傍観者効果とは、こまっている人がいても、まわりに人が多いほど、1人1人は、動かなくなる、という現象です。「だれかが、やるだろう」。全員がそう思うと、だれも、やりません。人が冷たいから、では、ありません。人数が、人を、止めます。
先に、書いておきます。私は、学生のころのインターン先で、上司に、延々と怒られ続けている先輩の、となりの席に、いました。一方で、いまの私は、20年近く、自宅で、1人で、働いています。そこには、「だれか」が、いません。この記事は、その場にいた側と、だれもいない側の、両方から、書きます。
この記事では、意味と実験を先に書いて、そのあとで、計算機、私の例、動き方と、たのみ方を書きます。
1. 傍観者効果とは
1-1. きっかけの事件と、その後
1964年、ニューヨークで、キティ・ジェノヴィーズという女性が、自宅の近くで、おそわれて、亡くなりました。新聞は、「38人が見ていたのに、だれも通報しなかった」と、報じました。この記事が、研究の、きっかけになりました。
ただし、この「38人」は、のちの調べで、大きく、ふくらまされていたことが、分かっています。全体を見ていた人は、ほとんどおらず、通報した人も、いました。報じた新聞も、のちに、もとの記事に問題があったことを、みとめています。事件の伝えられ方は不正確でした。けれど、そこから始まった実験の結果は、べつの話として、残っています。
1-2. 実験
心理学者の、ジョン・ダーリーと、ビブ・ラタネが、1968年に、2つの実験を、発表しました。
| 実験 | 内容 | 結果 |
|---|---|---|
| 発作の実験 | インターホンごしの話し合いの最中に、参加者の1人(演技)が、発作を起こす | 自分しか聞いていないと思っていた人は、85%が、助けを呼びに行った。ほかに4人が聞いていると思っていた人は、31% |
| けむりの実験 | アンケートを書いている部屋に、通気口から、けむりが入ってくる | 1人のときは、75%が、報告した。何もしないサクラ2人といっしょだと、10% |
1-3. 3つの、しくみ
| しくみ | 頭の中 |
|---|---|
| 責任の分散 | 「自分がやらなくても、だれかが、やる」。責任が、人数で、わり算される |
| 多元的無知 | 「だれも動いていない。ということは、大したことでは、ないのだろう」。全員が、おたがいの様子を見て、全員が、まちがえる |
| 評価への不安 | 「早とちりだったら、はずかしい」 |
2つ目は、社会的証明が、悪いほうに、はたらいた形です。けむりの実験で、人が動かなかったのは、冷たいからでは、なく、まわりの「動かない」を、情報として、読んだからです。
1-4. いつも起きるわけでは、ない
2011年の、多くの研究をまとめた分析では、はっきり危険な場面では、傍観者効果は、弱くなることが、示されました。2019年には、街の防犯カメラの映像を調べた研究で、人前で起きたもめごとの、約9割で、少なくとも1人が、止めに入っていたと、報告されています。人が多いと、1人1人は、動きにくくなります。けれど、「だれか1人は動く」確率は、人数がふえると、上がることも、あります。次の計算機は、その2つを、分けて、見るためのものです。
2. 計算機:1人が動く確率と、だれかが動く確率
自分しかいないときに、動く確率 %
その場にいる人数 人
人が1人ふえるごとに、1人が動く確率が下がる割合 %
その場の1人が、動く確率:
少なくとも、だれか1人が、動く確率:
1人を名ざしして、たのんだ場合:
これは、私が置いた、かんたんな形です。はじめの数字だと、5人の場では、1人が動く確率は、26.9%まで、下がります。それでも、だれか1人が動く確率は、79.1%、あります。下がる割合を40%にすると、1人は11%、だれかは、44.2%です。人数がふえても、1人1人の下がり方が大きいと、「だれか」の確率まで、下がります。
3つ目の数字が、いちばん、大事です。1人を名ざしすると、その人は、「5人のうちの1人」から、「自分しかいない人」に、もどります。責任のわり算が、止まります。
3. 私の例
3-1. 怒られ続ける先輩の、となりの席に、いた
大学のころ、内定をもらった会社に、たのんで、インターンに、行きました。私は、ホームページの更新を、3時間、4時間かけても、まったく、できませんでした。そのとなりでは、1年先に入った、年下の先輩が、上司に、延々と、怒られ続けていました。
私は、そのとなりの席に、いました。インターンが終わったあと、留年も決まって、私は、内定を、辞退しました。
