過剰適応は、「まわりの期待や、場の空気に、合わせすぎて、自分の気持ちや欲求を、おさえこんでしまう」状態です。外から見ると、うまくやっています。手のかからない子、気がきく人、たのまれたら断らない人。内側では、自分が何をしたいのかが、分からなくなっていきます。
私は、全寮制の中学校に、入りました。人間関係がしんどくて、入学して3日で、やめたくなりました。親の考えで、3年間、つづけました。高校を出るときには、行きたい大学の夜間部があって、推薦の資格も、満たしていました。担任と、親に反対されて、進めませんでした。私は、2回、まわりに合わせました。3回目の、就職のときに、はじめて、合わせませんでした。
この記事では、意味と特徴を先に書いて、そのあとで、しくみ、チェックリスト、私の例、ゆるめ方、受診の目安を書きます。
1. 過剰適応とは
日本の臨床心理学で、よく使われてきた言葉です。適応には、2つの面が、あります。
| 意味 | 例 | |
|---|---|---|
| 外的適応 | まわりの環境や、人の期待に、合わせられていること | 学校や職場の決まりを守る。成績や成果を出す。人とうまくやる。 |
| 内的適応 | 自分の気持ちが、満たされていること | なっとくしている。自分でえらんだと、感じている。無理をしていない。 |
ふつうの適応は、この2つが、つり合っています。過剰適応は、外的適応を、がんばりすぎて、内的適応が、こわれている状態です。まわりから見ると、「よくできた人」です。ですので、本人も、まわりも、気づくのが、おくれます。
国内の研究では、過剰適応の傾向が強い中学生や大学生ほど、気分の落ちこみや、ストレスの反応が強い、という結果が、くり返し、報告されています。長くつづくと、ある日、急に、学校や会社に行けなくなる、という形で、表に出ることが、あります。
なお、「適応障害」は、医師が診断する、病名です。過剰適応は、性格や行動の傾向をさす言葉で、病名では、ありません。
1-1. 特徴
- たのまれると、断れない。断ったあとの相手の顔を、先に、想像してしまう。
- 自分の意見を言う前に、相手が何を言ってほしいかを、考える。
- 「どっちでもいい」「何でもいい」が、口ぐせ。本当に、どちらでもいいのか、自分でも、分からない。
- 人からの評価が、気になる。ほめられると安心するが、長くは、つづかない。
- 弱音を、はかない。つらいときほど、明るく、ふるまう。
- 休みの日に、何をしたいかが、思いうかばない。
- 家に帰ると、どっと、つかれる。1人になると、ほっとする。
1-2. チェックリスト
外側(まわりに、合わせる行動)
内側(自分を、おさえる状態)
外側:— 内側:—
読み方:—
これは、ふり返りのための、かんたんな道具です。研究で使われている正式な尺度では、ありません。診断の代わりにも、なりません。
2. なぜ、合わせすぎるのか
- 合わせると、うまくいった経験:子どものころ、親や先生の期待にこたえると、ほめられた。自分の気持ちを出すと、がっかりされた。この経験が重なると、「合わせる」が、いちばん安全な方法として、身につきます。
- えらぶ権利が、自分になかった:進路、住む場所、習いごと。大事なことを、自分で決めた経験が、少ない。決める練習を、していません。
- にげ場のない環境:寮、小さな地域、人数の少ない職場。人間関係を、えらべない場所では、合わせることが、生きのびる方法になります。まわりに合わせる力の強さは、同調圧力の記事に書きました。
- 日本の「空気を読む」文化:合わせることは、長所として、あつかわれます。ですので、止める人が、いません。
大事な点は、過剰適応は、その環境では、正しい作戦だった、ということです。弱さでは、ありません。問題は、環境が変わったあとも、同じ作戦を、つづけてしまうことです。
3. 私の例
3-1. 1回目:全寮制の中学校の、3年間
私は、中学受験をして、全寮制の学校に、入りました。受験した理由は、地元の中学校のトイレが、きたないのが、いやだったからです。深い考えは、ありませんでした。
入ってみると、人間関係が、しんどすぎました。入学して、3日で、やめたくなりました。寮は、にげ場が、ありません。教室でうまくいかなくても、帰る家が、別にあれば、切りかえられます。寮では、24時間、同じ顔ぶれです。いなかで、遊ぶ場所もないと、ささいなことで、小ぜり合いが、起きます。
やめたい、と思いました。親の考えで、3年間、つづけました。
得たものは、あります。自分のことを、ぜんぶ自分でやるくせが、つきました。これは、いまも、役に立っています。ただ、「やめたい」という気持ちは、3年間、通りませんでした。
3-2. 2回目:行きたかった大学に、進めなかった
高校も、塾にすすめられた学校でした。本当は、東京の学校に、行きたかったのです。
高校を出るとき、行きたい大学が、ありました。東京の理系の大学の、夜間部です。推薦の資格は、満たしていました。担任と、親に、反対されました。私は、そこに、進めませんでした。別の短大に入り、そこから、別の大学に、編入しました。
