学習性無力感は、「何をやっても、結果は変わらない」という経験をくり返すと、変えられる場面に来ても、動かなくなる現象です。なまけているのでも、能力が低いのでも、ありません。「自分の行動と、結果は、関係がない」と、学習してしまった状態です。
私のところには、ほかの商材やスクールで、結果が出なかった人が、多く、連絡してきます。FX、株、ネットワークビジネスで、失敗してきた人も、多いです。結果が出なかったとき、人は、理由を、自分に求めがちです。でも、私の見立てでは、多くの場合、だめだったのは、その人では、ありません。その人が入った場所が、「努力と結果が、つながらない構造」だったのです。
この記事では、意味と実験を先に書いて、そのあとで、最近の見なおし、人間の場合の説明のくせ、点検の道具、私が見てきた例、ぬけ出し方を書きます。
1. 学習性無力感とは
アメリカの心理学者、マーティン・セリグマンと、スティーブン・マイヤーが、1967年に発表した実験から、生まれた考え方です。英語では、learned helplessness。
1-1. もとの実験
犬を、3つのグループに、分けました(動物に苦痛を与える実験で、いまの基準では、きびしく制限される内容です)。
| グループ | 1日目 | 2日目(低い仕切りを、とびこえれば、逃げられる箱) |
|---|---|---|
| A | 電気ショックが来る。鼻でパネルを押せば、止められる。 | すぐ、とびこえて、逃げた。 |
| B | Aと同じ回数、同じ長さのショックが来る。自分では、止められない。 | 多くが、逃げようとせず、うずくまって、ショックを、受けつづけた。 |
| C | 何もなし。 | すぐ、とびこえて、逃げた。 |
AとBは、受けたショックの量が、まったく同じです。ちがいは、「自分の行動で、止められたか、どうか」だけでした。Bの犬は、2日目には、逃げられる状況に、いました。それでも、逃げませんでした。苦痛そのものではなく、「コントロールできない」という経験が、原因でした。
1970年代には、人間でも、似た結果が、確かめられています。止められない不快な音を聞かされた人は、そのあと、かんたんに止められる場面でも、止めようとしなく、なりました。解けない問題を出された人は、そのあと、解ける問題の成績も、落ちました。
1-2. 50年後の見なおし:学習されるのは、「無力」ではなかった
2016年に、セリグマンとマイヤー自身が、この理論を、見なおす論文を、出しています。脳の研究が進んで、分かったことは、もとの説明と、逆でした。
- 長くつづく、いやな刺激に対して、動かなくなるのは、動物の、もともとの反応です。学習の結果では、ありません。
- 学習されるのは、「自分で、コントロールできる」という経験のほうです。その経験が、脳の前のほうの部分を通じて、「動かなくなる反応」に、ブレーキを、かけます。
つまり、「無力感を、学習した」のではなく、「コントロールできる、という感覚を、学習する機会が、なかった」。言葉は、そのまま残っていますが、中身は、こう、書きかえられています。この見なおしは、ぬけ出し方を考えるときに、大事です。必要なのは、無力感を消すことではなく、小さな「自分で変えられた」経験を、足すことだからです。
2. 人間の場合:説明のくせが、分かれ目になる
人間では、同じ失敗をしても、無力感におちいる人と、おちいらない人が、います。1978年に、セリグマンたちは、そのちがいを、「失敗を、どう説明するか」で、整理しました。
| 軸 | 無力感に、つながりやすい説明 | つながりにくい説明 |
|---|---|---|
| 原因は、内か、外か | 「自分が、だめだから」 | 「やり方や、場所が、合っていなかった」 |
| つづくか、一時か | 「これからも、ずっと、こうだ」 | 「今回は、こうだった」 |
| 広いか、せまいか | 「自分は、何をやっても、だめだ」 | 「この件は、うまくいかなかった」 |
左の3つが、そろうと、1つの失敗が、人生ぜんたいの話に、広がります。ただし、「なんでも、外のせいにすればいい」という話では、ありません。大事なのは、事実に合った説明を、することです。本当に、自分のやり方の問題なら、やり方を直します。場所の問題なら、場所を変えます。
2-1. 点検の道具:さいきんの失敗を、どう説明しているか
さいきんの、うまくいかなかったことを、1つ、思いうかべてください。それぞれ、0〜10で、入れます。
いちばん強く出ている、説明のくせ:—
確かめる問い:—
これは、考えを整理するための、かんたんな道具です。研究で使われている、正式な検査では、ありません。診断の代わりにも、なりません。はじめの数字は、仮の値です。
3. 私が見てきた例
3-1. 「努力と結果が、つながらない場所」に、入ってしまった人
