スイッチングコストは、いま使っているものから、別のものに乗り換えるときにかかる、お金・手間・気持ちの負担のことです。「乗り換えコスト」とも言います。携帯の会社を変えるときの違約金。新しいソフトの使い方を、覚え直す手間。長く通った店を変える、気まずさ。全部、スイッチングコストです。
会社は、このコストを、わざと高くします。客が、逃げにくくなるからです。
私は、その反対を、ずっと、やってきました。光回線、電気、携帯。乗り換えの特典が、違約金と手間を上回るかどうかを計算して、上回るなら、動く。この記事では、会社の側の作戦と、それを計算で乗りこえる側の、両方を書きます。そして、正直に書くと、回線は3か月で乗り換えられる私が、住む場所は、22年、変えられませんでした。その理由も、書きます。
1. スイッチングコストとは
スイッチングコストは、3種類に分けられます。
| 種類 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| お金のコスト | 乗り換えで、実際に出ていくお金 | 違約金、工事費の残り、事務手数料、買い直す機器 |
| 手間のコスト | 手続き、覚え直し、データの移しかえ | 申しこみ、工事の立ち会い、設定のやり直し、使い方の学び直し |
| 気持ちのコスト | 変えることへの不安、めんどうくささ、相手への気まずさ | 「いまので困っていないし」「失敗したらいやだ」 |
近い言葉と、くらべます。
| 言葉 | 中身 |
|---|---|
| スイッチングコスト | 乗り換えにかかる負担、そのもの |
| ロックイン効果 | スイッチングコストが高くて、客が、いまのものから動けなくなっている状態 |
| 現状維持バイアス | 変えたほうが得でも、いまのままを選ぶ、心のくせ。気持ちのコストを、実際より大きく見せる |
| サンクコスト効果 | これまで払ったものがもったいなくて、やめられない。過去を見ている |
2. 会社は、わざと、スイッチングコストを高くする
新しい客を1人つかまえるより、いまの客を逃がさないほうが、安くすみます。だから、会社は、出口に、いろいろな物を置きます。
- 期間のしばりと、違約金。2年以内にやめると、お金がかかる
- 工事費の分割。「実質無料」と言いながら、24か月かけて割り引く形にする。途中でやめると、残りを請求される
- セット割。携帯、光回線、電気、クレジットカードを、同じ会社でまとめると安くなる。1つをやめると、ほかの割引も消える
- ポイント。たまったポイントは、その会社の中でしか、使えない
- データの持ち出しにくさ。写真、メールアドレス、顧客のリスト。移すのが、めんどうな形にしてある
- 使い方の慣れ。長く使った道具ほど、ほかに変えると、しばらく仕事が遅くなる
どれも、サービスの質を上げているわけでは、ありません。出口を、せまくしているだけです。入口では、「乗り換えなら5万円さしあげます」と、大きく手を広げます。入ったあとで、出口に、物を置きます。
3. 私は、その入口と出口の差を、取りに行っている
入口で配られるお金が、出口でかかるお金より、大きい。それなら、入って、出ればいい。私がやってきたのは、それだけです。
3-1. 光回線
私は、光回線を、くり返し、乗り換えてきました。流れは、こうです。
- 最初に、工事費がかからない会社で、回線を引く。特典は、なくていい。これが、足場になります
- そこから、大手の光回線に、乗り換える。特典は、5万円ほど。3か月から半年、使う
- また、別の大手に、乗り換える。特典は、また5万円ほど
- これを、かぶらないように、回す
出口にかかるコストを、私は、毎回、先に計算します。違約金はいくらか。工事費の残りを、請求されないか。計算して、マイナスになる案件は、やりません。たとえば、工事費が3万3,000円かかって、短い期間でやめるとその全額を取られる回線は、特典が5万円あっても、手間に見合わないので、やっていません。
手間のコストは、実測で、こうです。電話で工事の日を決める。前の日に、何時に来るかの電話を受ける。当日、40分ほどの工事に立ち会う。2回目からは、もっと短いです。
これまで、手もとに残るお金が、マイナスになった回は、ありません。くわしい履歴と計算は、光回線の乗り換えに書きました。
3-2. 電気
電気は、もっと、かんたんです。工事が、ありません。違約金のない会社が、多いです。申しこみは、Webで、15分ほど。スイッチングコストは、ほぼゼロです。
私は、ポイントサイトを通して、電力会社を5社、順番に乗り換えました。受け取ったポイントは、合わせて66,000円ぶんです。ポイントが確定したら、すぐ、次へ移りました。最後は、自分の地域でいちばん安かった会社に、落ち着いています。電気の乗り換えに、通帳の記録ごと、のせました。
スイッチングコストがほぼゼロなのに、ほとんどの人は、電気の会社を、1回も変えません。ここで効いているのは、お金でも、手間でもなく、3つ目の、気持ちのコストです。
3-3. 携帯
携帯は、会社のほうが、いちばん本気で、入口にお金を置いている場所です。そのぶん、出口のしかけも、細かいです。私のやり方は、携帯の乗り換えに書きました。
4. 計算機
乗り換えるかどうかは、感じ方ではなく、引き算で、決められます。
乗り換えの損得の計算機(はじめの数字は、光回線を乗り換える場合の例です。自分の数字に書きかえてください)
