「退職勧奨」「肩たたき」で調べて来られた方に、先に結論を書きます。
退職勧奨は、会社からの「辞めてくれないか」という申し込みで、応じる義務はありません(厚生労働省)。応じて辞めると、原則として雇用保険の特定受給資格者(会社都合と同じ扱い)になります。45〜59歳で雇用保険に20年以上入っていれば失業給付は330日で、自分から辞めた場合の150日(原則1か月の給付制限つき)の2倍以上です。会社都合なら、国民健康保険料も前の年の給与所得を30/100として計算されます。私は退職勧奨に関わったことはありません。そのうえで、勧奨を受けたこの段階から、どうすれば数理的な期待値を最大化できるかを、年代別に計算して求めます。断って残っても待遇が上がることはなく、追い出し部屋のような仕打ちが待っているのではないか、と考えているからです。断った後に何年いられるかの公的な統計は、調べても見つかりませんでした。試算では、3か月で再就職でき、次の年収が今と同じなら、45〜59歳で雇用保険に長く入っている人は、失業給付と再就職手当で3か月分の給与がほぼ埋まり、応じても残っても結果はほとんど変わりません。差を決めるのは「辞めるのが遅れると、次の年収がどれだけ下がるか」です。統計ではなく仮定として、1年遅れるごとに3.3%下がると置くと、47歳では今応じた方が10年で約268万円多くなります。応じるなら最低いくらの上乗せが必要かを出す計算機を11章に置きました。
| 知りたいこと | 答え | 章 |
|---|---|---|
| 退職勧奨(肩たたき)とは | 会社が「辞めてほしい」と勧めること。解雇と違い、承諾しなければ辞めなくてよい | 2章 |
| 断れるか、違法になるのは | 断れる。明確に断った後も執拗に繰り返す、約1時間迫るなどは違法とされた裁判例がある | 2章 |
| 会社都合か自己都合か | 原則、特定受給資格者(会社都合と同じ扱い)。前からある早期退職優遇制度への応募は除く | 3章 |
| 失業給付はどれだけ違うか | 45〜59歳・20年以上で330日と150日。会社都合は給付制限なし | 4章 |
| 断ったらどうなるか | 何年いられるかの統計はない。著しい冷遇で辞めても特定受給資格者になり得る | 7章 |
| 応じるなら最低いくら | 次の年収と、辞めるのが遅れたときの下がり方で決まる。年代別の試算と計算機 | 8・11章 |
| 会社に何を求めるか | 割増金、会社都合の離職理由、有給と退職日、再就職支援、推薦状。退職証明書は法律で請求できる | 9章 |
1. 先に、立場を書きます
私は退職勧奨に関わったことがありません。勧められたことも、勧めたこともありません。この記事の制度と数字は、厚生労働省・ハローワーク・裁判例・公的な統計から取っています。私は弁護士ではないので、個別の事案は労働局の総合労働相談コーナーや弁護士に相談してください。
この記事を作るにあたって、次の問いに答えました。
| 退職勧奨との関わり | 「関わったことはない」 |
| 書く範囲 | 「された側の判断」(会社側の進め方は書かない) |
| 一番言いたいこと | この段階からどうすれば数理的な期待値を最大化出来るのかを年代別に計算して求める |
| 断って残った場合 | 追い出し部屋のような仕打ちが待っているのではないか。いずれにしても不採算部門、低パフォーマンスと評価されていて待遇が上がることはない |
| 残った後、何年で辞めることになるか | 経験がないのでわからない。実態を調査して欲しい |
| 数年後に辞めるときの再就職の条件 | 最初の肩叩きが来たときの年齢による。若ければチャンスが、年齢が高ければチャンスはどんどん細くなる。 |
| 期待値に入れるもの | 「健康保険・年金」「退職金と上乗せ金」「失業給付の差」「再就職までの期間と次の年収」 |
| 応じるなら会社に求めるもの | 「割増金(上乗せ)」「会社都合の離職理由」「有給の消化・退職日」「再就職支援」「次の職場への推薦状(会社都合の人員整理であり、本人の能力ではないと書いてもらう)」 |
| 退職勧奨が来たら | 「その場で答えず持ち帰る」「AIに計算させて決める」 |
2. 退職勧奨(肩たたき)とは:解雇との違いと、断れるか
退職勧奨は、会社が社員に「辞めてほしい」「辞めてくれないか」などと言って退職を勧めることです。「肩たたき」は、その俗な言い方です。厚生労働省は、解雇は会社が一方的に労働契約の解除を通告するもので、退職勧奨は退職の「勧奨」なので、社員が承諾しなければ労働契約は終わらない、承諾するかは自由だ、と説明しています。
