私が就職活動をしていた頃、「SE35歳定年説」という言葉がありました。技術の変化についていくのが大変で、体力的にも厳しいので、35歳を過ぎるとプレイヤーとしては続かない、という趣旨だったと記憶しています。それから20年ほど経って、「システムエンジニア やめとけ」という検索語が残っています。
先に立場を書きます。私はシステムエンジニアではありません。会社員をしたこともなく、20年間、中古品を直して売る仕事をしてきた人間です。だからSEの現場の感想は書けませんし、書きません。この記事でやるのは、「やめとけ」と言われる理由が公的な統計にどう残っているかを確認し、そのうえで、統計が示している出口を数字で並べることです。
結論を先に3つ置きます。ひとつ、プレイヤーとしてのSEの年収は45〜49歳で止まり、その後は横ばいです。ふたつ、その上の椅子(設計者・コンサルタント)は人数で見て6人に1人しかありません。みっつ、ただしSEには他の職種にない第三の出口があり、その損益分岐は月単価80万円です。移住の計算は後半で、43道府県を全部並べます。
1. 「やめとけ」は統計上、3つの数字に分解できる
厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査から、「ソフトウェア作成者」と「システムコンサルタント・設計者」を年齢階級別に並べます。前提は、男・企業規模10人以上・産業計で、年収は所定内給与額×12+年間賞与その他特別給与額を私が計算した値です(超過労働給与を含まない)。人数は調査上の十人単位を人に直しています。
| 年齢 | ソフトウェア作成者 年収 | 人数 | システムコンサルタント・設計者 年収 | 人数 | 設計者側の比率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 25〜29歳 | 449万円 | 131,000 | 602万円 | 29,300 | 18% |
| 30〜34歳 | 523万円 | 97,500 | 908万円 | 19,600 | 17% |
| 35〜39歳 | 611万円 | 70,400 | 890万円 | 12,800 | 15% |
| 40〜44歳 | 636万円 | 76,700 | 1,197万円 | 17,000 | 18% |
| 45〜49歳 | 696万円 | 69,000 | 1,220万円 | 13,400 | 16% |
| 50〜54歳 | 687万円 | 55,900 | 1,082万円 | 11,300 | 17% |
| 55〜59歳 | 681万円 | 37,700 | 1,037万円 | 10,200 | 21% |
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」一般労働者・職種(特掲)・性・年齢階級別(産業計)第7表、男、企業規模10人以上。年収と比率は筆者計算。
数字その1:45歳で止まる
ソフトウェア作成者の年収は、25〜29歳の449万円から45〜49歳の696万円まで上がり、そこで止まります。50代は687万、681万と横ばいです。35歳で切られるわけではありません。ただし35〜39歳の611万円から45〜49歳の696万円までの10年間の伸びは14%で、その先はゼロです。「35歳定年説」は、給料が落ちる話ではなく、伸びが止まる年齢の話として統計に残っています。
数字その2:人が7割減る
人数を見てください。25〜29歳の131,000人が、55〜59歳では37,700人です。7割減っています。辞めたのか、設計者に上がったのか、管理職や別の職種に移ったのかは、この表からは分かりません。分かるのは、プレイヤーとしてのSEは、年齢とともに人が抜けていく職種だということです。私が聞いた「35歳定年説」の実態は、給与の崖ではなく、この人数の減り方だと思います。
数字その3:上の椅子は6人に1人
システムコンサルタント・設計者の年収は45〜49歳で1,220万円、ソフトウェア作成者の696万円の1.75倍です。ここに上がれれば「やめとけ」は当たりません。ただし人数は、どの年齢でも両者の合計の15〜21%です。おおまかに言って6人に1人。しかも調査の職種区分は会社の役職と一致しないので、この比率は目安であって、実際の「PMの椅子」の数はもっと少ない可能性があります。
マネジメントに回れば稼げる、というのは正しい。回れる椅子が6人に1人しかない、というのも正しい。この二つを同時に書いているサイトが少ないので、「やめとけ」の側と「稼げる」の側で話が噛み合わなくなっています。
2. 他の職種と比べると、SEは「出口が多い」側にいる
