ゴーレム効果は、「この人は、できない」と、まわりが低い期待を持つと、その人の成績が、本当に下がってしまう現象です。反対に、高い期待を持たれた人の成績が上がることを、ピグマリオン効果と呼びます。同じ現象の、表と裏です。
人を雇う側、教える側にとっては、耳の痛い話です。部下が育たないのは、部下のせいではなく、自分の期待のせいかもしれない、と言っているからです。
私は、人を育てるのが、うまくありません。気が短くて、相手の水準が低いと感じると、すぐに、やめてもらいたくなります。この記事では、2つの効果の中身を説明したあとで、私が動画の編集をしてくれていた人を、やめさせた話を書きます。いまも、自分が正しかったのか、厳しすぎたのか、答えが出ていません。
1. ピグマリオン効果と、ゴーレム効果
もとになったのは、アメリカの心理学者、ロバート・ローゼンタールたちが、1960年代に小学校で行った実験です。先生に、「この子たちは、これから成績が伸びる子です」と、名前のリストを渡しました。実は、リストの子は、くじで選んだだけでした。それでも、しばらくあとに調べると、リストの子の成績は、ほかの子より、伸びていました。
先生の期待が、子どもへの接し方を変え、それが成績を変えた。これが、ピグマリオン効果です。名前は、自分が彫った像に恋をして、像が本物の人間になった、ギリシャ神話の王から来ています。
反対の向きが、ゴーレム効果です。名前は、ユダヤの伝説に出てくる、泥で作られた人形から来ています。
| ピグマリオン効果 | ゴーレム効果 | |
|---|---|---|
| まわりの期待 | 高い | 低い |
| 相手の成績 | 上がる | 下がる |
| 別の呼び方 | 教師期待効果、ローゼンタール効果 | — |
ことわっておくと、最初の実験の結果は、あとから、何度も検証されました。効果は、はじめに言われたほど大きくない、という結果も出ています。「期待すれば、だれでも伸びる」という、魔法のような話では、ありません。
それでも、期待が、接し方を変えることは、たしかです。ローゼンタールは、期待が伝わる道を、4つ挙げました。
| 道 | 期待が高いとき | 期待が低いとき |
|---|---|---|
| ふんいき | あたたかく接する | そっけなくなる |
| 教える量 | 多く、むずかしいことまで教える | 教えなくなる |
| やらせる機会 | 仕事を任せ、待つ | 任せなくなる |
| 返す言葉 | くわしく、直し方まで伝える | 何も言わなくなる。または、だめ出しだけになる |
右の列が、ゴーレム効果の中身です。期待が下がった人は、教えなくなり、任せなくなり、何も言わなくなります。相手は、伸びる材料を、全部、取り上げられます。そして、伸びません。それを見て、「やっぱり、できない人だった」と思う。自分の予想を、自分で、当てに行っています。
2. 私の例|動画の編集をしてくれていた人を、やめさせた
動画の編集を、人に任せていたときの話です。
ある日、「編集が終わったので、これからアップロードします」と連絡が来ました。ところが、何分たっても、終わりません。おかしいと思って聞くと、携帯電話の回線を、家の固定回線のかわりに使っていました。動画のファイルは、大きいです。携帯の回線では、上げるのに、時間がかかります。
私は、こう思いました。動画の仕事をするなら、光回線くらい、契約してくれ。
そして、やめてもらいました。
正直に書くと、編集の質は、悪くありませんでした。やめてもらった理由は、質ではなく、「仕事の道具に、お金をかけられない人だ」と、私が判断したことです。
3. 1つの出来事で、人を、まるごと判定していた
あとになって、知ったことがあります。携帯の回線を、固定回線のかわりに使っている人は、思ったより、たくさんいました。めずらしいことでは、なかったのです。
自分は、厳しすぎたのかもしれない。そう思いました。
ふり返ると、私がやったのは、こういうことです。
| 順番 | 起きたこと |
|---|---|
| 1 | アップロードが遅い、という、1つの出来事を見た |
| 2 | 「この人は、仕事の環境に投資できない人だ」と、人がらの判定にまで、広げた |
| 3 | 期待が、ゼロになった |
| 4 | 教えもせず、直す機会も与えず、関係を終わらせた |
1章の表でいえば、私は、右の列の4つを、いっぺんに、やりました。教えるのをやめ、任せるのをやめ、言葉を返すのをやめた。ゴーレム効果は、ふつう、時間をかけて、じわじわと相手の成績を下げます。私の場合は、成績が下がるのを待たずに、期待が下がった瞬間に、切っていました。