同じ説明の中で、違法とされた例と、そうでない例も挙げています。
| 裁判例 | 判断 |
|---|---|
| 下関商業高校事件(最高裁第一小法廷 1980年7月10日) | 自由な意思決定を妨げる退職勧奨は、違法な権利侵害に当たる場合がある |
| 日立製作所事件(横浜地裁 2020年3月24日) | 明確に断った後も執拗に勧奨を繰り返したことが違法とされた |
| 東武バス日光ほか事件(東京高裁 2021年6月16日) | 嫌がる社員に、その場で退職の手続きをするよう約1時間繰り返し迫ったことが違法とされた |
| グローバルマーケティングほか事件(東京地裁 2021年10月14日) | 自由な意思による退職の意思表示と認められず、退職の合意が否定された |
| 日本アイ・ビー・エム事件(東京地裁 2011年12月28日) | その事案では、許される範囲を逸脱していないとされた |
出典:厚生労働省「スタートアップ労働条件」Q&A「退職勧奨とはどのようなものでしょうか。」
うその事実を言われた、脅された、懲戒解雇の理由があると思い込まされた、といった場合は、錯誤・詐欺・強迫として退職の意思表示を取り消せることがあります(民法95条・96条)。退職願を出した後でも、会社の退職を受理する権限のある人に意思表示が届く前なら、撤回できる場合があります(大隈鉄工所事件、最高裁1987年9月18日。厚生労働省「確かめよう労働条件」)。その場で署名しなければ、こうした争いはそもそも起きません。
令和7年度に全国の総合労働相談コーナーに寄せられた民事上の相談のうち、内容が退職勧奨だったものは26,022件でした(延べ件数)。退職勧奨を受けて別室に移された、仕事を外された、という場合の考え方は、窓際族・追い出し部屋の記事の5章と6章に書きました。
3. 応じたら、会社都合か自己都合か
ハローワークは、特定受給資格者(倒産・解雇などで、再就職の準備をする時間がないまま辞めた人)の範囲に、次の人を入れています。
- 事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しない。)
退職勧奨に応じて辞めた人は、原則として特定受給資格者です。ただし、前からある早期退職優遇制度に自分から応募した場合は当たりません。どの扱いになるかは、離職票に会社が書いた理由と本人の申し立てをもとに、ハローワークが判断します。
退職勧奨で辞めたのに、離職票に自己都合と書かれていた場合、厚生労働省は、ハローワークに離職理由への異議を述べ、辞めるまでの経緯を説明し、必要なら証拠を出して、事業主都合の離職と認めてもらうよう求める方法を案内しています。勧奨の日時・相手・言われたことの記録と、会社から受け取った書面は残しておきます。
4. 年代別:会社都合と自己都合で、失業給付はどれだけ違うか
失業給付(雇用保険の基本手当)の日数は、辞めた日の年齢と、雇用保険に入っていた期間で決まります。会社都合と同じ扱い(特定受給資格者)の日数は次のとおりです。
| 辞めた日の年齢 | 1年未満 | 1〜5年未満 | 5〜10年未満 | 10〜20年未満 | 20年以上 |
|---|---|---|---|---|---|
| 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ― |
| 30〜34歳 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
| 35〜44歳 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
| 45〜59歳 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
| 60〜64歳 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
| 自己都合(全年齢) | 原則受けられない | 90日 | 90日 | 120日 | 150日 |
出典:ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」(障害者などの就職困難者は別の日数)
違いは日数だけではありません。
