大数の法則は、同じことを、たくさんくり返すほど、結果の平均が、本当の確率(本当の平均)に、近づいていく、という法則です。コインを10回投げると、表が7回出ることは、ふつうに、あります。1万回投げて、表が7,000回出ることは、まず、ありません。5,000回のあたりに、落ち着きます。
保険会社も、カジノも、この法則で、商売をしています。1人1人、1回1回は、読めない。でも、数が集まれば、読める。
私は、中古品を仕入れて売る仕事を、20年ほどやってきました。1個の商品が、いつ売れるかは、分かりません。何千個も売ると、「この順位の本は、だいたい1週間で売れる」が、分かるようになります。いっぽうで、数が集まらない場所では、私は、何年たっても、何も読めていません。この記事では、法則の中身と、よくある誤解を先に書きます。そのあとで、効いた場面と、効かなかった場面を、書きます。
1. 大数の法則とは
証明したのは、スイスの数学者、ヤコブ・ベルヌーイです。死後の1713年に出た本に、おさめられました。
言っていることは、2つです。
- 回数が少ないうちは、結果の割合は、本当の確率から、大きくずれる
- 回数をふやすほど、そのずれは、小さくなっていく
1-1. どのくらいの回数で、どのくらい、あてになるか
本当の確率が5割のものを、くり返したとき、結果の割合が、ほぼおさまる幅(95%の場合がおさまる幅)は、次のとおりです。
| 回数 | 結果の割合が、おさまる幅 |
|---|---|
| 10回 | およそ 19% 〜 81% |
| 100回 | およそ 40% 〜 60% |
| 1,000回 | およそ 47% 〜 53% |
| 10,000回 | およそ 49% 〜 51% |
幅を半分にするには、回数を、4倍にする必要があります。10分の1にするには、100倍です。10回や20回の結果は、ほとんど、何も教えてくれません。
1-2. 手もとの結果が、どのくらい、あてになるかの計算機
| 見かけの成功率 | 60% |
| 本当の成功率が、ありそうな範囲 | およそ 39% 〜 81% |
| ぶれの幅 | ±21.5ポイント |
20回のうち12回うまくいったら、見かけは、6割です。でも、本当の成功率は、4割かもしれないし、8割かもしれません。かんたんな近似の式を使っているので、回数がとても少ないときや、成功率が0%や100%に近いときは、目安ていどに見てください。
1-3. 近い言葉との違い
| 言葉 | 中身 |
|---|---|
| 大数の法則 | 回数をふやすと、結果の平均が、本当の平均に近づく。正しい |
| 少数の法則 | 少ない回数の結果にも、大数の法則が当てはまると思いこむ、人のくせ。まちがい |
| ギャンブラーの誤謬 | はずれが続いたから、そろそろ当たる、と考える。まちがい |
| 期待値 | 大数の法則で、結果が近づいていく先の、数字 |
| 平均への回帰 | 極端な1回のあとは、ふつうの結果が来やすい |
2. いちばん多い誤解|「そろそろ、当たる」
大数の法則は、「はずれが続いたぶんを、あとで、当たりが、うめ合わせてくれる」とは、言っていません。
コインを10回投げて、表が2回しか出なかった。そのあと、990回投げて、ちょうど半分の495回、表が出た。合わせると、1,000回のうち、表は497回。49.7%です。はじめの8回の裏は、うめ合わされていません。あとから来た、たくさんの回数に、うすめられただけです。
サイコロにも、コインにも、相場にも、記憶は、ありません。「そろそろ」は、来ません。この取りちがえで口座を飛ばした話は、ギャンブラーの誤謬の記事に書きました。
3. よくある例
- 保険。1人が、いつ事故にあうかは、分からない。10万人が1年間に何件の事故を起こすかは、かなり正確に、分かる。だから、保険料が決められる
- カジノ。1回1回は、客が勝つことも多い。1日に何万回も勝負が行われるので、店の取り分は、ほぼ、計算どおりになる
- 新人が、最初の3件で、契約を取った。「向いている」と決める。3件では、何も、分からない
- 新しい施策を、1週間ためして、数字が上がった。「効いた」と報告する。1週間では、ふだんのぶれと、区別がつかない
- お客さんの声を、3人から聞いて、商品を作りかえる
下の3つが、組織の中で、毎日のように起きていることです。数が足りない結果で、人を評価し、施策を決め、商品を変える。決めたあとで数字がもどると、「定着しなかった」と言われます。はじめから、何も、起きていなかっただけです。
4. 私の例①|何千個も売ると、1個1個は読めなくても、全体は読める
私は、Amazonで、本、CD、ゲーム、家電、パソコンの部品と、ほぼ全部のジャンルを、売ってきました。1冊の本が、いつ売れるかは、いまでも、分かりません。明日かもしれないし、3か月後かもしれません。
でも、数をこなすうちに、こういう相場感が、できました。
| 本の、Amazonでの順位 | 売れるまでの、だいたいの日数 |
