セルフハンディキャッピングとは、失敗したときに、自分の能力のせいに、ならないように、あらかじめ、自分で、不利な条件を作っておくことです。試験の前の日に、部屋のそうじをはじめる。「ぜんぜん、勉強していない」と、先に言っておく。どちらも、この形です。
この記事では、まず、意味と、2つの種類を、説明します。次に、道具で、自分に、このくせがあるかを、たしかめます。最後に、人に教える仕事をしている私が、自分と、相手の、両方で見た例を、書きます。
1. セルフハンディキャッピングとは
1-1. 意味
この言葉は、心理学者のバーグラスと、ジョーンズが、1978年に、発表しました。人は、大事な場面の前に、わざと、自分に不利な条件を、作ることが、あります。理由は、自分の評価を、守るためです。
- 失敗したとき:「準備をしていなかったから」と、言える。能力が低いとは、思われない。
- 成功したとき:「準備をしていなかったのに、できた」と、言える。能力が高いと、思われる。
どちらに転んでも、自分の評価は、守られます。だから、やめにくい。
1-2. 2つの種類
| 種類 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| 獲得的(行動で、作る) | 本当に、不利な条件を、作ってしまう | 準備をしない。前の日に、夜ふかしをする。しめ切りの直前まで、手をつけない |
| 主張的(言葉で、言う) | 不利な条件があると、先に、言っておく | 「ぜんぜん、勉強していない」「きのう、寝ていない」「体調が悪い」 |
1-3. 何を、うしなうか
守られるのは、「自分は、やればできる」という、評価です。うしなうのは、実際の結果です。準備をしなければ、結果は、悪くなります。研究では、このくせが強い人ほど、長い目で見た成績が低く、まわりからの評価も、下がりやすいことが、報告されています。評価を守るための行動が、評価を下げます。
2. 道具:自分に、このくせが、あるか
大事な場面(試験、商談、発表、はじめての仕事)の前を、思い出して、当てはまるものに、チェックを入れてください。これは、考えを整理するための道具です。正式な心理検査の尺度では、ありません。
行動で、作る
言葉で、言う
数:
見立て:
それぞれ、4つのうち、2つ以上で、「くせがある」と、数えます。2つという線は、私が、この道具のために、引いた線です。研究で決まった数では、ありません。
3. 私の例:教える側で見た、「準備」の話
3-1. 私:準備があまくて、指導の質が落ちて、後悔した
私は、人に、個別の指導を、しています。準備があまいまま、指導に入って、質が落ちて、あとで後悔した経験が、何度も、あります。
ここからは、この理論に当てはめた、見立てです。形だけを見れば、1-2の表の、「行動で、作る」と、同じです。準備をしなかった。結果が、落ちた。ここで、「いそがしかったから」と言えば、セルフハンディキャッピングは、完成します。私は、後悔しています。後悔しているということは、「準備をすれば、もっとよくできた」と、わかっているということです。事情の説明で、終わらせないことが、このくせから出る、1歩めだと、私は、考えています。
3-2. 相手:「準備しましょう」と伝えた、その日に、「やめます」と言われた
逆の立場も、ありました。指導する相手が、基本的なことを、予習してこない。相場の読み方や、スマホのアプリの使い方です。私は、いらだちました。「これぐらいは、やるとわかっているのだから、準備しましょう」と、伝えました。その日のうちに、「無理だと思うので、やめます」と、言われました。
ここからは、私の見立てです。相手の心の中は、私には、わかりません。その上で、この理論に当てはめると、こう読めます。予習をしないあいだは、「まだ、本気で、やっていないだけ」が、残ります。「準備しましょう」と言われると、その逃げ道が、なくなります。準備をして、できなかったら、「能力がない」が、答えになってしまう。だから、準備をする前に、やめる。やめれば、「やれば、できたかもしれない」は、守られます。
私の言い方にも、見るべき点が、あります。私は、いらだって、言いました。「これぐらいは、わかっているのだから」は、相手から見れば、「できないあなたが、おかしい」と、聞こえます。評価を守りたい人に、評価をおびやかす言い方を、しています。
3-3. 私の、よくないくせ:「気合」
私には、よくないくせが、あります。相手が苦戦していても、何度でも教える気持ちは、あります。けれど、最終的には、気持ちの強さで乗り切るしかないと、考えていて、「気合」という言葉を、使うことが、多い。
ここも、私の見立てです。「気合で、乗り切れ」と言われて、できなかったとき、原因は、「気持ちが弱い」に、なります。やり方ではなく、その人自身が、原因にされます。評価を守りたい人ほど、先に、予防線を、はりたくなります。私の言葉が、相手のセルフハンディキャッピングを、さそっている可能性が、あります。「気合」を、「次の15分で、この画面の、ここまで」という、手順に言いかえることが、教える側に、できることです(指示の解像度については、ダブルバインドの記事に、書きました)。
4. このくせから、出る方法
4-1. 自分に、くせがあるとき
- 準備を、「失敗しても、はずかしくない大きさ」に、小さくする。2時間の予習は、こわい。15分なら、できなくても、評価は、ゆらぎません。
- 結果ではなく、やった量を、記録する。「できた、できない」ではなく、「15分やった」を、数えます。能力の話から、行動の話に、うつります。
- 事情の説明を、言いそうになったら、1回、のみこむ。言葉の予防線は、言わなければ、消えます。
- 手をつけられない理由が、べつにある場合も、あります。先延ばしの記事と、完璧主義の記事も、見てください。
4-2. 教える側、まかせる側のとき
- 予習の中身を、具体的に、わたす。「準備してきて」ではなく、「このアプリを入れて、この画面を、開けるところまで。10分」。
- できなかったとき、人ではなく、やり方を、直す。「なぜ、やらなかったのか」ではなく、「どこで、止まったか」を、聞きます。
- 何度やっても、だめだと感じている相手には、べつの仕組みが、はたらいている。学習性無力感の記事に、書きました。
受診の目安
準備に手がつかないことは、だれにでも、あります。けれど、次のような状態が、2週間以上つづくときは、くせの問題として考える前に、心療内科や、精神科に、相談してください。
- ねむれない、または、朝、起き上がれない日が、つづく
- 前は楽しかったことが、楽しくない
- 大事な場面の前に、動悸や、はき気が出る
- 仕事や、学校に、行けない日が、ふえている
5. まとめ
- セルフハンディキャッピングは、失敗が能力のせいにならないように、先に、自分で、不利な条件を作ること。
- 行動で作る形(準備をしない)と、言葉で言う形(「勉強していない」)が、ある。
- 守られるのは、「やれば、できる」という評価。うしなうのは、実際の結果。
- 私は、準備があまくて、指導の質を落とし、後悔したことが、何度もある。相手に「準備しましょう」と伝えた日に、「やめます」と言われたことも、ある。
- 教える側は、「気合」を、手順に、言いかえる。予習は、中身と、時間を、具体的に、わたす。

コメント