限界利益は、売上から、変動費を引いた残りです。変動費は、1つ売るたびに、かならず出ていく費用のことです。仕入れ値、販売手数料、送料。つまり限界利益は、「もう1つ売れたら、手もとにいくら増えるか」を表す数字です。
限界利益 = 売上 − 変動費
私は、中古品を仕入れて、直して売る現場を、20年ほどやって、降りました。理由はいくつもありますが、その1つが、「限界利益が浅い」ことです。率が低い、という意味ではありません。率は、悪くありませんでした。それでも、浅かった。
この記事では、言葉の意味を説明したあとで、私が扱っていたブランド品の実際の数字で、計算します。計算機も置きました。
1. 限界利益とは
費用を、2つに分けます。
| 種類 | 中身 | 中古品の販売でいうと |
|---|---|---|
| 変動費 | 売った数に比例して、増える費用 | 仕入れ値、販売手数料、送料、部品代、梱包材 |
| 固定費 | 1つも売れなくても、毎月出ていく費用 | 人件費、家賃や倉庫代、ツールの月額料金、古物市場の会費 |
売上から変動費だけを引いたものが、限界利益です。この限界利益を積み上げて、まず固定費を埋めます。埋めきったあとに残ったものが、本当の利益です。
似た言葉と、くらべます。
| 言葉 | 式 | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 限界利益 | 売上 − 変動費 | もう1つ売れたら、いくら増えるか |
| 限界利益率 | 限界利益 ÷ 売上 | 売上のうち、固定費の穴埋めと利益に回せる割合 |
| 粗利(売上総利益) | 売上 − 売上原価 | 決算書に出てくる数字。販売手数料や送料は、ふつう、ここでは引かれていない |
| 営業利益 | 売上 − すべての費用 | 本業で、最終的にいくら残ったか |
物を売る仕事で、「仕入れ値と売値の差」だけを見ていると、粗利を見ていることになります。手数料と送料を引く前の数字です。判断に使うなら、限界利益のほうです。
2. 私が扱っていたブランド品の、実際の数字
2019年から2022年ごろ、私は、ブランド品の財布やバッグを古物市場とヤフオクで仕入れて、直して、メルカリとヤフオクで売っていました。ブランドごとの、だいたいの仕入れ値と売値です。
| ブランド | 仕入れ値 | 売値 | 売値と仕入れ値の差 |
|---|---|---|---|
| ボッテガ・ヴェネタ | 3,000〜5,000円 | 1万円前後 | 5,000〜7,000円 |
| プラダ | 5,000円前後 | 1万円前後 | 5,000円前後 |
| ルイ・ヴィトン | 1万〜5万円 | 2万〜8万円 | 1万〜3万円 |
| シャネル | 5万〜30万円 | 10万〜50万円 | 5万〜20万円 |
1万円前後で売っていたボッテガとプラダは、財布です。ヴィトンとシャネルは、バッグが中心でした。
右はしの「差」は、まだ限界利益ではありません。ここから、販売手数料(メルカリもヤフオクも、売値の10%)、送料、部品代を引いたものが、限界利益です。
1万円で売るボッテガの財布で、計算してみます。直す内容は、引手の交換です。仕入れ値は4,000円。手数料は、売値の10%で1,000円。交換する引手の部品代は、200円ほど。ここまでは、実際の数字です。送料を500円と置くと、限界利益は4,300円、限界利益率は43%になります。送料だけは、計算のために置いた仮の数字です。送り先の地域と、送り方によって変わります。
3. 計算機
自分の数字で、計算できます。いちばん下の固定費には、私の当時の人件費(月に45万〜50万円)のまん中の、47万5,000円を入れてあります。
限界利益の計算機(はじめに入っている数字は、1万円で売る財布の、引手(ファスナーのつまみ)を交換した例です。自分の数字に書きかえてください)
売値(円)
仕入れ値(円)
販売手数料(%)
送料(円)
部品代・梱包材など、1点ごとにかかるその他の費用(円)
1点にかかる作業時間(直す・撮影・出品・梱包の合計。分)
毎月かならず出ていく固定費(円)
はじめの数字のまま計算すると、こうなります。1点の限界利益は4,300円。人件費を埋めるだけで、月に111点。引手の交換そのものは、ゆっくりやっても1点10分から15分です。ただ、売るための作業が、別にあります。撮影に20分。出品に15分。梱包に10分。合わせると、1点に1時間。月に111点なら、111時間です。ここまでやって、ようやく、利益はゼロです。
4. 限界利益の式には、自分の時間が入っていない
ここで、同じ財布の仕事でも、直す内容がちがうと、どうなるかを書きます。
| 直す内容 | 材料費(1点あたり) | 作業時間(1点あたり) |
|---|---|---|
| 引手の交換 | 200円ほど | 10〜15分 |
| 染め直し | 200円ほど(1回に使う染料の量) | 2時間以上 |
材料費は、どちらも200円ほどです。つまり、同じ値段で売れるなら、限界利益は、同じになります。式の上では、区別がつきません。
ところが、直す時間は、8倍以上ちがいます。
| 引手の交換 | 染め直し | |
|---|---|---|
| 直す | 15分 | 120分以上 |
| 撮影 | 20分 | 20分 |
| 出品 | 15分 | 15分 |
| 梱包 | 10分 | 10分 |
| 合計 | 60分 | 165分以上 |
| 限界利益が同じ4,300円だとしたときの、1時間あたり | 4,300円 | 1,560円ほど |
