「緊急」と「重要」は、別のものです。ところが、1日の中では、緊急なほうが、いつも先に片づきます。重要なほうは、だれにも催促されないので、来週に回ります。
私は、これで3回、痛い目を見ました。書きためた記事が、1回の侵入で消えました。販売サイトのアカウントを、止められました。教材は、1年、完成しませんでした。どれも、その前の日まで「緊急」だったことは、一度もありません。
この記事では、アイゼンハワーマトリクスの意味と使い方を先に書いて、そのあとで、由来がどこまで本当か、なぜ第2領域が後回しになるのか、私の例、そして、この表の限界を書きます。
1. アイゼンハワーマトリクスとは
やることを、「緊急かどうか」と「重要かどうか」の2つの軸で、4つに分ける表です。「緊急度と重要度のマトリクス」「時間管理のマトリックス」とも呼ばれます。
| 緊急 | 緊急でない | |
|---|---|---|
| 重要 | 第1領域 すぐやる (締め切り、クレーム、故障) |
第2領域 日時を決めてやる (仕組みづくり、備え、学習、健康) |
| 重要でない | 第3領域 任せる・まとめる (多くの通知、割りこみ、付き合いの用事) |
第4領域 やめる (目的のない閲覧、ひまつぶし) |
使い方の要点は、1つです。第2領域に、先に時間を割り当てることです。第1領域は、放っておいても、やります。催促が来るからです。第2領域は、放っておくと、永久にやりません。
1-1. 「緊急」と「重要」の見分け方
- 緊急:いま反応しないと、だれかに何か言われるもの。時間の軸です。
- 重要:やると、自分の目標に近づくもの。やらないと、あとで大きく失うもの。結果の軸です。
緊急かどうかは、相手が決めます。重要かどうかは、自分が決めます。ここが、この表のいちばん大事なところです。
2. 由来は、どこまで本当か
名前は、アメリカの第34代大統領、ドワイト・D・アイゼンハワーから来ています。演説の中で、「重要なことが緊急であることは少なく、緊急なことが重要であることも少ない」という趣旨の言葉を紹介したと、伝えられています。
ただし、本人が、この4マスの表を作って使っていた、という一次資料を、私は確認できていません。4マスの形で広く知られるようになったのは、スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』(1989年)の「第3の習慣」に出てくる、時間管理のマトリックスです。「第2領域」という呼び方も、ここから来ています。
ですので、この記事では、「アイゼンハワーの言葉をもとに、あとの人が表の形に整えたもの」として扱います。本のちがいについては、『7つの習慣』はどれがいい?全種類の違いと「あなたに合う1冊」の選び方に書きました。
3. なぜ、第2領域は後回しになるのか
「重要なほうを先にやればいい」と、だれでも分かっています。それでも、できません。意志が弱いからでは、ありません。
2018年に、消費者行動の学術誌に出た研究があります。参加者に、「報酬は小さいが、期限が短い作業」と「報酬は大きいが、期限に余裕がある作業」を選ばせました。どちらも、時間内に終わる作業です。それでも、期限が短いほうを選ぶ人が、目立って増えました。研究者は、これを「単なる緊急性効果」と名づけています。
つまり、人は、期限が近いというだけで、中身の損得とは別に、そちらに引っぱられます。そして、この傾向は、「自分は忙しい」と感じている人ほど、強く出たと報告されています。忙しい人ほど、緊急なものを選び、もっと忙しくなる、ということです。
もう1つ、理由があります。第2領域の仕事は、たいてい、大きくて、終わりが見えません。始めるのが、おっくうです。始めるまでの重さについては、作業興奮とは|意味と、どこまで本当かに書きました。
4. 私の例:「緊急になった日」には、もう遅かった
4-1. 記事のバックアップ