ここで、同じ統計の他の職種を並べます。「やめとけ」を職種の相対で見るためです。
| 職種(男・45〜49歳) | 年収 | 備考 |
|---|---|---|
| ソフトウェア作成者 | 696万円 | この記事の対象 |
| その他の情報処理・通信技術者 | 675万円 | 運用・保守・サポート等 |
| 建築技術者 | 746万円 | 拘束時間が現場で決まる |
| 管理的職業従事者(全産業) | 979万円 | 職種ではなく役職 |
出典:同上。年収は所定内給与額×12+年間賞与、筆者計算。
SEの696万円は、職種の中で低くありません。「やめとけ」の根拠は絶対額ではなく、45歳で止まることと、その先の椅子の少なさです。そしてSEには、他の職種にない要素が一つあります。会社を通さずに技能を売る市場、つまりフリーランス市場が存在することです。警備員や設備管理員には、この市場がほぼありません。建築技術者にはありますが、現場に拘束されます。フルリモートで技能を売れる職種は、統計に出てくる職種の中でも限られます。
私がこのサイトで一貫して書いているのは、「買い手が一社しかない市場では、値段は買い手の内部規則で決まる」という構造です。SEは、買い手を複数に増やせる数少ない職種です。「やめとけ」と言われる職種が、同時に「会社以外の買い手を作りやすい職種」でもある。ここがこの記事の芯です。
3. 第三の出口:フリーランスの損益分岐は月単価80万円
ただし、フリーランスになれば上がる、とは統計では言えません。内閣官房ほかの「令和4年度フリーランス実態調査」で、本業フリーランス全体の年収分布を見ると、回答者のうち300万円未満が約47%、400万円未満で約62%です(「わからない・答えたくない」を除いて計算)。IT職種だけの分布は公表されていません。上がるのは、単価を取れた人だけです。
では、いくらの単価なら会社員を上回るのか。計算します。
会社員SEの45〜49歳の年収696万円に、会社が負担している社会保険料をおおむね15%として乗せると、約800万円相当です。フリーランスは社会保険料を全額自分で払い、賞与も有給もなく、案件の切れ目が出ます。稼働を年10か月とすると、月単価80万円で会社員の45〜49歳に並びます。11か月なら73万円です。
この線を下回る単価でフリーランスになると、どこに住んでも会社員に負けます。逆に、この線を超える単価が数年続く見込みがあれば、第三の出口は成立します。移住の話はこの後に来るもので、単価の話の前には来ません。
4. 3段階の分岐と、各段階の損切り条件
ここまでの数字を、時系列の設計に直します。「僻地やブラック現場を受け入れて経験を積み、認められて高需要の案件に入り、フリーランスで独立して安い都市に移る」という一本道は、各段階に確率が掛かるので、全部を通す前提で設計すると期待値が薄くなります。段階ごとに損切り条件を置きます。
| 段階 | やること | 判定 | 判定が×だったときの分岐 |
|---|---|---|---|
| 第1段階(〜35歳) | 配属先を選ばず、実戦経験を積む。統計上、人数が減り始める前の年齢で職歴を厚くする | 35歳時点で、設計・要件定義・顧客折衝のどれかを自分の名前で語れるか | 語れなければ、第2段階のフリーランス分岐は選ばない。会社員のまま第3段階へ |
| 第2段階(35〜40歳) | 上の椅子に手が届いているかを判定する | 設計者・PM側に入っているか(6人に1人) | 入っていれば会社員で1,000万円超を取りに行く。入っていなければ、月単価80万円が取れる見込みで分岐:取れるならフリーランス、取れないなら会社員のままフルリモートを確保して移住 |
| 第3段階(どの分岐でも) | 会社以外に自分の判断に金を払う相手を持つ | 月3万円でも構わない | SEは技能の買い手を複数にしやすい職種なので、副業の形は他職種より作りやすい |
重要なのは第2段階の右端です。移住の効果は会社員でも取れます。フリーランスにならないと移住できない、という前提を置くと、単価80万円という高い条件を移住の前提条件にしてしまう。この前提を外すと、期待値が上がります。単価80万円に届かないと分かった時点で、会社員のまま移住する。これがこの記事で示す、いちばん期待値の高い回避行動です。
5. 移住の計算:都市名ではなく、出社頻度と住居指数で決める
「地方に移れば生活費が下がる」は本当ですが、いくら下がるかは都市によって倍近く違い、出社の頻度で順位が入れ替わります。ここは全部並べます。
5-1. 前提