|---|---|
| 3万位以内 | 1週間以内 |
| 6万位 | 10日前後 |
| 10万位 | 2週間以内 |
| 20万位 | 1か月以内 |
これは、私の体感です。全部の販売を、記録していたわけでは、ありません。それでも、この目安で仕入れると、全体のお金の回り方は、ほぼ、読みどおりになりました。1冊1冊は、はずれます。100冊まとめると、当たります。大数の法則を、体で覚えた、ということだと思っています。
正直に書くと、読めないままのジャンルも、あります。オーディオです。順位が良くても、売れない。なぜなのかを、私は、いまだに、言葉にできていません。数をこなしても、読めないものは、あります。
ブランド品の、本物と偽物の見分けも、同じでした。週に50個から100個、さわっていました。知識では、身につきませんでした。数で、身につきました。
5. 私の例②|当たるかどうかは、自分の運ではなく、相手の数で決まる
私は、ここ2年ほど、Xで見つけた懸賞や抽選販売に、応募できるものは、応募してきました。受注生産のものをのぞくと、買えたのは、1回だけです。
いっぽうで、2000年代の前半に、少年誌の読者プレゼントで、ゲーム機が2回と、MDコンポが、当たっています。電車の網棚にあった雑誌をひろって、ハガキを出しただけです。
私の運が、20年で、悪くなったわけでは、ありません。ちがうのは、応募する人の数です。Xの懸賞は、ボタン1つで応募できます。応募する人は、何万人、何十万人です。ハガキを買って、書いて、出す人は、ずっと少なかったはずです。当たる確率は、「当たりの数 ÷ 応募の数」で、決まります。そして、確率が何万分の1なら、2年ぶんの応募回数では、1回も当たらないのが、ふつうです。大数の法則が効くほどの回数を、1人の人間は、応募できません。懸賞が当たらない理由の記事に、くわしく書きました。
6. 私の例③|数が集まらない場所では、何年たっても、読めない
反対側の話です。私の個別の指導は、月に2人、年に24人までです。有料の講座を買った人のうち、個別の指導に進む人の割合は、あつかう内容を変える前が、30人に1人くらい。変えたあとが、100人に1人くらいでした。
この数字を、私は、あまり、信用していません。もとになっている件数が、少なすぎるからです。数件の成約で出した割合は、1章の計算機に入れると、幅が、とても広くなります。「30人に1人から、100人に1人に落ちた」のが、内容を変えたせいなのか、たまたまなのかは、この件数では、区別がつきません。
だから、1件売れた、1件売れなかった、で、販売ページを書きかえることは、しません。高い商品を、少ない人数に売る商売は、大数の法則が、効きません。効かないと分かっているので、数字ではなく、1人1人との面談で、判断しています。数が集まる場所では、数字を見る。集まらない場所では、数字に、たよりすぎない。使い分けです。
7. 私の例④|法則が効く前に、お金が尽きる
大数の法則は、「続けられれば、期待値どおりになる」と言っています。続けられなければ、意味が、ありません。
私が、はじめに人に教えた仕入れのやり方は、売れるまでに時間のかかる商品を、数多く持つ形でした。100冊持てば、全体としては、読みどおりに売れていきます。でも、少ない資金で始めた人は、100冊を持つ前に、お金が尽きました。法則が効きはじめる回数まで、たどり着けなかったのです。私が続けられたのは、家賃のかからない暮らしだったからです。ロングテールの記事と、破産確率の記事に書きました。
8. 使い方
- 判断する前に、回数を数える。10回や20回の結果なら、1章の計算機に入れて、幅を見ます。幅が広すぎるなら、まだ、何も分かっていません
- 1回を小さくして、回数をかせぐ。同じ100万円なら、1回の100万円より、100回の1万円です。回数が多いほど、結果は、期待値に近づきます
- はずれの続きを、うめ合わせようとしない。「そろそろ」は、来ません
- 数が集まらない判断は、数字にたよりすぎない。採用、高額の商品、大きな契約。年に数回しかないことは、割合を出しても、あてになりません。1件ずつ、中身を見ます
- 続けられる形にしておく。法則が効く回数まで、お金と気力が、もつこと。固定費を小さくしておくことが、いちばん効きます
まとめ
- 大数の法則は、回数をふやすほど、結果の平均が、本当の確率に近づく、という法則
- 幅を半分にするには、回数を4倍に。10回や20回の結果は、ほとんど、何も教えてくれない
- はずれが続いたぶんを、当たりがうめ合わせるのでは、ない。あとから来る回数に、うすめられるだけ
- 何千個も売ると、1個1個は読めなくても、全体は読める。私の回転日数の相場感は、そうやって、できた
- 月に2人しか売らない商品では、法則は効かない。数字より、1人1人を見る
- 法則が効く回数まで、続けられる形にしておく

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