書きためた記事が、1回の侵入で、消えました。バックアップと、侵入への備えは、典型的な第2領域です。きのうまで、だれにも催促されません。消えた日に、はじめて第1領域になります。そして、その日には、もう、できることが、ほとんどありません。
4-2. 販売アカウントの停止
販売サイトのアカウントを、止められました。売る場所を1つにしない、という備えも、第2領域です。売れているあいだは、目の前の出荷と問い合わせ(第1領域)で、1日が終わります。くわしくは、テールリスクとは|意味と具体例に書きました。
4-3. 1年完成しなかった教材
教材は、締め切りを、だれも決めていませんでした。ですので、毎日、ほかの緊急な用事に負けました。1年たっても、完成しませんでした。これは、パーキンソンの法則の記事と、完璧主義の記事にも書いた話です。見る角度を変えると、「第2領域に、日時を入れていなかった」という、同じ1つの原因になります。
4-4. うまくいった例:教えることの仕組み化
人に教える仕事では、逆のことが起きました。教えても、思いどおりにならない。そのたびに、「なぜか」を考えて、直す。直した内容を、動画、マニュアル、テンプレートにする。穴が出たら、また直す。
同じ質問に、その場で答えるのは、第1領域か、第3領域です。答えを動画にしておくのは、第2領域です。動画にした分だけ、次からの緊急な質問が、減ります。第2領域の仕事は、未来の第1領域を、減らす仕事です。この流れは、知識の呪いとは|意味と具体例に書きました。
5. 使い方の手順
- 書き出す:いま抱えている用事を、ぜんぶ、紙に書きます。
- 重要かどうかを、先に決める:緊急かどうかは、あとです。先に緊急度を見ると、ぜんぶ重要に見えます。
- 第2領域に、日時を入れる:「いつかやる」ではなく、「火曜の9時から1時間」と、予定表に書きます。日時のない第2領域は、実行されません。
- 第3領域は、まとめる:通知や返信は、時間を決めて、まとめて処理します。1人で仕事をしていて、任せる相手がいない場合は、「任せる」の代わりに「まとめる」「定型文にする」を使います。
- 第4領域は、責めない:休むことは、第4領域ではありません。回復は、重要です。やめるのは、「休んだ気もしないのに、時間だけ消えるもの」です。
5-1. 1週間の配分を、計算する
先週の仕事の時間を、4つに分けて、入れてください。第2領域の割合が出ます。正解の数字は、ありません。先月の自分とくらべるために、使ってください。
合計:—
第2領域の割合:—
いちばん時間を使っている領域:—
はじめに入っている数字は、計算のための仮の値です。私の実績では、ありません。
6. この表の限界
6-1. 「何が重要か」は、表は教えてくれない
表は、分ける道具です。重要かどうかを決める基準は、表の外にあります。目標が決まっていない人が使うと、ぜんぶが第1領域に入ります。先に決めるのは、「自分は、何に近づきたいのか」です。
6-2. 時間だけを見ると、まちがえる
第2領域に、時間を入れた。でも、その時間に、頭が動かない。これは、よく起きます。時間のほかに、集中力という資源があるからです。第2領域は、1日のうちで、いちばん頭が動く時間に、置きます。この考え方は、機会費用とは|意味と具体例に書きました。
6-3. 第1領域が多すぎる人は、表の前に、量を減らす
第1領域だけで、1日が埋まっている人は、分類しても、動かせる時間がありません。この場合は、受ける仕事の量を減らすか、値段を上げるか、断るか、です。表の問題ではなく、量の問題です。
7. まとめ
- アイゼンハワーマトリクスは、用事を「緊急」と「重要」の2軸で、4つに分ける表です。
- 4マスの形で広まったのは、『7つの習慣』の時間管理のマトリックスです。
- 人は、期限が近いというだけで、損なほうを選ぶことがあります(単なる緊急性効果)。
- 第2領域は、日時を入れないと、実行されません。
- 第2領域の仕事は、未来の第1領域を、減らす仕事です。
- 何が重要かは、表の外で、先に決めます。
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