マルチタスクは、「複数の作業を、同時に進めること」です。ただし、人間の頭は、考える作業を2つ同時には、できません。実際にやっているのは、すばやい切り替えです。そして、切り替えるたびに、時間と正確さを、失います。
私は、長いあいだ、マルチタスクに失敗してきました。複数の販路で同時に売ろうとすると、手間と、規約のリスクで、回らなくなりました。いまは、逆です。ステップメール、教材、販売ページの改善、ブログの書き直しを、並行して進めています。教材づくりは、数か月から年単位かかっていたものが、1か月ほどになりました。
変わったのは、私の頭では、ありません。並列にする場所を、人間の頭から、道具の側へ移しただけです。この記事では、意味と研究を先に書いて、そのあとで、私の例、計算機、やり方を書きます。
1. マルチタスクとは
もとは、コンピューターの言葉です。1つの処理装置が、複数のプログラムを、短い時間で切り替えながら動かすことを、指します。利用者からは、同時に動いているように見えます。
人間について言うときは、次の3つが、まざっています。
| 種類 | 例 | うまくいくか |
|---|---|---|
| ① 本当に同時 | 歩きながら話す。音楽を聞きながら皿を洗う。 | 片方が、考えなくてもできる作業なら、できる。 |
| ② すばやい切り替え | 資料を書きながら、チャットに返事をする。 | どちらも遅くなり、まちがいがふえる。 |
| ③ 複数の案件の並行 | 3つの仕事を、同じ月に進める。 | やり方しだい。この記事の後半で扱います。 |
反対の言葉は、シングルタスクです。1つの時間には、1つの作業だけをやります。
2. なぜ、人間はマルチタスクができないのか
2-1. 切り替えには、コストがかかる
2001年に、アメリカの心理学者ルービンシュタイン、マイヤー、エヴァンスが発表した実験です。参加者に、種類のちがう課題(計算や、図形の分類)を、切り替えながらやってもらいました。切り替えるたびに、時間のロスが出ました。課題がむずかしいほど、また、なじみがないほど、ロスは大きくなりました。
研究者は、切り替えには、2つの段階があると説明しています。「こんどは、こっちをやる」と目標を入れかえる段階と、「こっちのルールは、こうだった」とルールを呼びだす段階です。1回は、1秒に満たないこともあります。でも、1日に何百回もやれば、大きな時間になります。
2-2. 前の作業が、頭に残る
2009年に、経営学者のソフィー・ルロイが、「注意の残りかす」という考え方を発表しました。作業Aを途中でやめて、作業Bに移ると、頭の一部が、Aのことを考えつづけます。そのぶん、Bの成績が落ちます。Aが終わっていないほど、また、時間に追われていないほど、残りやすい、という結果でした。
2-3. なれている人ほど、うまいわけではない
2009年の、スタンフォード大学のオフィル、ナス、ワグナーの研究です。ふだんから、複数のメディアを同時に使っている人と、そうでない人を、くらべました。予想に反して、ふだんから同時に使っている人のほうが、関係のない情報を無視するのが苦手で、課題の切り替えも、遅い結果でした。練習で上手になる、とは言えないようです。
なお、2010年のワトソンとストレイヤーの研究では、運転の模擬と、電話ごしの記憶課題を同時にやらせても、成績が落ちない人が、200人のうち、約2.5%いました。いることは、います。ただ、自分がその1人だと考えるのは、分のわるい賭けです。
2-4. 計算機:切り替えで、1日に何分を失っているか
1日に失う時間:—
1か月に失う時間:—
はじめの数字は、計算のための仮の値です。研究で決まった数字では、ありません。ご自分の1日を数えて、入れてください。もどるまでの時間は、作業がむずかしいほど、長くなります。
3. 私の例:マルチが崩れた時代と、回るようになった時代
3-1. 崩れた時代:販路をふやすと、手間とリスクが、かけ算でふえた
物を売る仕事では、販路をふやせば、売上がふえます。理屈は、かんたんです。でも、実際にやると、回りませんでした。
- 同じ商品を、販路ごとに、手で登録しなおす。
- 販路ごとに、規約がちがう。1つの販路でのやり方が、別の販路では、違反になる。
- 片方で売れたら、もう片方を、すぐ取り下げないといけない。
