役職定年がみじめになるのは、計算していない人|何歳で外れ、給料と退職金はどう減るか(人事院2025年調査・公務員・逆算の計算機つき)

役職定年はみじめ?給料1〜3割減、準備しないと危ない(住宅ローンと教育費を前に悩む50代の会社員) 生き方・キャリア

「役職定年 みじめ」「役職定年 つらい」「役職定年 給料」で調べて来られた方に、先に結論を書きます。

役職定年がみじめになるかどうかは、下がる額よりも、それを前もって家計の計算に入れていたかで決まります。私が話を聞いた人たちは、自分の会社の役職定年の年齢と減額を知っていました。ただ、計算はしていませんでした。人事院が2026年9月30日に公表した調査では、役職定年の制度がある会社は22.3%(従業員100人以上。500人以上は30.4%)です。年齢は、部長級なら60歳(28.0%)と55歳(25.5%)、課長級なら55歳(33.4%)が多くなっています。年収は「1〜3割減」が53%という民間の調査があります。自分が当てはまるか、何歳でいくら下がるかは、就業規則や賃金規程に書いてあり、会社にはそれを社員に周知する義務があります(労働基準法89条・106条)。その数字を、教育費・住宅ローン・退職金と一緒に年ごとに並べれば、足りる年と足りない年が分かります。この記事の計算機は、そのためのものです。

知りたいこと 答え 章
役職定年とは 決まった年齢で管理職から外れる、会社ごとの制度。民間には法律で決まった役職定年はなく、就業規則などで会社が決める。国家公務員・地方公務員は法律で決まっている 2章
何歳か 部長級は60歳28.0%・55歳25.5%・58歳16.5%・57歳15.5%。課長級は55歳33.4%・60歳27.3%(人事院、2025年調査) 2章
廃止されているか 制度がある会社の93.7%は「今後も継続」、6.3%が「廃止を検討」。50人以上の会社で制度がある割合は、2017年の16.4%から2025年の20.3%で、減ってはいない 2章
公務員は 管理職は60歳になった後の最初の4月1日までに降任。61歳になる年度から給料は7割。定年は2031年度に65歳まで上がる 3章
給料はどれだけ下がるか 民間の調査で「11〜30%減」が53%、「31〜50%減」が18%。統計の平均では55歳で下がらず、60歳で大きく下がる(大卒男性で約23%) 4章
退職金は減るか 計算の方式による。退職時の基本給に連動する方式なら減り方が大きい。多くの大企業が使うポイント制なら、減るのは役職定年の後に貯まる分だけ 5章
なぜみじめになるのか 収入が下がることを知っていても、計算していないから(相談を受けた人たちの話と、私の見方) 6章
何をすればいいか 社内の規定を読み、年齢・減額・退職金の方式・再雇用の年収を書き出して、年ごとに並べる。会社や部署がなくなる場合も入れる 7・8章

1. 先に、立場を書きます

私は会社員として役職定年を経験していません。大学を出たあと就職せず、中古品の売買で独立して20年近くになります。この記事は、経験談ではなく、相談を受けた人たちの話と、人事院・厚生労働省などの公的な資料で書いています。

この記事のために、私は次のように答えました。

50代で役職を外れた人(またはその手前の40代の管理職)と話したことはあるか 「ある(何人か)」
その人たちが一番困っていたこと 「収入が下がること」
その人たちは、自分の会社の役職定年の年齢と減額を前もって知っていたか 「知っていたが計算していない」
役職定年がみじめに感じられる原因 「準備がないから」
読者に示す次の手 「役職定年に自分が該当するのかは社内規定を読めばわかる。なのでそこから逆算して人生設計をすればよいだけ。それをやらないで身の丈にあった生活をしないから詰んでしまう」
「身の丈にあった生活」とは 「ダブルインカムかつ役職定年なしという前提で住宅購入や自動車購入をしている。資産運用もオルカン中心などリスクを取ってないので負けないが増えない。これだと未来のリスクをカバーできない」
足りないと分かったら 「AIを使って自分の既定路線が成立するかシュミレートを一度やらないとダメ。現状分析をしてそこから対策を考える。そもそも数年後に自分の会社や部署が消える可能性があり、それを考慮している人はどれだけいるのか」

相談を受けた人の数や職種は、本人が特定されないように書きません。人数が少ないので、「役職定年を迎える人の多くがそうだ」とは言えません。それを補うために、2章からは公的な調査の数字を並べます。