この表で、分かることが2つあります。
1つは、引手の交換では、直す時間より、売るための時間のほうが長いことです。60分のうち、直しているのは15分。残りの45分は、撮影と、出品と、梱包です。直す腕を上げても、この45分は、ちぢみません。
もう1つは、染め直しを選んだとたんに、1時間あたりの数字が、3分の1近くまで落ちることです。
染め直しは、本当に大変でした。ねらった色が作れない。調整に時間がかかる。エアスプレーがないと、仕上がりません。専門の工房を作らないかぎり、数をこなすのは無理だと思います。
限界利益は、1点売れたときに増えるお金を教えてくれます。その1点に、自分の時間をどれだけ使ったかは、教えてくれません。計算機に「作業1時間あたりの限界利益」を入れたのは、このためです。ひとりで仕事をしている人は、こちらの数字まで見ないと、判断をまちがえます。この考え方は、機会費用の記事で、くわしく書きました。
5. 「限界利益が浅い」とは、どういうことか
限界利益率43%は、物を売る仕事としては、悪い数字ではありません。それでも私が「浅い」と感じた理由は、3つあります。
1つ目。1点ごとに、自分の手が要る。仕入れる。直す。写真を撮る。出品する。梱包して、送る。限界利益は、1点売れるたびに、1回しか入りません。そして、1点ごとに、同じ作業をくり返します。入ってくるお金の上限は、手を動かせる時間で、決まってしまいます。
2つ目。人を増やすと、固定費が増える。時間の上限をこえるために、人を雇いました。人件費は、月に45万円から50万円。これは、1つも売れない月でも出ていく、固定費です。1点の限界利益が4,300円なら、月に111点を売って、はじめて人件費が消えます。私の給与は、その先です。
3つ目。単価を上げると、今度は、お金が寝る。シャネルなら、1点の限界利益は、数万円から十数万円になります。同じ固定費を、月に数点で埋められます。そのかわり、仕入れに、1点で5万円から30万円が出ていきます。当時、仕入れに使っていたお金は、月に600万円以上でした。売れるまでのあいだ、そのお金は、在庫の形で止まっています。
人件費を引く前の利益は、月に80万円から200万円ありました。それでも、人件費と、自分の給与として取りたかった100万円を引くと、ならして逆ザヤでした。このあたりの経緯は、パーキンソンの法則の記事に書きました。仕入れ先と当時の体制は、ブランド品の仕入れルートにあります。
まとめると、こうです。限界利益の「率」は足りていた。足りなかったのは、1点あたりの「額」と、それを積める「回数」でした。率だけを見ていると、ここを見落とします。
6. 限界利益で、判断できること
6-1. 値下げして売るか、持ち続けるか
仕入れ値は、もう払ってしまったお金です。売れ残った商品を値下げするかどうかは、「いまの値段で売ったら、手数料と送料を引いて、いくら手もとにもどるか」だけで決めます。もどるお金がプラスなら、赤字でも、売ったほうが次の仕入れに回せます。考え方は、せどりの損切りと、コンコルド効果の記事に書きました。
6-2. 何を扱うか
限界利益率が同じ40%でも、1万円の商品なら4,000円、10万円の商品なら4万円です。かかる手間がほとんど同じなら、1時間あたりの限界利益は、10倍ちがいます。計算機の「作業1時間あたりの限界利益」は、そのための数字です。直して売る仕事の時給については、修理転売は儲からないのかでも計算しています。
6-3. 人を雇うか、場所を借りるか
固定費を増やす前に、「増える固定費 ÷ 1点の限界利益」を計算します。出てきた数が、毎月、よけいに売らなければならない点数です。私は、倉庫を借りる見積もり(月に30万〜50万円以上)を見て、この割り算をして、借りるのをやめました。固定費の側から見た計算は、損益分岐点の記事に書きました。1点4,300円なら、倉庫代だけで、月に70点から117点です。
7. 売上と利益のちがいを、もう一度
「月商100万円」という言い方は、この業界でよく見かけます。月商は、売上です。限界利益率が43%なら、限界利益は43万円。そこから固定費を引いたものが、利益です。固定費が43万円をこえていれば、月商100万円で、赤字です。月商と月利のちがいは、月商と月利の違いに、くわしく書きました。利益率と回転の実測は、せどりの利益率と回転率にあります。
8. まとめ
- 限界利益は、売上から変動費(仕入れ値、販売手数料、送料、部品代など)を引いた残り。「もう1つ売れたら、いくら増えるか」の数字
- 仕入れ値と売値の差は、粗利であって、限界利益ではない。手数料と送料を引く
- 私が扱っていたブランド品は、1万円前後で売るボッテガやプラダの財布で、限界利益は1点あたり4,000円台。月に45万〜50万円の人件費を埋めるだけで、月に110点以上が必要だった
- 限界利益の式には、自分の時間が入っていない。材料費が同じ200円でも、引手の交換は10〜15分、染め直しは2時間以上。撮影・出品・梱包の45分を足すと、1点に60分と165分以上。1時間あたりの限界利益は、4,300円と1,560円ほどになる
- 「限界利益が浅い」とは、率が低いことではない。1点あたりの額が小さく、積める回数が、自分の時間で頭打ちになること
- 単価を上げれば額は大きくなるが、今度は仕入れのお金が在庫の形で寝る
- 値下げの判断、扱う商品の選び方、人や場所を増やす判断は、どれも限界利益の割り算でできる
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