せどりを続けていると、どこかで必ずこの状態に入ります。売上は伸びている。利益も出ているはずだ。それなのに、口座の残高が増えない。むしろ減っている。
結論を先に書きます。これは異常ではありません。売上が伸びている月ほど、現金は先に減ります。月商と月利の違いを言葉として知っているかどうかではなく、この現象の仕組みを知っているかどうかで、事業が続くかどうかが決まります。
この記事では、月商と月利の定義を1分で終わらせたあと、残りの大部分を「売れているのに現金がない」の解剖に使います。私は中古品の仕入れと販売、ブランド品のリペア販売を20年近く続けてきました。その過程で、利益率を上げるより先にやるべきことがあると気づくまでに、かなりの時間を使っています。
月商と月利の違いは、1分で終わる話です
月商は通過した金額、月利は残った金額
月商とは、1か月間に売れた金額の合計です。10万円で仕入れた商品を15万円で売れば、月商は15万円です。通帳を通過した金額、と考えると分かりやすいと思います。
月利とは、その月商から仕入代金と経費をすべて引いたあとに残った金額です。先ほどの例なら、仕入10万円のほかに販売手数料1万5,000円と送料1,000円がかかっていれば、残るのは3万4,000円です。これが月利です。
つまり両者は、同じ取引を「入口で見るか、出口で見るか」の違いでしかありません。月商は事業の大きさを示し、月利は事業の成果を示します。
ただし、この記事でいちばん持ち帰っていただきたいのは、定義ではありません。月商という言葉の読み替えです。
月商とは、その月に「いくら拘束したか」の別名です。
月商100万円というのは、100万円が入ってきたという意味ではありません。その月に47万円を先に払い、回収まで数十日待った、という意味です。
| 月商という言葉の、2つの読み方 | 何が見えるか |
|---|---|
| 売れた金額の合計 | 事業の大きさ |
| その月に拘束した金額と、拘束した日数 | その大きさを維持するのに、いくら要るか |
月商は、成果の指標ではありません。拘束の指標です。
この読み替えができると、この先の話は全部同じ形に見えます。売上が増えるほど現金が減るのも、在庫が寝ると資金が詰まるのも、月商が一定額を超えると税の扱いが変わるのも、すべて「拘束が増えたから」で説明がつきます。
そして、拘束には2つの軸があります。金額と、日数です。この記事の後半は、その2つを測る話だけをします。
「月利」という言葉には、金額と利回りの2つの意味がある
検索していて話が噛み合わないと感じたら、この点を疑ってください。「月利」には2つの使われ方があります。
- 金額としての月利:その月に残った利益額。せどりや物販の文脈ではほぼこちらです。「月利30万円」のような使い方をします。
- 率としての月利:投下した資金に対して1か月で何パーセント増えたか。金融や融資の文脈ではこちらです。「月利3%」のような使い方をします。
「月利100%」という表現が出てきたら、それは後者です。50万円の資金を1か月回して50万円の利益を作った、という意味になります。理屈の上では、原価1万円の商品を2万円で1か月以内に売り切れば成立します。ただし、それを事業規模で継続できるかは別問題です。仕入れられる数量には上限があり、高利幅の商品ほど買い手が現れるまでの時間が読めないからです。
月利は税引前の数字なので、そのまま生活費には使えない
ここを取り違えると資金計画が崩れます。月利30万円は、30万円を自由に使えるという意味ではありません。この段階ではまだ、所得税・住民税・国民健康保険料などが引かれていません。事業として継続するなら、ここからさらに翌月の仕入資金も確保する必要があります。
私は、月利のうちいくらを税金分として別口座に置くかを先に決めています。金額の水準は所得や控除の状況で変わるので一律には言えませんが、「月利=手取り」ではないという前提だけは最初に持っておいてください。
SNSの「月利50万」は、どこまで引いた数字か確認する
同じ「月利50万円」でも、中身が別物であることがあります。確認すべきは3点です。
- 販売手数料と送料が引かれているか。これを引く前と後では、20%前後の差が出ます。
- 滞留在庫が原価のまま残っていないか。売れた分だけで計算し、売れ残りを無視すれば、月利はいくらでも良く見えます。
