おとり効果とは、選ばれるはずのない選択肢を1つ足すと、ほかの選択肢が、急に得に見えて選ばれやすくなる心の動きです。英語では「デコイ効果」と言います。近い考え方に、3つの段階を並べるとまん中が選ばれやすい「松竹梅の法則(極端の回避)」があります。どちらも、値段を並べる順番と組み合わせで、売れる物を動かす方法です。
この記事では、まず、おとり効果の有名な例と、松竹梅の法則との違いを、表でまとめます。次に、私が個別の指導を3つのプランから1つにしたら売れた話と、その理由を、書きます。最後に、計算機で、「プランを1つにするのと、3つにするのと、どちらが売上が大きいか」を、出します。
1. おとり効果とは
1-1. 有名な例
行動経済学者のダン・アリエリーが、著書『予想どおりに不合理』で紹介した例です。雑誌の定期購読のプランを、学生100人に選ばせました。
| プラン | 値段 | おとりあり(3つ) | おとりなし(2つ) |
|---|---|---|---|
| ウェブ版だけ | 59ドル | 16人 | 68人 |
| 印刷版だけ | 125ドル | 0人 | (なし) |
| 印刷版+ウェブ版 | 125ドル | 84人 | 32人 |
「印刷版だけ・125ドル」は、だれも選んでいません。それでも、これがあるだけで、同じ125ドルの「印刷版+ウェブ版」が、「ウェブ版がタダでついてくる」と見えて、選ぶ人が32人から84人に、ふえました。このように、比べる相手として置く選択肢を、おとり(デコイ)と呼びます。考え方そのものは、1982年に、ヒューバーらが、論文で示しています。
1-2. 松竹梅の法則との違い
| おとり効果 | 松竹梅の法則(極端の回避) | |
|---|---|---|
| やること | 選ばせたい物より、少しだけ劣る物を、横に置く | 高い・中くらい・安いの3つを並べる |
| 選ばれる物 | おとりと比べて、明らかに得に見える物 | まん中 |
| 働く心の動き | 比べやすい相手とだけ、比べてしまう | いちばん高いのも、いちばん安いのも、避けたい |
1-3. 効くのは、買う人が「比べて」いるとき
どちらも、買う人が、並んだ選択肢を比べて、どれにするかを迷っているときに、効きます。反対に、だれから買うかを、もう決めて来た人には、比べる必要が、ありません。選択肢が多すぎて選べなくなる話は、ジャムの法則の記事に、最初に見た数字に引っぱられる話は、アンカリング効果の記事に書きました。
2. 私の例:3つのプランをやめたら、売れた
2-1. 何が起きたか
私は、物の売り買いのやり方を、個別に教える仕事をしています。以前、この指導を、松竹梅のように、いくつかのプランに分けたことがあります。予算がきびしい人のために、内容をしぼった安いプランも、用意しました。
結果は、プランをふやすと、成約率が下がりました。プランを1つにすると、値段に関係なく、売れました。いまの指導は、1つのプランだけです(個人コンサルの始め方)。
2-2. お客さんが警戒していたのは、値段ではなかった
ここからは、私の見立てです。来てくれる人は、お金がなくて節約したいのでは、ありませんでした。ほしいのは、指導です。そして、警戒していたのは、値段の高さではなく、「契約したあとで、別の費用がかかること」でした。
この業界には、入会したあとで、上のコースや、道具や、追加の教材を、次々にすすめられる形が、少なくありません。そういう話を知っている人から見ると、プランが3つ並んでいるのは、「どこかで、上に上げられるのではないか」という合図に、見えます。安いプランは、入口に見えます。
プランが1つで、買い切りで、あとから追加でお金を出させない。この形は、それだけで、「あとから増えない」ことを、伝えます。正直に売るやり方が、そのまま、評価されていたのだと、私は考えています。
2-3. おとり効果が、裏目に出る条件
| おとり・松竹梅が効く | 1つのほうが効く | |
|---|---|---|
| 買う人 | まだ、どれにするか迷っている | だれから買うかを、もう決めている |
| 買う人が恐れていること | 損な選び方をすること | あとから、費用がふえること |
| 選択肢がふえると | 比べやすくなる | 「上に上げられる」合図に見える |
| 例 | 雑誌の購読、飲食店のコース、家電の型番 | 指導、コンサル、長く続く契約 |
相手の行動から、見えない中身を読み取る考え方は、シグナリングの記事に書きました。プランが1つであること自体が、「追加はない」というシグナルになっていた、というのが、私の整理です。
3. 計算機:プランは、1つと3つ、どちらが売上が大きいか
プランをふやすと、平均の単価は、変わります。成約率も、変わります。売上は、「見込み客の数 × 成約率 × 平均の単価」です。3つにしたときに、1つのときと同じ売上を出すには、平均の単価が、いくら必要かも、出します。
プランが1つ
プランが3つ
1つのときの売上:
3つのときの売上:
3つで同じ売上を出すのに必要な、平均の単価:
値段の98万円は、いまの私の指導の値段です。見込み客100人、成約率10%と7%、3つのときの平均単価70万円は、計算のための例の数字で、私の実際の成約率では、ありません。
この例では、1つのときの売上は980万円、3つのときは490万円です。3つで同じ売上を出すには、平均の単価が140万円、必要になります。いちばん高いプランを98万円より上に置かないかぎり、届きません。プランをふやして成約率が下がる商品では、ふやすほど、売上は、へります。
反対に、3つのときの成約率を、15%にしてみてください。3つのほうが、1,050万円で、上になります。おとりや松竹梅で成約率が上がる商品なら、ふやす意味があります。どちらになるかは、2-3の表の、どちらの買う人が来ているかで、決まります。
4. プランを決める手順
- 買う人が、比べて選ぶのか、指名で来るのかを、見る。比べる人には、おとりや松竹梅が効きます。指名で来る人には、よけいな質問になります。
- 買う人が恐れていることを、聞く。損な選び方か、あとからの追加費用か。後者なら、選択肢をふやすほど、疑われます。
- ふやすなら、3章の計算機で、必要な平均単価を出す。成約率が下がる分を、単価で取り返せるかを見ます。
- おとりを置くなら、中身は本物にする。だれも選ばない前提の、ぼったくりのプランは、見る人が見れば、分かります。
- 1つにするなら、「あとから増えない」を、はっきり書く。買い切りであること、追加の費用がないことを、先に書きます。
5. まとめ
- おとり効果は、選ばれない選択肢を1つ足すと、ほかの選択肢が得に見える心の動き。雑誌の例では、だれも選ばない「印刷版だけ」を足しただけで、「印刷版+ウェブ版」が32人から84人になった。
- 松竹梅の法則は、3つの段階を並べるとまん中が選ばれやすいこと。どちらも、買う人が比べて迷っているときに効く。
- 私は、個別の指導のプランをふやすと成約率が下がり、1つにすると値段に関係なく売れた。
- 来る人が警戒していたのは値段ではなく、契約後の追加費用だった、と私は見ている。1プラン・買い切り・追加なしが、そのまま信用になった。
- プランの数は、「見込み客 × 成約率 × 平均単価」で比べる。成約率が下がる商品では、ふやすほど売上がへる。

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