2. 役職定年とは何か、何歳か(人事院の調査)

2-1. 役職定年とは

役職定年は、部長・課長などの管理職を、決まった年齢で外れる制度です。会社を辞めるわけではなく、給料は下がっても雇用は続きます。

民間の会社には、役職定年を決めた法律はありません。法律が決めているのは定年のほうで、定年を定めるなら60歳を下回ってはいけません(高年齢者雇用安定法8条)。役職定年を置くかどうか、何歳にするか、給料をどれだけ下げるかは、会社が就業規則や賃金規程で決めます。公務員は法律で決まっています(3章)。

2-2. 制度がある会社はどれくらいか

人事院は、国家公務員の勤務条件を決める材料として、民間企業の制度を毎年調べています。2026年9月30日に公表された2025年の調査(事務・技術系の社員がいる会社)の数字です。

会社の規模 役職定年制がある そのうち「今後も継続」 そのうち「廃止を検討」
100人以上(全体) 22.3% 93.7% 6.3%
500人以上 30.4% 94.1% 5.9%
1,000人以上 31.2% 98.1% 1.9%
5,000人以上 27.9% 95.7% 4.3%
100人以上500人未満 20.4% 93.6% 6.4%
50人以上100人未満 16.6% 94.4% 5.6%

出典:人事院「令和7年民間企業の勤務条件制度等調査」第7-1表

大きい会社ほど制度がある割合は高く、それでも3割前後です。100人以上の会社の77.3%には役職定年がありません。だから最初にやることは、自分の会社に制度があるかを確かめることです(7章)。

2-3. 何歳で外れるか

同じ調査の、役職定年の年齢です(部長級・課長級に役職定年がある会社、100人以上)。

年齢 部長級 課長級
54歳以下 0.3% 3.4%
55歳 25.5% 33.4%
56歳 4.4% 7.7%
57歳 15.5% 11.6%
58歳 16.5% 8.8%
59歳 4.9% 3.1%
60歳 28.0% 27.3%
61歳以上 4.4% 3.9%
不明 0.4% 0.8%

出典:人事院「令和7年民間企業の勤務条件制度等調査」第8-1表・第8-5表(端数の都合で合計は100%にならないことがあります)

「55歳」と「60歳」の二つの山があります。課長級は55歳が一番多く、部長級は60歳と55歳がほぼ並びます。「なぜ55歳なのか」は、かつての定年の名残と説明されることがありますが、この記事では公的な資料で確かめられなかったので、理由は書きません。

2-4. 外れたあとは、どこへ行くか

役職定年のあとの配置 部長級 課長級
同格のスタッフ職(部下を持たない専門職など) 43.1% 42.9%
格下のスタッフ職 32.9% 33.9%
格下のライン職(部下を持つ下の役職) 9.5% 8.8%
出向・転籍 0.5% 0.1%
その他 13.8% 14.2%

出典:人事院「令和7年民間企業の勤務条件制度等調査」第9-1表・第9-5表(100人以上)

多いのは、部下を持たないスタッフ職になる形です。ダイヤモンド編集部のアンケート(2022年、有効回答211件)でも、役職定年のあとも「同じ部署で同じ仕事を続ける」会社が46%で一番多くなっていました。「部下がいなくなり、同じ席で、同じ仕事を、安い給料で続ける」が、典型的な姿です。

2-5. 役職定年は廃止されているのか

「役職定年の廃止が相次ぐ」という記事は多いのですが、人事院の数字で見ると、減ってはいません。

項目 数字 出典
役職定年制がある会社(50人以上) 2017年 16.4% → 2025年 20.3% 人事院 2017年調査 表13、2025年調査 第7-1表
役職定年制がある会社(500人以上) 2017年 30.7% → 2025年 30.4% 同上
制度がある会社のうち「廃止を検討」 6.3%(100人以上) 2025年調査 第7-1表
制度がない会社のうち「導入を検討中」 7.6%(100人以上) 同上
会社の数に直すと(推計値、100人以上) 廃止を検討 414社、導入を検討中 1,727社 同上
廃止した会社が廃止した年 2014年以前 28.4%、2020〜2023年に計39.7%(各年9〜11%) 2023年調査 第8-1表

