モラルハザードとは|意味と具体例。返金保証を付けない理由と、自分で作ってしまった失敗から説明します

モラルハザードとは|意味と具体例。返金保証を付けない理由と、自分で作ってしまった失敗から説明します 経済・経営の用語

モラルハザードは、「自分の行動の結果を、自分で負わなくてよくなったとき、人の行動が変わってしまうこと」です。保険に入ったので、運転が雑になる。失敗しても会社が払うので、無理な取り引きをする。もとは、保険の世界の言葉です。

日本では、「倫理観の欠如」「モラルの低下」という意味でも使われます。ニュースで見かけるのは、こちらの使い方が多いです。ただ、もとの意味は、人の心がけの話ではありません。しくみの話です。まじめな人でも、しくみがそうなっていれば、そう動きます。

この記事では、意味と、起きる条件を説明したあとで、私自身の例を書きます。教材に返金保証を付けない理由。個別指導で成果を約束しない理由。無料で教えない理由。記事の外注がうまくいかなかった理由。そして、私自身が、しくみでモラルハザードを作ってしまった例です。

1. モラルハザードとは

もとの例は、火災保険です。保険に入る前は、火の始末に気をつけます。家が燃えたら、全部、自分の損だからです。保険に入ると、燃えても、お金がもどってきます。すると、注意が、少しだけ下がります。わざと燃やすわけではありません。ただ、気をつける理由が、1つ減ります。

保険会社は、契約者が毎日どれだけ火の始末をしているかを、見ることができません。見えないところで、相手の行動が変わる。これが、モラルハザードです。経済学では、ケネス・アローが1960年代に医療保険の分析で取り上げてから、広く使われるようになりました。

よく並べられる言葉と、くらべます。

言葉 いつ起きるか 中身
モラルハザード 契約のあと 相手の行動が見えないので、相手の行動が変わる。「隠された行動」の問題
逆選択 契約のまえ 相手の質が見えないので、質の悪い相手ほど集まってくる。「隠された情報」の問題
プリンシパル=エージェント問題(エージェンシー問題) 人に仕事を任せるとき 任せた側と、任された側で、得になることがずれる。モラルハザードは、この中でいちばんよく起きる形

2. 起きる条件は、3つ

  • 相手の行動が、こちらから見えない。見えるのは、結果か、報告だけ
  • 結果が悪くても、相手は損をしない。損は、こちらか、だれか別の人が負う
  • 相手の得になることと、こちらの得になることが、ずれている

3つがそろうと、相手がどんな人かに関係なく、起きます。だから、「信用できる人を選ぶ」だけでは、防げません。防ぐには、3つのうちのどれかを、しくみでつぶします。結果が悪くても損をしない売り手が、市場で勝ってしまう話は、グレシャムの法則の記事に書きました。

ここから、私の例です。前の3つは、しくみでつぶした例。あとの2つは、つぶせなかった例です。

3. 私の例①|教材に、返金保証を付けない

私は、壊れた機械を直して売るやり方を、メール講座として売っています。この講座には、返金保証を付けていません。利用規約にも、そう書いています。

「満足できなければ全額返金」は、売る文章としては、よく効きます。買う側のリスクがなくなるからです。それでも付けないのは、返金保証が、買った人の行動を変えてしまうからです。

全額がもどってくるなら、買った人には、手を動かす理由が1つ減ります。やらなくても、損をしません。そして、読み終わってから「思っていたのと違った」と言えば、お金はもどります。飲食店で、食べ終わってから「思っていた味と違うので、返金してください」と言うのと、同じ形です。店の側には、何も、もどってきません。

私は以前、二言目には返金を求める人の相手をしていて、消耗しました。その人たちが、悪い人だったとは思いません。返金できるしくみが、そう動くことを、得にしていただけです。だから、しくみのほうを変えました。返金保証をなくしてから、この種類のやり取りは、なくなりました。

売る数は、減ると思います。それは、受け入れています。商品の作り方と、返金の考え方は、コンテンツ販売のやり方に書きました。

4. 私の例②|個別指導で、成果を約束しない。無料では教えない

個別の指導(6か月・98万円)では、契約書で約束するのは、指導の提供だけです。「月にいくら稼げるようになる」という成果は、約束していません。

成果を約束すると、何が起きるか。結果の責任が、教える側に移ります。教わる側は、「稼げなかったら、教えた人のせい」と言える立場になります。手を動かすのは、教わる本人です。私は、その人が毎日何時間やっているかを、見ることができません。行動は見えない。結果の責任は、こちらにある。2章の条件が、そろってしまいます。

