ったものだけで、50万円以上。いま、手もとに残っているものは、ほとんど、ありません。損失は、200万円以上です。くわしくは、FXで人生終わった人の記事に書きました。

自動売買のプログラムは、過去の値動きに当てはめて、成績を出します。これを、バックテストと呼びます。売られているプログラムの多くは、バックテストの成績が、右肩上がりです。

いま考えると、あれは、後知恵バイアスを、機械にやらせたものでした。過去のチャートを見ながら、「ここで買って、ここで売れば、もうかった」という条件を、あとから足していく。足せば足すほど、過去の成績は、良くなります。そして、まだ見ていない、これからの値動きでは、動きません。

私自身も、同じことをしています。ドルと円が、ある幅の中で動いていた時期に、その幅が続くことを前提にした、買い下がりの自動売買を動かして、口座を飛ばしました。幅をぬけたあとのチャートを見ると、「ぬけるに、決まっていた」ように見えます。でも、ぬける前の私には、そう見えていませんでした。見えていたら、動かしていません。この話は、ギャンブラーの誤謬の記事に書きました。

4. 私の例②|「持っていれば」は、判断の反省になっていない

2017年から2019年ごろ、仮想通貨でも、損を出しました。有名な人が手がけた通貨を買って、売り出しの直後を天井に、下がりつづけました。30万円以上の損です。ビットコインも持っていましたが、最初のブームのあとの暴落で、買値から3割ほど下がったところで、手放しました。こちらは、50万円以上の損です。

そのあとのビットコインの値動きは、ご存じのとおりです。「あのとき、売らずに持っていれば」と、思わないわけでは、ありません。

ただ、これは、後知恵です。当時の私に見えていたのは、3割下がった値段と、この先どこまで下がるか分からない、ということだけでした。下げ止まりが見えないものは、損が小さいうちに切る。その考えで切ったのなら、判断としては、まちがっていません。結果が、悪かっただけです。ただ、正直に書くと、私は、切る条件を、買う前に、書いていませんでした。だから、あれが決まりどおりの判断だったのか、こわくなって投げただけだったのかを、いまの私は、確かめられません。これが、書いておかなかったことの、代償です。

反省するなら、場所がちがいます。有名な人が手がけているから、という理由で買った、1つ目のほうです。こちらは、結果が出る前から、判断として、悪かった。中身を調べていませんでした。

判断 結果 反省すること
有名な人の通貨を買った 悪い。中身を調べていない 悪い ある。買う理由が、「だれが言っているか」だった
ビットコインを3割下で切った 確かめられない。切る条件を、先に書いていなかった 悪い(あとで、大きく上がった) 「持っていれば」ではない。反省するのは、条件を先に書かなかったこと

後知恵バイアスがこわいのは、2つ目のような場面で、「次は、下がっても持ちつづけよう」という、まちがった学びを、引き出してしまうことです。その学びで、次に、切るべきものを切らずに、大きく失います。

5. 私の例③|同じことをして、結果が正反対だった

私の親は、家を2回、新築で買っています。1回目は、千葉の北柏です。20年住んで売って、買った値段と、ほぼ同じでした。2回目は、東京の月島です。22年住んで売って、大きなプラスになりました。

やったことは、同じです。新築のマンションを買って、20年ほど住んで、売った。結果は、正反対でした。

月島だけを見ると、「やっぱり、都心の物件を買うのが、正解だった」と言いたくなります。でも、買った当時、月島が、いまのような街になると、分かっていたわけでは、ありません。差を作ったのは、買い方のうまさではなく、街のほうでした。この話は、持ち家に42年住んだ側の答えに、くわしく書きました。

うまくいった人の、「こうなると思っていた」は、割り引いて、聞いてください。その人も、うそをついているわけでは、ありません。結果を知った頭で、思い出しているだけです。成功した人の話を聞くときの注意は、生存者バイアスの記事にあります。

6. 守り方|結果ではなく、判断を評価する

後知恵バイアスは、気をつけても、消えません。結果を知った頭を、知る前にもどすことは、できないからです。できるのは、知る前の頭を、外に残しておくことです。

6-1. 決める前に、書いておく

大きな判断をするときに、次の4つを、書いて、日づけを入れて、残します。

  1. 何を、決めたか
  2. なぜ、そう決めたか。そのとき、何が分かっていて、何が分かっていなかったか
  3. うまくいく確率を、自分は、何割と見ているか
  4. どうなったら、やめるか

3つ目が、大事です。「7割は、うまくいく」と書いておけば、はずれたときに、「3割のほうが、出た」と読めます。書いていないと、はずれたあとで、「はじめから、あやしいと思っていた」に、書きかわります。

私は、いま、大きな判断の前に、条件を入れて、AIに分析させています。そのやりとりが、日づけ入りで、そのまま残ります。あとで読み返すと、決める前の自分が、何を知っていて、何を知らなかったかが、分かります。

6-2. やめる条件は、先に、数字で決める

4つ目は、結果が出はじめてから決めると、かならず、ゆがみます。私は、商品なら、出品して24時間の反応で決めます。修理なら、2時間です。先に決めた条件でやめたのなら、そのあとで値段が上がっても、判断は、まちがっていません。やめる条件の決め方は、コンコルド効果の記事に書きました。

6-3. ふり返るときは、4つのますに入れる

結果が良かった 結果が悪かった
判断が良かった そのまま、続ける 運が悪かった。やり方は、変えない
判断が悪かった 運が良かった。ここが、いちばんあぶない 直す

人が学びをまちがえるのは、太字の2つのますです。右上で、正しいやり方を、捨ててしまう。左下で、まちがったやり方に、自信を持ってしまう。私が、自分の稼げたやり方を教材にして、同じように稼げる人が出なかったのは、左下を、左上だと思いこんでいたからです。

6-4. 人を評価する側のとき

  • 結果が出る前に、判断の理由を、出してもらっておく。あとからの評価は、その理由に対して、する
  • 反省会では、「その時点で、何が分かっていたか」から、始める。「なぜ、気づかなかったのか」から始めると、犯人さがしに、なります
  • 「最初から、無理だと思っていた」と言う人には、「それは、いつ、どこに、書いてありますか」と聞く。責めるためでは、ありません。次からは、前もって、言ってもらうためです

6-5. 自分を責めているとき

「なぜ、あのとき、気づかなかったのか」と、自分を責めているなら、それも、後知恵です。あのときのあなたは、いまのあなたが知っていることを、知りませんでした。責めるなら、結果では、ありません。判断の手順に、穴があったかどうか。穴があったなら、直します。なかったなら、運です。

まとめ

  • 後知恵バイアスは、結果を知ったあとで、「はじめから分かっていた」と感じる心の働き。記憶そのものが、結果に合わせて、書きかわる
  • いっしょに起きるのが、結果バイアス。判断の良し悪しを、結果の良し悪しで決めてしまう
  • 終わったチャートは、だれにでも読める。過去に当てはめて作った自動売買は、後知恵を、機械にやらせたもの
  • 「売らずに持っていれば」は、判断の反省になっていない。反省するのは、切る条件を、先に書いていなかったこと
  • 守り方は、決める前の頭を、外に残すこと。理由と、確率と、やめる条件を、日づけ入りで書く
  • ふり返るときは、判断と結果を、分ける。あぶないのは、「判断が悪くて、結果が良かった」ます

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