廃止した会社に廃止した年を聞くと、2020〜2023年が合わせて39.7%で、最近の廃止が多いことは分かります。ただ、これは廃止した会社の中での内訳で、全体の会社のうち毎年何%が廃止しているかではありません。6.3%と7.6%も分母が違う(制度がある会社と、ない会社)ので、会社の数に直しました。導入を検討している会社のほうが4倍ほど多くなります。2017年と2025年の比較も、調査の年で選ばれた会社が違うので目安ですが、少なくとも「制度が減っている」という数字は見当たりませんでした。「自分の会社もそのうち廃止される」と期待して計算を先延ばしにするより、今の規定で計算しておくほうが確実です。規定が変われば、計算をやり直せばいいだけです。

3. 公務員の役職定年

国家公務員は、2023年4月から定年が段階的に引き上げられ、同時に役職定年(法律上の名前は「管理監督職勤務上限年齢制」)が入りました。地方公務員も、条例で国に準じた形になっています。

項目 国家公務員 地方公務員
役職定年の年齢 管理監督職(管理職手当が出る官職など)にいる人は、60歳になった日の後の最初の4月1日までに、管理監督職以外の官職に降任などをする 条例で定める。原則60歳(職務によっては61〜64歳や適用除外もある)
例外 公務の運営に著しい支障が出る場合は、特例で管理職を続けられる 特例任用は最長3年(一部は最長5年)
60歳を過ぎたあとの給料 61歳になる年度から、俸給月額が60歳前の7割(当分の間)。期末・勤勉手当なども7割、扶養手当・住居手当などは7割にならない 60歳になった後の最初の4月1日から、給料月額が7割(当分の間)
退職手当 国家・地方とも、60歳以後に定年前に辞めても、定年退職と同じ扱いで計算する(当分の間)。7割になったり降任したりして下がった月額ではなく、下がる前の最高額を考慮して計算する「ピーク時特例」がある

出典:人事院「定年・役職定年・再任用」、人事院・内閣官房内閣人事局「国家公務員の60歳以降の働き方について(概要)」(2026年4月)、総務省「地方公務員法の一部を改正する法律について(地方公務員の定年引上げ関係)」

国家公務員の定年は、2年ごとに1歳ずつ上がります。

年度 定年
2022年度まで 60歳
2023〜2024年度 61歳
2025〜2026年度 62歳
2027〜2028年度 63歳
2029〜2030年度 64歳
2031年度から 65歳

出典:人事院・内閣官房内閣人事局「国家公務員の60歳以降の働き方について(概要)」

公務員は、制度が法律と条例で公開されていて、年齢も減り方(7割)も先に分かります。民間より計算しやすい立場です。それでも、60歳からの7割と、役職を外れる分の差は、教育費やローンが残っている家ではそのまま効きます。

4. 給料はどれだけ下がるか

4-1. 民間の調査では「1〜3割減」が最も多い

役職定年でどれだけ下がるかを、公的な統計で直接調べたものは見つかりませんでした。民間の調査の数字です。

調査 結果
ダイヤモンド編集部のアンケート(2022年6〜7月、インターネット調査、有効回答211件) 役職定年による年収の減り方は「11〜30%減」が53%で最多、「31〜50%減」が18%
リクルートマネジメントソリューションズ「ポストオフ経験に関する意識調査」(2021年3月、50〜64歳で役職を外れた経験がある正社員766人) 役職を外れて「賃金が減った」が82.8%

どちらも回答者を選んで聞いた調査で、全体の平均ではありません。それでも、役職を外れれば多くの人の年収が下がり、2割前後の減少がよくある幅だと分かります。

4-2. 統計の平均では、55歳では下がらず、60歳で下がる

厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2025年)で、大学卒の男性の月の賃金(所定内給与。残業代とボーナスは含まない)を年齢別に並べます。

年齢 大学卒の男性 大学卒の男女計
45〜49歳 49.1万円 45.8万円
50〜54歳 52.9万円 49.5万円
55〜59歳 55.6万円 52.9万円
60〜64歳 43.0万円(55〜59歳から−22.6%) 42.0万円(−20.6%)
65〜69歳 37.8万円 36.8万円

出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」第3表

平均では、55〜59歳が一番高くなっています。役職定年がない会社が8割近くあり、管理職でない人も平均に入るからです。全体で大きく下がるのは60歳、つまり定年と再雇用のところです。役職定年がある会社の管理職は、この60歳の崖の前に、もう一段の崖があることになります。

