共有地の悲劇は、「だれでも使える資源は、ひとりひとりが自分の得になるように動いた結果、使いつくされてしまう」という現象です。「コモンズの悲劇」とも呼ばれます。だれも、資源をつぶそうとは思っていません。全員が、まともな判断をしています。それでも、つぶれます。
私は、中古品の売り買いを20年やってきて、この形を、何度も見ました。稼げる場所や、稼げるやり方は、共有地です。人に知られたぶんだけ、やせていきます。
この記事では、意味を説明したあとで、私が見てきた3つの例を書きます。値札の読み方。価格差を調べるツール。無在庫転売。そして、教える側にいる私が、なぜ、固有の仕入れ先を教えないのかを書きます。
1. 共有地の悲劇とは
広めたのは、アメリカの生物学者、ギャレット・ハーディンです。1968年に、科学雑誌『サイエンス』に書いた論文で、こういう例を出しました。
村に、だれでも牛を放せる牧草地があります。牛飼いが、牛を1頭増やすと、その牛から出る利益は、全部、自分のものになります。いっぽう、牛が1頭増えて草が減る損は、村の全員で、少しずつ分けることになります。得は、ひとりじめ。損は、割りかん。だから、どの牛飼いにとっても、牛を増やすのが、正しい判断です。全員が、その正しい判断をした結果、草はなくなり、全員の牛が、やせます。
起きる条件は、2つです。
| 条件 | 牧草地の場合 |
|---|---|
| だれでも使えて、使う人を止められない | 柵も、持ち主も、ない |
| だれかが使うと、ほかの人のぶんが減る | 草は、食べれば、なくなる |
近い言葉と、くらべます。
| 言葉 | 中身 |
|---|---|
| 共有地の悲劇(コモンズの悲劇) | だれでも使える資源が、使いつくされる |
| 合成の誤謬 | ひとりにとって正しい行動を、全員がやると、全体では悪い結果になる。共有地の悲劇は、この一種 |
| フリーライダー問題 | 費用を払わずに、得だけを受け取る人が出る。資源を「守る」側の話 |
| 囚人のジレンマ | おたがいに協力したほうが得なのに、相手を信用できず、裏切り合ってしまう。2人の場合の形 |
2. 稼げる場所は、共有地である
中古品の売り買いの利益は、どこから来るか。ほかの人が、まだ気づいていない価格の差から来ます。店では安く売られているのに、ネットでは高く売れる。その差です。
この差は、牧草地の草と、同じ性質を持っています。だれでも、取りに行ける。そして、だれかが取れば、そのぶん、減ります。安い物は買われてなくなり、高く売れる場所には出品が増えて、値段が下がります。1章の条件が、2つとも、そろっています。
3. 私が見てきた、3つの例
3-1. 値札の読み方
大きな中古品の店や、家電の店には、値札に、決まりがあります。色や、記号や、日付で、「いつから置いてあるか」「次に値下げされるか」が、読み取れます。これを知っていると、安くなる物を、先に見つけられます。
昔は、これが、お金を出して買う情報でした。教材の目玉になっていました。いまは、無料で、だれでも読めます。このサイトにも、ブックオフの値札や、ヤマダ電機の値札の記事があります。
全員が読めるようになった値札は、もう、差を生みません。同じ棚の前に、同じ知識を持った人が、何人も立つからです。草は、食べつくされました。
3-2. 価格の差を調べるツール
次に出てきたのが、ツールです。フリマの値段と、Amazonの値段をくらべて、差がある商品を、自動で見つけてくれます。自分の目で探さなくていいので、楽です。
私も、調べました。調べて分かったのは、これも、すでに飽和していることでした。
理由は、単純です。同じツールを使っている人は、全員、同じ商品を、同じ時に、見つけます。ツールが「差がある」と表示した商品に、使っている人の数だけ、買い手が集まります。差は、その場で、なくなります。ツールは、草の生えている場所を、全員に、同時に教える道具でした。
3-3. 無在庫転売
在庫を持たずに、注文が入ってから仕入れる売り方です。私も、やっていました。教えてもいました。はじめのころは、よく稼げました。教えた人の中から、結果を出す人も、出ました。
やる人が、増えました。同じ商品を、同じ画像で、何十人もが出品するようになりました。届くのが遅い、届かない、という苦情が、増えました。売り場を運営する会社は、規制を、きびしくしました。
ここでは、やせたのは、価格の差だけでは、ありません。売り場の信用という、もっと大きな共有地が、やせました。そして、持ち主のいない牧草地とちがって、売り場には、持ち主がいます。持ち主は、柵を作りました。まじめにやっていた人も、まとめて、しめ出されました。経緯は、無在庫転売は稼げないのかに、規約の話は、無在庫転売は違法かに書きました。
