「ニッチ市場(隙間産業)の成功例」を検索すると、出てくるのはほぼ企業の事例です。COHINA、chocoZAP、ANDPAD。どれも正しい事例ですが、読み終えた後に残る疑問は一つだと思います。
「それで、資本も社員もいない自分は、どこに旗を立てればいいのか」
私は中古品を仕入れて直して売る仕事を20年してきて、個人の規模で3つの隙間を回しました。壊れたゲーム機の修理転売、ブランド品のリペア転売、特定の腕時計にしぼった自社サイトです。先に、そこから分かったことを3つ書きます。
- 隙間には2種類ある。「買う人をしぼる隙間」と、「扱える商品をふやす隙間」です。私が長く勝てたのは、後者でした。修理したゲーム機を買うのは、ごく普通の「動くゲーム機がほしい人」です。しぼったのは買う人ではなく、仕入れと商品化の工程でした。
- 勝てる隙間には、3つの条件がそろっている。他人には面倒でも自分には楽なこと。解決した結果に、買う人がお金を払うこと。失敗・返品・販売の手間まで入れても、利益が残ること。
- 隙間は、いつか閉じる。天井は、客が尽きるより先に、自分の手・人・場所に来ました。そしてゲーム機の修理は、やる人が増えすぎて、いまは私も撤退しています。
この記事は、2〜4章で大手9社の事例を型ごとに整理し、5章以降で私の3つの隙間を、数字と撤退の理由まで含めて書きます。企業事例をすでに知っている方は、1章を読んだら5章へ進んでください。
1. 先に結論:隙間は2種類、勝てる条件は3つ
1-1. 私が回した3つの隙間
| 壊れたゲーム機の修理転売 | ブランド品のリペア転売 | 腕時計にしぼった自社サイト | |
|---|---|---|---|
| 隙間の種類 | 扱える商品をふやす | 扱える商品をふやす | 買う人をしぼる |
| 買う人 | 動くゲーム機がほしい、ふつうの人 | 状態のよいブランド品がほしい人 | 特定の種類の時計を探す人 |
| 自分が有利だった理由 | 「故障」の多くが清掃で直ると知っていた | 引手交換などの直す技術と、真贋の目利き | すき間の名前で調べる人に、記事で届いた |
| 天井 | やる人が増えすぎて、利益が出にくくなった | 作業・人・場所。人件費と倉庫代で逆ザヤ | 売れる数。週2〜3個 |
| いま | 撤退 | 撤退(副業のサイズなら成立すると考えている) | — |
1-2. 「買う人をしぼる」と「扱える商品をふやす」は、別の商売
| 買う人をしぼる | 扱える商品をふやす | |
|---|---|---|
| 狙う隙間 | いまの商品やサービスでは満足できない人 | いまの売り手が、商品にできない物 |
| 主な仕事 | その人に合う商品を用意し、見つけてもらう | 診断・修理・検品で、売れる状態にする |
| 企業の例 | COHINA、chocoZAP、BULK HOMME | (企業ではまれ。個人の修理転売が典型) |
| 確かめる限界 | 集められる人数と、買う回数 | 仕入れの量、作業時間、直せない割合 |
「ニッチ=マイナーな商品を探すこと」と思われがちですが、それは片方だけです。買う人まで狭くする必要はありません。仕入れと商品化の工程に、自分が有利になる隙間があれば、売る先は大きな市場のままでいい。私のゲーム機とブランド品は、こちらでした。
1-3. 勝てる隙間の、3つの条件
- 他人には面倒でも、自分には比較的楽である。面倒なだけでは足りません。自分にとっても面倒なら、ただの重労働です。
- 解決した結果に、買う人がお金を払う。動かないゲーム機が「動作確認済み」になると、値段が数倍になる。面倒を越えた先に、買う人が払う差がなければ、利益は残りません。
- 失敗・返品・販売の手間まで入れても、利益が残る。直せなかった個体、撮影・出品・梱包の時間、お金が戻るまでの日数。ここまで入れて計算します。7章に計算機を置きました。
