シグナリングとは、相手から見えない自分の「質」を、相手に見える「しるし」を使って、伝えることです。会社は、応募してきた人の能力を、直接は、見られません。だから、学歴という、見えるしるしを、見ます。経済学者のマイケル・スペンスが、1973年に、この考え方を、発表しました。
この記事では、まず、意味と、しるしが効く条件を、説明します。次に、道具で、自分の出しているしるしが、効くものかを、たしかめます。最後に、学歴を乗りかえた私と、売り場のプロフィールで客をえらんでいる私の例を、書きます。
1. シグナリングとは
1-1. 意味
売り手は、自分の商品の質を、知っています。買い手は、知りません。この差があると、買い手は、「悪い品かもしれない」と考えて、安い値段しか、出しません。すると、よい品を持つ売り手が、市場から、出ていきます(レモン市場の記事に、書きました)。
シグナリングは、この問題に対する、売り手の側の答えです。「私の品は、よい」と、口で言うだけでは、だれでも、言えます。だから、口ではなく、質の低い人には、まねしにくい行動で、しめします。
1-2. スペンスの例:学歴
スペンスの説明は、こうです。学歴そのものが、仕事の能力を上げるかどうかは、問いません。大事なのは、能力の高い人にとって、よい学校を出ることは、それほど、つらくない。能力の低い人にとっては、とても、つらい。この差です。差があるから、「よい学校を出た」というしるしは、能力の高い人だけが、出せます。会社は、しるしを見れば、人を、分けられます。
1-3. しるしが効く、条件
- 出すのに、費用がかかる。お金、時間、手間。ただで出せるしるしは、全員が、出します。
- 質の低い側ほど、費用が、高い。これが、いちばん大事です。全員に同じ費用なら、分ける力は、ありません。
- 相手が、たしかめられる。卒業証書、保証書、取引の記録。
1-4. 身近な例
| しるし | 伝えたい質 | なぜ、まねしにくいか |
|---|---|---|
| 長い保証期間 | こわれにくい | こわれやすい品に長い保証をつけると、修理代で、損をする |
| 返品を、受けつける | 説明どおりの品である | 説明とちがう品を売る人は、返品だらけに、なる |
| 資格、免許 | 一定の知識がある | 取るのに、時間と、勉強が、いる |
| 長い取引の実績、評価の数 | 約束を守る | 守らない人は、数がたまる前に、悪い評価が、つく |
1-5. スクリーニングとの、ちがい
シグナリングは、情報を持っている側(売り手、応募者)が、しるしを出すことです。スクリーニングは、情報を持っていない側(買い手、会社)が、相手に何かをえらばせて、ふるいにかけることです。面接、審査、試用期間が、その例です。
2. 道具:そのしるしは、効くか
自分が、客や、取引先に出しているしるしを、1つ、思いうかべて、当てはまるものに、チェックを入れてください。考えを整理するための道具です。
そろっている数:
見立て:
4つの項目は、1-3の条件を、もとに、私が、この道具のために、ならべたものです。2番めを、とくに、重く見ています。「実績多数」「安心の品質」のような言葉は、書くのに、費用が、かかりません。質の低い人も、同じ費用で、書けます。だから、しるしに、なりません。
3. 私の例
3-1. 学歴:私は、しるしを、乗りかえた
私は、高校から、短大に入り、そこから、4年制の大学に、編入しました。編入の試験は、小論文と、面接だけでした。ふつうに受験していたら、私は、大学には、入れなかったと、思います。それでも、4年制大学を出た、という肩書きは、手に入りました(学歴ロンダリングの記事に、道すじを、書きました)。
ここからは、この理論に当てはめた、整理です。スペンスの説明では、学歴がしるしになるのは、「能力の低い人には、取るのが、つらい」からです。私が通った道は、その「つらさ」が、小さい道でした。同じ肩書きが、小さい費用で、手に入る。そういう道が知られるほど、しるしの分ける力は、弱くなります。
