作業興奮とは|意味と、どこまで本当か。エメットの法則との関係と、「やる気が出たら」で1年進まなかった私の直し方

作業興奮とは|意味と、どこまで本当か。エメットの法則との関係と、「やる気が出たら」で1年進まなかった私の直し方 心理学・バイアス

作業興奮は、「やる気がなくても、とにかく手をつけると、だんだん、やる気が出てくる」という現象です。やる気が出てから始めるのではなく、始めるから、やる気が出る。順番が、逆だ、という考え方です。

先に、正直に書いておきます。この言葉は、日本の自己啓発の本や記事で、とても広く使われています。ところが、「脳のこの部分が、こう働くから」という説明には、はっきりした出どころが、見つからないものが、多い。この記事では、どこまでが確かで、どこからがあやしいかを、先に分けます。

そのうえで、私の経験を書きます。私は、1年以上、教材を完成させられませんでした。「やる気が出たら、書こう」と思っているあいだは、1行も、進みませんでした。動いたのは、やる気が出たからでは、ありません。目の前に、直せるものが、できたからです。

1. 作業興奮とは

言葉のもとは、ドイツの精神科医、エミール・クレペリンです。クレペリンは、19世紀の終わりから20世紀のはじめにかけて、単純な足し算を、長い時間、続けさせる実験をしました。作業の量が、時間とともに、どう変わるかを、調べたのです。日本の採用試験で使われてきた、「内田クレペリン検査」の、もとになった研究です。

クレペリンは、作業の量を左右するものを、いくつかに分けました。つかれ。慣れ。練習の効果。そして、作業を始めてしばらくすると、調子が上がってくる働き。この最後のものが、日本で、「作業興奮」と呼ばれるようになりました。

1-1. 確かなことと、あやしいこと

内容 確かさ
手をつけると、続けやすくなる 多くの人が、経験している。行動を先に起こすと、気分があとからついてくる、という考え方は、心理療法(行動活性化)でも、使われている おおむね、確か
やりかけの作業は、気になる 途中でやめさせられた作業は、終えた作業よりも、よく覚えている(ツァイガルニク効果)。また、機会があれば、自分から再開しようとする(オヴシアンキナ効果)。1920年代の実験 実験がある。ただし、いつでも再現されるわけでは、ない
「脳の側坐核が、刺激されて、やる気の物質が出る」 日本の本や記事で、よく見る説明 この言い方を、直接、確かめた研究は、私は、見つけられなかった
「5分やれば、かならず、やる気が出る」 同じく、よく見る 「かならず」は、言いすぎ。出ない日も、ある

だから、この記事では、脳の話は、しません。「始めると、続けやすくなることが多い」。ここまでを、確かなこととして、使います。

1-2. 近い言葉との違い

言葉 中身
作業興奮 手をつけると、あとから、調子が上がってくる
エメットの法則 仕事を先のばしにすると、すぐにやるよりも、倍の時間とエネルギーがかかる。先のばしの大きな原因は、完璧主義である。アメリカの著述家、リタ・エメットが、本の中で、あげた
ツァイガルニク効果 終わっていない作業のほうが、終わった作業より、頭に残る
パーキンソンの法則 仕事は、使える時間いっぱいまで、膨らむ
フロー 作業に、深く入りこんで、時間を忘れる状態。作業興奮は、その入口に、あたる

1-3. エメットの法則|先のばしは、高くつく

エメットの法則は、作業興奮の、裏がわの話です。

先のばしにしているあいだ、その仕事は、消えていません。頭のすみで、ずっと、場所を取っています。「やらなければ」と思うたびに、少しずつ、気力を使います。いざ始めるときには、どこまでやったか、何が必要だったかを、思い出すところから、やりなおしです。だから、倍、かかります。

そして、エメットは、先のばしの大きな原因を、完璧主義だと書いています。完璧にやれないなら、始めたくない。始めなければ、失敗も、しない。この流れは、完璧主義の記事に書きました。

2. よくある例

  • 机の片づけを、1つだけ、のつもりで始めたら、部屋ぜんぶを、片づけていた
  • メールの返信を、3日、ためている。書けば、5分で終わる。3日間、ずっと、気になっている
  • 報告書を、「まとまった時間が取れたら」と、1週間、開いていない
  • 確定申告。毎年、しめきりの前の週に、やっている
  • ジムに行くまでが、いちばん、つらい。行ってしまえば、ふつうに、動ける

組織の中で多いのは、3つ目です。「まとまった時間」は、来ません。来たとしても、そのころには、何を書くつもりだったかを、忘れています。

3. 私の例①|「やる気が出たら書こう」で、1年、進まなかった

私は、物を仕入れて、直して売るやり方の教材を、メールで届く形で、作っています。いまは、72通です。この教材は、1年以上、形になりませんでした。

書く気は、ありました。ただ、机に向かうと、「構成が、まだ、固まっていない」と感じる。構成を考えはじめると、「もっと良い順番が、あるはずだ」と感じる。納得のいく構成ができたら、書きはじめよう。そう思っているあいだ、書いた量は、ほとんど、ゼロでした。