面倒さは参入障壁になります。ただ、参入する人が少ないだけでは、値段は決められません。3つがそろって、はじめて「勝てる隙間」になります(参入障壁の記事)。
2. 「悩み解決型」のニッチ市場成功例3社|COHINA・BULK HOMME・BASE FOOD
ビジネスにおいて最も強力な動機は「快楽を得たい」ではなく「苦痛(ペイン)から逃れたい」という感情です。
このセクションでは、特定の属性の人々が抱えていた深く切実な「悩み」に焦点を当て、それを解消することで熱狂的な支持を得た3つの成功事例を解剖します。
2-1. 【低身長女性向けアパレル】COHINA(コヒナ)
アパレル市場は飽和状態と言われますが、COHINAは「サイズ」という物理的な壁に挑むことで、見過ごされていた巨大な需要を掘り起こしました。
- ターゲット(Who):身長155cm以下の小柄な女性(U155)。
- 抱えていた悩み(Pain):「フリーサイズ」は実質160cm基準で作られており、着ると「着られている感」が出る。袖が長い、裾を引きずる。サイズを合わせようとすると子供服しかなく、大人のファッションを楽しめない。
- 提供した解決策(Solution):単にサイズを小さくするのではなく、「小柄な女性が美しく見えるバランス」で再構築した大人向けデザインの服。
なぜ勝てたのか?(KSF:重要成功要因)
最大の勝因は、「コンプレックスの共有とコミュニティ化」です。
創業初期から365日毎日欠かさず実施したInstagramライブにより、顧客は「モデルも自分と同じ悩みを持っている」という共感を抱きました。これにより、単なる「服屋」ではなく、「悩みを分かち合う場所」という強固なコミュニティが形成されました。
結果、創業から3年で月商1億円を超えたと報じられています(日経クロストレンド)。ニッチ市場において「共感」がいかに強力な武器になるかを示した事例です。
2-2. 【男性用スキンケア】BULK HOMME(バルクオム)
かつて「男が肌の手入れなんて」と言われた時代に、BULK HOMMEはメンズスキンケアを「身だしなみ(ライフスタイル)」へと再定義しました。
- ターゲット(Who):20-30代の「美容に関心はあるが、女性用ブランドを買うのは恥ずかしいし、ドラッグストアの安価な製品では満足できない」男性。
- 抱えていた悩み(Pain):どの製品を選べばいいかわからない(選択のストレス)。洗面所に女性っぽいパッケージを置きたくない。
- 提供した解決策(Solution):「THE BASIC」をコンセプトにした、中身で勝負する高品質なスキンケア。
なぜ勝てたのか?(KSF:重要成功要因)
勝因は「世界観の徹底的な統一(ブランディング)」です。
パッケージを極限までシンプル(パウチ容器)にし、白黒のモノトーンで統一することで、男性が手に取りやすく、SNSでシェアしたくなる「スタイリッシュなアイテム」へと昇華させました。
「美容」というハードルを下げ、ジムに行くのと同じ感覚で肌をケアする文化を創出。D2Cで顧客と直接つながり、サブスクリプション(定期購入)モデルでLTV(顧客生涯価値)を高めるビジネスモデルを確立しました。
2-3. 【完全栄養食】BASE FOOD(ベースフード)
「健康的な食事」と「手軽さ」は、長らくトレードオフ(両立不可能)の関係にありました。BASE FOODはこの常識を破壊し、「主食のイノベーション」を起こしました。
- ターゲット(Who):仕事や趣味に没頭したいが、カップ麺ばかりで健康を害したくない多忙なビジネスパーソンやクリエイター。
- 抱えていた悩み(Pain):自炊する時間がない。コンビニ弁当やジャンクフードへの罪悪感。サプリメントだけでは空腹が満たせない。
- 提供した解決策(Solution):1食で1日に必要な栄養素の1/3がすべて摂れるパンやパスタ。「栄養を考える」というタスク自体の削除。