これでは、人が育つはずが、ありません。育つには、できない時期に、だれかが待ってくれることが要ります。私は、待てませんでした。
ブランド品を直して売る仕事を、大きくしようとしたときも、同じでした。私は、相手にも、自分と同じ水準を求めてしまいます。できていない部分ばかりが、目に入ります。人を増やして、仕事を大きくする。その形が、私には、成り立ちませんでした。経緯は、規模の経済と、ピーターの法則の記事に書きました。
4. それでも、いまも、半分は、同じことを思っている
ここで「私がまちがっていました」と書いて終われば、きれいです。でも、それは、うそになります。
動画の編集を仕事にするなら、月に5,000円ほどの回線代は、払ってほしい。いまでも、そう思っています。道具にお金をかけない人は、どこかで、仕事の速さと質に、ひびきます。この判断そのものは、まちがっていないと思います。
まちがっていたのは、判断ではなく、そのあとの動きです。
| 当時の私 | いまなら、こうする | |
|---|---|---|
| 気づいたこと | 回線が遅い | 回線が遅い |
| 考えたこと | この人は、環境に投資できない人だ | この人は、回線にお金をかける必要を、まだ知らない |
| やったこと | 何も言わずに、やめてもらった | はっきり言う。「光回線を引いてください。お金がきびしいなら、乗り換えの特典を使えば、費用はおさえられます。面倒でも、やってください」 |
光回線は、乗り換えの特典を使えば、費用を、かなり、おさえられます。面倒ですが、やる価値はあります。やり方は、光回線の乗り換えの記事に、私の実測を書いています。いまの私なら、これを見せて、やらせます。
期待を下げるのでも、がまんして期待し続けるのでも、ありません。求める水準は下げずに、足りない部分を、言葉にして、相手に返す。1章の表の、「返す言葉」の行です。当時の私に足りなかったのは、やさしさではなく、この1手でした。
5. 育てるのが苦手な人の、もう1つの道
とはいえ、私は、自分が、待つのが得意な人間に変われるとは、思っていません。
だから、仕事の形のほうを、変えました。人を雇って育てる形をやめて、はじめから、自分の意志で動く人とだけ、組む形にしました。いまの個別の指導の相手は、自分のお金で申しこんで、自分の商売をしている人です。結果は、そのまま、その人の収入になります。私が期待しようが、しまいが、その人は、動きます。
雇われている人は、がんばっても、がんばらなくても、今月の給料は、同じです。だから、雇う側の期待や接し方が、大きくひびきます。自分の商売をしている人は、ちがいます。この差は、モラルハザードの記事に書いた、「結果を、自分で負うかどうか」の話と、同じ根っこです。個別の指導の中身は、個人コンサルの始め方に書きました。
自分の苦手を直す道と、苦手が出ない形に移る道。どちらも、あります。私は、あとのほうを選びました。
6. 期待される側にいるとき
最後に、反対側の話です。自分が、低い期待を持たれている側にいるとき。
- 教えてもらえない。任せてもらえない。何も言われない。この3つがそろったら、相手の期待は、もう下がっています。自分の力が足りないせいとは、かぎりません
- 評価する人が、その1人しかいない場所では、その人の期待が、自分の成績を決めてしまいます。評価する人を、増やします。会社の外に、自分の仕事を買ってくれる相手を、月に数万円ぶんでも、持つ。それだけで、1人の期待に、自分の全部を決められずに、すみます
評価する人が1人しかいない、という形については、無能ほど権利を主張すると、仕事ができないのに偉そうな人に書きました。
7. まとめ
- ゴーレム効果は、低い期待を持たれた人の成績が、本当に下がる現象。ピグマリオン効果は、その反対。もとは、ローゼンタールたちの1960年代の実験
- 効果は、はじめに言われたほど大きくない、という検証もある。ただ、期待が、接し方(ふんいき、教える量、任せる機会、返す言葉)を変えることは、たしか
- 私は、動画の編集をしてくれていた人を、携帯の回線でアップロードしていた、という1つの出来事で、やめさせた。編集の質は、悪くなかった
- 1つの出来事を、人がらの判定にまで広げ、教えもせず、直す機会も与えずに、切っていた。これでは、人は育たない
- 「道具にお金をかけてほしい」という判断そのものは、いまも変わらない。まちがっていたのは、それを言葉にして相手に返さなかったこと
- 育てるのが苦手なら、自分を直す道のほかに、はじめから自分の意志で動く人とだけ組む形に移る道もある。私は、そちらを選んだ

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