自己効力感は、「自分は、これを、やりとげられる」という見こみのことです。自信に似ていますが、もっと、せまい言葉です。「自分には価値がある」という感覚(自己肯定感)とは、別のものです。対象が、決まっています。「この作業なら、できる」「この場面なら、切りぬけられる」。
私は、高校生のときに、パソコンの自作を、はじめました。何台も、こわしました。こわしているうちに、作れるようになりました。作れるようになると、「作ってくれ」「構成を考えてくれ」と、たのまれるようになりました。ふり返ると、この理論が言う「自己効力感の育ち方」を、そのまま、たどっていました。
この記事では、意味と、似た言葉とのちがいを先に書いて、そのあとで、高める4つの源、点検の道具、私の例、注意点を書きます。
1. 自己効力感とは
カナダ出身の心理学者、アルバート・バンデューラが、1977年の論文で、まとめた考え方です。英語では、self-efficacy。セルフ・エフィカシーと、そのまま呼ばれることも、あります。
バンデューラは、人が行動を起こすまでに、2つの見こみがある、と整理しました。
| 見こみ | 問い | 例 |
|---|---|---|
| 結果予期 | その行動をすれば、望む結果になるか。 | 「毎日30分、勉強すれば、試験に受かる」 |
| 効力予期(自己効力感) | その行動を、自分は、やれるか。 | 「自分は、毎日30分の勉強を、つづけられる」 |
「やれば、うまくいく」と分かっていても、人は、動きません。「自分に、それがやれる」と思えたときに、はじめて、動きます。やり方の本を、何冊読んでも、はじめられない人がいるのは、このためです。足りないのは、1つ目ではなく、2つ目です。
1-1. 似た言葉との、ちがい
| 言葉 | 中身 | 対象 |
|---|---|---|
| 自己効力感 | 「これを、やりとげられる」という見こみ | 特定の課題ごと。料理は高いが、英会話は低い、ということが、ふつうにある。 |
| 自己肯定感(自尊心) | 「自分には、価値がある」という感覚 | 自分ぜんたい。 |
| 自信 | 日常の言葉。上の2つが、まざって使われる。 | あいまい。 |
この区別は、役に立ちます。「自信がない」と言うと、自分ぜんたいの問題に、聞こえます。「この作業の自己効力感が、低い」と言えば、その作業について、手を打てばいい、と分かります。
2. 自己効力感を高める、4つの源
バンデューラは、自己効力感が、どこから来るかを、4つに、まとめました。上にあるものほど、強く効く、とされています。
| 源 | 意味 | やり方 |
|---|---|---|
| ① 達成経験 | 自分で、やって、できた経験。いちばん強い。 | 課題を、かならずできる大きさまで、小さく切る。できたら、少しだけ、上げる。 |
| ② 代理経験 | 自分と似た人が、やりとげるのを、見る。 | 天才ではなく、少し先を行く人を、見る。手順の動画を、見る。 |
| ③ 言葉による説得 | 「あなたなら、できる」と、信頼できる人に、言われる。 | ほめる側は、結果ではなく、できるようになった点を、具体的に言う。 |
| ④ 体と気分の状態 | ドキドキや、つかれを、「自分はだめだ」の合図と、読まない。 | 緊張を、「準備ができている合図」と、読みかえる。ねむる。体を動かす。 |
バンデューラ自身は、ヘビをこわがる人の治療の研究で、これを確かめています。いきなり、さわらせません。まず、ほかの人がさわるのを、見せます(代理経験)。次に、手ぶくろをして、いっしょに、さわります(小さな達成経験)。段階をふんだ人は、ヘビだけでなく、ほかの場面でも、「自分は、対処できる」という見こみが、上がりました。
大事なのは、①は、「失敗しなかった経験」では、ないことです。かんたんに成功しただけの人は、1回の失敗で、くずれます。苦労して、乗りこえた経験が、いちばん、強い土台になります。
2-1. 点検の道具:4つの源の、どれが足りないか
いま、取り組みたい課題を、1つ、思いうかべてください。それについて、0〜10点で、入れます。
いちばん足りない源:—
まず、やること:—
これは、考えを整理するための、かんたんな道具です。研究で使われている、正式な尺度では、ありません。はじめの数字は、仮の値です。同じ点のときは、番号の小さいほう(効き目の強いほう)を、先に出します。
3. 私の例