なぜ勝てたのか?(KSF:重要成功要因)
勝因は「日常のインフラへの浸透」です。
初期はECサイトでの定期購入が中心でしたが、コンビニエンスストア(ファミリーマート、ローソン、セブン-イレブン等)への卸展開を戦略的に実施。「いつでもどこでも買える」状態を作ることで、意識高い系だけのニッチ商品から、大衆の選択肢へとスケールさせました。
累計販売数は2億袋を突破し(ベースフード プレスリリース)、上場も達成。「完全栄養食」という新しいカテゴリーそのものを作り出したパイオニアです。
3. 「引き算・特化型」のニッチ市場成功例3社|chocoZAP・ソロウェディング・YAMAP
多くの企業が「あれもこれも」と機能を足し算して差別化を図ろうとする中、「あえて機能を捨てる(引き算)」ことで、強烈な個性を放つニッチ戦略があります。
余計なものを削ぎ落とすことで、特定の顧客にとっての「最高」を実現した3つの事例を見ていきましょう。
3-1. 【コンビニジム】chocoZAP(チョコザップ)
RIZAPグループが手がけるchocoZAPは、「ジム=ストイックな場所」という既成概念を完全に破壊し、フィットネス業界の地図を塗り替えました。
- ターゲット(Who):運動はしたいがジムに通うのが面倒、着替えが億劫、マッチョな人たち(ガチ勢)がいる空間が怖いと感じる「運動無関心・初心者層」。
- 捨てたもの(Subtraction):シャワー、更衣室(着替え不要)、鍵付きロッカー、トレーナーの常駐、高重量のダンベルやフリーウェイトエリア。
- 尖らせた価値(Value):「土足のまま5分だけ」「全店舗24時間使い放題」「月額2,980円(税抜)の安さ」。さらにセルフエステや脱毛器まで導入し、運動以外の目的も付与。
なぜ勝てたのか?(KSF:重要成功要因)
勝因は「ターゲットの徹底的な選別と排除」です。
従来のジムが取り込みたかった「本格的に鍛えたい層」をあえて排除するスペックにすることで、これまでジム市場に入ってこなかった巨大な潜在層(ブルーオーシャン)の心理的ハードルを極限まで下げました。
結果、会員数は一時135万人に達し「会員数日本一のジム」になりました。ただしその後110万人まで減り、出店を抑えて黒字化を回復しています(Business Insider Japan、2025年11月)。ニッチで勝った後に何が起きるかは、第6章で扱います。
3-2. 【ソロウェディング】阿部写真館 他
少子化や未婚化が進む中、ブライダル業界で密かに熱狂を生んでいるのが「ソロウェディング(ひとり結婚式)」です。
- ターゲット(Who):未婚だが若く美しい今の姿を残したい女性、結婚式を挙げなかった既婚女性、あるいは「推し(アイドルやキャラクター)」との結婚を擬似体験したい女性。
- 捨てたもの(Subtraction):「新郎(パートナー)」、「招待客」、「披露宴」という結婚式の構成要素。
- 尖らせた価値(Value):「世界で一番美しい自分」を写真に残すことへの一点集中。プロのヘアメイクとドレスで、自己肯定感を最大化する体験。
なぜ勝てたのか?(KSF:重要成功要因)
勝因は「常識のデカップリング(切り離し)」です。
「ウェディングドレス=結婚する時に着るもの」という固定観念を解体し、「ドレスを着て写真を撮る」という体験だけを切り出して商品化しました。
これにより、晩婚化の不安や承認欲求、推し活需要といった現代女性の複雑な心理(インサイト)を見事に満たす、高単価なニッチ市場を創出しました。
3-3. 【登山地図アプリ】YAMAP(ヤマップ)
Googleマップという世界最強の無料地図アプリが存在する中で、YAMAPは「登山」という領域に特化することで圧倒的なシェアを獲得しました。
- ターゲット(Who):登山愛好家、トレイルランナー。特に、電波の届かない山奥に入る人々。
- 捨てたもの(Subtraction):街中でのナビゲーション機能、店舗検索などの汎用的な地図機能。