1つ1つは、小さな作業です。でも、そのたびに、頭の中で「いまは、どの販路の、どのルールか」を、入れかえます。2章の実験と、同じ形です。販路の数だけ、切り替えがふえ、まちがいが出て、まちがいが、アカウントのリスクになりました。
3-2. 転機:コピー出品の道具が出てきた
流れが変わったのは、出品の内容を、かんたんに写して再出品できる道具が、出てきたときです。私が使ったのは、フリマアシストという、ブラウザの拡張機能でした。手で登録しなおす作業が、ほぼ、なくなりました。
ここで分かったのは、「マルチタスクが苦しかった原因は、案件の数ではなく、切り替えのたびに発生する手作業だった」ということです。手作業を道具に移すと、人間がやることは、「何を出すか」の判断だけに、なりました。判断は、1つずつ、順番にやれます。
3-3. いま:AIとAIをつないで、地味な作業を流す
いまは、同じ考え方を、文章の仕事に使っています。1つのAIに、ぜんぶをやらせるのでは、ありません。調べるAI、書くAI、点検するAI、画像を作るAIを、つなぎます。地味だけれど、地味に時間がかかる作業を、人間の手から、はずしていきます。
結果として、変わった数字です。
| 作業 | 以前 | いま |
|---|---|---|
| ステップメールや教材の作成 | 数か月から、年単位 | 1か月ほど |
| 販売ページの改善、ブログ記事の書き直し | 1本に、何日も | 1日に、複数本。自分の求める水準まで、妥協せずに上げられる |
もう1つ、分かったことがあります。1つのAIだと弱い推論も、複数のAIに同じ問いを出して、良いところを取ると、強くなることがあります。人間のマルチタスクは、品質を落とします。道具のマルチは、やり方しだいで、品質を上げます。ここが、いちばんの、ちがいです。
以前、教材が1年完成しなかった話は、パーキンソンの法則とはと、完璧主義とはに書きました。あのとき足りなかったのは、根性ではなく、流れる量(スループット)を上げるしくみでした。
4. やり方:人間はシングル、しくみはマルチ
- 人間がやるのは、判断だけにする:「何を作るか」「これで良いか」の2つです。写す、整える、移す、確かめる、は、道具に回します。
- 判断は、まとめて、順番にやる:Aの確認、Bの確認、Cの確認を、1つずつ終わらせます。途中でやめると、注意の残りかすが出ます。きりの良いところまでやってから、次へ移ります。
- 道具が動いているあいだに、別の判断をする:これが、うまくいくマルチタスクです。人間の頭の中では、1つずつ。外から見ると、同時に進んでいます。1章の、コンピューターのやり方と、同じです。
- 通知を、切る:自分で決めた切り替えと、外から割りこまれる切り替えは、別物です。後者を、先にへらします。考え方は、アイゼンハワーマトリクスとはに書きました。
- 地味な作業を、数える:道具に回す作業は、数えないと、見つかりません。数え方は、シャドーワークとはに書きました。
5. 注意点
- 道具をふやすこと自体が、切り替えをふやす:道具が10個あって、ぜんぶを手でつないでいたら、前より悪くなります。つなぎ目を、人間がやらない形にするのが、条件です。
- 規約は、道具では解決しない:出品の道具は、手間をへらします。規約のちがいは、へらしません。販路ごとのルールの確認は、人間の仕事として、残ります。
- 点検を、はぶかない:AIが出したものを、見ないで出すと、速く、大量に、まちがえます。速くなったぶんの時間の一部は、点検に回します。
- 量は、目的ではない:流れる量を上げるのは、自分の求める水準まで、直す回数をふやすためです。
6. まとめ
- 人間のマルチタスクは、同時処理ではなく、すばやい切り替えです。
- 切り替えのたびに、時間のロスが出ます。前の作業は、頭に残ります。練習しても、上手になるとは言えません。
- 私の場合、マルチが崩れた原因は、案件の数ではなく、切り替えのたびに出る手作業でした。
- 手作業を道具とAIに移すと、人間は、判断だけを、1つずつ、順番にやれます。
- 年単位だった教材づくりは、1か月ほどになりました。
- 人間はシングル、しくみはマルチ、が、いまのやり方です。
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