ここからは、一般論です。職場で、だれかが長く怒られ続けているとき、まわりの人は、たいてい、だまって、自分の仕事を、続けます。すると、その「だまっている」が、全員にとっての、「これは、ここでは、ふつうのことだ」という合図に、なります。1章の、多元的無知の、形です。新しく入った人ほど、その場の「ふつう」を知らないので、まわりの様子から、読みとろうとします。そして、まわりと同じように、だまります。
その場を変えることだけが、答えでは、ありません。その場から出ることも、1つの、動き方です。ただ、どちらもえらばずに、見ているだけの時間が長くなると、「何もしない自分」に、なれていきます。傍観者でいることには、自分にたいする費用も、あります。
3-2. 出す側に、回った
FXの自動売買を検証していたころ、私は、海外のシステムを中心にあつかう、トレーダーの集まりに、入っていました。私は、日本のシステムのデータを出し、世界のトレーダーから、海外のシステムの情報を、もらっていました。
こういう集まりは、全員が「見ているだけ」になると、止まります。だれかが出すだろう、と全員が思えば、だれも、出しません。しくみは、傍観者効果と、同じです(お金の面から見た形は、フリーライダーの記事に、書きました)。私が情報をもらえたのは、先に、出したからです。人数の多い場で、1人目に動く人は、少ない。だから、1人目に動いた人には、見返りが、集まります。
3-3. 「だれか」が、いない
私は、会社員として、働いたことが、ありません。20年近く、自宅で、1人で、仕事をしています。報告する相手も、いません。
ここでは、傍観者効果は、起きようが、ありません。発送がおくれたら、おくらせたのは、私です。サイトがこわれたら、直すのは、私です。責任をわり算する相手が、いません。計算機の、人数1人の状態が、ずっと、続いています。
これは、楽では、ありません。けれど、1つ、よいことが、あります。「だれかがやるだろう」で、問題が何か月も放っておかれる、ということが、起きません。組織で、問題が長く放置されるのは、気づいた人が、少ないからでは、ありません。気づいた人が、多いからです。
4. 動く側、たのむ側
4-1. 自分が、その場に、いるとき
- 「だれも動いていない」を、情報として、読まない:まわりも、あなたを見て、同じことを、考えています。
- 小さく、動く:いきなり止めに入らなくて、かまいません。「大丈夫ですか」と、声をかける。駅員や店員を、呼ぶ。通報する。1人が動くと、まわりの「多元的無知」が、とけます。2人目は、1人目より、ずっと、動きやすい。
- 自分の安全を、先に:危険な場面では、直接、入らないでください。通報と、人を呼ぶことが、先です。
- 職場なら、記録と、窓口:その場で言えなくても、見たことを書きとめて、あとで窓口に上げることは、できます。動かないことの損得は、事なかれ主義の記事で、計算しました。
4-2. 自分が、助けてほしいとき
- 名ざしする:「だれか、助けてください」では、なく、「そこの、青い上着の方。救急車を、呼んでください」。計算機の、3つ目です。
- 何が起きているかを、言う:「この人は、知らない人です」「息を、していません」。まわりの「大したことでは、ないのだろう」を、先に、こわします。
- やってほしいことを、1つ、言う:何をすればいいか分からない、が、人を、止めます。
4-3. 仕事の場で
- 宛先を、1人にする:10人に送った「どなたか、お願いします」は、だれにも、とどきません。
- 担当と、期日を、その場で、決める:「みんなで気をつけましょう」で終わった会議のあとは、だれも、気をつけません。
- 人数をふやしても、安全には、ならない:チェックする人を2人から5人にすると、1人1人は、「ほかの4人が、見ている」と、考えます(力の面から見た形は、リンゲルマン効果の記事に、書きました)。
5. まとめ
- 傍観者効果とは、まわりに人が多いほど、1人1人が、動かなくなる現象です。ダーリーとラタネが、1968年に、実験で示しました。
- しくみは、責任の分散、多元的無知、評価への不安の、3つです。人が、冷たいからでは、ありません。
- きっかけの事件の「38人が見ていた」は、のちに、不正確だったと、分かっています。はっきり危険な場面では、効果は、弱まります。
- 私は、インターン先で、怒られ続ける先輩の、となりの席に、いました。いまは、1人で働いていて、「だれか」が、いません。
- 助けてほしいときは、名ざしして、起きていることを言い、やってほしいことを、1つ、言ってください。

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