- 尖らせた価値(Value):「電波がなくても現在地がわかる」というオフラインGPS機能。登山届の提出や、他の登山者の活動日記(ログ)が見られるコミュニティ機能。
なぜ勝てたのか?(KSF:重要成功要因)
勝因は「命に関わる課題(ペイン)への特化」です。
山ではGoogleマップは役に立たず、道迷いは遭難(死)に直結します。この切実な課題に対し、YAMAPは「スマホが命綱になる」という信頼を提供しました。
累計540万ダウンロード規模に達し(ヤマップ社ニュース)、警察や自治体と連携して遭難救助にも活用されるなど、単なるアプリを超えた「登山インフラ」としての地位を確立しています。
4. B2B(バーティカルSaaS)のニッチ市場成功例3社|ANDPAD・カミナシ・Eco-Pork
企業向けビジネス(B2B)において、特定の業界に特化したサービスを「バーティカルSaaS」と呼びます。
ZoomやSlackのように全業界で使われる「ホリゾンタルSaaS」はすでにレッドオーシャンですが、「特定の業界特有の深い課題」を解決するバーティカル領域には、まだ無数の鉱脈が眠っています。
ここでは、アナログな慣習が根強く残る業界を変革し、圧倒的なシェアを握った3つの事例を紹介します。
4-1. 【建設現場管理】ANDPAD(アンドパッド)
建設業界は市場規模こそ巨大ですが、長らくIT化が遅れている「レガシー産業」の代表格でした。ANDPADはその岩盤を突き崩し、業界のデファクトスタンダード(事実上の標準)となりました。
- ターゲット(Who):工務店、リフォーム会社、専門工事会社など。現場監督と職人のコミュニケーションに課題を持つ企業。
- 抱えていた課題(Pain):図面は紙、連絡は電話とFAX、スケジュールは事務所のホワイトボード。現場に行かないと状況がわからず、「言った言わない」のトラブルや移動時間のロスが常態化していた。
- 提供した解決策(Solution):現場監督も職人も、誰もが持っている「スマホ」だけで完結する施工管理アプリ。チャット、図面共有、工程表管理を一元化。
なぜ勝てたのか?(KSF:重要成功要因)
勝因は「リテラシーへの徹底的な寄り添い」です。
ITツールに不慣れな職人でも直感的に使えるUI/UXを追求し、導入企業への説明会を泥臭く繰り返しました。「パソコンを開く」というハードルを排除し、現場のポケットの中に入り込んだことで、利用企業は26.5万社(ANDPAD公式、2026年)に達しています。
4-2. 【ノンデスクワーカー管理】カミナシ
世の中のITツールの多くは、オフィスで働く「デスクワーカー」のために作られています。カミナシは、「現場で働く人々(ノンデスクワーカー)」に光を当てました。
- ターゲット(Who):食品工場、ホテル、飲食店などの現場管理者および作業員。
- 抱えていた課題(Pain):衛生チェックや機材点検がいまだに「紙とハンコ」で行われている。手書きデータの集計に膨大な時間がかかり、不正や書き間違いも防げない。
- 提供した解決策(Solution):現場の紙帳票をそのままタブレットアプリ化。正しい手順でないと次へ進めない機能や、写真による記録で、管理コストを劇的に削減。
なぜ勝てたのか?(KSF:重要成功要因)
勝因は「現場の『諦め』を解消したこと」です。
「現場は紙でやるのが当たり前」という業界の固定観念に対し、カミナシは「現場こそITで楽になるべきだ」という新しい常識を提示しました。PCを持たない従業員でも使える直感的な操作性により、DX(デジタルトランスフォーメーション)から取り残されていた現場層を一気にデジタル化しました。
4-3. 【養豚経営支援】Porker(Eco-Pork)
「養豚」という、ITとは無縁に思える第一次産業の超ニッチ領域。ここにテクノロジーを持ち込み、経営を科学したのがEco-Porkです。
