シャドーワークは、「お金が出ないのに、やらないと回らない仕事」のことです。家事、通勤、セルフレジ。そして、副業の「利益」の計算から、いつも抜け落ちている作業時間も、これに入ります。
私は、ブランド品の転売を、週に50〜150点の規模で回していた時期があります。1点あたりの利益は、きちんと出ていました。それでも、やめました。理由の1つは、利益の計算に入っていない時間が、生活をぜんぶ埋めたからです。
この記事では、シャドーワークの3つの意味を先に整理して、そのあとで、具体例、私が実際に計った作業時間、時給に直す計算機、へらし方を書きます。
1. シャドーワークとは:3つの意味
この言葉は、使う人によって、意味がちがいます。先に、整理します。
| 意味 | だれの言葉か | 内容 |
|---|---|---|
| ① 賃金労働を支える、無償の労働 | 思想家イヴァン・イリイチ(1981年の著書) | 家事、通勤、買い物、子どもの宿題の手伝いなど。給料は出ないが、これがないと、給料の出る仕事が成り立たない。 |
| ② 会社から客へ、移された作業 | クレイグ・ランバート(2015年の著書) | セルフレジ、セルフ式のガソリンスタンド、ネットでの予約や手続き。以前は店員がやっていた作業を、客が無料でやっている。 |
| ③ 会社の中の、非公式な活動 | 日本の経営書での使い方 | 業務として指示されていない、自主的な調査、根回し、勉強会など。評価の表には、のらない。 |
このほかに、心理学の世界で、「自分の中の、見たくない部分(シャドー)と向き合う作業」を、シャドーワークと呼ぶことがあります。ユングの考え方から来た、別の言葉です。この記事では、扱いません。
①②③に共通しているのは、「だれの帳簿にも、のっていない労働」という点です。のっていないので、へらす対象にも、なりません。
2. 具体例
- 家の中:料理、洗濯、掃除、ごみの分別、献立を考えること、日用品の在庫を覚えておくこと。
- 客として:セルフレジ、飲食店のタブレット注文、宅配の再配達の手続き、サブスクの解約手続き、確定申告。
- 会社の中:会議室の予約、議事録、新人の世話、引き継ぎ資料、だれの担当でもない問い合わせへの返事。
- 個人で売る仕事:撮影、出品文、梱包、発送、問い合わせの返事、返品の対応、経理。
②の流れは、客にとって、悪いことばかりでは、ありません。待ち時間がへり、値段が下がることも、あります。問題は、その作業時間を、だれも数えていない、という点です。
3. 私が計った、転売のシャドーワーク
私は、2019年から2022年ごろ、ブランド品の転売を、自宅でやっていました。売れば、1点ごとに、利益が出ます。「仕入れ5,000円、売値1万円」という数字だけを見れば、かんたんな商売に見えます。
実際に、1点にかかっていた時間です。
| 作業 | 1点あたりの時間 | 利益の計算に入っていたか |
|---|---|---|
| 財布の引手の交換(部品代は200円ぐらい) | 10〜15分 | 部品代だけ、入っていた |
| 撮影 | 20分 | 入っていない |
| 出品 | 15分 | 入っていない |
| 梱包 | 10分 | 入っていない |
| (革の染め直しをする場合) | 2時間以上 | 原料代の200円ぐらいだけ、入っていた |
引手の交換だけの財布でも、修理から梱包まで、1点に1時間ほど、かかります。染め直しが入ると、3時間です。これが、週に50〜150点です。1人では、回りません。
そこで、人をやといました。社員に月35万円、アルバイトに時給2,000円です。人件費は、月に45〜50万円になりました。ここで、はじめて、シャドーワークに、値段がつきました。
値段がつくと、計算が変わります。人件費を引く前の利益は、月に80〜200万円でした。ここから、人件費と、自分の給与を引くと、多くの月で、逆ザヤです。「1点あたりの利益」は、ずっと、出ていました。出ていなかったのは、影の時間に、正しい値段をつけたあとの利益です。
もう1つ、帳簿にのらなかったものが、あります。作業場所は、自宅でした。在庫が、部屋を占領しました。倉庫を借りる見積もりは、月30〜50万円でした。つまり、自宅の部屋も、無料で働いていたことに、なります。
利益がふえるほど苦しくなった経過は、パーキンソンの法則の記事にも書きました。
3-1. 計算機:影の時間を入れた、本当の時給
1点の利益:—
1点にかかる時間の合計:—
時給に直すと:—
撮影20分、出品15分、梱包10分、修理15分は、私が計った数字です。送料、仕入れ・検品、問い合わせの時間は、計算のための仮の値です。手数料は、フリマアプリでよくある10%を入れています。「修理」を120分に変えると、染め直しをした場合の時給が出ます。収入を約束する数字では、ありません。
4. なぜ、シャドーワークは見えないのか
- お金が動かない:請求書も、給与明細も、出ません。数字にならないものは、管理の対象になりません。
- 1回が、短い:10分、15分の作業です。1回ずつ見ると、「これぐらい」と思えます。数がふえたときに、はじめて、問題になります。
- 「自分の時間は、ただ」と考えてしまう:自分でやれば、お金は出ていきません。でも、その時間で、できたはずのことを、失っています。この考え方は、機会費用とはに書きました。
- 緊急なので、先に片づく:梱包と発送は、期限があります。ですので、いつも、重要な仕事より先に、時間を取ります。この構造は、アイゼンハワーマトリクスとはに書きました。
5. へらし方
- 1週間、ぜんぶ計る:お金が出ない作業を、分単位で書き出します。計る前に、へらす方法を考えても、当たりません。
- 時給に直す:利益を、影の時間をふくめた合計の時間で、割ります。上の計算機が、これです。
- やめる、まとめる、型にする、の順で考える:まず、やらなくて済む作業を、さがします。次に、1日1回にまとめます。残ったものは、テンプレートにします。
- 人にたのむ前に、値段を計算する:人にたのむと、影の時間に、値段がつきます。その値段を引いても、利益が残るかを、先に計算します。私は、この順番を、逆にしました。
- 影の時間が少ない仕事を、えらぶ:1点売るたびに、同じ作業がくり返される仕事は、売上に比例して、影の時間がふえます。1回作れば、何回でも売れるものは、ふえません。
私は、5番目を理由に、在庫を持つ仕事から、はなれました。働けば働くほど、余暇がなくなる形だったからです。
6. この言葉の、注意点
シャドーワークを、ぜんぶ悪いもの、と決めるのは、まちがいです。家族のために作る食事を、「無償の労働」とだけ呼ぶと、大事なものが、抜け落ちます。イリイチの本も、家事をやめろ、とは書いていません。「見えない労働の上に、見える経済がのっている」という構造を、指摘した本です。
この言葉の使いどころは、1つです。「数えていなかった時間を、数える」。数えたうえで、つづけるか、へらすかは、自分で決めます。
7. まとめ
- シャドーワークは、お金が出ないのに、やらないと回らない仕事です。
- 意味は、3つあります。無償の労働(イリイチ)、客に移された作業(ランバート)、会社の中の非公式な活動です。
- 共通点は、「だれの帳簿にも、のっていない」ことです。
- 私の転売では、1点に、撮影20分、出品15分、梱包10分が、かかっていました。利益の計算には、入っていませんでした。
- 人をやとって、影の時間に値段がついたとき、多くの月で、逆ザヤになりました。
- へらす前に、計ります。利益は、影の時間をふくめた時給で、見ます。

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