- 給付制限:会社都合は、7日の待期の後すぐに支給の対象になります。正当な理由のない自己都合は、その後さらに原則1か月の給付制限があります(2025年4月1日以降に辞めた場合。5年間に2回以上の自己都合退職などでは3か月)。2025年4月以降は、教育訓練を受けると自己都合でも給付制限が解除される場合があります
- 1日の額(基本手当日額):辞める前6か月の賃金(賞与を除く)を180で割った賃金日額のおよそ50〜80%(60〜64歳は45〜80%)で、上限は30歳未満7,450円、30〜44歳8,270円、45〜59歳9,110円、60〜64歳7,830円です(2026年8月1日から)
- 再就職手当:早く再就職すると、残りの基本手当の代わりに、残りの日数が所定の日数の3分の2以上なら残りの日数×70%、3分の1以上なら×60%に基本手当日額をかけた額が出ます。この計算での日額の上限は6,745円(60〜64歳は5,454円)です。1年を超えて勤務することが確実、待期の後の就職、離職前の会社や関係の深い会社でない、受給資格の決定(求職の申し込み)の前から内定していた会社でない、などの要件をすべて満たす必要があります
- 基本手当は、就職しようとする意思と能力があるのに職業に就けない「失業の状態」の日について出ます。辞める前に次の仕事が決まっていて、すぐ働き始めるなら、失業給付も再就職手当も出ません
45〜59歳で20年以上入っていた人は、会社都合なら330日、自己都合なら150日です。再就職手当があるので、早く再就職しても日数の差はお金として残ります。月給と年齢から日額・総額・振込日・再就職手当まで出す計算は、失業保険の計算の記事にまとめました。
5. 年代別:転職したとき、賃金は増えたか減ったか
年齢で変わるのは、失業給付だけではありません。次の仕事の賃金の上がり下がりも、年齢で大きく変わります。
| 年齢 | 増えた | うち1割以上 | 変わらない | 減った | うち1割以上 | 増えた−減った |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 25〜29歳 | 49.8% | 34.2% | 25.0% | 23.9% | 16.5% | +25.9 |
| 30〜34歳 | 48.6% | 32.8% | 20.8% | 29.0% | 19.0% | +19.6 |
| 35〜39歳 | 43.5% | 32.8% | 28.1% | 23.9% | 16.1% | +19.6 |
| 40〜44歳 | 44.9% | 29.9% | 24.6% | 27.4% | 17.6% | +17.5 |
| 45〜49歳 | 41.1% | 30.0% | 28.0% | 30.1% | 16.1% | +11.0 |
| 50〜54歳 | 29.4% | 18.4% | 26.7% | 42.0% | 28.3% | −12.6 |
| 55〜59歳 | 25.5% | 16.8% | 33.0% | 38.9% | 30.6% | −13.4 |
| 60〜64歳 | 21.1% | 11.0% | 24.2% | 54.3% | 47.6% | −33.2 |
出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」表6(転職入職者のうち前職が雇用者で、調査時に在籍している人。前職の賃金と比べた変化)
令和7年は、45〜49歳までは賃金が増えた人の方が多く、50〜54歳で減った人の方が多くなりました。年齢層ごとに別の人たちを集計した数字で、退職勧奨で辞めた人だけの数字ではありません。それでも、「最初の肩たたきが来たときの年齢による。若ければチャンスが、年齢が高ければチャンスはどんどん細くなる」という私の見方と、向きは同じです。45歳前後の転職の数字は45歳の転職の記事にまとめました。
6. 健康保険と年金:会社都合だと国民健康保険料が軽くなる
辞めてから次の会社に入るまでの間は、会社の健康保険と厚生年金から外れます。
- 国民健康保険:特定受給資格者と特定理由離職者は、前の年の給与所得を30/100として保険料を計算します。期間は、失業した時から翌年度末までです(厚生労働省)。30/100になるのは給与所得だけで、ほかの所得や家族の所得はそのままです。保険料の率は市区町村で違うので、届け出のときに窓口で額を確かめます