役職別の平均も見ておきます(2025年、男性)。部長級は月64.2万円(平均53.1歳)、課長級は54.1万円(49.5歳)、係長級は41.1万円(45.3歳)、役職のない人は33.2万円(42.1歳)です(同調査 第8表)。役職を外れて、すぐに役職のない人の水準まで下がるわけではありませんが、管理職の給料には役職の分が乗っていることが分かります。

4-3. 定年後の再雇用では、定年前の4〜6割が多い

日経ビジネスのアンケート(実施は日経BPコンサルティング、2021年1月、40〜74歳の2,368人)では、定年後に再雇用された人の年収は、「定年前の6割程度」が20.2%で最多、「5割程度」が19.6%、「4割程度」が13.6%でした。合わせて53.4%です。定年前と同じかそれ以上は1割に満たない結果でした。

60歳以上65歳未満で、雇用保険に5年以上入っていて、賃金が60歳時点の75%未満に下がった人には、雇用保険の高年齢雇用継続給付があります(判定は月ごとの賃金で行います)。2025年4月1日以降に60歳になる人は、賃金が60歳時点の64%以下なら、その月の賃金の10%が支給され、64%を超えて75%未満なら、それより少なくなります。賃金が397,369円を超える月は支給されません(この額は毎年8月1日に変わります)。この記事の計算機には、この給付は入れていません。

5. 退職金はどうなるか

役職定年で退職金が減るかどうかは、退職金の計算の方式で変わります。

方式 役職定年の影響
退職時の基本給に連動する方式(退職時の基本給×勤続年数ごとの率) 役職定年で基本給が下がると、退職金の全体が下がる。2割下がれば、退職金も2割近く下がる
ポイント制(毎年、等級や役職に応じた点を貯め、点×単価で払う) 役職定年までに貯めた点は減らない。減るのは、役職定年の後に毎年貯まる点だけ
別テーブル方式(基本給とは別の、退職金のための金額表を使う) 役職定年でその表の等級が下がるかどうかで変わる

中央労働委員会の調査(2023年、資本金5億円以上・従業員1,000人以上の企業が中心)では、退職一時金の計算に「退職時の賃金」を使う会社は16.1%で、それ以外が86.0%(複数の方式を組み合わせる会社があるので、合計は100%を超えます)、それ以外のうち78.0%がポイント方式、17.9%が別テーブル方式でした。大きい会社では、基本給に連動する方式は少数です。ただし、自分の会社がどれかは、退職金規程を見ないと分かりません。

会社から退職金の見込み額の通知を受けている場合は、それが役職定年の減額を入れた額かどうかを確かめてください。計算機の「退職金の見込み」には、減額を入れる前の額を入れます。入れたあとの額を入れると、減額を二重に引くことになります。

退職金の大きさも、目安だけ置いておきます。厚生労働省の就労条件総合調査(2023年)では、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で定年退職した人の平均は1,896万円、勤続35年以上なら2,037万円でした(一時金と年金の合計)。計算機の最初の数字には、この1,896万円を入れています。

公務員は、7割になったり降任したりして月額が下がっても、下がる前の最高額を考慮して計算する「ピーク時特例」があります(3章)。

6. なぜ「みじめ」になるのか

6-1. 相談に来た人たちは、知っていたが計算していなかった

私が話を聞いた人たちが一番困っていたのは、「収入が下がること」でした。そして、その人たちは自分の会社の役職定年の年齢と減額を「知っていたが計算していない」状態でした。

知らなかったのではありません。55歳で外れることも、2割前後下がることも、知っていました。それなのに、その年に上の子の大学が重なること、住宅ローンが60歳を過ぎても残ること、配偶者の収入をずっと当てにしていたことは、一つの表に並べていませんでした。だから、外れた年になって初めて、足りない額が目の前に出てきます。

6-2. 調査で見ると、気持ちの落ち込みは長く続く

4章のリクルートマネジメントソリューションズの調査では、役職を外れたあとに意欲が「一度下がった」人が6割近くいて、そのうち「下がったまま」が4割前後、「一度下がって上がった」が2割前後でした。「周囲からの期待が下がった」と感じた人は56.1%です。

「みじめ」と感じるのは、お金だけが理由ではありません。長く積み上げてきた仕事の裁量や、部下や、会議の席を失うことのつらさは、計算では消えません。ただ、その気持ちにお金の不安が重なると、立て直すのはさらに難しくなります。お金の計算が先に済んでいれば、少なくとも生活の不安だけは切り離して考えられます。