- 資材費・交通費・ツール代・外注費が入っているか。実務では、ここが月に数万円単位で発生します。
3つすべてを引いた数字なのかどうかで、同じ表記でも実態は倍近く変わります。他人の数字を基準にする前に、この確認をしてください。
本題は「売れているのに現金がない」の方です
月商100万円のとき、何がいくら引かれているか
私の実績では、経費を引いたあとの利益率はおおむね30%前後で推移してきました。これを月商100万円に当てはめると、内訳はおおよそ次のようになります。
※以下は私の利益率実績をもとにしたモデル試算です。商材・販路・カテゴリによって手数料率と送料は変わるため、実額は前後します。
| 項目 | うまく回った月 | 滞留が出た月 |
|---|---|---|
| 売上(月商) | 1,000,000円 | 1,000,000円 |
| 仕入原価 | ▲470,000円 | ▲550,000円 |
| 販売手数料 | ▲100,000円 | ▲100,000円 |
| 送料 | ▲60,000円 | ▲60,000円 |
| リペア・資材費 | ▲40,000円 | ▲40,000円 |
| その他経費 | ▲30,000円 | ▲30,000円 |
| 月利 | 300,000円(30%) | 220,000円(22%) |
右列は、値下げして売り切った商品が混ざった月です。仕入原価だけが8万円増えています。売上も手数料も送料も同じなのに、月利は8万円落ちる。値下げの影響は、この形で数字に出ます。
ここまでは、まだ普通の損益計算です。問題はこの先にあります。
売上が増えるほど、現金は先に減る
月商100万円を月商200万円にするとします。利益率が同じなら月利は60万円になります。良い話に見えます。
しかし、月商200万円を作るには、仕入原価も約94万円必要です。前月より47万円多く先払いすることになります。そして、その47万円が売上として戻ってくるのは、商品が売れて入金されたあと、つまり数週間から数か月先です。
結果として何が起きるか。月利は60万円出ているのに、口座の現金は前月より減ります。増えた利益より、増えた仕入の方が先に出ていくからです。
これは会計の世界で増加運転資本と呼ばれる現象で、成長している事業なら必ず起きます。伸びていること自体が現金を吸い上げる。だから「売れているのに金がない」は、失敗のサインではなく、成長のサインであることが少なくありません。
危険なのは、この現象を知らないまま「利益が出ているのに残らないのは経費の使い方が悪いからだ」と誤診し、経費削減に走ってしまうことです。原因が違うので、いくら削っても解決しません。
手元に残るかどうかは、利益率ではなく日数で決まります
仕入れた1円が現金に戻るまでの、3つの日数
ここが、この記事で一番お伝えしたい部分です。せどりの資金繰りは、次の3つの日数だけで説明がつきます。
- ①在庫保有日数:仕入れてから売れるまでの日数
- ②入金待ち日数:売れてから売上金が口座に着金するまでの日数。プラットフォームによりますが、おおむね2週間前後が目安になります。
- ③カード支払サイト:仕入れてからカードの引落しが実行されるまでの日数
クレジットカードで仕入れている場合、①と②を足した日数が、③より短ければ現金は回ります。売上金が入ってから引落しが来るからです。逆に長ければ、その差の分だけ自己資金で立て替えることになります。
危険水域は、1本の引き算で判別できる
判別式はこれだけです。
在庫保有日数 + 入金待ち日数 - カード支払サイト = 自己資金で埋める日数
入金待ちを14日、カード支払サイトを45日として当てはめると、こうなります。
| 在庫保有日数 | 計算 | 自己資金で埋める日数 |
|---|---|---|
| 14日 | 14+14-45 | ▲17日(不要) |
| 30日 | 30+14-45 | ▲1日(ほぼ不要) |
| 45日 | 45+14-45 | 14日分 |
| 90日 | 90+14-45 | 59日分 |
| 120日 | 120+14-45 | 89日分 |
月商100万円・仕入原価47万円なら、1日あたりの仕入は約1万5,700円です。在庫保有90日なら、59日分=約93万円を自己資金で持っていないと回りません。同じ利益率、同じ月商でも、在庫が90日寝るか14日で抜けるかで、必要な自己資金は100万円近く変わります。