- ターゲット(Who):養豚農家。飼料価格の高騰や後継者不足に悩む経営者。
- 抱えていた課題(Pain):豚の健康状態や適正な出荷時期の判断が、ベテランの「勘と経験」に依存(属人化)している。データがないため、利益率の改善ポイントがわからない。
- 提供した解決策(Solution):養豚経営管理システム「Porker」。センサーやカメラで豚の生育状況をデータ化し、給餌や環境管理を最適化する。
なぜ勝てたのか?(KSF:重要成功要因)
勝因は「超ニッチゆえの参入障壁」です。
養豚業のプロセスは極めて専門性が高く、一般的なIT企業が参入しようとしても現場の理屈を理解できません。Eco-Porkは養豚に特化し、ハードウェア(センサー)からソフトウェアまで一気通貫で提供することで、競合他社が容易に真似できない深い壕(モート)を築きました。
5. 個人規模のニッチ市場成功例|私が回した「壊れたゲーム機の修理転売」
ここからが、企業事例では分からない部分です。企業事例と同じ形式で、私の実例を解剖します。数字はすべて当時の概算です。全件を記録していたわけではないので、丸めて書きます。
5-1. 【レトロゲーム機の修理転売】PS2・スーパーファミコンの故障品
ターゲット(Who):新品がもう供給されないゲーム機を、動く状態で欲しい人。特別な人ではなく、ふつうの買い手です。
抱えていた悩み(Pain):中古市場に出回っているのは「動作未確認」「ジャンク」ばかりで、買っても動く保証がない。メーカーはもう作っていない。
提供した解決策(Solution):ジャンク品を1,000円前後で仕入れ、動作確認と修理をして「動作確認済み」として5,000円前後で売る。
なぜ勝てたのか?(KSF):「故障の多くが、実は故障ではない」と知っていたことです。PS2のようなディスク式のゲーム機で「読み込まない」と言われる個体は、光学ドライブのピックアップが汚れているだけのことが多く、清掃で直るものがたくさんありました。直す作業は、1台20分ほど。部品もほとんど要りません。
知らない人には「壊れたゲーム機」、知っている人には「掃除すれば5,000円になる1,000円の箱」。この認識の差が、そのまま利益でした。1台20分で2,000円台の利益は、組織で回すには小さすぎます。大手が来ないのは、そのためです。
5-2. 数字:1個あたりと、実際に回した規模
1個あたりの数字です。販売手数料・送料は、ゲーム機の利益にだけ入れています。
| レトロゲーム機(清掃で直る個体) | 財布(引手の交換) | ルイ・ヴィトンのバッグ | |
|---|---|---|---|
| 仕入れ | 1,000円前後 | 3,000円前後 | 1万〜5万円 |
| 部品 | ほぼ不要 | 200〜500円 | 直す内容による |
| 売値 | 5,000円前後 | 8,500円前後 | 2万〜8万円 |
| 直す作業 | 20分前後 | 10〜15分 | 内容による。染め直しは2時間以上 |
| 撮影・出品・梱包 | — | 45分前後 | 45分前後 |
実際に回した規模は、まるでちがいました。ゲーム機は週10〜20台。ブランド品は、販売が週50〜150点で、仕入れに使うお金は月600万円以上でした。必要な運転資金の差は、業態の差だけでなく、規模の差でもあります。
そこで、同じ月40個で並べてみます。ゲーム機の仕入れは月4万円、ヴィトンのバッグなら40万〜200万円です。資本のない人がどこに旗を立てるかを決めるとき、見るのは利益率より、まず「手元の資金で、この数を回せるか」です。3業態の数字の出し方はせどりの利益率と回転率の記事、スマホ側の実例はスマホ修理転売は儲かるかにまとめました。
5-3. 企業事例との共通点と、違い