6-3. 私の見方:身の丈に合っていない計画が詰む

私は「みじめになる原因」を「準備がないから」だと考えています。もう少し具体的に言うと、こうです。

「ダブルインカムかつ役職定年なしという前提で住宅購入や自動車購入をしている。資産運用もオルカン中心などリスクを取ってないので負けないが増えない。これだと未来のリスクをカバーできない」

これは、家を買ったときの判断が間違っていたという話ではありません。買ったときの前提(共働きが続く、役職定年がない)が変わったときに、どこから崩れるかを先に知っておく、という話です。前半は、8章の計算機ではっきり見えます。例の家族で、配偶者の収入(手取り年150万円)がなかったとすると、役職定年がなくても、53歳ごろから貯蓄が足りなくなり、70歳の終わりには−2,139.5万円になる計算でした。家と車と教育費の計画が、二人分の収入を前提にできているということです。

後半の運用の話は、私の考えです。全世界の株式に広く分散する投資信託(オルカン)も株式なので、元本割れも大きな下落もあります。私の言う「リスクを取っていない」は、もっと値動きの大きいものと比べての話です。値動きの大きいものを選べば、増える年も大きいですが、下がる年も大きくなります。年率7%が毎年続く前提で生活の計画を立てることはできません。どちらが合うかは、年齢と、下がったときに売らずに持てるかで変わります。この記事では、どれかをすすめることはしません。計算機の「想定する年率」を変えて、年率が違うと結果がどれだけ動くかを見てください(8章)。

7. 社内の規定から逆算する

7-1. 読む規定と、書き出す6項目

常時10人以上の社員がいる会社は、就業規則を作って労働基準監督署に届け出なければならず、そこには賃金の決め方・昇給と、退職手当(退職金の制度がある場合)の決め方を書く決まりです(労働基準法89条)。そして会社は、就業規則を社員に周知しなければなりません(同106条)。役職定年の年齢と、外れたあとの給料の決め方は、多くの場合、就業規則か、その一部の賃金規程・役職規程・退職金規程にあります。

書き出すのは、次の6つです。

項目 どこに書いてあるか(多い例) 計算機の欄
①自分の役職に役職定年があるか 就業規則、役職規程 役職定年 ある/ない
②何歳で外れるか(誕生日か、年度末か) 同上 役職定年の年齢
③外れたあとの給料(役職手当がなくなる、等級が下がる、など) 賃金規程 役職定年のあとの年収
④定年の年齢と、再雇用の給料 就業規則、再雇用規程 定年の年齢、再雇用のあとの年収
⑤退職金の計算の方式と、見込み額 退職金規程 退職金の見込み、計算の方式
⑥企業年金の有無と、受け取り方 退職金規程、企業年金規約 (一時金で受け取るなら退職金に足す)

規定で決まるのは、年齢、対象の役職、減額の決め方、退職金の方式までです。外れたあとの等級や賞与は、評価や配置で変わることがあり、規定を読んでも1つの金額には決まらないことが多いと思います。今の給与明細から役職手当がなくなる分は、減り方の最低限です。等級が下がれば、基本給や賞与もさらに下がります。分からない部分は、2割減・3割減のように2〜3通りを計算機に入れて、幅で見てください。

7-2. 会社や部署がなくなる前提も入れる

規定の数字は、会社と部署が続く前提の数字です。私はこう考えています。

「そもそも数年後に自分の会社や部署が消える可能性があり、それを考慮している人はどれだけいるのか」

東京商工リサーチの調べでは、2025年に早期・希望退職を募集した上場企業は43社、募集人数は1万7,875人でした(2026年2月5日に三菱電機の約4,700人を加えた数字)。そのうち29社(67.4%)は直近の決算が黒字の会社で、募集人数の85.0%を占めます。業種では電気機器が18社で最も多くなっています。業績が悪い会社だけの話ではありません。

そこで、8章の計算機には「会社を離れる年齢」と「離れたあとの年収」の欄を入れました。空欄なら、規定どおりに定年まで勤める計算になります。

7-3. AIに「既定路線」を試算させる

私は、足りないと分かった人に、まずこれを勧めます。

「AIを使って自分の既定路線が成立するかシュミレートを一度やらないとダメ。現状分析をしてそこから対策を考える。」

8章の計算機で全体の形をつかんだら、ChatGPTやClaudeなどのAIに、規定の文面と自分の数字を渡して、計算機に入っていないもの(税と社会保険料、年金、企業年金の受け取り方、高年齢雇用継続給付)まで含めて試算させると、抜けが見つかります。渡す文面の例です(名前や会社名は入れないでください)。