かせぎ方を教える商材や、スクールの多くは、うまくいった少数の例を、もとに、作られています。そして、売り出した直後が、いちばん、かせぎやすい。参加する人がふえるほど、同じやり方をする人がふえて、1人あたりの取り分は、へります。あとから入った人は、教わったとおりに、まじめにやっても、結果が、出にくいのです。
これは、1章の、Bのグループと、同じ形です。ボタンを押しても、押さなくても、結果が、変わらない。それを、何か月も、つづける。すると、人は、「自分には、向いていない」と、学習します。本当は、「その場所では、だれがやっても、出にくかった」のです。
私のところに来る人の多くは、この状態で、来ます。ですので、私は、商材やスクールを見るときに、「参加者がふえると、結果が出にくくなる構造か、どうか」を、判断のふるいに使うべきだ、と考えています。いちばん良かった時期の数字は、あとから入る人の結果を、保証してくれません。この話は、生存者バイアスとはに書きました。
3-2. 私が、投資で大きく負けても、無力感に、おちいらなかった理由
私は、FXと仮想通貨で、通算300万円以上を、失っています。FXの自動売買は、100個以上を、検証しました。どれだけ調べても、結果は、思いどおりに、なりませんでした。努力と結果が、つながらない場所、という意味では、上の例と、同じです。
それでも、「自分は、何をやっても、だめだ」とは、なりませんでした。理由は、はっきりしています。同じ時期に、自分の行動で、結果が変わる場所が、別にあったからです。FXで負けていた時期にも、仮想通貨で負けた時期にも、私には、本業の転売や事業の収益が、毎月、ありました。そちらは、自分の工夫が、そのまま、数字に返ってくる仕事です。「自分で変えられる」という経験を、そちらで、つんでいました。ですので、投資の失敗を、「この件は、うまくいかなかった」と、せまく、説明できました。失った側の話は、株で人生終わった人と終わらなかった人の差に書きました。
2016年の見なおしが言っていることと、同じです。守ってくれたのは、強い心ではなく、「コントロールできる」という経験の、たくわえでした。
4. ぬけ出し方
- 場所を、うたがう:まず、「同じ場所で、同じようにやって、うまくいった人が、何割いるか」を、調べます。ほとんどいないなら、直すのは、自分ではなく、場所です。
- かならず結果が変わる、小さなことを、1つ、やる:部屋の一角を、片づける。不用品を、1つ、売る。30分、歩く。やれば、目の前の結果が、かならず変わるものを、えらびます。大きな目標では、ありません。「自分の行動で、変わった」という経験を、足すことが、目的です。
- 結果が、早く返ってくるものを、えらぶ:何か月も、結果が分からないものは、回復の時期には、向きません。数日で、手ごたえが返ってくるものから、はじめます。小さくはじめる手順は、修理転売の始め方に書きました。
- 説明を、事実に、合わせる:2章の道具で、「自分が」「ずっと」「何もかも」のどれが強いかを見て、問いに、答えます。
- 1人で、やらない:少し先を行く人の、やり方を、見ます。「この人にできるなら」という感覚が、次の1歩を、軽くします。育て方は、自己効力感とはに書きました。
5. 注意点
- うつ病との関係:学習性無力感は、うつ病のしくみを説明するモデルの1つとして、研究されてきました。ただし、同じものでは、ありません。気分の落ちこみ、ねむれない、食べられない、という状態が、2週間以上つづくときは、この記事の方法で、がんばろうとせず、医療機関に、相談してください。
- 人に向かって、使わない:「あなたは、学習性無力感だ」と言うことは、相手の助けに、なりません。必要なのは、ラベルではなく、結果が変わる、小さな課題です。
- 職場や、家庭の場合:何を言っても、何をやっても、変わらない環境に、長くいると、だれでも、こうなります。本人の弱さでは、ありません。環境を変えることは、にげでは、ありません。実験の犬も、人が、体を持ち上げて、仕切りの向こうへ、何度も運ぶことで、やっと、自分で、とびこえるように、なりました。
6. まとめ
- 学習性無力感は、「何をやっても、結果は変わらない」経験のあと、変えられる場面でも、動かなくなる現象です。
- 原因は、苦痛の量ではなく、「自分の行動で、止められなかった」ことでした。
- 2016年の見なおしでは、学習されるのは、無力感ではなく、「コントロールできる」という感覚のほうだ、とされています。
- 人間では、失敗を、「自分が」「ずっと」「何もかも」と説明するくせが、分かれ目になります。
- 結果が出なかった原因が、自分ではなく、入った場所の構造に、あることが、あります。
- ぬけ出すには、かならず結果が変わる、小さなことを、1つ、やります。
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