3-1. 何台もこわして、作れるようになった
はじめに書いた、パソコンの自作の話です。高校生の私は、何台も、こわしました。いま思えば、これが、よかったのです。こわしても、次の1台を、組みました。組めたときに残ったのは、「パソコンが作れる」という技術だけでは、ありません。「こわしても、自分は、もとにもどせる」という見こみでした。
そのあと、私は、中古品の修理を、仕事にしました。プリンター、ゲーム機、ブランド品。はじめての種類の物でも、「たぶん、直せる」と思って、手を出せました。根拠は、パソコンで、さんざん、こわしてきたことです。自己効力感は、課題ごとのものですが、近い課題には、持ちこせます。
3-2. 失敗の値段を、小さくしておく
達成経験をつむには、失敗しても、つづけられることが、条件です。私は、直せずに、あきらめた物が、何個も、あります。利用に制限がかかっていたスマホは、5万円ほどの、まるごとの損でした。技術的に直せなかったスマホは、2〜3万円の品でしたが、買った値段と、同じぐらいで売れたので、損は、数千円で、すみました。
ここから、1つ、決まりが、できました。はじめから、こわれている物として、安く、買う。そうすれば、直せなくても、同じような値段で、売れます。1回の失敗が、数千円でおさまるなら、回数を、こなせます。回数が、達成経験の、もとになります。くわしい手順は、修理転売の始め方と、修理転売の4台目は何を買うかに書きました。
3-3. こわいことは、人を巻きこんで、こえた
私は、車の運転が、本当に、きらいでした。こわかったのです。変わったきっかけは、同僚を乗せて、東京と長野のあいだを、毎週、往復するようになったことでした。1人では、こえられなかった、と思います。となりに人がいて、「やるしかない」状況が、先に、ありました。
4つの源で言えば、①の達成経験を、むりやり、つみ上げた形です。いまは、運転が、生活の土台に、なっています。私の考えは、「こわさは、1人でこえるのは、むずかしい。人を巻きこんで、こえる」です。この話は、コンフォートゾーンとはに、くわしく書きました。
3-4. 教える側として:「できた」を、早く、作る
人に教える仕事では、私は、相手が思いどおりに動かないたびに、「なぜか」を考えて、説明のほうを、直してきました。直した内容は、動画と、手順書と、ひな型に、します。動画は、②の代理経験に、なります。ひな型は、①の達成経験を、早く、作ります。はじめの1回が、ひな型のおかげで、うまくいけば、2回目は、自分で、やれます。
教えてもできない原因を、相手の能力に求めると、相手の自己効力感を、下げます。説明の穴に求めると、直せます。この話は、知識の呪いとはに書きました。
4. 注意点
- 高ければ高いほど良い、わけでは、ない:自己効力感は、見こみです。実力では、ありません。見こみだけが高いと、準備をへらしたり、大きすぎる賭けに、出たりします。同じ人の中で、自己効力感が上がったあとに、努力がへって、成績が下がった、という研究も、あります。
- 課題ごとに、別:仕事で高い人が、投資でも高い、とは、かぎりません。私は、修理では、正しく見こめていましたが、FXでは、見こみのほうが、実力より、ずっと高かったのです。失った話は、FXで人生終わった人と終わらなかった私の差に書きました。
- 言葉だけでは、長くは、もたない:③の「あなたなら、できる」は、①の達成経験が、ついてこないと、すぐ、消えます。はげます言葉より、できる大きさの課題を、わたすほうが、効きます。
- やる気の土台とは、別の話:「やれる」と思えても、「やりたい」と思えるかは、別です。そちらは、自己決定理論とはに書きました。
5. まとめ
- 自己効力感は、「自分は、これを、やりとげられる」という見こみです。バンデューラが、1977年に、まとめました。
- 自己肯定感とは、別です。自己効力感は、課題ごとに、ちがいます。
- 「やれば、うまくいく」と分かっていても、「自分に、やれる」と思えなければ、人は、動きません。
- 源は、4つ。達成経験、代理経験、言葉による説得、体と気分の状態。いちばん強いのは、達成経験です。
- 達成経験をつむには、失敗の値段を、小さくしておきます。
- 見こみは、実力では、ありません。高すぎる見こみは、準備をへらします。

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