同じ理由で、無料では教えません。無料だと、相手は、何も失いません。やめても、損がありません。だから、続きません。最初の1人に教えるときは、少額でもお金を取ったほうがいい、と私が言うのは、このためです。極端な話、500円でもいい。相手が、自分の持ちものを少しでも賭けていることが、大事です。

個別指導の中身と、約束すること・しないことは、個人コンサルの始め方に書きました。

5. 私の例③|記事の外注。見えるのは、納品だけだった

ここからは、うまくいかなかった例です。

このサイトの記事を、ライティングの会社に外注していた時期があります。月に20万円から30万円を、半年ほど払いました。納品された記事は、ふつうの出来でした。ただ、メール講座に登録される記事には、なりませんでした。

いま考えると、形がはっきりしています。

私(頼む側) 外注先(頼まれる側)
欲しいもの 読んだ人が、メール講座に登録する記事 決まった本数を、期日までに納品すること
お金が動く条件 納品したら、支払われる
登録されなかったときの損 全部、私が負う 負わない

外注先が、手を抜いていたとは思いません。約束どおりに、納品してくれました。ただ、私が欲しかったものと、お金が動く条件が、ずれていました。そのずれを作ったのは、契約を決めた私です。

登録の数に応じて払う形にすれば、ずれは消えます。でも、その条件を受ける外注先は、まず見つかりません。登録されるかどうかは、書き手の力だけでは決まらないからです。このずれは、外注という形を取るかぎり、消しきれない。そう分かって、やめました。お金の面のふり返りは、コンコルド効果の記事に書いています。

6. 私の例④|自分で、モラルハザードを作ってしまった

最後は、私が、しくみで引き起こした例です。

買った人の達成率を上げたくて、「期日までに目標を達成しなければ、先のコンテンツを渡さない」という売り方をしたことがあります。達成したかどうかは、本人の申請で判定しました。

達成者は、大量に出ました。そして、いつわって申請する人も、いたと思います。申請の中に、つじつまの合わないものがありました。

2章の条件に、当てはめます。本当に達成したかどうかは、私から見えません。見えるのは、申請だけです。いつわって申請しても、本人は損をしません。先のコンテンツが、手に入ります。そして、私の得になること(本当に、できるようになってほしい)と、本人の得になること(先を受け取りたい)は、ずれています

3つとも、そろっています。いつわりの申請は、その人の人がらの問題ではありません。私が作ったしくみが、そう動くことを、得にしていました。くわしい経緯と、そのあと起きたことは、グッドハートの法則の記事に書きました。

7. 防ぎ方

相手を疑う話ではありません。条件を、しくみでつぶす話です。

  • 相手にも、少しだけ損が残るようにする。保険の「自己負担額」と同じ考え方です。全額を保証しない。無料にしない。相手が、自分の持ちものを賭けている状態を作ります
  • お金が動く条件を、欲しい結果に近づける。納品の本数ではなく、その先の結果で見ます。近づけられないなら、その仕事は、人に任せる形に向いていません
  • 見えない行動を、見える形にしてもらう。申請だけでなく、途中の記録や、実物の写真を出してもらいます。ただし、確認の手間は、こちらの費用になります。確認の費用が、任せて浮く費用より大きいなら、任せる意味がありません
  • 小さく、短く始める。いきなり半年の契約にしません。1本、1か月で始めて、ずれがあるかどうかを、先に見ます
  • 結果の責任を引き受ける約束を、しない。相手の手でしか動かせない結果を、こちらが保証してはいけません

そして、自分が「任される側」「保証される側」にいるときのことも、書いておきます。保証があるから、と気をゆるめると、いちばん損をするのは、たいてい自分です。返金保証つきの教材を買って、やらずに返金してもらった人の手もとには、お金はもどりますが、使った時間は、もどりません。

8. まとめ

  • モラルハザードは、行動の結果を自分で負わなくてよくなったとき、人の行動が変わること。もとは保険の言葉で、「倫理観の欠如」の意味は、日本で広まった使い方
  • 契約のあとに起きるのがモラルハザード、契約のまえに起きるのが逆選択
  • 条件は3つ。行動が見えない。結果が悪くても相手は損をしない。得になることが、ずれている
  • 私が返金保証を付けないのも、個別指導で成果を約束しないのも、無料で教えないのも、この条件をつぶすため
  • 記事の外注は、欲しいもの(登録される記事)と、お金が動く条件(納品)がずれていて、つぶせなかった
  • 「達成しなければ先を渡さない」講座では、私自身が、いつわりの申請が得になるしくみを作っていた
  • 防ぎ方は、人を選ぶことではなく、しくみを変えること

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