動いたのは、AIを使いはじめてからです。伝えたいことを、AIに話す。すると、あらい下書きが、出てきます。出来は、60点です。でも、目の前に、「直せるもの」が、あります。読むと、「ここは、ちがう」「この順番では、伝わらない」が、つぎつぎに、出てきます。気がつくと、何時間も、直していました。1か月で、72通が、できました。

私に起きたことは、「5分だけ、がんばって始めた」では、ありません。始めるときの、いちばん重い部分を、外に出しました。白紙に、最初の1行を書く。これが、私にとって、いちばん、重かった。そこをAIに任せると、あとは、作業興奮が、勝手に、働きました。作り方は、コンテンツの作り方に書きました。

4. 私の例②|やる気を待っていた2年間

古本の売り買いを、仕事の中心にしていたころ、2年ほど、調子をくずした時期があります。稼げていました。でも、楽しくありませんでした。朝、起き上がれない。梱包と発送が、おくれる。お客さんから、苦情が来る。それでも、やる気が、出ませんでした。やる気が出るのを、待っていました。2年、出ませんでした。

そのあと、私がやったのは、ジョギングとウォーキングを始めたことと、ジムに通って筋トレを始めたことです。少し良くなって、そのあと、直りました。順番としては、気分が変わる前に、先に、体を動かしはじめています。

ただ、これを、「作業興奮のおかげだ」と書く気は、ありません。なぜ効いたのかを、私は、説明できません。説明できないことを、根拠があるようには、書きません。私に、こう起きた、というだけです。くわしくは、20年一人で働いてきた話の記事に書いています。

起き上がれない、眠れない、食べられない、という状態が続いているなら、「とにかく、手をつければ、やる気が出る」で、どうにかしようと、しないでください。医師や、公的な相談の窓口に、相談してください。作業興奮は、元気な人が、腰の重い仕事を始めるための、工夫です。治療の代わりには、なりません。

5. 私の例③|始めたら、止まらなくなる側の問題

作業興奮には、裏の面も、あります。始めると、やめられなくなることです。

こわれた機械を直す仕事で、私は、これを、何度もやりました。原因が分からない。あと少しで、分かりそうな気がする。気がつくと、1台に、半日、使っています。その1台の利益は、数千円です。調子が上がっているので、時間の感覚が、なくなります。

だから、私は、先に、時間を決めています。手をつけて2時間で、原因が分からなければ、直すのをやめて、部品取りに回します。作業興奮は、始めるための、味方です。やめるときには、じゃまをします。始めるしくみと、やめるしくみを、セットで持っておきます。やめる条件の決め方は、コンコルド効果の記事と、パーキンソンの法則の記事に書きました。

6. 使い方|始めるときの重さを、先に、へらしておく

6-1. 最初の1歩を、ばかばかしいほど、小さくする

「報告書を書く」では、始められません。「ファイルを開いて、題名だけ、入れる」なら、始められます。始めてしまえば、たいてい、続きます。続かなかった日は、題名だけ入れて、閉じます。それでも、ゼロよりは、進んでいます。

6-2. 白紙を、なくす

私にとっては、これが、いちばん、効きました。文章なら、AIに、あらい下書きを書かせる。資料なら、前に作ったものを、コピーして開く。作業なら、道具を、前の日に、机に出しておく。「直す」は、「作る」より、ずっと、始めやすい作業です。

6-3. やりかけで、やめる

きりの良いところまで、終わらせない。文の途中、作業の途中で、その日は、やめます。次の日、続きが、気になっています。どこから始めるかも、決まっています。1章に書いた、「やりかけの作業は、気になる」という働きを、自分に向けて、使います。

6-4. 先のばしの値段を、計算する

5分で終わる返信を、3日、ためている。その3日間、何回、「返さなければ」と、思い出したでしょうか。10回なら、もう、5分より多くの時間と気力を、使っています。先のばしは、ただでは、ありません。先のばしで失うものの考え方は、機会費用の記事に書きました。

6-5. やめる時間も、先に、決める

始めるのが苦手な人は、たいてい、やめるのも、苦手です。タイマーをかけます。鳴ったら、やりかけで、やめます。6-3と、つながります。

6-6. それでも、始められない仕事

何をしても、手がつかない仕事が、あります。そのときは、やる気の問題ではなく、その仕事そのものに、問題があるのかもしれません。やる意味が、分かっていない。やっても、自分に何も返ってこない。やり方が、分からない。私のまわりで、毎日、文章を書くと決めたチームが、続かなかったのも、書いても、何も返ってこなかったからでした。リンゲルマン効果の記事に書きました。

まとめ

  • 作業興奮は、手をつけると、あとから調子が上がってくる現象。もとは、クレペリンの作業の研究
  • 「始めると、続けやすくなることが多い」までは、おおむね確か。脳の部位の説明や、「かならず」は、あやしい
  • エメットの法則は、その裏がわ。先のばしは、すぐやるより、倍かかる。原因の多くは、完璧主義
  • 私は、「やる気が出たら書こう」で、1年、進まなかった。動いたのは、AIの下書きで、白紙をなくしてから
  • 始めると、やめられなくなる面もある。始めるしくみと、やめるしくみを、セットで持つ
  • 起き上がれない、眠れない、が続いているなら、工夫ではなく、医師に相談する

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