- 任意継続:辞める前の健康保険に最長2年続けて入れます(退職日の翌日から20日以内に手続き。会社負担分も自分で払う)。協会けんぽは、保険料の計算に使う標準報酬月額の上限が32万円(2026年度)で、40〜64歳は全国平均で月3万7,600円です。国民健康保険の軽減と比べて、安い方を選びます
- 国民年金:60歳未満は国民年金に入り、保険料は月1万7,920円です(2026年度)
- 厚生年金:入っていない期間の分だけ、将来の老齢厚生年金が減ります。2003年4月以降の分は、平均標準報酬額×1000分の5.481×月数です。賞与を含めて月50万円(年収600万円)の人が1年入らないと、受け取る年金が年およそ3.3万円減る目安です
7. 断って残ったら、どうなるか
私は、断って残っても、追い出し部屋のような仕打ちが待っているのではないかと考えています。いずれにしても不採算部門、低パフォーマンスと評価されていて、待遇が上がることはないと考えています。
断った人がその後何年いられたかを、私は調べました。公的な統計は見つかりませんでした。見つかったのは、次のことです。
- 会社が勧奨を繰り返すことはある:東京商工リサーチの集計では、2024年1〜9月に早期退職を募集した上場企業46社のうち、同じ年に複数回募集したのが3社でした(2023年は1社)。対象年齢の下限は30歳の会社もありました。46社のうち27社は直近の決算が黒字で、会社が赤字だから人を減らす、とは限りません
- 繰り返し方には法律の線がある:明確に断った後も執拗に繰り返した勧奨は違法とされた例があります(2章)
- 冷遇されて辞めても、会社都合になり得る:ハローワークは、特定受給資格者に「上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者」と、賃金が85%未満に下がった(本人が予見できなかった場合)ために辞めた人も入れています。仕事を外して別室に隔離するなどは、厚生労働省の指針でパワハラの例として挙げられています(窓際族の記事の5章)
- 解雇の後に労働局のあっせんで争った場合の数字:労働政策研究・研修機構が、令和5年度に4つの労働局で終わった解雇の「あっせん」485件を集計しています。合意できたのは37.1%で、42.7%は会社が参加しませんでした。合意した事案の解決金の中央値は23.5万円(月収の1.03か月分)、復職は2件です。あっせんだけの数字で、労働審判や裁判の金額ではありません。勤続1年未満が6割強、非正規が52.4%の集計なので、勤続の長い正社員にそのまま当てはまる数字でもありません
- 会社の都合で辞める人は、全体では少ない:令和7年の雇用動向調査で、「経営上の都合」などの事業所側の理由による離職率は0.9%でした。勧奨を断った人だけの数字ではありません
何年いられるかは、会社と部門によって違い、統計では決まりません。そこで、8章と計算機では、「1年後」「3年後」「5年後」「比べる年数の終わりまでいられる」の4つに自分で確率を置いて、期待値を出します。
8. 期待値で比べる:年代別の試算
8-1. 比べ方
今応じた場合と、断って残った場合に、これから比べる年数(10年。65歳までの方が短ければそこまで)の間に入るお金を比べます。
- 今応じる:退職金(会社都合)+上乗せ+失業給付+再就職手当+次の仕事の年収×(比べる年数−空白)−空白の間の健康保険・年金
- 断って残る:今の年収×いられる年数+退職金+(辞めた後の)失業給付+再就職手当+次の仕事の年収×残りの年数−空白の間の健康保険・年金
- 応じるなら最低いくらの上乗せが必要か(損益分岐点):(残る)−(上乗せなしで応じる)。いられる年数ごとに出して、自分で置いた確率で重みをつけたものが期待値です
給与は額面で比べていて、在職中に給与から引かれる税・社会保険料は引いていません。空白の間の健康保険料と国民年金保険料は、在職中なら給与から引かれていた分の代わりに自分で払う分として、比べる式に入れています。空白の間に厚生年金に入らない分の、将来の年金の減り方は、計算機で別に表示します(合計には入れていない)。残った場合に勤続で増える退職金は、計算機に1年あたりの額を入れると足します。損益分岐点は、これを下回ったら応じない線で、交渉で求める目標額ではありません。
8-2. 年代別の試算
令和7年賃金構造基本統計調査の年齢ごとの平均(男女計・学歴計、10人以上の民営事業所。毎月きまって支給する給与×12+年間賞与)を年収とし、新卒(22歳)から雇用保険に入っていたとして計算しました。空白は3か月、いられる年数は4つを同じ確率、残った後は会社都合で辞める、退職金は応じても残っても同じ額、としています。
