ヴェブレン効果は、値段が高いこと自体が、その商品を欲しくさせる働きです。スノッブ効果は、ほかの人が持っていないものほど、欲しくなる働きです。どちらも、「安いほうが売れる」というふつうの理屈が通じない買いものを説明する言葉で、ブランド品の話でよく出てきます。
私は、ブランド品のバッグを仕入れて、修復して売る仕事をしていました。外注のスタッフ3人と、月に20個から60個。約2年です。その現場で、この2つの効果は、教科書の説明よりも、ずっとはっきり見えました。同じ「社外品の部品に交換しました」と書いても、値段が落ちるブランドと、落ちないブランドがあったからです。この記事では、効果の中身と、その違いがどこから来るのかを書きます。
1. ヴェブレン効果・スノッブ効果・バンドワゴン効果の違い
この3つは、経済学者のライベンシュタインが、1950年の論文でまとめて整理したものです。どれも、「ほかの人との関係」で欲しさが変わる、という点が共通しています。
| 効果 | 欲しくなる理由 | 身近な例 |
|---|---|---|
| ヴェブレン効果 | 高いから。高いものを持っていることを、人に見せられるから | ロゴが大きく入った高級バッグ、高級腕時計 |
| スノッブ効果 | ほかの人が持っていないから。みんなが持ちはじめると、欲しくなくなる | 限定品、知る人だけが分かるブランド |
| バンドワゴン効果 | みんなが持っているから。 | 流行りもの、行列のできる店 |
ヴェブレン効果の名前は、経済学者のソースティン・ヴェブレンから来ています。1899年の『有閑階級の理論』で、お金持ちが、自分の豊かさを人に見せるためにお金を使うことを、「見せびらかしの消費」と呼びました。バンドワゴン効果については、社会的証明とはに、同じ形の話を書いています。
2. 修復の現場で見た、値段が落ちるブランドと、落ちないブランド
ブランド品のバッグを修復するとき、困るのは、持ち手や金具などの部品です。正規の部品は、ふつう、手に入りません。社外品、つまり、そのブランドが作ったものではない部品に交換することになります。交換したことは、商品の説明に、はっきり書いて売っていました。
おもしろいのは、ここからです。
| 社外品の部品に交換して売ったとき | |
|---|---|
| ボッテガ・ヴェネタ、プラダ | 「社外品に交換済み」と書いても、値段は落ちずに売れていった |
| ルイ・ヴィトン、グッチのうち、ロゴを全面に押し出した商品 | 値段が落ちた |
どちらも高級ブランドです。違うのは、買う人が、その商品に何を求めているかです。
ロゴを全面に押し出した商品を買う人は、それを、人に見せたくて買っています。これが私の見立てです。見せたいのは、「本物の、そのブランドのものを持っている」ということです。だから、一部でも本物でない部品が入ると、買う理由そのものが欠けます。1章の言葉で言えば、ヴェブレン効果で買われている商品です。
ボッテガやプラダの、ロゴに頼らない商品を買う人は、見せるためというより、形や、革や、使い心地で選んでいます。部品の一部が社外品でも、欲しかったものは、欠けていません。
修復して売る人への、実際的な結論はこうです。仕入れる前に、その商品が「見せるために買われるもの」か、「使うために買われるもの」かを見る。前者は、完全な状態に戻せないなら、手を出さないほうが安全です。後者は、社外品で直しても、利益が残ります。ブランドの名前ではなく、同じブランドの中でも、商品ごとに分かれます。
3. 値上げが、値上げを呼ぶ|シャネルの場合
ヴェブレン効果を、もう1つ、別の形で見ました。
高級ブランドの値段は、世の中の物価と一緒に、上がり続けています。その中で、シャネルだけが、異常な速さで値上がりしていました。新品の定価が上がると、中古の相場も、引っぱられて上がります。速いときは、週の単位で、相場が変わりました。
これをうまく使うと、相場を自分で塗りかえることができました。それまでの相場より高い値段で出して、それが売れると、その値段が次の相場になります。上がっていく流れに、乗ることができました。
値段が上がっても、欲しい人が減らない。むしろ、「また上がる前に」と、買う人が動く。ヴェブレン効果と、希少性の原理が、同時に働いている場面でした。
ただし、限界がある
この話を、「だから高級ブランドは、買っておけば上がる」と読まないでください。私が見た限界を、書いておきます。
- 値上がりには、天井があります。物価と一緒に上がるといっても、買う人の財布が、同じ速さでふくらむわけではありません
- ヤフオクやメルカリで買ってくれるのは、おもに日本の人です。日本の買い手がついてこられない値段になれば、そこで止まります
- 海外の買い手を取りこむのは、むずかしい。海外からの代理購入のサービス経由でも買ってはもらえますが、海外の需要だけをねらって商売を組むことは、国内の売り場ではできません。やるなら、海外向けに自分のサイトを作って、海外の検索で見つけてもらうところから、始めることになります
私自身は、この事業から、すでに撤退しています。仕入れの経路と、撤退を決めた計算はブランド品の仕入れルートに書きました。
4. 売る側として、この2つの効果をどう扱っているか
いまの私は、講座と、個別の指導を売っています。値段は、29,800円と、98万円です。
98万円という値段は、ヴェブレン効果をねらってつけたものではありません。自分が使える時間と、必要な金額から、逆算した数字です。理由は個人コンサルの始め方に書きました。「高いほうが、価値があるように見える」という話は、この業界でよく聞きます。それは本当だと思います。ただ、高く見せるためにつけた値段は、中身がついてこなければ、返金とクレームになって戻ってきます。
スノッブ効果のほうは、結果として、働いているかもしれません。個別の指導は、月に2人までで、面談を通った人にしか売りません。だれでも買えるものではない、という形に、なっています。ただ、これも、演出ではなく、私がひとりで見られる人数の限界です。
5. 受け取る側のときに、気をつけること
- 「高いから良いはずだ」と感じたら、値段を隠して考える。同じ中身が半額だったら、自分はこれを選ぶか
- 「自分だけが知っている」「選ばれた人だけ」と言われたら、同じ言葉を、何人が言われているかを考える。
- 人に見せるために買うものと、使うために買うものを、自分の中で分ける。どちらが悪いということではありません。ただ、見せるために買ったものは、2章のとおり、少しの傷で値段が大きく落ちます
6. まとめ
- ヴェブレン効果は、高いこと自体が欲しさになる働き。スノッブ効果は、ほかの人が持っていないことが欲しさになる働き。バンドワゴン効果は、その逆
- 修復の現場では、ボッテガやプラダは、社外品の部品に交換しても値段が落ちなかった。ヴィトンやグッチの、ロゴを全面に押し出した商品は落ちた。見せるために買われる商品は、本物でない部分があると、買う理由が欠ける
- シャネルは、定価の値上げが速く、中古の相場が週の単位で動いた。高い値付けで相場を塗りかえ、上昇に乗れた
- ただし、値上がりには天井がある。国内の売り場の買い手は、おもに日本の人。海外の需要だけをねらうなら、海外向けのサイトから作る必要がある
- 高く見せるための値段は、中身がついてこなければ、あとで返ってくる

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