3-4. 店でも、同じことが起きる
店の棚も、共有地です。せどりをする人が、棚を荒らす、長い時間いすわる、店員に値引きをせまる。ひとりひとりは、「自分ひとりくらい」と思っています。店は、せどりを、まとめて禁止にします。せどりで出禁になる理由に書いたとおり、嫌われているのは、せどりそのものではなく、やり方のほうです。でも、柵は、全員に対して、作られます。
4. 教える側は、牧草地に、人を連れてくる側である
ここからは、私自身の話です。
稼げる場所や商品を、教材で教える。ブログに書く。これは、牧草地の場所を、大声で知らせることです。教えれば、教えるほど、その場所は、やせます。いちばん最初に買った人は、稼げるかもしれません。100人目に買った人が着くころには、草は、残っていません。
しかも、教える側には、やせるのを止める理由が、ありません。教材が売れた時点で、売る側の利益は、確定しているからです。草がなくなる損は、買った人たちが、割りかんで負います。得は、ひとりじめ。損は、割りかん。ハーディンの牛飼いと、同じ形です。
私は、この形が、嫌でした。だから、いまは、こう決めています。
- 固有の仕入れ先や、「この商品が稼げる」というリストを、教えない。穴場の店の名前は、記事にも、出しません。教えたとたんに、穴場では、なくなるからです
- 教えるのは、人が増えても、やせにくいものにする。値段の裏の取り方。だれが買うのかを、言葉にする方法。物を直す技術。これらは、ほかの人が身につけても、自分のぶんが、減りません
- 教える人数を、しぼる。個別の指導は、月に2人、年に24人までです
5. やせない場所は、どこにあるか
共有地の悲劇が起きる条件は、「だれでも使える」と「使えば減る」の2つでした。どちらかが外れれば、起きません。
| 外し方 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| だれでもは、使えなくする | 入るのに、技術か、許可か、手間が要る | 直さないと売れない物。古物商の許可がないと入れない、業者向けの市場 |
| 使っても、減らなくする | ほかの人が来ても、自分のぶんが減らない | 自分の経験を書いた記事。自分の名前についた信用 |
私が、物をそのまま右から左へ流す売り方から、直して売る売り方に移ったのは、1行目の理由です。代わりがきくものは、値段が下がります。だれでもできることは、だれでもやるので、草が残りません。直す技術は、身につけるのに時間がかかります。その時間が、柵になります。始め方は、修理転売の始め方に書きました。
いまの、書いて教える仕事は、2行目です。私の20年の経験は、だれかが読んでも、減りません。ほかの人が、同じ経験を書くことも、できません。
6. 自分の判断に使うなら
- その稼ぎ方は、何人が知ったら、終わるか。10人で終わるなら、教材として売られている時点で、もう終わっています
- その情報を、いま、自分は、どこで知ったか。無料の動画や、SNSで知ったなら、同じ日に、何千人もが知っています
- ツールが見つけてくれた商品は、同じツールを使う全員が、見つけている。楽に見つかる草は、楽に、なくなります
- 入るのに、手間がかかるほうを選ぶ。面倒なこと、時間がかかること、許可が要ること。それが、柵です
- 売り場や店の信用を、へらす動きをしない。その損は、めぐって、自分にも、もどってきます
7. まとめ
- 共有地の悲劇(コモンズの悲劇)は、だれでも使える資源が、ひとりひとりのまともな判断の結果、使いつくされること。ハーディンが1968年に広めた
- 条件は2つ。だれでも使えること。使えば、ほかの人のぶんが減ること
- 中古品の価格の差は、共有地。値札の読み方は無料の情報になり、価格の差を調べるツールは飽和し、無在庫転売は規制された
- 無在庫転売では、売り場の信用という、もっと大きな共有地がやせた。持ち主が柵を作り、まじめな人も、まとめて、しめ出された
- 稼げる場所を教える側は、牧草地に人を連れてくる側。売れた時点で得が確定し、損は買った人が割りかんで負う
- だから私は、固有の仕入れ先を教えない。教えるのは、人が増えてもやせにくいもの(裏の取り方、直す技術)にしている
- やせない場所は、だれでもは入れない場所か、使っても減らない場所

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