逆から引くと、目標が具体的な金額になります
ここまでは「月商100万円ならどうなるか」でした。逆から引きます。
欲しい月利が先にあって、そこから必要な月商と、必要な自己資金を出します。
前掲の私の実績(利益率30%前後、仕入原価は月商の47%前後)をそのまま当てはめます。数字は前掲のモデル試算と同じ前提なので、自分の利益率が違う場合は入れ替えてください。
| 欲しい月利 | 必要な月商 | 月の仕入 | 1日あたりの仕入 |
|---|---|---|---|
| 10万円 | 約33万円 | 約16万円 | 約5,200円 |
| 20万円 | 約67万円 | 約31万円 | 約10,400円 |
| 30万円 | 100万円 | 47万円 | 約15,700円 |
| 50万円 | 約167万円 | 約78万円 | 約26,100円 |
ここまでは、どの解説にも書いてあります。必要な月商が出ただけです。
知りたいのは、その月商を回すのに、自分の口座にいくら要るかのほうです。
それを出すには、先に引き算の3つの数字を確定させる必要があります。
引き算の3つの数字は、どれも定数ではありません
先ほどの引き算を、もう一度見てください。
在庫保有日数 + 入金待ち日数 - カード支払サイト = 自己資金で埋める日数
私は入金待ちを14日、カード支払サイトを45日として計算しました。これは目安であって、あなたの数字ではありません。3つとも動きます。そして、3つとも自分で動かせます。
| 変数 | 動かす方向 | どうやって |
|---|---|---|
| ① 在庫保有日数 | 縮める | 回転の速い商材を選ぶ。値下げのルールを決めて機械的に切る |
| ② 入金待ち日数 | 縮める | 販路によっては、手数料を払って入金を早める仕組みがあります |
| ③ カード支払サイト | 伸ばす | 締め日の違うカードを使い分ける(後述します) |
この記事は、これまで①と③しか書いていませんでした。②が抜けていました。
②は、伸びることもあります
そして、②は自分の意思と関係なく伸びることがあります。ここが実務でいちばん効きます。
| ②が伸びる場面 | 起きること |
|---|---|
| 売上が急に増えたとき | 販路によっては、売上金の一部が一定期間留保されることがあります |
| アカウントを開設して間もないとき | 同上。取引実績が少ない段階ほど、条件が厳しくなる傾向があります |
| 返品や問い合わせが増えたとき | 個別に保留がかかる場合があります |
売上を伸ばした結果として、入金待ち日数が伸びる。この順番が起こり得ます。
これは、この記事の前半で書いた増加運転資本と同じ方向に効きます。伸びている月ほど仕入が先に出ていくのに、そのうえ入金まで遠くなる。2つが重なると、判別式の右辺は一気に増えます。
| 在庫60日・入金待ち14日の場合 | 在庫60日・入金待ち30日になった場合 |
|---|---|
| 60+14-45 = 29日分 | 60+30-45 = 45日分 |
在庫の管理は何も変えていないのに、必要な自己資金が1.5倍以上になります。
だから、②を「14日くらいだろう」で置いたまま計画を立てないでください。
3つとも、管理画面で実測できます
具体的な日数や手数料は、販路ごとに違いますし、変わります。だからこの記事には書きません。書いても、読んだ時点で古くなっている可能性があるからです。
代わりに、測り方を書きます。
| 測るもの | どこを見るか |
|---|---|
| ① 在庫保有日数 | 5列のシートの「実売日 - 仕入日」。直近30件の平均でかまいません |
| ② 入金待ち日数 | 同じシートの「入金日 - 実売日」。留保がかかっている月は、ここが伸びて出ます |
| ③ カード支払サイト | カードの締め日と支払日。使っている枚数ぶん、全部書き出してください |
②は、規約を読まなくても、自分の入金履歴に出ています。
他人が書いた「入金は◯日後」という説明を使わないでください。自分の口座に、自分の数字が残っています。
同じ月利でも、必要な自己資金は0円から230万円まで動きます
前の引き算を、この逆算に掛け合わせます。入金待ち14日、カード支払サイト45日として計算しました。