| 年齢(例) | 年収 | 会社都合の日数・日額 | 3か月の空白で入らない給与 | 会社都合の失業給付+再就職手当 | 自己都合だと | 最低の上乗せ A | B | C |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 28歳(加入6年) | 448万円 | 120日・6,410円 | 112.0万円 | 53.2万円 | 48.2万円 | 40.0万円 | 0円(応じた方が155.0万円多い) | 55.0万円 |
| 32歳(10年) | 507万円 | 210日・6,622円 | 126.8万円 | 105.4万円 | 61.7万円 | 15.1万円 | 0円(205.6万円多い) | 32.1万円 |
| 42歳(20年) | 595万円 | 270日・6,744円 | 148.8万円 | 144.3万円 | 75.0万円 | 19.5万円 | 0円(239.5万円多い) | 39.4万円 |
| 47歳(25年) | 614万円 | 330日・6,823円 | 153.5万円 | 173.3万円 | 75.4万円 | 0円(0.8万円多い) | 0円(268.0万円多い) | 19.8万円 |
| 52歳(30年) | 634万円 | 330日・6,975円 | 158.5万円 | 174.5万円 | 76.2万円 | 0.2万円 | 0円(275.7万円多い) | 21.4万円 |
| 57歳(35年) | 641万円 | 330日・7,060円 | 160.3万円 | 175.2万円 | 76.7万円 | 0円(32.4万円多い) | 0円(216.2万円多い) | 52.2万円 |
| 62歳(40年) | 506万円 | 240日・5,431円 | 126.5万円 | 96.2万円 | 60.4万円 | 20.8万円 | 6.2万円 | 101.0万円 |
3.3%と、確率を25%ずつにしたことは、統計から出した数字ではなく、試算のための仮定です。A:次の年収は今と同じ、辞めるのが遅れても変わらない。B:次の年収は今と同じ、辞めるのが1年遅れるごとに次の年収が3.3%下がる(3年で約1割)。C:次の年収が今より1割低く、遅れるとさらに1年3.3%下がる。比べる年数は10年(57歳は8年、62歳は3年)。給与は額面で、税・社会保険料は引いていません。
読み方は3つです。
- 次の年収が今と同じで、遅れても条件が変わらないなら(A)、45〜59歳(47・52・57歳)は、応じても残ってもほとんど差がありません(0〜0.2万円)。会社都合の失業給付と再就職手当で、3か月分の給与がほぼ埋まるからです。28〜42歳と62歳は日数が短いので、15〜40万円の上乗せが最低ラインになります
- 辞めるのが遅れるほど条件が下がるなら(B)、上乗せがなくても、今応じた方が多くなります。差は年収の高い40〜50代で大きく、47歳で268万円です。5章の統計で、50〜54歳から賃金が減った人の方が多くなるのは、この向きです
- 今辞めると次の年収が1割下がるなら(C)、それを埋める上乗せが要ります。残っても後で同じように下がるので、10年の比較では20〜55万円程度です。62歳は比べる期間が3年と短く、101万円です
空白が3か月で済むとは限りません。47歳の例で、空白の月数を変えると次のとおりです。
| 空白 | 会社都合の失業給付+再就職手当 | 入らない給与 | 最低の上乗せ A | B |
|---|---|---|---|---|
| 3か月 | 173.2万円 | 153.5万円 | 0円(応じた方が0.8万円多い) | 0円(268.0万円多い) |
| 6か月 | 181.5万円 | 307.0万円 | 39.7万円 | 0円(216.1万円多い) |
| 12か月 | 224.9万円 | 614.0万円 | 113.9万円 | 0円(119.1万円多い) |
12か月では330日分を受け取り終わるので、再就職手当は出ません。空白が長くなるほど、Aでも上乗せが要ります。ただ、残った後に辞める場合も同じ長さの空白があると置いているので、空白の分の差は「10年いられる」場合にだけ出ます。
自分から辞めると、どの年代でも失業給付が減ります(47歳で3か月なら173.3万円と75.4万円)。断って残った後に自己都合で辞める前提にすると、Bの47歳では今応じた方が341.4万円多くなります。