総務省「消費者物価地域差指数 2024年結果」の都道府県別の「住居」と「家賃を除く総合」を使います(全国平均=100)。東京都は住居127.2、家賃を除く総合102.2です。東京で家賃15万円・家賃以外の消費25万円の人が移った場合、家賃の差は15万円×(1−移住先の住居指数÷127.2)、生活費の差は25万円×(1−移住先の家賃を除く総合÷102.2)として、年間差額を出します。
往復交通費は、新幹線は指定席通常期、空路は早割水準の目安として私が置いた概算です。ここは自分の勤務先までの実費に置き換えてください。「東京圏転入者の出身地シェア」は、総務省「住民基本台帳人口移動報告 2024年」の第2表から、東京都・神奈川・埼玉・千葉への日本人転入者を移動前の都道府県別に集計した比率です(東京圏内の移動を除く。人口移動報告の「前住地」なので、厳密な出身地ではなく直前の居住地です)。
5-2. 43道府県の比較表
年間差額の大きい順です。「月1出社」「四半期1出社」は、年間差額から往復交通費×回数を引いた純差です。
| 道府県(県庁所在地) | 住居指数 | 家賃を除く総合 | 年間差額 | 月1出社の純差 | 四半期1出社の純差 | 東京への交通 | 片道時間 | 東京圏転入者の出身地シェア |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 岐阜県(岐阜) | 81.3 | 97.6 | 78万 | 51万 | 69万 | 名古屋隣接(在来線20分) | 2h | 1.3% |
| 岡山県(岡山) | 82.0 | 98.3 | 75万 | 35万 | 62万 | 新幹線・空港 | 3h10 | 1.4% |
| 新潟県(新潟) | 85.4 | 98.3 | 71万 | 45万 | 62万 | 新幹線・空港 | 1h40 | 3.1% |
| 栃木県(宇都宮) | 86.6 | 98.0 | 70万 | 58万 | 66万 | 新幹線(宇都宮) | 50分 | 3.8% |
| 香川県(高松) | 83.3 | 99.4 | 70万 | 27万 | 56万 | 空港 | 空路1h25 | 0.8% |
| 大分県(大分) | 85.5 | 98.6 | 70万 | 31万 | 57万 | 空港 | 空路1h35 | 0.8% |
| 群馬県(前橋/高崎) | 89.8 | 96.8 | 69万 | 57万 | 65万 | 新幹線(高崎) | 50分 | 3.8% |
| 石川県(金沢) | 82.8 | 100.1 | 69万 | 35万 | 58万 | 新幹線・空港(小松) | 2h30 | 1.2% |
| 愛媛県(松山) | 85.0 | 99.4 | 68万 | 30万 | 55万 | 空港 | 空路1h30 | 1.0% |
| 佐賀県(佐賀) | 87.4 | 98.7 | 67万 | 28万 | 54万 | 福岡経由 | 空路2h | 0.5% |
| 秋田県(秋田) | 86.7 | 99.7 | 65万 | 21万 | 50万 | 新幹線(秋田)・空港 | 3h50 | 1.1% |
| 福井県(福井) | 86.7 | 99.7 | 65万 | 26万 | 52万 | 新幹線(福井) | 2h50 | 0.5% |
| 鳥取県(鳥取) | 86.3 | 99.7 | 65万 | 24万 | 52万 | 空港 | 空路1h15 | 0.4% |
| 広島県(広島) | 87.7 | 99.2 | 65万 | 19万 | 50万 | 新幹線・空港 | 3h50 | 2.7% |
| 鹿児島県(鹿児島) | 92.0 | 96.9 | 65万 | 25万 | 52万 | 新幹線・空港 | 空路1h50 | 1.4% |
| 滋賀県(大津) | 88.8 | 98.9 | 64万 | 33万 | 54万 | 新幹線(米原)・京都隣接 | 2h30 | 1.1% |
| 和歌山県(和歌山) | 89.0 | 98.9 | 64万 | 25万 | 51万 | 大阪経由 | 3h30 | 0.5% |
| 長野県(長野) | 90.9 | 98.4 | 63万 | 43万 | 56万 | 新幹線(長野) | 1h30 | 3.0% |
| 茨城県(水戸) | 92.0 | 98.0 | 62万 | 53万 | 59万 | 特急のみ(新幹線・空港なし) | 1h10 | 6.5% |
| 福岡県(福岡) | 90.5 | 98.9 | 62万 | 26万 | 50万 | 空港(福岡)・新幹線 | 空路1h40 | 5.5% |
| 富山県(富山) | 92.3 | 99.0 | 59万 | 29万 | 49万 | 新幹線・空港 | 2h10 | 1.0% |
| 島根県(松江) | 89.2 | 100.5 | 59万 | 18万 | 45万 | 空港(出雲) | 空路1h30 | 0.4% |