| 欲しい月利 | 在庫30日 | 在庫60日 | 在庫90日 | 在庫120日 |
|---|---|---|---|---|
| 10万円 | 不要 | 約15万円 | 約31万円 | 約46万円 |
| 20万円 | 不要 | 約30万円 | 約62万円 | 約93万円 |
| 30万円 | 不要 | 約45万円 | 約92万円 | 約139万円 |
| 50万円 | 不要 | 約76万円 | 約154万円 | 約232万円 |
横に読んでください。同じ月利なのに、在庫日数だけで必要な自己資金が変わります。
そして、いちばん左の列を見てください。在庫30日で回れば、月利50万円でも自己資金は要りません。カードの引落しより先に売上金が入るからです。
| 読み取れること |
|---|
| 資金が足りないのは、目標が高すぎるからとは限りません |
| 同じ目標でも、在庫が寝ているかどうかで必要額が決まります |
| だから、資金を増やすか、日数を縮めるか、どちらでも同じ効果があります |
この表は、そのまま自分の目標に置き換えられます。やることは2つだけです。欲しい月利を決めて、自分の在庫が何日で抜けているかを測る。その交点が、用意すべき金額です。
利益率を1ポイント上げる努力より、在庫保有日数を30日縮める方が、資金繰りに対する効果ははるかに大きい。これが、利益率を追いかけていた頃の私が理解していなかったことです。
90日は損切り候補、ただし何日耐えられるかは資金力で決まる
一般論として、仕入れてから90日売れなければ損切り候補と考えて差し支えありません。ただしこれは絶対的な基準ではなく、どれだけの期間持ちこたえられるかは、その人の資金量に完全に依存します。
資金に余力があるなら、1年ホールドしても事業は死にません。むしろ、値崩れしにくい商材であれば待った方が利益は残ります。逆に、資金が薄い状態で90日を超える在庫を抱えると、次の仕入れができなくなり、事業そのものが止まります。
つまり「何日で切るか」は商材の性質で決まるのではなく、自分の運転資金がいま何日分あるかで決まります。先ほどの引き算をして、自分が何日分の在庫を抱えられるかを先に出してください。その日数が、あなたの損切りラインです。
私が2週間で回していた頃の実態
私は長く、仕入れから2週間以内の売却を目標にしてきました。理由は単純で、この日数なら自己資金がほとんど要らないからです。カードの引落しが来る前に売上金が入るので、資金が詰まりません。
ただし、これは専業だからできたことだと申し上げておきます。当時は毎日20個から50個の発送をしていました。梱包、伝票、出品、価格調整で1日が終わる日も珍しくありません。副業で同じ回転を目指すと、まず作業量で破綻します。
副業として取り組むなら、回転日数を延ばす前提で、その分の運転資金を先に用意しておく設計にした方が現実的です。回転を上げるか、資金を厚くするか。どちらかを選ばないと、必ずどこかで止まります。
利益率の計算を狂わせる、3つの罠
罠1:売価基準と原価基準で、同じ商品の利益率は2倍変わる
1万円で仕入れて2万円で売った商品があるとします。利益は1万円です。
- 仕入値を分母にすると、1万円 ÷ 1万円 = 100%
- 売価を分母にすると、1万円 ÷ 2万円 = 50%
どちらも間違いではありませんが、混ぜて使うと事業の実態が見えなくなります。仕入判断のときは仕入値基準、事業全体の評価をするときは売価基準、というように用途を固定してください。私は事業全体の管理には売価基準を使っています。前掲の内訳表もすべて売価基準です。
罠2:手数料と送料を引き忘れると、10ポイント以上ずれる
同じ商品で、手数料10%・送料750円を実際に引いてみます。
20,000円 - 10,000円(仕入)- 2,000円(手数料)- 750円(送料)= 7,250円
- 手数料・送料を無視した場合の利益率(売価基準):50%
- 手数料・送料を引いた場合の利益率(売価基準):36.25%
13.75ポイントの差です。「利益率50%だと思って仕入れたら、実際は36%だった」という状況が、日常的に起こります。これが100点分積み上がると、月利は数十万円単位でずれます。
なお販売手数料の料率はカテゴリやプラットフォームによって変わるため、実際の誤差はこれより大きくなることも小さくなることもあります。仕入判断の時点で、自分が使う販路の料率を当てはめて計算してください。