8-3. 47歳の例で、期待値の出し方
Bの47歳では、いられる年数ごとの「最低の上乗せ」は、1年後に辞める場合−177.3万円、3年後−410.3万円、5年後−481.2万円、10年いられる場合−3.1万円でした(マイナスは、上乗せがなくても応じた方が多い額)。4つに25%ずつの確率を置くと、期待値は−268.0万円です。10年いられる確率を70%、ほかを10%ずつと置けば、期待値は−109.0万円です。いられると思う確率が高いほど、残る方に寄ります。
9. 応じるなら、会社に求めるもの
私が考える、応じる前に会社に求めるものは次の5つです。
- 割増金(上乗せ):最低ラインは、8章と計算機で、自分の数字で出します。公的な相場の統計は見つかりませんでした
- 会社都合の離職理由:離職票に「退職勧奨による離職」と書いてもらいます(3章)
- 有給の消化と退職日:残っている有給を使い切り、在籍している間に次の仕事を探します
- 再就職支援:会社の費用で再就職支援の会社を使えるか
- 次の職場への推薦状:会社都合の人員整理であり、本人の能力ではないと書いてもらう
推薦状は、法律で会社に出させられるものではないので、交渉で求めます。会社がその内容を認めなければ書いてもらえません。一方、退職証明書は法律で請求できます。辞めた人が請求すれば、会社は、使用期間・業務の種類・その事業での地位・賃金・退職の事由(解雇なら理由)を書いた証明書を遅滞なく出さなければならず、本人が請求しないことを書いてはいけません(労働基準法22条)。請求できるのは辞めてから2年です。東京労働局の退職証明書の様式には、退職の事由として「当社の勧奨による退職」があります。ただし、退職の事由で会社と本人の見方が違うときは、会社が自分の見方を書いて出せば足りるとされています(うその記載は認められません)。「勧奨による退職」と書かれた証明書は、次の職場に自分の都合で辞めたのではないと示す材料になります。
条件は口頭で済ませず、退職の合意書など書面で受け取ってから署名します。署名の前に、合意書の離職理由が「退職勧奨による」になっているか、ほかに何も請求しないという条項がないか、秘密保持や競業避止(同業に移らない約束)の条項がないかを確かめます。研究職・技術職は、競業避止の条項が次の仕事の選び方に関わります。
10. 私ならどう動くか
私なら、その場で答えずに持ち帰ります。そして、残る場合と応じる場合をAIに計算させて決めます。11章の計算機の結果の最後に、そのままAIに貼れる相談文を付けました。会社の規程の退職金、提示された上乗せ、住宅ローンや教育費を足して、場合ごとの合計と期待値を出させます。
退職金の平均と税金は退職金の平均の記事に、早期退職に応じた人のその後の年収は早期退職のその後の記事に書きました。
11. 計算機:応じるなら最低いくら必要か
年齢・雇用保険に入っていた期間・年収・毎月の給与と、自分で置く仮定(空白の月数、次の年収、遅れたときの下がり方、残った場合にいられる年数の確率)から、会社都合の失業給付と再就職手当、自己都合との差、いられる年数ごとの「最低の上乗せ」と、その期待値を出します。最後に、AIに貼る相談文を付けました。
退職勧奨:応じるなら最低いくら必要か(年代別の期待値)
入れた数字は、このページの中で計算に使うだけで、どこにも送られません。初めから入っている数字は、45〜49歳の平均(令和7年賃金構造基本統計調査)を使った入力の例です。自分の数字に置き換えてください。
断って残った場合、いつ辞めることになると思うか(確率。合計100%)
12. よくある質問
退職勧奨は自己都合ですか、会社都合ですか?
応じて辞めた場合、原則として雇用保険の特定受給資格者(会社都合と同じ扱い)です。前からある早期退職優遇制度に自分から応募した場合は当たりません。離職票に自己都合と書かれたら、ハローワークで異議を述べ、経緯を説明します。
退職勧奨は断れますか?違法になるのはどんなときですか?
断れます。承諾しなければ労働契約は終わりません。明確に断った後も執拗に繰り返す、約1時間その場で手続きを迫る、などは違法とされた裁判例があります(2章)。
退職勧奨を断るとどうなりますか?
何年いられるかの公的な統計はありません。私は、待遇が上がることはないと考えています。冷遇や85%未満への減給で辞めた場合も、特定受給資格者になり得ます(7章)。
一度応じたら撤回できますか?