| 福島県(福島) | 91.7 | 99.4 | 58万 | 37万 | 51万 | 新幹線(福島) | 1h30 | 2.7% |
| 山梨県(甲府) | 94.4 | 98.4 | 58万 | 48万 | 54万 | 特急のみ | 1h30 | 1.7% |
| 静岡県(静岡) | 93.7 | 98.7 | 58万 | 43万 | 53万 | 新幹線・空港 | 1h | 5.7% |
| 三重県(津) | 92.1 | 99.2 | 58万 | 27万 | 48万 | 名古屋経由 | 2h30 | 1.3% |
| 奈良県(奈良) | 93.6 | 98.6 | 58万 | 22万 | 46万 | 京都/大阪経由 | 3h | 0.9% |
| 愛知県(名古屋) | 94.3 | 98.5 | 57万 | 31万 | 49万 | 新幹線・空港(中部) | 1h40 | 7.7% |
| 青森県(青森) | 93.8 | 99.4 | 55万 | 13万 | 41万 | 新幹線(新青森)・空港 | 3h | 1.7% |
| 北海道(札幌) | 87.1 | 103.0 | 54万 | 18万 | 42万 | 空港(新千歳) | 空路1h35 | 5.9% |
| 兵庫県(神戸) | 95.0 | 99.2 | 54万 | 18万 | 42万 | 新幹線(新神戸)・空港 | 2h45 | 4.7% |
| 長崎県(長崎) | 93.9 | 99.9 | 54万 | 13万 | 40万 | 西九州新幹線・空港 | 空路1h50 | 1.1% |
| 宮崎県(宮崎) | 98.5 | 97.9 | 53万 | 12万 | 40万 | 空港 | 空路1h40 | 0.9% |
| 大阪府(大阪) | 96.6 | 99.3 | 52万 | 17万 | 40万 | 新幹線・空港 | 2h30 | 9.1% |
| 岩手県(盛岡) | 95.7 | 100.5 | 50万 | 14万 | 38万 | 新幹線(盛岡) | 2h10 | 1.5% |
| 徳島県(徳島) | 96.7 | 99.8 | 50万 | 12万 | 37万 | 空港 | 空路1h20 | 0.5% |
| 高知県(高知) | 95.2 | 100.7 | 50万 | 11万 | 37万 | 空港 | 空路1h25 | 0.5% |
| 沖縄県(那覇) | 94.0 | 101.2 | 50万 | 9万 | 36万 | 空港 | 空路2h40 | 2.2% |
| 山口県(山口) | 98.5 | 100.5 | 46万 | -2万 | 30万 | 新幹線(新山口)・空港 | 4h30 | 1.1% |
| 熊本県(熊本) | 99.2 | 100.1 | 46万 | 5万 | 32万 | 新幹線・空港 | 空路1h45 | 1.3% |
| 宮城県(仙台) | 98.1 | 100.8 | 45万 | 19万 | 36万 | 新幹線・空港 | 1h30 | 4.1% |
| 山形県(山形) | 100.1 | 101.9 | 39万 | 10万 | 30万 | 新幹線(山形)・空港 | 2h40 | 1.3% |
| 京都府(京都) | 101.8 | 101.0 | 39万 | 6万 | 28万 | 新幹線 | 2h15 | 2.5% |
出典:総務省「消費者物価地域差指数 2024年結果」別表1(都道府県別「住居」「家賃を除く総合」)、総務省「住民基本台帳人口移動報告 2024年」第2表(日本人移動者・移動前の住所地別)。年間差額・純差・シェアは筆者計算。交通費は概算。
5-3. 表の読み方
まず、名古屋(愛知)は年57万円で、43道府県の中で28番目です。三大都市だから割安、ということはありません。私自身は名古屋を候補にしていますが、それは後述する別の理由で、住居指数で選んだのではありません。
次に、出社頻度で順位が変わります。月1出社なら、宇都宮58万・高崎57万・茨城53万・岐阜51万・甲府48万・新潟45万と、東京から1時間前後の場所が上位に来ます。岡山や広島は住居指数が低くても交通費で削られます。四半期1回以下なら、岐阜69万・宇都宮66万・高崎65万・岡山62万・新潟62万と、遠い場所が戻ってきます。出社ゼロなら、住居指数だけで見てよい。
そして、上京者の出身地で最も多い大阪(9.1%)・愛知(7.7%)・北海道(5.9%)・福岡(5.5%)・兵庫(4.7%)・宮城(4.1%)のうち、住居指数が90を切るのは北海道だけです。大阪96.6、兵庫95.0、宮城98.1、京都101.8。仙台と京都に至っては、月1出社すると年20万円も残りません。出身地に帰れば安くなる、は多くの人にとって成り立ちません。成り立つのは、実家に入れる場合だけです。