罠3:滞留在庫は、帳簿を黒字に見せてしまう
売れていない在庫は、会計上は資産として計上されます。1万円で仕入れた商品が3年売れなくても、帳簿の上では1万円の資産です。経費になっていないので、その分だけ利益が大きく見えます。
これは感覚の話ではなく、条文がそう書いています。
所得税法 第37条第1項(必要経費)
「…必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額…とする。」
| 思い込み | 条文 |
|---|---|
| その年に仕入れた金額が経費になる | 経費になるのは「総収入金額に係る売上原価」です |
| — | つまり、売れた分だけです |
売れ残った分は、年末に棚卸資産として評価されます。
所得税法 第47条第1項
「…その算定の基礎となるその年十二月三十一日…において有する棚卸資産…の価額は、棚卸資産の取得価額の平均額をもつて…評価した金額とする。」
買った瞬間には経費になりません。売れた瞬間に経費になります。
| その年にやったこと | 現金 | 帳簿の利益 |
|---|---|---|
| 仕入れて、売れた | 戻ってきます | 売れた分の利益が出ます |
| 仕入れて、売れ残った | 出たままです | 経費になっていないので、下がりません |
現金が減っているのに、税金は減らない。この状態が起こり得ます。
滞留在庫の評価を下げられる場合もありますが、要件があります。個別の判断は税理士か税務署に確認してください。この記事で確実に言えるのは、「売れていない在庫は、その年の経費になっていない」ということだけです。
これは感覚の話ではなく、条文がそう書いています。
所得税法 第37条第1項(必要経費)
「…必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額…とする。」
| 思い込み | 条文 |
|---|---|
| その年に仕入れた金額が経費になる | 経費になるのは「総収入金額に係る売上原価」です |
| — | つまり、売れた分だけです |
売れ残った分は、年末に棚卸資産として評価されます。
所得税法 第47条第1項
「…その算定の基礎となるその年十二月三十一日…において有する棚卸資産…の価額は、棚卸資産の取得価額の平均額をもつて…評価した金額とする。」
買った瞬間には経費になりません。売れた瞬間に経費になります。
| その年にやったこと | 現金 | 帳簿の利益 |
|---|---|---|
| 仕入れて、売れた | 戻ってきます | 売れた分の利益が出ます |
| 仕入れて、売れ残った | 出たままです | 経費になっていないので、下がりません |
現金が減っているのに、税金は減らない。この状態が起こり得ます。
滞留在庫の評価を下げられる場合もありますが、要件があります。個別の判断は税理士か税務署に確認してください。この記事で確実に言えるのは、「売れていない在庫は、その年の経費になっていない」ということだけです。
結果として、帳簿は黒字なのに現金がないという状態が完成します。「利益が出ているはずなのに口座が減る」という感覚の正体は、多くの場合これです。
対処は難しくありません。月に一度、在庫リストを開いて、仕入から何日経っているかを見るだけです。日数を見れば、資産の顔をした死んだ在庫が浮かび上がります。
カードは1枚で持たない:締め日を月初・月中・月末に分散する
資金繰りを管理するうえで、実務的に効く打ち手を1つ挙げるなら、これです。締め日の異なるクレジットカードを複数持ち、月初・月中・月末で使い分けます。
カードの支払サイトは、締め日の直後に仕入れたときに最長になり、締め日の直前に仕入れたときに最短になります。同じ金額を同じ日に仕入れても、どのカードを切るかで、現金が出ていくまでの日数が20日以上変わります。1枚しか持っていないと、この差を丸ごと捨てることになります。
やることは単純です。締め日が月初・月中・月末に散るように3枚用意し、仕入れの都度「いま締め日から一番遠いカード」を選ぶ。それだけで、平均的な支払サイトが延びます。先ほどの判別式でいえば、右辺の③が大きくなるので、自己資金で埋める日数が減ります。