COHINAは「フリーサイズから外れた人」を、chocoZAPは「ジムに行けなかった人」を、ANDPADは「パソコンを開かない職人」を拾いました。これは、買う人をしぼる隙間です。私が拾ったのは「動かないから捨てられるゲーム機」で、こちらは商品のほうの隙間です。
共通しているのは、市場の主流が「対象外」として切り捨てているものを、自分だけが扱える形で拾っていることです。違うのは、どこで勝つかです。買う人をしぼる商売は、集客とブランドで勝ちます。商品をふやす商売は、仕入れと直す工程で勝ちます。
スマホのバッテリー交換にも、分かりやすい例があります。私はバッテリーが膨張した個体を狙って仕入れました。膨張品は、一般には「危なくて手を出せないジャンク」です。修理する側から見ると、いちばん難しい開封の工程が、内側から浮いているぶん、いちばん簡単になります。他人にとってのリスクが、自分にとっての手順の省略になる。隙間とは、この逆転が起きる場所のことです。
6. ニッチの「天井」と、隙間が閉じるとき
ニッチで勝つと、必ず次の問題が来ます。成長が止まるか、儲かると分かった人が入ってくるか。私がぶつかった天井と、企業の例を書きます。
6-1. 天井は「市場」ではなく「自分の手・人・場所」に来る(ブランドリペア)
私がいちばん大きく勝てたのは、ブランド品のリペア転売です。2019年から2022年ごろ、シャネルとルイ・ヴィトンのバッグを中心に、販売は週50〜150点。人件費を引く前の利益は、月80万〜200万円と、大きくゆれていました。
天井は、市場ではなく、私の側に来ました。作業場は自宅で、在庫が家を埋めていきました。人件費は月45万〜50万円。広げるための倉庫や事務所は、見積もりで月30万〜50万円以上。そこに自分の給料を乗せると、逆ザヤでした。人を雇って作業を任せようとしても、スケールできませんでした(固定費の記事)。
ニッチ市場の天井は、「客が尽きる」より先に、「自分のボトルネックが尽きる」形で来ます。ブランド品のボトルネックは、作業・人・場所でした。ゲーム機とスマホのボトルネックは、仕入れの量でした。自分の業態のボトルネックがどれかを知らないまま広げると、私と同じ場所で止まります(ボトルネックの記事)。なお、ブランドリペアは稼げないから離れたのではありません。副業のサイズなら、いまでも成立すると考えています(ブランド品の仕入れルート)。
6-2. 企業の天井:chocoZAPの会員減少と、ワークマンの「染み出し」
企業側の天井は、chocoZAPが分かりやすい例です。会員数は一時135万人に達しましたが、その後110万人まで減少。RIZAPグループは出店ペースを抑え、業務の内製化で1店舗あたりの損益分岐点を下げることで、2026年3月期上半期に3年ぶりの営業黒字を回復しています(Business Insider Japan、2025年11月)。「運動しない人」というニッチは巨大でしたが、無限ではなかった、ということです。
天井を突破する方法として参考になるのがワークマンです。
- 第1段階(ニッチ):「建設現場の職人」に特化。高機能で低価格な作業服でシェアを獲得。
- 第2段階(染み出し):職人向けに開発した「防寒・防水・耐久性」が、バイカーや釣り人のニーズと一致していることを発見。
- 第3段階(拡張):デザイン性を高めた「ワークマン女子」で一般のアウトドア・カジュアル市場へ。
「職人のための服」という軸を変えずに、ターゲットの定義だけを少しずつ広げる。私の言葉で言えば、ボトルネックが「顧客の数」だった場合の解き方です。ボトルネックが「自分の作業時間」だった私のブランドリペアには、この方法は使えませんでした。天井の種類によって、処方は変わります。
6-3. 大手が入ってこられない「城」の作り方(スノーピーク・YAMAP)
あなたがニッチ市場で「ここは儲かる」と証明した瞬間、資本力のある大手が模倣品(コピーキャット)を持って参入してくるのは時間の問題です。
機能や価格だけで勝負していると、物量作戦で必ず負けます。