AIに渡す文面の例 私は45歳、年収(額面)800万円の会社員です。会社の規定では、55歳で役職定年になり、基本給が月○万円、役職手当○万円がなくなります。60歳定年で、再雇用の給与は○○です。退職金規程は○○方式で、見込みは○万円です。配偶者の手取りは年○万円です。住宅ローンは年○万円で○歳に完済、子どもは○歳と○歳で、進学先は○○の予定です。貯蓄と投資は○万円です。①65歳までの年ごとの手取りと支出の表を作り、足りなくなる年を示してください。②税と社会保険料、高年齢雇用継続給付、年金を入れてください。③会社が○歳でなくなり、年収が○割になった場合も計算してください。④前提にしている数字と、確かめるべき点を最後に列挙してください。

AIの計算は間違えることがあります。出てきた数字は、8章の計算機と並べて、大きく違うところは理由を確かめてください。

8. 役職定年から逆算する計算機

自分の数字を入れて、計算する最後の年齢(最初は住宅ローンを払い終える70歳)までの、年ごとの手取りと支出、貯蓄・運用の残高を出します。「役職定年がなく、会社も離れない」と仮定した場合との差も出ます。年金の見込み額と、運用が途中で下がる場合も入れられます。残高は、税を引いたあとの手取りで足し引きした概算で、退職金は税を引く前の額をそのまま足しています(勤続37年なら退職所得控除が1,990万円あるので、例の額なら税はかかりません)。

役職定年から逆算する計算機

最初に入っている数字は、45歳・年収800万円の管理職で、55歳に役職定年(年収2割減)、60歳定年・65歳になるまで再雇用(定年前の6割)、子ども2人、住宅ローンは70歳完済という例です。年齢・減額・退職金は、社内の規定(就業規則・賃金規程・退職金規程)の数字に置きかえてから「計算する」を押してください。

あなたの収入

下がらない支出

子ども(年齢が空欄の行は計算に入りません)

退職金と貯蓄

8-1. 例の家族で計算すると

最初に入っている例(45歳・年収800万円・手取りの割合75%、55歳で役職定年・年収2割減、60歳定年・再雇用は定年前の6割で65歳になるまで。配偶者の手取り年150万円があなたが65歳になるまで、年金は世帯で年285万円を65歳から、生活費年360万円、住宅ローン年150万円で70歳完済、400万円の車を10年ごとに買い替え、子どもは12歳と9歳、退職金はポイント制で1,896万円、貯蓄と運用600万円・年率3%)の結果です。年金の285万円は、厚生労働省・日本年金機構が示す2026年度の標準的な夫婦の年金額(月237,279円)の12か月分です。ほかの数字は平均ではなく、計算の形を見せるための仮の数字です。

条件 70歳の終わりの残高 そのほか
例のまま(規定どおり) 1,266.0万円 65歳になる時点では2,370.2万円。教育費の山は54歳(年459.5万円)で、貯蓄は57歳に569.4万円まで減り、60歳の退職金で戻る。65歳からは年金だけで、ローンと車が続くので毎年265.0万円ずつ減る
役職定年がなかったら 2,673.2万円 差は1,407.2万円(再雇用の年収が、下がったあとの年収を基準に決まる分も含む)
役職定年の減額が3割 562.5万円 減額が2割と3割で、70歳の残高は703.5万円違う
退職金が基本給に連動する方式 825.3万円 退職金が379.2万円減る(ポイント制なら51.2万円)
配偶者の収入が、あなたが50歳になるまで −2,065.2万円 55歳で貯蓄がなくなる
配偶者の収入がない −3,546.6万円 53歳で貯蓄がなくなる。役職定年がなくても−2,139.5万円
52歳で部署がなくなり、年収が今の7割の仕事に移る 751.4万円 退職金は勤続年数の割合で減らした(自己都合の減額は入れていない)
同じく、年収が今の5割 −1,486.4万円 65歳で貯蓄がなくなる
子ども2人とも国立・自宅(中学・高校は同じ) 2,651.3万円 例のまま(私立・自宅と私立・下宿)より1,385.3万円多い
子ども2人ともZEN大学(同上) 3,036.5万円 例のままより1,770.5万円多い。ZEN大学は学費に自宅の生活費の目安を足して比べた
車を持たない 2,808.2万円 年40万円(400万円÷10年)が、26年で1,542.2万円の差になる
年率0%(預金だけ) 149.0万円 年率は毎年一定の仮定。年率の高いものほど、下がる年の下がり方も大きい
年率5% 2,596.0万円
年率7% 4,712.1万円
年率3%で、55歳の初めに運用が3割下がる 758.0万円 役職定年の年に下がった場合
年率3%で、61歳の初めに運用が3割下がる 249.1万円 退職金を受け取った直後に下がった場合。同じ3割でも、残高が大きいときに下がるほど効く
年率7%で、61歳の初めに運用が3割下がる 2,550.9万円 年率7%が続いた場合(4,712.1万円)から2,161.2万円減る