ただし、支払サイトを延ばすことは借入期間を延ばすことと実質的に同じです。回転が遅い在庫を抱えたままこれをやると、問題を先送りするだけで悪化します。あくまで、在庫日数の管理とセットで使ってください。
在庫の日数を記録する仕組みを、先に作る
ここまでの話は、記録がなければ1つも実行できません。必要なのは高機能な在庫管理システムではなく、次の5列だけです。スプレッドシートで十分です。
- 仕入日(この列がないと日数が出せません。最重要)
- 仕入値
- 想定売値
- 実売日
- 入金日
この5列があれば、①在庫保有日数(実売日-仕入日)と②入金待ち日数(入金日-実売日)が自動で出ます。あとは今日の日付との差分を出す列を1本足せば、まだ売れていない在庫が何日寝ているかが常に見えます。
見るのは月に1回で構いません。全在庫を経過日数の順に並べ、上位から順に「値下げするか、切るか、待つか」を決める。これだけで、感覚でやっていたときとは判断の精度が変わります。
価格改定ツールについても触れておきます。ツールが得意なのは、設定した下限価格の範囲内で競合に追随することです。逆にツールが判断できないのは、その商品をそもそも持ち続けるべきかどうかです。価格の上下はツールに任せ、撤退の判断は自分で持つ。この線引きをしておかないと、下限価格に張り付いたまま何か月も動かない在庫が積み上がります。
損切りを、感情の外に置く
時間で自動的に価格が下がる仕組みにする
損切りが実行できない理由は、判断力ではなく感情です。仕入れたときの自分の判断を否定することになるので、人は先延ばしします。だから、決めるのは「毎回の判断」ではなく「ルール」にします。
私が実際にやってきたのは、次の形です。
- Amazon:価格改定ツールに任せる。下限価格を設定し、その範囲内で自動追随させる。
- メルカリ:毎日100円ずつ下げる。売れるまで機械的に続ける。
メルカリの毎日100円は、値付けのテクニックではありません。時間の経過とともに価格が必ず下がる装置を作っているだけです。放置すれば勝手に下がるので、「そろそろ下げようか」と悩む場面自体が消えます。悩む場面をなくすことが目的です。
損切り価格の基準は、取得原価ではなく今日の現金化額
損切りができない人は、ほぼ例外なく「1万円で仕入れたのだから1万円以上で売りたい」と考えています。しかし仕入値はすでに出ていった金であり、これから戻ってくる金額とは関係がありません。判断すべきなのは、その商品を今日いくらで現金に変えられるか、そしてその現金を次に回すといくら稼げるかだけです。
5万円の商品を3か月抱えて5,000円の利益を出すより、4万円で切って現金化し、その4万円を回転20日の商品に3回転させる方が、同じ90日で残る金額は大きくなります。5,000円の利益と1万円の損失を比べるのではなく、90日という時間を何に使ったかで比べてください。
月商には、法律上の分岐点があります
ここまでは、拘束が増えると現金が減るという話でした。拘束が一定の水準を超えると、法律上の扱いそのものも変わります。
消費税です。そして、この分岐は月利では起きません。月商で起きます。
免除の条件は、売上高で書かれています
消費税法 第9条第1項(小規模事業者に係る納税義務の免除)
「事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者(適格請求書発行事業者を除く。)については…消費税を納める義務を免除する。」
| 条文が基準にしているもの | 条文が基準にしていないもの |
|---|---|
| 課税売上高(=売った金額の合計) | 利益 |
| 月商の積み上がり | 月利がいくらだったか |
赤字でも、課税売上高が1,000万円を超えれば課税事業者になります。
| 月商 | 年間の売上 | 1,000万円との関係 |
|---|---|---|
| 50万円 | 600万円 | 下回ります |
| 84万円 | 1,008万円 | ここで超えます |
| 100万円 | 1,200万円 | 超えています |
前掲の内訳表は月商100万円で計算しました。すでに外側です。
時期が2年ずれます
判定に使うのは「基準期間」で、個人事業者なら前々年です。
| 起きること | |
|---|---|
| 1年目 | 売上が1,000万円を超えます。この年はまだ免税です |