大手が絶対に入ってこられない聖域を作るための鍵は、「スイッチングコスト(乗り換えコスト)の最大化」です。
① コミュニティ化による「情緒的スイッチングコスト」
大手は「効率」を追求するため、一人ひとりの顧客と深く向き合うことが苦手です。ここに勝機があります。
顧客同士が交流するコミュニティを作ったり、開発者がSNSで直接対話したりすることで、「このブランドの『中の人』や『仲間』が好きだから離れられない」という感情的な絆を築きます。
- 例:スノーピーク(キャンプ用品)。ユーザー参加型のキャンプイベント「Snow Peak Way」を開催。単なる「道具」ではなく「人生の価値観」を共有する仲間となり、他社製品への乗り換えを防ぐ。
② データ蓄積による「物理的スイッチングコスト」
使えば使うほどユーザー個人のデータが蓄積され、他社に乗り換えるとそれが全て無駄になる仕組みを作ります。
- 例:YAMAP(登山アプリ)。これまでの登山の記録(ログ)や写真が蓄積されているため、仮にGoogleが同じ機能を出しても、ユーザーは簡単には移行できません。
③ 個人の場合:「技術」と「目利き」が城になる
個人の規模には、コミュニティもデータもありません。個人の城になるのは、修理の技術と、真贋や故障箇所を見抜く目利きです。真贋は知識ではなく接触量で身につきます。私はブランド品を週50〜150点扱っていた時期に、違和感で分かるようになりました。この「接触量」は大手が金で買えません。買えるのは人材で、その人材がまた個人として独立していきます。
機能はコピーできますが、「コミュニティの熱量」「蓄積された個人データ」「接触量で得た目利き」はコピーできません。大手が入ってこられない城とは、金で買えないものの蓄積のことです。
6-4. 隙間は閉じる(ゲーム機の修理から撤退した理由)
ゲーム機の修理と改造は、いまはレッドオーシャンです。やっている人が多すぎて、正直、利益はあまり出ません。だから、私も撤退しています。
「故障の多くは清掃で直る」という知識は、一度広まると、隙間ではなくなります。商品をふやす隙間は、知識と技術でできているぶん、まねされる速さも、知識が広まる速さで決まります。1-1の表で、ゲーム機の天井が「作業」ではなく「やる人の数」になっているのは、このためです。
それでも、ゲーム機は入口としては使えると考えています。身近で、はんだごての練習台になり、失敗してもジャンクとして売れるからです。そのうえで、利益を伸ばすなら、仕入れて直して売る形から、修理や改造を「受けて請求する」形に移る必要があります(修理の受注の記事、リペア職人の記事)。
6-5. しぼると、数が追えない(腕時計にしぼった自社サイト)
私は、海外から仕入れて売る方法をやっていたころ、特定の種類の腕時計にしぼった店を、自分でサイトを立てて運営しました。有名ブランドの名前では大手と競争になるので、すき間の名前で調べる人に向けて記事を書き、記事の中で時計を紹介しました。売れた最大の理由は、この検索対策でした。
いっぽうで、しぼった分だけ、数は追えませんでした。
| 形 | 売れた数 |
|---|---|
| オークションの売り場で、ジャンルを固定して30品ほどにしぼったアカウント | 1日2〜5個(月60〜150個) |
| 自分のサイトの、腕時計の店 | 週2〜3個(月8個ほど) |
単価は3,000〜10,000円、利益率は30〜40%の設定が多かったです。特化すると、あつかえる商品が減ります。私が教えた人の中でいちばん伸びた人は、腕時計のセレクトショップ型で、時計を巻き上げておく機械のような、時計好きが次に買う周りの品までそろえていました。しぼった先で、客1人あたりの買い物を広げた形です。1つのニッチの天井と、目標に必要なニッチの数は、ポジショニングの記事、クロスセルの記事とあわせて見てください。
腕時計の例から分かるのは、次の3つです。