いまの私なら、まよわず、はじめに行きたかった大学を、えらびます。世の中の評価も、そちらのほうが、はっきり、高いと思います。これは、結果が悪かった、という話では、ありません。進んだ先でも、学べました。自分の進路なのに、決めたのが、自分ではなかった、という話です。1-2のチェックリストの、さいごの項目です。
3-3. 3回目:合わせなかった
大学3年のころ、私は、古本の転売を、はじめました。学費も、教科書代も、就活のスーツ代も、自分で、払えるようになりました。内定は、もらいました。でも、インターンで、自分が会社でやっていける気が、しませんでした。内定を、辞退しました。もう1度、就活をして、さいごの面接で、落ちました。そこで、就職への未練が、消えました。
「卒業したら、会社に入る」。これは、まわりのほぼ全員が、合わせている期待です。私は、ここで、はじめて、合わせませんでした。合わせなくても、やっていける手段を、先に、持っていたからです。この道を選んだことに、後悔は、ありません。
ふり返ると、1回目と2回目に、私が合わせたのは、性格が弱かったからでは、ありません。合わせない場合の、自分の足場が、なかったからです。中学生に、親の考えにそむいて、学校をやめる足場は、ありません。3回目に合わせずにすんだのは、自分でかせぐ、という足場が、できていたからです。この経過は、ヒーローズジャーニーとはの記事に書きました。
4. 過剰適応が、つづくと、どうなるか
- 自分の気持ちが、分からなくなる:おさえつづけた気持ちは、やがて、感じとれなくなります。「何がしたいの」と聞かれて、答えられません。
- つかれが、たまる:感じていることと、見せていることのずれは、それだけで、力を使います。このしくみは、感情労働とはに書きました。
- ある日、急に、動けなくなる:まわりから見ると、前ぶれが、ありません。本人の中では、長いあいだ、たまっていたものです。
- 仕事が、集まってくる:断らない人に、仕事は、集まります。評価は上がりますが、量が、ふえつづけます。
- やる気の土台が、けずられる:人が自分から動くには、「自分で決めている」という感覚が、必要です。くわしくは、自己決定理論とはに書きました。
5. ゆるめ方
- 小さいことを、自分で決める:昼に何を食べるか。休みの日に、どこへ行くか。「何でもいい」と言いそうになったら、どちらかを、えらびます。決める力は、小さい所から、もどします。
- 返事を、1回、持ち帰る:たのまれたら、その場で「はい」と言わずに、「確認して、あとで返事します」と言います。断る練習の前に、すぐ引き受けない練習を、します。
- 自分の気持ちを、書く:だれにも見せない紙に、「本当は、どう思ったか」を、書きます。おさえてきた気持ちは、書かないと、自分でも、見えません。
- 足場を、作る:私の例のとおり、合わせずにすむかどうかは、性格より、足場で、決まります。お金、技能、ほかの居場所。「ここをはなれても、やっていける」という手段が1つあるだけで、同じ場所にいても、合わせ方が、変わります。
- 合わせることを、ぜんぶ、やめようとしない:合わせる力は、長所です。問題は、量と、相手です。「この人には、合わせる。この件は、合わせない」を、自分で、えらべるようになるのが、目標です。
5-1. 親や、上司の立場の人へ
手のかからない子、文句を言わない部下は、うまくいっているとは、かぎりません。「どうしたい?」と聞いて、「どっちでもいい」が返ってくるなら、えらぶ機会を、小さい所から、わたしてください。大事な所を、自分でえらんだ、という実感は、あとから作りなおすのに、時間が、かかります。
6. 受診の目安
- 気分の落ちこみ、ねむれない、食べられない、が、2週間以上、つづいている。
- 朝、体が動かない。学校や会社に、行けない日が、出てきた。
- 理由もなく、涙が出る。
このような場合は、心療内科や、精神科、学校や職場の相談窓口に、相談してください。この記事に書いたのは、元気がある人向けの、工夫です。治療の代わりには、なりません。
7. まとめ
- 過剰適応は、まわりに合わせすぎて、自分の気持ちを、おさえこんでしまう状態です。病名では、ありません。
- 外的適応(まわりに合わせる)を、がんばりすぎて、内的適応(自分が満たされている)が、こわれています。
- 外から見ると、うまくやっている人なので、気づくのが、おくれます。
- その環境では、正しい作戦でした。弱さでは、ありません。
- 私は、全寮制の3年間と、進学先で、2回、まわりに合わせました。就職のときに、はじめて、合わせませんでした。ちがいは、性格ではなく、足場でした。
- ゆるめるには、小さいことを自分で決める、返事を持ち帰る、足場を作る、から、始めます。

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