| 2年目 | まだ免税です |
| 3年目 | 1年目が基準期間になるので、課税事業者になります |
そして、前倒しになる規定があります。
消費税法 第9条の2第1項
「…特定期間における課税売上高が千万円を超えるときは、…同条第一項本文の規定は、適用しない。」
同 第4項第1号「個人事業者 その年の前年一月一日から六月三十日までの期間」
前年の上半期だけで1,000万円を超えていれば、翌年から課税事業者です。月商にすると約167万円です。
インボイスに登録すると、金額に関係なく外れます
第9条第1項の括弧書きをもう一度読んでください。「(適格請求書発行事業者を除く。)」とあります。
| 状態 | 納税義務 |
|---|---|
| 課税売上高1,000万円以下・インボイス未登録 | 免除されます |
| 課税売上高1,000万円以下・インボイス登録済み | 免除の対象から外れます |
登録は義務ではありません。ただし、課税事業者に売る比率が高いと、登録していないことが取引条件で不利に働く場面があります。判断の材料は「売上」と「販路の相手」であって、利益率ではありません。
月商を目標に置くと、二重に効きます。仕入資金が先に出ていって現金が減り、課税売上高が積み上がって免除から外れます。
2つとも、月利とは無関係に起きます。利益を削って安く売った月商でも、同じように起きます。
税額の計算は、簡易課税を選ぶかどうか、特例が使えるかどうかで大きく変わります。金額の話は税理士か税務署に確認してください。この記事で書けるのは、条文に「課税売上高」と書いてあるという一点までです。
追う指標を、月商から入れ替える
月商は目標にしない
ここまで見てきたとおり、月商は増やそうと思えば増やせます。利益を削って安く売れば、月商だけは伸びます。しかしそのとき、必要な仕入資金は増え、現金は減ります。月商を目標に置くと、事業が苦しくなる方向に自分でハンドルを切ることになります。
代わりに見るべきなのは、投下した資金が、どれだけの速さで、どれだけの利益を生んでいるかです。式にすると次のようになります。
月利 ÷ 投下資金 ÷ 回転日数
例えば、47万円を投下して30万円の月利、平均回転30日なら、1日あたりの資本効率は約0.021です。同じ47万円で月利20万円でも、平均回転14日なら約0.030になります。月利が10万円少ない方が、事業としては強いという逆転が起きます。この逆転が見えるようになると、仕入れの基準が変わります。
3つ目の分母は、自分の時間です
ここまでで分母が2つ出ました。投下資金と、回転日数です。実務では、もう1つあります。
その月商を作るのに、自分が何時間使ったかです。
私は専業だった頃、毎日20個から50個を発送していました。梱包、伝票、出品、価格調整で1日が終わる日もありました。あれは、資金ではなく時間を拘束していた状態です。
| 拘束していたもの | 増やすと | |
|---|---|---|
| 投下資金 | お金 | 足りなければ借りるか、待つかです |
| 回転日数 | お金が戻るまでの時間 | 縮めれば、資金が要らなくなります |
| 自分の作業時間 | 自分 | 増やせません。1日は24時間で固定です |
3つ目だけ、上限が動きません。だから、いちばん先に詰まります。
月商を2倍にすると、資金は借りれば足ります。日数は工夫すれば縮みます。作業時間だけは、2倍にできません。単価を上げるか、1件あたりの手数を減らすか、外注するかしかありません。
だから、同じ月利でも中身が違います
| 月商 | 月利 | 作業時間 | 事業としては | |
|---|---|---|---|---|
| A | 100万円 | 20万円 | 40時間 | 強い |
| B | 200万円 | 20万円 | 200時間 | 弱い |
Bのほうが月商は2倍です。それでも、拘束している資金は約2倍、拘束している時間は5倍で、残る金額は同じです。月商だけを見ると、Bが優れて見えます。
この表は、私の実績ではありません。分母の効き方を見るための例です。
測り方は、1行足すだけです
先ほどの5列のシートに、6列目を足してください。
| 足す列 | 何が出るか |
|---|---|
| その商品に使った時間(仕入・出品・梱包・発送の合計) | 1件あたりの所要時間 |