この例で目立つのは、三つです。一つ目は、役職定年の55歳から57歳に、下の子の大学(私立・下宿)が重なり、貯蓄が退職金の前に大きく減ることです。二つ目は、60歳からの再雇用で年収が下がり、65歳からは年金だけになっても、住宅ローンは70歳まで続くことです。三つ目は、配偶者の収入がないと、役職定年がなくても計画が回らないことです。「役職定年なし・共働き」を前提にした家と車の計画は、その前提が一つ外れるだけで崩れます。

9. 足りないと分かったら

計算して足りない年が出たら、打てる手は、支出を下げるか、収入を足すか、その両方です。どれにも弱いところがあります。

手 中身 弱いところ
住宅ローン 繰り上げ返済で完済の年齢を役職定年や定年の前に寄せる。借り換え 手元の現金が減る。金利が低いローンを急いで返すと、運用で増やす機会を失うこともある
車 買い替えの間隔を延ばす、台数を減らす、持たない 住む場所によっては車が要る
教育費 私立を前提にしない。大学はZEN大学や国公立を基準に置き、給付型の奨学金を調べる(給付型奨学金の記事) 進学先を決めるのは子ども。費用だけで決めることはできない
配偶者の収入 いつまで、いくら入るかを、配偶者と確かめて計算に入れる 健康や介護で変わる。当てにしすぎると、6-3の形になる
社内に残る 役職定年のあとも、専門の仕事で評価される道を社内で探す。制度によっては再雇用の条件が良くなる 会社と部署が続くことが前提(7-2)
役職定年を待たずに降りる 自分で時期を選んで役職を降りる。管理監督者でなくなれば残業代がつくこともある(管理職を降りたいときの記事) 会社に受け入れる義務はない。給料は下がることが多い
会社の外の収入 今の会社以外にも、自分の仕事にお金を払う相手を作る。転職、副業、独立 時間がかかる。副業は会社の規定で禁止されていることがある
運用 年率の想定を変えて計算し直す(6-3) 年率は約束されない。下がる年に、教育費や再雇用の年が重なると苦しい

例の家族では、教育費と車の差が大きく出ました。子ども2人の大学を国立・自宅にすると70歳の終わりの残高が1,385.3万円、ZEN大学にすると1,770.5万円、車を持たないと1,542.2万円変わります(8-1)。ただ、進学先は子どもが決めることで、費用だけで選ぶものではありません。ZEN大学の学費や、所得制限なしで併用できる給付型奨学金は、給付型奨学金はNISAで外れる?資産基準と併用できる組み合わせにまとめています。

10. よくある質問

役職定年は何歳ですか?

会社によります。人事院の2025年の調査では、部長級は60歳(28.0%)と55歳(25.5%)、課長級は55歳(33.4%)と60歳(27.3%)が多くなっています。自分の会社の年齢は、就業規則や役職規程で確かめてください。

役職定年はみじめですか?

気持ちの落ち込みは多くの人に起きます。役職を外れたあと、意欲が一度下がった人は6割近く、下がったままの人は4割前後という調査があります。ただ、お金の計算を前もって済ませておけば、少なくとも生活の不安は小さくできます。私が話を聞いた人たちは、減額を知っていたのに計算していませんでした。

役職定年で給料はいくら下がりますか?

民間の調査では「11〜30%減」が53%で最も多く、「31〜50%減」が18%でした。自分の会社の減り方は、賃金規程(役職手当や等級の決め方)で確かめてください。

役職定年で退職金は減りますか?