私は、学歴の価値は、いま、かつてないほど、下がっていると、見ています。ごく一部の大学をのぞけば、そこで学ぶ中身は、AIが、数秒で、まとめられる水準です。むだでは、ありません。けれど、しるしとしての力は、うすくなっています。
3-2. 売り場のプロフィール:客のほうに、えらばせる
フリマの売り場で、私は、プロフィールを、作りこんでいます。
- 完全な品をもとめる人には、新品か、店で買うことを、すすめる。
- 買う前のコメントは、いらない。値下げの交渉と、取りおきは、ことわる。
- 保管の環境(清潔、たばこを吸わない、ペットがいない)を、書く。
- 少しでも、なっとくできない点があれば、買わないでほしいと、書く。
プロフィールをととのえてから、めんどうな相手は、大きく、へりました。これは、1-5の、スクリーニングです。私が、相手を、えらんでいるのでは、ありません。条件を先に見せて、合わない人に、自分から、はなれてもらっています。
オークションの、「ノークレーム・ノーリターン」も、同じです。私は、この言葉の力は、責任をのがれることではなく、ふるいにかけることに、あると、考えています。完全をもとめる人が、入札しなくなります。
3-3. 直した箇所を、全部、書く
直した品を売るとき、私は、直した箇所を、かならず、全部、書きます。書かないと、あとで、もめます。それだけでは、ありません。対策ずみの部品に変えた、性能を上げた、と伝えると、それが価値になって、高い値段で、売れます。
これは、効くしるしです。2章の道具に、当てはめます。直すのに、手間が、かかっています。直していない人が、「直した」と書けば、あとで、返品と、悪い評価で、大きく、損をします。買った人は、とどいた品で、たしかめられます。
3-4. 面談:売る前に、ふるいに、かける
私は、個別の指導を、面談を通した人にだけ、売っています。泥くさい作業をいやがる人には、売りません。以前、お金をはらえば、だれでも参加できる形の企画を売っていたときは、クレームが、出ました。面談の形にしてからは、致命的なクレームは、起きていません。
これも、スクリーニングです。そして、買う側から見ると、しるしにも、なります。「だれにでも売る」売り手と、「ことわることがある」売り手。ことわると、売上が、へります。売上がほしいだけの売り手には、まねしにくい行動です(売る側の利害については、利益相反の記事に、書きました)。
3-5. 法人であること
卸の会社に営業をしたとき、私は、会社を作ってから、行きました。ほぼすべての会社が、返事をくれました。法人であることが、理由の1つかもしれません。法人を作るには、費用と、手間が、かかります。すぐにいなくなるつもりの人は、わざわざ、作りません。相手から見て、手早くたしかめられる、しるしです(与信の記事に、書きました)。
4. シグナリングを、自分の商売で、使う
- 言葉ではなく、行動で、しめす。「品質に自信があります」ではなく、「初期不良は、2週間、保証します」。
- 「質の低い同業者がまねをしたら、損をするか」を、考える。損をしないなら、それは、しるしでは、ありません。
- 弱いところを、先に、書く。きず、直した箇所、合わない人。自分に不利なことを書く人は、少ない。だから、しるしに、なります。
- しるしは、まねされると、弱くなる。全員が同じ資格を持てば、資格は、分ける力を、うしないます。次のしるしを、用意します。
- 肩書きや、見た目の1つのよさで、全体をよく見てしまう、受け手の側のかたよりは、ハロー効果の記事に、書きました。
5. まとめ
- シグナリングは、相手から見えない質を、見えるしるしで、伝えること。スペンスが、1973年に、学歴の例で、説明した。
- 効くしるしの条件は、費用がかかること、質の低い側ほど費用が高いこと、相手がたしかめられること。
- 情報を持たない側が、相手をふるいにかけるのは、スクリーニング。
- 私は、編入で、4年制大学の肩書きを、得た。小さい費用で取れる道が知られるほど、しるしの力は、弱くなる。
- 売り場では、プロフィールで、合わない客に、はなれてもらう。直した箇所は、全部、書く。指導は、面談を通した人にだけ、売る。

コメント