毎回つける必要はありません。1週間だけ計って平均を出せば十分です。それを月の件数に掛ければ、その月商を作るのに何時間使ったかが出ます。
月利 ÷ 時間。この1つだけで、続けられる商材かどうかが分かります。
私が2週間回転をやめた理由も、ここにあります。資金効率としては最良でしたが、時間の側が先に限界を迎えました。数字が良いことと、続けられることは別です。
最初の1か月でやること
いきなり全部は変えられないので、順番だけ示します。
- 5列のシートを作り、今ある在庫を全部書き出す。仕入日が分からないものは推定で構いません。まず日数を可視化することが目的です。
- 判別式に自分の数字を入れる。在庫保有日数+入金待ち日数-カード支払サイト。ここがプラスなら、その日数分の運転資金が要ります。
- 経過日数の長い順に並べ、上位10件の扱いを決める。値下げ、撤退、継続保有の3択です。
- 締め日の異なるカードを追加する。審査や発行に時間がかかるので、1か月目に着手しておきます。
- 下げ方をルール化する。Amazonなら下限価格の設定、メルカリなら毎日いくら下げるか。金額は商材の単価に合わせて調整してください。
月商と月利の違いを理解するというのは、言葉の定義を覚えることではありません。売上が伸びるほど現金が減るという構造を知り、日数で管理する仕組みに切り替えることです。何年も実務をやっていても、ここに辿り着かないまま消えていく人を私は何人も見てきました。逆に、ここさえ押さえておけば、多少利益率が低くても事業は続きます。
まずは、在庫の仕入日を書き出すところから始めてください。
この記事から持ち帰るもの
| 読み替え | 月商は、成果の指標ではなく拘束の指標です。金額を見たら、拘束額と拘束日数に読み替えてください |
| 分母は3つ | 投下資金・回転日数・自分の時間。3つ目だけ上限が動かないので、先に詰まります |
| 引き算1本 | 在庫保有日数 + 入金待ち日数 - カード支払サイト。これがプラスなら、その日数分の運転資金が要ります |
| 逆算 | 欲しい月利 ÷ 利益率 = 必要な月商。その月商と在庫日数の交点が、用意すべき自己資金です |
| 分岐点 | 課税売上高1,000万円。月利ではなく月商で判定されます |
他人の「月商◯万円」を見たときにやることは、羨ましがることでも疑うことでもありません。拘束額と拘束日数と作業時間に割り戻すことです。
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| 記事 | 共通している考え方 |
|---|---|
| 利益 ÷ 拘束日数 | 当サイトの判断基準です。この記事は、その物販版です |
| レバレッジ型の商品を、どう扱っているか | 「置いている期間の長さ」で減る、という同じ構造の話です |
出典
| 出典 | この記事で使った箇所 |
|---|---|
| e-Gov法令検索「消費税法」第9条・第9条の2 | 基準期間における課税売上高1,000万円以下の免除、適格請求書発行事業者の除外、特定期間(前年1月1日〜6月30日)による前倒し |
| e-Gov法令検索「所得税法」第37条・第47条 | 必要経費は「総収入金額に係る売上原価」であること、年末に有する棚卸資産の評価 |
税額の計算方法や特例は改正されます。金額の判断が必要な場面では、必ず税理士か税務署に確認してください。
この記事について
| 立場 | 中古品の仕入れと販売、ブランド品のリペア販売を20年近く続けています。専業だった期間があり、当時は毎日20〜50個を発送していました |
| 数字の扱い | 内訳表と逆算表は、私の利益率実績(30%前後)をもとにしたモデル試算です。商材・販路・カテゴリで手数料率と送料が変わるため、実額は前後します |
| 実績ではない箇所 | AとBの比較表は、分母の効き方を見るための例です。私の数字ではありません |
| 書いていないこと | 「誰でも月商◯円」「◯か月で◯万円」といった、読者を主語にした金額の予測 |
| 専門家ではない部分 | 税理士ではありません。条文に書いてあることまでで、税額の計算には踏み込んでいません |
| 本文中の宣伝 | 0本です |

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