ダニング=クルーガー効果とは|意味と、あの曲線のあやまり。「全員がやるべきだ」と思っていた私は、上位側のまちがいをしていた

ダニング=クルーガー効果とは|意味と、あの曲線のあやまり。「全員がやるべきだ」と思っていた私は、上位側のまちがいをしていた 心理学・バイアス

ダニング=クルーガー効果は、「能力が低い人ほど、自分の能力を、高く見積もる」という現象です。理由は、うぬぼれでは、ありません。自分のまちがいに気づく力が、その能力そのものと、同じ力だからです。文法が分からない人は、自分の文の、文法のまちがいにも、気づけません。

私は、以前、「業者向けの古物市場で仕入れるのが、絶対の正解だ。全員が、やるべきだ」と、考えていました。いまは、この考えを、改めています。入会しても、かせげない人は、います。自分にとって、かんたんだったことを、「だれにでも、できる」と見積もっていたのです。これは、この研究が見つけた、もう1つの結果のほうに、当たります。

この記事では、研究の中身を先に書いて、そのあとで、ネットで広まった図のあやまり、「統計のいたずらではないか」という批判、体験できるシミュレーション、私の例、対策を書きます。

1. ダニング=クルーガー効果とは

コーネル大学の心理学者、デイヴィッド・ダニングと、ジャスティン・クルーガーが、1999年に発表した論文が、もとです。論文の題は、「能力が低く、そのことに気づいていない」という意味の言葉で、はじまります。

きっかけは、1995年の、アメリカの銀行強盗の事件だった、と紹介されています。犯人は、顔にレモンの汁をぬれば、カメラに写らない、と信じて、顔をかくさずに、銀行に入りました。すぐ、つかまりました。「レモン汁は、あぶり出しのインクに使える。だから、顔も消える」と、本気で、考えていたそうです。

1-1. 実験の中身

大学生に、3つの分野のテストを、受けてもらいました。ユーモアのセンス、論理的な推論、英語の文法です。受けたあとで、「自分の成績は、全体の中で、下から何%ぐらいだと思うか」を、たずねました。

グループ(実際の成績) 実際の位置 自分の見積もり
下位4分の1 下から12%あたり 下から60%前後(平均より上)
まん中の2つ 平均のあたり 平均より、少し上
上位4分の1 下から86%あたり 下から70〜75%あたり(実際より、低い)

数字は、論文の複数の実験の、おおよその値です。分かったことは、2つです。

  1. 成績が低い人は、自分を、大きく、高く見積もる
  2. 成績が高い人は、自分を、少し、低く見積もる。理由は、「自分にできるのだから、ほかの人も、できるだろう」と、まわりの能力を、高く見積もるからです。

もう1つ、大事な結果が、あります。成績が低かった人に、論理の問題の解き方を、短い時間、教えました。すると、その人たちは、前の自分の成績を、正しく、低く、見積もりなおせるようになりました。能力が上がると、はじめて、自分ができていなかったことが、見えるのです。

2. よくある、2つの誤解

2-1. 「自信の山と、絶望の谷」の図は、論文には、ない

ネットでは、横に「知識・経験」、たてに「自信」を取って、はじめに高い山があり、次に深い谷があり、そこから、ゆるやかに上がっていく曲線が、この効果の図として、広まっています。「馬鹿の山」「絶望の谷」という名前まで、ついています。

この図は、1999年の論文には、出てきません。論文の図は、4つのグループの、実際の成績と、見積もりを、2本の線でくらべた、地味なものです。低い人の見積もりは、高い人の見積もりを、上回っては、いません。「いちばん自信があるのは、初心者」というデータは、論文には、ないのです。あの曲線は、あとからだれかが作った、たとえ話として、あつかってください。

2-2. 「頭の悪い人は、自信満々」という意味では、ない

この効果は、人を、2種類に分ける話では、ありません。分野ごとの話です。ある分野の上級者も、別の分野では、初心者です。そこでは、同じことが、起きます。ダニング自身も、「これは、私たち全員の話だ」と、くり返し、書いています。人を見下すために使うと、その使い方そのものが、この効果の例に、なります。

3. 批判:統計のいたずらでは、ないのか

この研究には、20年以上、つづいている批判が、あります。「特別な心理のしくみがなくても、同じ形のグラフは、出る」という批判です。

  • 平均への回帰:テストの成績には、運が、まざります。下位のグループには、「たまたま、悪かった人」が、多くふくまれます。その人たちの自己評価が、ふつうの位置にあれば、それだけで、「低い人が、高く見積もった」形になります。しくみは、平均への回帰とはに書きました。
  • 平均より上、と思うくせ:人は、だれでも、自分を、平均より少し上に、置きます。全員が「下から65%」と答えれば、下位の人は、大きく高く、上位の人は、少し低く、見積もったことに、なります。

