希少性の原理は、手に入りにくいものほど、価値が高く見える、という心の働きです。「希少性の法則」とも呼ばれます。ロバート・チャルディーニの『影響力の武器』に出てくる、7つの原理の1つです。「期間限定」「残りわずか」「本日まで」。売る文章でいちばんよく見かけるのは、この原理です。そして、いちばんうそが混ざりやすいのも、この原理です。
この記事では、原理の中身を説明したあとで、私が実際に使っている72時間の期限のしくみと、期限が過ぎたあとに表示しているページの文面を、そのまま見せます。結論を先に言うと、希少性は、本当に手に入らなくなるときだけ使えます。うその期限は、1回目は効きます。2回目からは、自分の言葉の全部が信じられなくなります。
1. 希少性の原理とは
『影響力の武器』で紹介されている実験があります。同じクッキーを、10枚入った瓶から出した場合と、2枚しか入っていない瓶から出した場合で、味の評価を比べました。2枚の瓶のクッキーのほうが、高く評価されました。中身は同じです。
この実験には、続きがあります。
- 最初から少ないものより、「さっきまであったのに減った」もののほうが、欲しくなる。10枚あった瓶が、目の前で2枚に減らされたときのほうが、評価は高くなりました
- 減った理由が「ほかの人が欲しがったから」のとき、いちばん欲しくなる。数え間違いで減った、と言われたときより、ほかの人に回したので減った、と言われたときのほうが、評価は高くなりました
つまり、人が反応するのは、数の少なさそのものよりも、手に入れる自由を失いそうだ、という感覚です。取り上げられそうになったものは、それまで欲しくなかったとしても、急に欲しくなります。
2. 売る文章で使われる3つの形
| 形 | 例 | うそが混ざるところ |
|---|---|---|
| 時間 | 「本日23:59まで」「72時間限定」 | 期限が過ぎても、同じ条件で売り続けている |
| 数 | 「残り3名」「先着50名」 | データの商品なのに、数に上限がある理由がない |
| 情報 | 「ここだけの話」「一般には公開していません」 | 同じ話を、全員にしている |
3. 私が使っている希少性|72時間の期限
私は、無料のメール講座の11通目で、29,800円の講座を案内しています。受付は72時間です。販売ページの構成はLPの作り方に書きました。
しくみ
- 読む人が販売ページを最初に開いた時刻を、その人のブラウザに記録する
- ページの上と下に、残り時間を表示する
- 時間が来たら、ページは自動で「受付は終了しました」のページに切り替わる。申し込みのフォームには、もう行けない
- 期限の日の朝と夜、そして終わった翌日に、メールでも知らせる
このしくみには、抜け道があります。時刻はブラウザに記録しているので、別のブラウザや別の端末で開けば、時計は最初から動きます。時刻をブラウザに記録していることは、販売ページの条件の欄にも書いてあります。完ぺきなしくみではありません。それでも、「本日まで」と書いたページが、翌週も同じ顔で開いているのとは、まったく違います。
期限が過ぎたあとに表示しているページ
期限が過ぎた人が販売ページを開くと、次の文面が出ます。
受付は終了しました。
お申し込みの期限を過ぎたため、ご案内のページを閉じました。
延長はしません。
「あと少しだけ」と再開すれば、今回は何人か増えると思います。ただ、それをやると次に私が期限を書いたとき、あなたはそれを信じません。
期限を守ることのほうが、1回分の売上より価値があると考えています。
期限を過ぎてからのお申し込みには、個別にも対応していません。
そのあとに、これからどうなるかを書いています。メールはこのまま届くこと。解除する必要はないこと。およそ3か月後に、もう一度だけ案内をすること。
大事なのは、最後の1つです。期限を過ぎた人を、締め出したままにしない。次の機会がいつ来るかを、先に伝えます。希少性は、相手を追い込むための道具ではなく、「いつまでに決めればいいか」をはっきりさせるための道具として使っています。
もう1つの希少性|月に2人まで
講座の先にある個別の指導は、月に2人まで、年に24人を上限にしています。これは、売るための演出ではありません。私がひとりで見ているので、それ以上は受けられない、という実際の限界です。理由は個人コンサルの始め方に書きました。
数の希少性を使っていいのは、こういう場合だけだと考えています。29,800円の講座は、データです。何人に売っても減りません。だから、講座のほうに「残り〜名」と書くことは、しません。
4. うその希少性が、高くつく理由
うその期限は、1回目は効きます。問題は、2回目です。
- 「本日まで」を信じて買った人が、翌週も同じページが開いているのを見る。その人は、次から、私の言う期限を信じません
- 期限だけではありません。「10台に1台は利益が出ません」という私の正直な数字も、同じ口から出ている以上、信じてもらえなくなります
- 買わなかった人も、見ています。メールを読み続けている人は、期限が本当に守られたかどうかを、知っています
メール講座は、同じ人に、何十通も届きます。1回きりの広告とは違います。1回のうそは、そのあとの全部の通に、かかってきます。
なお、期限を過ぎても同じ条件で売り続けている「期間限定」の表示は、うそというだけでなく、景品表示法の上でも問題になることがあります。
5. 私の本業は、希少性でできている
売る文章の話から、少し離れます。私が20年やってきた、壊れた機械を直して売る仕事は、希少性そのものです。
メーカーが修理を打ち切った機械は、時間がたつほど、動く個体が減っていきます。直せる人も、減っていきます。私の登録ページには、「ディスコン(生産終了)した製品を直せる人は、これから確実に減っていきます」と書いてあります。動く個体が減り、直せる人が減れば、直したものの値段は、下がりにくくなります。
ただし、希少なら何でも値段がつくわけではありません。スーパーファミコンのカセットの電池交換は、2009年から2011年ごろ、とてもよく売れました。いま同じことをやっても、当時ほどにはなりません。実機で遊ぶ人が、減ったからです。希少性は、欲しい人がいて、はじめて値段になります。1章の実験で、「ほかの人が欲しがったから減った」ときに、いちばん評価が上がったのと、同じ話です。
6. 受け取る側のときの、守り方
『影響力の武器』が勧めている守り方は、こうです。「残りわずか」を見て気持ちが高ぶったら、その高ぶりを、立ち止まる合図にする。そして、自分に聞く。これが欲しいのは、使いたいからか。それとも、手に入らなくなるのが嫌なだけか。
もう少し実際的な確かめ方も、書いておきます。
- カウントダウンは、ページを読みこみ直すと、最初に戻らないか
- 同じ「本日限り」を、先週も見なかったか
- データの商品に、「残り〜名」と書いていないか。書いてあるなら、なぜ上限があるのか、説明があるか
- 期限を過ぎたあとに、どうなるかが書いてあるか。書いていない売り手は、たいてい、延長します
私のページも、同じ目で見てください。
7. まとめ
- 希少性の原理は、手に入りにくいものほど価値が高く見える働き。人が反応するのは、数の少なさより、手に入れる自由を失いそうだという感覚
- 売る文章での形は、時間、数、情報の3つ。どれも、うそが混ざりやすい
- 私の期限は72時間。時間が来たら、ページが閉じる。延長はしない。そのかわり、次の機会が3か月後にあることを先に伝える
- 数の希少性を使うのは、本当に上限があるときだけ。データの商品に「残り〜名」は書かない
- うその期限は、2回目から、自分の言葉の全部を信じてもらえなくする
- 希少性は、欲しい人がいて、はじめて値段になる
7つの原理の全体は、『影響力の武器』要約に書きました。

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