5-4. 「歪み」のある都市:文明の水準に対して住居が安い
出身地に固執しない人のために、県庁所在地の規模(おおむね人口40万人以上)・新幹線か空港があること・住居指数90未満、の3つを同時に満たす場所を抜き出します。文明の水準に対して住居だけが安く放置されている、という意味で「歪み」と呼びます。
| 都市 | 住居指数 | 規模 | 交通 | 向いている条件 |
|---|---|---|---|---|
| 岡山 | 82.0 | 約70万人 | 新幹線・空港 | 出社が四半期1回以下。西日本の拠点 |
| 新潟 | 85.4 | 約77万人 | 新幹線1h40・空港 | 月1出社でも成立。東日本で最もバランスがよい |
| 札幌 | 87.1 | 約197万人 | 空港 | 出社ゼロ〜四半期1回。大都市の文明が要る人。家賃以外は高め(103.0) |
| 広島 | 87.7 | 約119万人 | 新幹線・空港 | 出社ゼロ〜四半期1回。地元のIT市場あり |
| 福岡 | 90.5 | 約165万人 | 空港1h40・新幹線 | 四半期1回以下。地元のIT市場が最も厚い地方都市 |
| 金沢 | 82.8 | 約46万人 | 新幹線2h30・空港 | 四半期1回以下。家賃以外は全国平均並み |
| 岐阜 | 81.3 | 約40万人 | 名古屋まで在来線20分 | 名古屋の文明を使いながら住居は全国最低クラス |
| 宇都宮・高崎 | 86.6/89.8 | 約51万人/約37万人 | 新幹線50分 | 月1〜週1出社まで成立。文明は名古屋級ではない |
| 大津(滋賀) | 88.8 | 約34万人 | 京都まで10分・米原新幹線 | 岐阜と同じ構造。京都・大阪の文明を使いながら住居が安い |
岐阜と大津は、隣の大都市(名古屋・京都)の文明をそのまま使えて、住居指数だけが低い場所です。名古屋市内に住むと住居94.3ですが、岐阜市なら81.3。名古屋駅まで在来線で20分なので、新幹線も空港も名古屋のものが使えます。「三大都市の文明が要るが家賃は払いたくない」という条件に対する解は、名古屋市内ではなく岐阜側です。同じことが京都と大津の関係で成り立ちます。
5-5. 地元に戻りたくない人へ
地元の閉塞感が嫌で上京した人にとって、出身地に戻るのは前進ではありません。その場合は、上の歪みの表から、しがらみのない土地を選んでゼロから組んでよい。賃貸なら、合わなければ損切りして次に移れます。引っ越し費用と敷金は、年60万円の差額の1年分程度で吸収できます。持ち家を買わない限り、移住の失敗は取り返しがつきます。
5-6. フリーランスと会社員で、行き先の条件が変わる
ここは生存確率の話です。フリーランスのフルリモートは、案件が切れたときに地元で次を探せるかで生存確率が変わります。福岡・札幌・広島・名古屋・仙台には地元のIT労働市場があり、切れても通勤圏の案件や正社員に戻れる。新潟・高崎・岐阜には、それが薄い。
だから、フリーランスなら地元市場のある政令市(福岡・札幌・広島・名古屋)を選び、住居指数の差は撤退先を買う費用として払う。会社員フルリモートなら雇用が続く限り地元市場は要らないので、新潟・高崎・岐阜・大津まで下げてよい。この分岐で、雇用形態から行き先が決まります。
5-7. 文明の下限は、自分の出発点で決まる
私が名古屋を候補にしている理由をここで書きます。私は東京の月島で、親が買ったタワーマンションに40歳まで住んでいました。その後、横浜と千葉に移り、浴室のサイズが下がるたびに満足度が下がりました。都市の文明水準は、一度上がると下げにくい。だから私にとって、名古屋は「下がらない下限」であって、割安だから選んだのではありません。
読み手の出発点が違えば、下限は変わります。前橋(都市別総合96.7)や新潟市(98.2)で育った人にとって、新潟市は下がる先ではなく上がる先です。ルールは一つで、「自分が育った街、または今住んでいる街と同格以上の県庁所在地」を下限に置く。それより下に行くと、家賃の差額では埋まらない満足度の低下が起きます。測り方は、都市別の総合指数と人口で足ります。
もう一つ、私自身の候補物件(名古屋・分譲賃貸・築6年・3LDK・月18.2万円)は、横浜で住んでいた築36年の3LDK(月15万円)より高い。住居指数の差は、築年数とグレードを揃えて比較しないと消えます。表の差額は「同じ築年数・同じ広さで移った場合」の理論値です。
5-8. 移住の純差は、20年運用でいくらになるか
