機会費用は、「何かを選んだことで、選べなくなった、いちばん良い別の選択肢の価値」のことです。1時間を、時給1,000円のアルバイトに使ったら、その1時間でできたはずの、ほかのことは、できなくなります。その「できたはずのこと」の中で、いちばん価値が高いものが、機会費用です。
財布から出ていくお金ではないので、請求書は来ません。だから、見えません。見えないので、ほとんどの人は、計算に入れません。
この記事では、意味を説明したあとで、私の例を書きます。直す仕事で、1時間あたりの稼ぎが3倍ちがった話。お金と時間を、別の場所に置いていたらどうなったか、という話。そして、いちばん大事だと思っていること。機会費用を計算するときに、ほとんどの人が入れ忘れる資源が、もう1つあります。意志力です。
1. 機会費用とは
経済学では、費用を、2種類に分けます。
| 種類 | 中身 | 見えるか |
|---|---|---|
| 会計上の費用 | 実際に払ったお金。仕入れ値、家賃、人件費 | 見える。帳簿にのる |
| 機会費用 | それを選んだことで、あきらめた、いちばん良い別の選択肢の価値 | 見えない。どこにも、のらない |
まちがえやすい言葉と、くらべます。
| 言葉 | 見ている方向 | 判断に入れるか |
|---|---|---|
| 機会費用 | これから。いま選べる、ほかの選択肢 | 入れる |
| 埋没費用(サンクコスト) | 過去。もう払ってしまって、もどらないもの | 入れない |
| 機会損失 | 売れたはずなのに、在庫がなくて売りのがした、というような「取りのがした利益」 | 商売の現場で使う言葉。意味は近い |
人は、この2つを、逆に扱います。もどらない過去のお金は、いつまでも気にする。いま選べるはずの別の道は、考えもしない。過去のほうの話は、コンコルド効果の記事に書きました。この記事は、これからのほうの話です。
2. 私の例①|同じ1点でも、1時間あたりは3倍ちがった
私は、ブランド品の財布を仕入れて、直して、売っていました。直す内容は、大きく2つありました。
| 引手(ファスナーのつまみ)の交換 | 染め直し | |
|---|---|---|
| 材料費 | 200円ほど | 200円ほど |
| 直す時間 | 10〜15分 | 2時間以上 |
| 撮影・出品・梱包 | 45分 | 45分 |
| 1点にかかる時間の合計 | 60分 | 165分以上 |
染め直しを1点やる165分で、引手の交換なら、3点近くできます。1点あたりの利益が同じなら、染め直しを1点やるたびに、引手の交換2点ぶんの利益を、あきらめていることになります。これが、染め直しの機会費用です。
帳簿の上では、どちらも「1点売れて、利益が出た」です。ちがいは、どこにも、のりません。数字のくわしい計算は、限界利益の記事に書きました。
直らない機械に使う時間も、同じです。私は、手をつけて2時間で原因が分からなければ、直すのをやめて、部品取りに回す、と決めていました。3時間目に入ったとき、失っているのは、その機械の仕入れ値ではありません。その1時間で直せたはずの、別の1台です。
3. 私の例②|お金を、別の場所に置いていたら
機会費用は、時間だけの話では、ありません。お金にも、あります。
私は2010年から2014年ごろ、FXの自動売買に、本気で取り組みました。売られている自動売買のしくみを買ったお金が、50万円以上。取り引きの損失が、200万円以上です。
ふつうは、ここで「250万円を失った」と数えます。機会費用で数えると、ちがう数字になります。その250万円と、検証に使った何年ぶんもの時間を、別の場所に置いていたら、いくらになっていたか。同じお金を、指数に連動する投資信託に入れて、何もせずに放っておいたほうが、ずっと増えていました。失ったのは、250万円ではなく、「250万円 + 増えていたはずのぶん + 使った時間でできたはずのこと」です。
記事の外注も、同じです。月に20万円から30万円を、半年ほど払いました。メール講座に登録される記事には、なりませんでした。このお金と半年を、自分で書く時間に使っていたら。いまなら、AIに使っていたら。そう考えると、払った金額より、ずっと高くついています。
これは、投資の勧めではありません。私の場合は、そうだった、という記録です。
4. ほとんどの人が入れ忘れる資源|意志力
ここからが、私が、いちばん大事だと思っていることです。
機会費用の説明には、たいてい、時間とお金しか出てきません。私は、もう1つ、入れるべき資源があると考えています。意志力です。