会社の退職を受理する権限のある人に意思表示が届く前なら、撤回できる場合があります。うそや脅しで承諾させられた場合は、取り消せることがあります(2章)。
退職勧奨の上乗せ(割増金)の相場はいくらですか?
公的な相場の統計は見つかりませんでした。自分の最低ラインは、次の年収と、残った場合にいられる年数の見込みで決まります。8章の表と11章の計算機で出せます。
失業保険はいつから、どれくらいもらえますか?
会社都合なら、7日の待期の後から支給の対象になり、給付制限はありません。日数は年齢と加入期間で90〜330日、1日の額の上限は年齢で7,450〜9,110円です(4章)。
退職勧奨は何歳から来ますか?
個人に勧奨が来る年齢の公的な統計は見つかりませんでした。上場企業の早期退職の募集では、2024年1〜9月に、対象年齢の下限が30歳の会社もありました(東京商工リサーチ)。
13. まとめ
- 退職勧奨は「辞めてほしい」という申し込みで、応じる義務はない。署名はその場でしない
- 応じて辞めると、原則、特定受給資格者(会社都合と同じ扱い。最後はハローワークが判断)。45〜59歳・20年以上なら失業給付は330日で、自己都合の150日の2倍以上。国民健康保険料の軽減もある
- 断った後に何年いられるかの公的な統計はない。冷遇や大きな減給で辞めても、特定受給資格者になり得る
- 3か月で再就職でき、次の年収が今と同じなら、45〜59歳は応じても残ってもほぼ同じ。辞めるのが遅れると条件が下がるなら、今応じた方が多い(1年3.3%下がるという仮定で、47歳で10年268万円)
- 応じるなら、上乗せ・会社都合の離職理由・有給と退職日・再就職支援・推薦状を書面で。退職証明書は法律で請求できる
- 私なら、持ち帰ってAIに計算させて決める
14. 出典
- 厚生労働省「スタートアップ労働条件」Q&A「退職勧奨とはどのようなものでしょうか。」https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/qa/zigyonushi/kaiko/q8.html
- 厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A「退職勧奨後、離職票に自己都合退職と記載されました。対処法は?」https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/kaiko/q6.html
- 厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A「自己都合の退職の際、退職勤務証明書を請求できますか?方法は?」https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/kaiko/q9.html
- 東京労働局「退職証明書」(様式)https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/standard/relation/13.pdf
- 厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00235.html
- ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_range.html
- ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_benefitdays.html
- ハローワークインターネットサービス「基本手当について」https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html
- 厚生労働省「雇用保険の基本手当日額の変更 ~8月1日(土)から実施~」(2026年7月31日)https://www.mhlw.go.jp/content/11607000/001729233.pdf
- 厚生労働省「令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000160564_00045.html
- 愛知労働局(ハローワーク)「再就職手当について」https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-hellowork/content/contents/001247428.pdf
- ハローワークインターネットサービス「就職促進給付」(再就職手当)https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_stepup.html
- 厚生労働省「令和7(2025)年雇用動向調査結果の概況」表6、離職理由別離職率https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/26-2/dl/gaikyou.pdf
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」一般労働者 第1表(e-Stat)https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040420843&fileKind=4
- 厚生労働省「国民健康保険の保険料・保険税について」(非自発的失業者の軽減)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21517.html
- 協会けんぽ「任意継続」https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3270/
- 協会けんぽ「令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について」https://www.kyoukaikenpo.or.jp/news/r07_dec/1259.html
- 協会けんぽ「令和8年度保険料率のお知らせ」https://www.kyoukaikenpo.or.jp/lp/2026hokenryou/
- 日本年金機構「国民年金保険料」https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/hokenryo.html
- 日本年金機構「報酬比例部分」https://www.nenkin.go.jp/service/yougo/hagyo/hoshuhirei.html
- 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001701369.pdf
- 東京商工リサーチ「上場企業の『早期退職』募集 46社 人数は前年同期の約4倍 複数回募集が増加、対象年齢は30歳以上など引き下げ傾向」(2024年10月7日)https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198971_1527.html
- 労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書No.237 労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の分析」(2025年)https://www.jil.go.jp/institute/reports/2025/0237.html
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