方式によります。退職時の基本給に連動する方式なら全体が下がり、ポイント制なら役職定年の後に貯まる点だけが減ります。大企業が中心の調査では、退職時の賃金を使わない方式が86.0%で、そのうち78.0%がポイント方式でした。

公務員にも役職定年はありますか?

あります。国家公務員は、60歳になった日の後の最初の4月1日までに管理職以外に降任し、61歳になる年度から俸給は7割になります。地方公務員も、条例で原則60歳です。

役職定年は廃止されているのですか?

廃止した会社は2020年以降に増えていますが、制度がある会社の割合は減っていません。50人以上の会社では、2017年の16.4%から2025年の20.3%です。制度がある会社の93.7%は「今後も継続」と答えています。

55歳の役職定年はなぜ多いのですか?

理由を示す公的な資料は見つけられませんでした。確かめられたのは、課長級では55歳が33.4%で一番多いことです。部長級では60歳と55歳がほぼ並んでいます。

役職定年後に転職するべきですか?

この記事では、どちらもすすめません。転職すると、役職定年はなくなっても、年収や退職金の条件は変わります。計算機の「会社を離れる年齢」と「離れたあとの年収」に数字を入れて、残る場合と比べてから決めてください。

役職定年がない会社なら安心ですか?

役職定年がなくても、60歳の定年と再雇用で年収は大きく下がります(統計の平均で約2割、再雇用の調査では4〜6割になる人が過半)。計算機で「役職定年 ない」を選んでも、60歳以降の不足は出ます。

計算機の手取りはどう決めればいいですか?

1年分の給与の振込額の合計を、源泉徴収票の支払金額で割ると、手取りの割合が出ます。年収が下がると割合は少し上がるので、この計算機は手取りの減り方をやや大きめに出します。

11. まとめ

  • 役職定年がある会社は22.3%(100人以上)。年齢は課長級で55歳、部長級で60歳と55歳が多い(人事院、2026年9月公表)
  • 制度がある会社の93.7%は継続の予定で、制度の割合は2017年から減っていない
  • 年収は「1〜3割減」が多い(民間の調査)。統計の平均では、大きく下がるのは60歳の定年・再雇用のところ
  • 退職金は、基本給に連動する方式なら大きく減り、ポイント制なら減り方は小さい
  • 公務員は60歳で役職を外れ、61歳の年度から7割。定年は2031年度に65歳
  • 私が話を聞いた人たちは、減額を「知っていたが計算していない」。みじめになるのは準備がないから、というのが私の見方
  • 就業規則・賃金規程・退職金規程から6項目を書き出し、計算機で年ごとに並べる。会社や部署がなくなる場合も入れる
  • 共働きと役職定年なしを前提にした家・車・教育費の計画は、前提が一つ外れると崩れる。下げ幅が大きいのは教育費

12. 参考資料

13. あわせて読む

14. この記事について

書いた人 中古品の売買を20年近く続けている古物商。会社員として役職定年を経験したことはない
一次情報 50代で役職を外れた人、その手前の管理職から受けた相談(人数・職種は特定を避けるため書いていない)。本人の回答は1章の表のとおり
確かめた日 2026年10月10日(日本年金機構の2026年度の年金額、国税庁の退職所得控除、人事院の民間企業の勤務条件制度等調査・定年と役職定年のページ、国家公務員の60歳以降の働き方、総務省の地方公務員の定年引上げ、厚生労働省の賃金構造基本統計調査・就労条件総合調査・高年齢雇用継続給付、中央労働委員会の退職金調査、労働基準法・高年齢者雇用安定法、文部科学省の子供の学習費調査、JASSOの学生生活調査、東京商工リサーチの早期・希望退職の調査、ダイヤモンド・日経ビジネス・リクルートマネジメントソリューションズの調査の概要)
計算機 年ごとの手取りと支出の差を、貯蓄・運用の残高に足し引きする単純な計算。税・社会保険料は「手取りの割合」で概算し、年金は入力した額をそのまま足す。高年齢雇用継続給付は入れていない
校閲 公開前にChatGPTに反論の形で校閲させ、確かめられた指摘(配偶者の収入の期間、退職金の方式と二重計上、人事院の数字の比べ方、高年齢雇用継続給付の条件、ZEN大学の比較の条件、運用の下落)を直した

 

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