実際に、でたらめな数字だけで、同じ形のグラフが作れることを、示した研究が、あります。一方で、ダニングの側は、「それだけでは説明できない結果が、ある」と、反論しています。たとえば、教えると、見積もりが直る、という結果です。いまの時点での、おだやかなまとめは、こうです。「低い人が、高く見積もる」という形は、たしかに出る。ただし、そのうち、どれだけが心理のしくみで、どれだけが統計の性質かは、決着していない

3-1. シミュレーション:でたらめな自己評価でも、同じ形が出る

400人の、架空の人を、作ります。実力は、ばらばら。テストの点には、運が、まざります。自己評価は、「平均より少し上」を中心に、決めます。下の数字は、「自己評価が、本当の実力を、どれぐらい反映しているか」です。0にすると、自己評価は、実力と無関係の、でたらめになります。

0%のままでも、「下位の人は、下から12%なのに、65%と答えた。上位の人は、88%なのに、65%と答えた」という、論文とよく似た形が、出ます。数字を100%に近づけると、ずれは小さくなりますが、下位の人の高すぎる見積もりは、残ります。これは、説明のための、かんたんな模型です。実際の研究のデータでは、ありません。

4. 私の例

4-1. 「全員が、やるべきだ」と、思っていた

はじめに書いた話です。私は、業者向けの古物市場に、入れるところは、ぜんぶ入会して、くらべました。そこで安定して利益が出たので、「ここで仕入れるのが、絶対の正解だ。全員が、やるべきだ」と、考えるようになりました。

あとで、改めました。入会しても、かせげない人は、います。いちばん大きい市場でも、だめな人は、います。高い商品を確実に落とすには、パソコンの前に、はりついて、せりに参加しないと、いけません。私は、自分が持っていた前提を、「だれでも、持っている」と、数えていました。上位の4分の1の人たちが、やっていた見積もりちがいと、同じ形です。くわしい話は、ブランド品の仕入れルートに書きました。

4-2. 自分には、かんたん。人にとっては、分からない

修理を教えるときにも、同じことが、起きます。ノートパソコンの修理は、私には、かんたんです。でも、OSの入れなおしや、データのコピーを、ほかの人が、同じようにできるかは、私には、分かりません。プリンターでも、直せない人は、直せません。「最初の部品交換に、何をえらべばいいか」と聞かれても、私は、1つの答えを、出せませんでした。合う商材は、人によって、ちがうからです。この話は、修理転売の4台目は何を買うかと、知識の呪いとはに書きました。

4-3. センスがない側の、強み

私は、自分より後からはじめて、自分より早く、結果を出す人を、何人も、見てきました。そのたびに、劣等感を、感じました。センスで、最短の道を行く人は、います。正直に言って、うらやましいです。

ただ、私のような人間には、1つ、持っているものが、あります。「何が、だめなのか」を、1つずつ確かめて、直していく力です。センスがないので、そうするしか、なかったのです。ダニングたちの研究の言葉で言えば、これは、自分のできていない点に気づく力、つまり、自分の考えを、外から点検する力です。教えると見積もりが直った、という実験の結果が、しめしているのも、この力は、あとから、育てられる、ということです。いまは、AIを、点検の相手に使うことで、これが、ずっと、やりやすくなりました。この話は、センスがいい人と頭がいい人の記事に書きました。

5. 対策

  1. 見積もる前に、測る:「できると思う」ではなく、小さく、やってみます。点数、売上、かかった時間。数字が、自己評価の代わりに、なります。
  2. 自分より上の人の仕事を、見る:上を知らないと、自分の位置は、分かりません。
  3. まちがいを指摘してくれる相手を、持つ:自分のまちがいは、自分の能力の外に、あります。人でも、AIでも、かまいません。自分の考えに合う意見だけを集めてしまう問題は、確証バイアスとはに書きました。
  4. 教える側は、「かんたん」を、うたがう:自分にとってかんたんなことほど、説明を、はぶきます。はぶいた所で、相手は、止まります。
  5. 自信がある分野ほど、前提を、書き出す:「これが成り立つのは、何が、そろっているときか」。私の古物市場の話では、「せりの時間に、パソコンの前に、はりつけること」が、書かれていない前提でした。

「やれる」という見こみと、実力の関係については、自己効力感とはにも書きました。

6. まとめ

  • ダニング=クルーガー効果は、能力が低い人ほど、自分を高く見積もる、という現象です。1999年の論文が、もとです。
  • 理由は、まちがいに気づく力が、その能力そのものと、同じ力だからです。
  • 能力が高い人は、逆に、自分を少し低く、まわりを高く、見積もります。
  • 「自信の山と、絶望の谷」の曲線は、論文には、ありません。
  • 同じ形のグラフは、統計の性質だけでも、出ます。どこまでが心理のしくみかは、決着していません。
  • 対策は、見積もる前に、測ること。そして、まちがいを指摘してくれる相手を、持つことです。

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