- しぼっても、見込み客に届かなければ売れない。売れた最大の理由は、すき間の名前で調べる人に向けた記事でした。買う人をしぼる商売は、集客が本体です。
- 同じ客がほしがる、周りの品に広げられる。数が追えないなら、客1人あたりの買い物を広げます。
- 月数万円を作る隙間と、大きく伸ばす隙間では、選ぶ基準がちがう。小さく稼げる隙間を見つけたら、次は、それをどの規模で持つかを決めます。
7. 「勝てる隙間」の見つけ方|個人が使える判断基準と計算機
7-1. 「誰が、どういう動機で買うのか」を言語化できるか
私はゲーム機を仕入れるとき、ランキングや相場の数字だけでは判断しませんでした。「これを誰が、なぜ買うのか」を自分の言葉で説明できる商品しか仕入れません。言語化できない隙間は、自分がまだその市場を分かっていないということなので、入りません。
7-2. 1-3の3条件を、数字で確かめる
1個の利益だけでは、隙間が回るかは分かりません。直せずに損をする割合、作業の時間、お金が戻るまでの日数まで入れて、月の利益と時給、必要な運転資金を出します。
月の利益:
時給:
必要な運転資金の目安:
はじめの数字は、5章のゲーム機に近い形です。仕入れ1,000円、手取り3,650円、作業20分、月40個、お金が戻るまで7日。損切りの割合10%と、1個あたりの損500円は、例として入れた数字です。月の利益は約9.3万円、時給は約7,000円、運転資金の目安は約9,300円です。
作業時間は、直す作業だけです。撮影・出品・梱包の45分前後を足して、65分にしてみてください。時給は、約2,200円まで下がります。「他人には面倒でも、自分には楽」かどうかは、この時給で判断します。自分の数字を入れて、3条件がそろうかを確かめてください。
7-3. 自分のボトルネックに合う指標で見る
- 資金が浅いなら、必要な運転資金と、お金が戻るまでの日数を見ます。
- 時間がないなら、撮影・出品・梱包まで入れた時給を見ます。
- 仕入れが尽きるなら、1個あたりの利益額を見ます。
資金がないのに1個あたりの利益が大きい業態を選ぶと、1個目を仕入れたところで手が止まります。
7-4. 「ハードルが低い穴」は穴ではない。そして、穴はいつか閉じる
中古品は新品ほど厳しい規制を受けないので、始めやすい。しかし、ハードルが低ければ、ライバルも同じことを考えます。修理を挟まない横流しの転売は、日に日に稼ぐのが難しくなっています。逆に、重くてかさばる、汚い、技術が要る、といった面倒があるほど、ライバルは減ります。プリンターの修理は、「重くてかさばる」だけで参入者が目に見えて減りました。
ただ、6-4のとおり、知識でできた穴は、知識が広まれば閉じます。穴を見つけたら、閉じる前に、受注や周りの品への広げ方まで考えておきます。
7-5. 見込み利益ではなく、実現利益で判定し、外れたら早く切る
隙間を見つけたつもりでも、出品してみるまで、本当に需要があるかは分かりません。私は出品後の反応を見て、駄目なら赤字でも数日以内に現金にしてきました。その現金で次の勝負をするほうが、売れない在庫を3か月持つより速く前に進めます(せどりの損切りの記事)。
8. まとめ
- 隙間には、「買う人をしぼる」隙間と、「扱える商品をふやす」隙間がある。企業事例の多くは前者、個人の修理転売は後者。
- 勝てる隙間の条件は3つ。他人には面倒でも自分には楽。解決した結果に買う人が払う。失敗・返品・販売の手間まで入れても利益が残る。
- 天井は、客が尽きるより先に、自分のボトルネック(手・人・場所・資金・仕入れ)に来る。私のブランドリペアは、人件費と場所で止まった。
- 隙間は閉じる。ゲーム機の修理は、やる人が増えすぎて、いまは撤退している。閉じる前に、受注や周りの品への広げ方を考える。
- 計算機で、月の利益・撮影や出品まで入れた時給・運転資金を出してから、入る。

コメント