人は、いつも全速力では、走れません。気合でがんばれる期間には、上限があります。工場の期間工を、契約の終わりまでやりきれる人が限られているのは、体力だけの問題ではなく、これが理由だと、私は見ています。私の感覚では、気合で走れるのは、長くても、2年くらいです。
時間は、毎日、24時間ずつ、補充されます。お金は、かせげば、もどります。意志力は、使うと、へります。そして、もどるのに、時間がかかります。
だから、気合が要る仕事を選ぶということは、その2年を、そこに使うということです。その2年を、別のことに使っていたら、何ができたか。これが、意志力の機会費用です。時間の機会費用より、ずっと高いと、私は思っています。2年は、何回も、まわってきません。
5. だから、仕事を2種類に分けています
この考え方から、私は、仕事を、2種類に分けて見ています。
| 気合で走る仕事 | 走らなくても、続く仕事 | |
|---|---|---|
| 例 | 期間工。物を右から左へ流す、せどり | 好きで、お金になって、人の役に立って、競争相手の少ない分野の仕事 |
| 使う資源 | 意志力を、大きく使う | 意志力を、あまり使わない |
| 続く期間 | 短い。私の感覚では、長くて2年 | 長い |
| 向いている使い方 | 期間を決めて、短く、集中してやる。目的は、元手を作ること | 時間をかけて、育てる。事業にする。売ることも、買うことも、考えに入る |
せどりは、左の列の仕事だと、私は思っています。長く続けるものではなく、期間を決めて、集中して、元手を作るための仕事です。たとえば、まとまった金額を目標にして、短い期間で走りきる。そして、できた元手は、運用に回す。ほとんどの人には、そのほうが合っていると、私は考えています。いくら稼げる、という話ではありません。走れる期間に上限があるなら、そこから逆算したほうがいい、という順番の話です。
右の列は、少ないです。私にとっては、壊れた機械を直して売る仕事が、これでした。直すことが好きで、お金になって、捨てられるはずの物が使われて、やっている人が少ない。4つが重なると、気合を使わなくても、続きます。こういう仕事は、事業にする価値があります。
私が売り買いの現場を降りたのも、この計算の結果です。物を流す仕事に、自分の残りの意志力を使い続けることの機会費用が、大きすぎる、と判断しました。降りた経緯は、プロフィールに、飽きることと続くことの関係は、飽き性は天才なのかに書きました。期間工の数字は、期間工で本当に手元に残る金はいくらかにあります。
6. 機会費用の、使い方
- 「これをやらなかったら、この時間で、何をしていたか」を、1つだけ、具体的に書く。機会費用は、「いちばん良い別の選択肢」です。思いつくものを全部足しては、いけません。1つだけです
- 1点あたりではなく、1時間あたりで、くらべる。利益の額が同じでも、かかる時間がちがえば、別の仕事です
- お金を使う前に、「同じお金を、何もしないで置いておいたら」と、くらべる。何もしない、は、いつでも選べる選択肢です。それに負けるなら、やらないほうがましです
- 気合が要るかどうかを、先に見る。要るなら、いつまでやるかを、始める前に決めます。終わりを決めていない気合の仕事は、2年を、なんとなく使い切ります
- 過去に払ったものは、くらべる対象に入れない。くらべるのは、これから選べるものだけです
何もしない、を選べなくなる心の働きについては、現状維持バイアスに書きました。
7. まとめ
- 機会費用は、何かを選んだことで、あきらめた、いちばん良い別の選択肢の価値。請求書が来ないので、見えない
- 埋没費用は過去のもので、判断に入れない。機会費用はこれからのもので、判断に入れる。人は、逆に扱いがち
- 染め直し1点の165分で、引手の交換は3点近くできた。帳簿の上では、どちらも「1点売れた」で、ちがいはどこにも、のらない
- FXで失ったのは250万円ではなく、「250万円 + 別の場所で増えていたはずのぶん + 使った時間」
- 時間とお金のほかに、意志力という資源がある。気合で走れるのは、私の感覚では、長くて2年。この2年をどこに使うかが、いちばん高い機会費用になる
- 気合で走る仕事は、期間を決めて短くやり、元手を作る。走らなくても続く仕事(好き × お金になる × 人の役に立つ × 競争相手が少ない)は、時間をかけて事業に育てる
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