表の純差を年5%で20年積み立てた場合の到達額は、年30万円なら約990万円、年45万円なら約1,490万円、年60万円なら約1,980万円です(3%なら各810万・1,210万・1,610万)。本物の差ですが、月単価80万円と60万円の差は年200万円です。移住は単価の3分の1以下のレバーだと分かったうえで使ってください。
5-9. 計算機:自分の条件で純差を出す
6. 実家がある人は、別枠で最有力
出身地の県に実家があり、その県に県庁所在地レベルの街があるなら、上の表とは別枠で最有力です。大阪・仙台・京都のように住居指数が高い出身地でも、実家に入れば家賃はゼロになり、表の差額を超えます。住む場所と頼れる人が同時に埋まり、子どもの進学費用でも親の側の支援を受けやすい。実家に入るときの後ろめたさは家賃を払っていないことではなく家に何もしていないことから来る、という話は別の記事に書きました。固定費の名義を引き受けて家の維持を担えば、それは依存ではありません。
7. どの分岐でも、会社以外の買い手を一つ持つ
最後に、この記事の立場を書きます。「やめとけ」と言われる理由は、45歳で止まることと、椅子が6人に1人であることでした。どちらも「買い手が一社しかない」構造から来ています。会社の中で評価者が一人しかいないと、その一人の規則で値段が決まり、規則が変わったときに選択肢がない。
SEは、この構造から出やすい職種です。技能をフリーランス市場で売れる。副業として小さく売ることもできる。月3万円でも、評価者が一人から二種類に増えると、社内の評価の歪みが自分の収入と自尊心に占める割合が100%ではなくなります。この構造は無能ほど権利を主張する人と評価者の数の記事に、40代からの副業の選び方は残り時間で選ぶ記事に書きました。
私自身はSEではなく、壊れた中古品を直して売ることで20年、会社以外の買い手だけで生きてきました。SEの人がそれをやる必要はありません。ただ、「やめとけ」の根拠になっている構造は、SEでなくても同じで、そこから出る方法も同じです。
8. まとめ
「システムエンジニアはやめとけ」は、統計上は「45歳で年収が止まり、人が7割減り、上の椅子は6人に1人」という3つの数字に分解できます。絶対額では低くない職種ですが、伸びが止まる年齢が早い。
ただしSEには、他の職種にない第三の出口があります。損益分岐は月単価80万円。それに届くなら独立し、届かないなら会社員のままフルリモートを確保して移住する。移住先は都市名ではなく、雇用形態・出社頻度・住居指数・文明の下限・実家の有無の順に絞る。名古屋は43道府県の中で28番目で、上位ではありません。出身地に帰れば安くなるという前提は、大阪・兵庫・宮城・京都では成り立ちません。歪みがあるのは岡山・新潟・札幌・広島・福岡・金沢・岐阜・大津・宇都宮・高崎です。
そして、どの分岐を選んでも、会社以外に自分の判断に金を払う相手を一つ持つ。それが、この記事が「やめとけ」に対して出せる唯一の構造的な答えです。
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この記事で参照した情報源
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」一般労働者・職種(特掲)、性、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)第7表(e-Stat 統計表ID 000040421122)/内閣官房新しい資本主義実現会議事務局・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁「令和4年度フリーランス実態調査結果」/総務省統計局「消費者物価地域差指数 -小売物価統計調査(構造編)2024年(令和6年)結果-」別表1・別表2/総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2024年」第2表 男女、移動前の住所地別都道府県間移動者数(日本人移動者)。
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年収は所定内給与額×12+年間賞与その他特別給与額で、超過労働給与を含みません。男・企業規模10人以上・産業計の値で、女性の値は別です。「6人に1人」は調査の職種区分に基づく比率であり、会社の役職とは一致しません。フリーランスの損益分岐は会社負担の社会保険料を15%、稼働を年10〜11か月と置いた場合の値です。移住の差額は東京都の指数に対する比率で計算した理論値で、同じ築年数・広さで移った場合を前提にしています。往復交通費は概算です。

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