乗り換えでもらえる特典(キャッシュバック、ポイントなど。円)
いまの契約の違約金(円)
工事費・事務手数料など、はじめにかかる費用(円)
月額の差(新しいほうが安ければプラス、高ければマイナス。円)
新しい契約を使う月数(月)
手続きと立ち会いにかかる時間(時間)
はじめの数字は、特典5万円、違約金なし、事務手数料3,300円、使う期間3か月、手続きと立ち会いで2時間、という例です。手数料の金額は、会社によって、ちがいます。自分の契約の数字を、入れてください。
5. それでも私は、住む場所を、22年、変えられなかった
ここまで読むと、私は、スイッチングコストに強い人間に、見えるかもしれません。ちがいます。
私は、親が買った月島のマンションに、40歳まで、22年、住んでいました。私の仕事は、どこに住んでいても、できます。それなのに、ほかの場所に住むという選択肢が、頭の中に、そもそも、ありませんでした。
そのあと、横浜の東戸塚に移って、住んで2か月で「ここは無理だ」と分かりました。出たのは、1年後です。最後は、違約金を払って、出ました。
| 光回線 | 住む場所 | |
|---|---|---|
| お金のコスト | 数千円から、数万円 | 違約金、引っ越し代、初期費用。数十万円 |
| 手間のコスト | 電話と、40分の立ち会い | 物件さがし、荷づくり、各種の住所変更 |
| 失敗したとき | また、乗り換えればいい | かんたんには、やり直せない |
| 計算のしやすさ | 特典も、違約金も、数字で出ている | 得られるもの(住みごこち、体調)が、数字にならない |
| 私の動き | 3か月で、動く | 22年、動かなかった。無理と分かってからも、10か月、動かなかった |
ちがいは、4行目だと、思っています。光回線は、入ってくるお金も、出ていくお金も、先に、数字で、見えます。だから、引き算ができます。住む場所は、出ていくお金だけが、はっきり見えます。得られるものは、数字になりません。引き算が、できません。できないと、人は、見えているほう、つまり、出ていくお金のほうだけを見て、動かなくなります。
東戸塚で払った違約金は、あとから考えると、安い買い物でした。眠れない生活を、あと1年続ける費用にくらべれば、です。でも、払う前は、そうは見えませんでした。住む場所の話は、現状維持バイアスと、賃貸探しで本当に高いのは家賃ではありませんに、くわしく書いています。
6. 売る側としての、私の立場
私自身も、物を売る側です。だから、書いておきます。
私は、自分の商品に、出口のしかけを、置いていません。教材は、買い切りです。月額の課金では、ありません。個別の指導は、6か月で終わります。自動で続く契約では、ありません。
スイッチングコストで客をしばると、短い目では、売上が安定します。長い目では、「やめたいのに、やめられない客」が、たまっていきます。その人たちは、まわりに、良い話をしません。私の商売は、買った人の紹介で、なりたっています。出口をせまくする理由が、ありません。
道具を選ぶときも、同じ目で見ています。メールの配信スタンドは、いちばん安いプランで、自分のドメインから送っています。読者のリストは、いつでも、外に持ち出せる形にしてあります。自分が、どこにも、しばられない形にしておく。くわしくは、マイスピーはビギナープランで足りるかと、エックスサーバーとWordPressを選ぶ理由に書きました。
7. 使い方
- 契約する前に、出口を読む。違約金はいくらか。工事費の残りは、どうなるか。セット割は、1つやめると、どうなるか。入口の特典より先に、ここを見ます
- お金のコストと、手間のコストは、数字にする。数字にすれば、引き算ができます。計算してマイナスなら、動かない。それも、正しい判断です
- 気持ちのコストは、数字にならないので、うたがう。「めんどうだ」「いまので困っていない」と感じたら、それは、コストではなく、くせかもしれません
- 得られるものが数字にならない乗り換え(住む場所、仕事)は、出ていくお金だけを見て、決めない。見えないほうを、わざと、言葉にして、書き出します
- 自分のデータと、客のリストは、いつでも持ち出せる形にしておく。しばられているかどうかは、出ようとしたときに、はじめて分かります
8. まとめ
- スイッチングコストは、乗り換えにかかる、お金・手間・気持ちの負担。高すぎて動けなくなった状態が、ロックイン
- 会社は、違約金、工事費の分割、セット割、ポイント、データの持ち出しにくさで、出口をせまくする。入口では、特典を配る
- 私は、入口の特典と、出口のコストの差を、計算して、取りに行っている。光回線は特典が5万円ほど、手間は電話と40分の立ち会い。マイナスになった回はない。電気は5社で66,000円ぶん
- 計算してマイナスになる案件は、やらない。動かないのも、正しい判断
- その私が、住む場所は22年変えられず、無理と分かってからも10か月動けなかった。得られるものが数字にならないと、引き算ができず、出ていくお金だけを見てしまう
- 売る側としては、買い切りと期間かぎりにして、出口のしかけを置いていない。自分のリストも、いつでも持ち出せる形にしている

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