ロングテールは、「1つ1つはめったに売れない商品を、たくさん並べると、合計では、売れ筋に負けない売上になる」という考え方です。売れた数の多い順に商品を並べてグラフにすると、右のほうに、低くて長いしっぽが伸びます。そのしっぽの部分のことです。
私は、古本とCDの売り買いで、このしっぽを、実際に食べていました。Amazonのランキングがついていない古書。1年に1回、クリスマスにしか売れないCD。どちらも、売れました。
そして、そのやり方を教材にして、人に教えました。達成した人は、出ませんでした。
あとで分かった理由は、やり方の良し悪しではありません。ロングテールは、固定費の低い人にしか、持ちこたえられないのです。私は、たまたま、そちら側にいました。この記事では、言葉の意味を説明したあとで、その話を書きます。
1. ロングテールとは
広めたのは、アメリカの雑誌『WIRED』の編集長だった、クリス・アンダーソンです。2004年の記事と、そのあとの本で、Amazonのようなネットの店を例に、こう説明しました。
町の本屋は、棚の広さに限りがあります。だから、よく売れる本しか置けません。ネットの店は、倉庫に置けばいいので、年に1冊しか売れない本も、並べておけます。年に1冊しか売れない本が、何十万種類もあれば、その合計は、ベストセラーの売上に並びます。
| ヘッド(頭) | テール(しっぽ) | |
|---|---|---|
| 商品 | よく売れる、少数の商品 | めったに売れない、多数の商品 |
| 売れる速さ | 速い | 遅い。いつ売れるか分からない |
| 競争相手 | 多い。値下げ競争になる | 少ない。値段がくずれにくい |
| 成り立つ条件 | 回転 | 置いておく費用が、ほぼゼロであること |
いちばん下の行が、この記事の中心です。ロングテールは、「置いておく費用がほぼゼロ」という前提の上に、立っています。Amazonにとっては、そうです。では、個人にとっては、どうか。
よく並べられるパレートの法則(売上の8割は、2割の商品が作る)は、頭のほうを見る考え方です。ロングテールは、残りの8割の商品のほうを見ます。同じグラフを、反対側から見ています。
2. 私が食べていた、しっぽ①|ランキングがついていない古書
Amazonで本を売る人は、ふつう、ランキングを見ます。ランキングが高ければ、すぐ売れる。低ければ、時間がかかる。そして、ランキングがついていない本は、ふつう、仕入れません。いちども売れた記録がない、という意味だからです。レビューも、ありません。
私は、そこを仕入れていました。ランキングがついていない古書でも、目利きができていれば、売れました。レビューがなくても、売れました。
目利きの中身は、こうです。ほかの古書店の値段など、複数の場所で、値段の裏を取る。そのうえで、「この本を、だれが、何のために買うのか」を、言葉にできるかどうかを確かめる。言葉にできたら、仕入れる。できなければ、どれだけ安くても、仕入れない。
ランキングを見て仕入れる人は、この本を取りません。道具が「売れていない」と表示するからです。だから、競争相手がいません。値段も、くずれません。しっぽの良さが、そのまま出ます。本の仕入れについては、本せどりは稼げないのかにも書きました。
3. 私が食べていた、しっぽ②|1年に1回だけ売れる、クリスマスのCD
もう1つは、クリスマスのオムニバスCDです。当時の私にとって、大事な手法でした。
ブックオフの500円以下のコーナーに、クリスマスの曲を集めたCDが、1年じゅう、並んでいます。春にも、夏にも、あります。だれも買いません。これを、見つけるたびに買っておきます。そして、12月に、2,000円から3,000円で売ります。
私は、これを「1年で満期になる定期貯金」と呼んでいました。ふだんの仕入れのついでに、月に2枚か3枚。店を回って、1年で30枚ほどでした。1枚が250円から1,000円なので、使うお金は、たいした額ではありません。
これができたのは、車で、ブックオフを大量に回れたからです。1つの店にあるのは、1枚か2枚です。数を集めるには、店の数を回るしかありません。車があること。回る時間があること。これが、私の優位性でした。
いまは、音楽は配信で聞けるので、このCDの型は、もう再現できないと思っています。考え方のほうは、おもちゃせどりの記事の「1年満期の定期貯金」の章に、計算機つきで書きました。
4. 教材にしたら、達成者が出なかった
この2つを柱にして、私は、最初の教材を作りました。ニッチな商品と、季節でめぐる商品で、在庫を固める。値段の裏を取り、だれが買うのかを言葉にできたら、仕入れる。自分が、実際に稼げていたやり方です。
結果は、達成者ゼロでした。
最初は、教え方が悪いのだと思いました。ちがいました。教えてみて、はじめて分かったことがあります。ロングテールを、少ない資金でやると、キャッシュフローが持たないのです。
しっぽの商品は、いつ売れるか、分かりません。来週かもしれないし、半年後かもしれない。クリスマスのCDは、どんなに早くても、次の12月です。そのあいだ、仕入れに使ったお金は、在庫の形で、止まっています。
手もとの資金が10万円の人が、10万円ぶんのしっぽを仕入れたら、次に仕入れるお金が、ありません。売れるのを、待つしかない。待っているあいだにも、家賃と、生活費と、カードの支払いは、来ます。そこで、やめてしまいます。やめた人は、正しい判断をしています。
5. 私が持ちこたえられた理由は、腕ではなく、固定費だった
では、なぜ、私は持ちこたえられたのか。ふり返ると、理由は、はっきりしています。
| 項目 | 当時の私 | 教材を買った人の多く |
|---|---|---|
| 住まい | 親のマンション。家賃はかからない | 家賃か、住宅ローンがある |
| 毎月の生活の固定費 | 少ない | ふつうにかかる |
| 在庫の置き場所 | 倉庫を借りても、月に5万円クラス。ふつうの家賃より安い | 自宅の一部。家族がいれば、限りがある |
| 仕入れの足 | 車で、店を大量に回れる | 人による |
| 売れるまで、待てる期間 | 長い | 短い |
1章の表の、いちばん下の行を、思い出してください。ロングテールの前提は、「置いておく費用が、ほぼゼロ」でした。
私は、自分の生活そのものが、その前提を満たしていました。家賃がかからない。固定費が少ない。だから、在庫が半年売れなくても、1年売れなくても、生活がこわれませんでした。目利きも、車も、たしかに効いていました。でも、いちばん大きかったのは、待てたことです。そして、待てた理由は、腕ではなく、住まいでした。
これは、生存者バイアスそのものです。うまくいった人は、自分のやり方を、うまくいった理由だと思います。私も、そう思って、教材にしました。本当の理由は、自分では当たり前すぎて見えていなかった、生活の条件のほうでした。
6. ロングテールが向いている人、向いていない人
| 向いている | 向いていない |
|---|---|
| 家賃やローンの負担が小さい(実家、持ち家でローンなし、など) | 毎月の固定費が大きく、売上がすぐ要る |
| 本業の収入があり、在庫が売れなくても生活に関係がない | 仕入れたお金を、来月の生活費に回す必要がある |
| 置き場所に、余裕がある | 置き場所が、家族の生活とぶつかる |
| 値段の裏を取って、買う人を言葉にできる分野を、持っている | 道具の表示だけを見て、仕入れを決めている |
資金の少ない人が、最初にやるべきなのは、しっぽではなく、頭のほうです。すぐ売れる商品で、お金を回す。回しながら、少しずつ、しっぽを混ぜる。順番が逆だと、お金が止まります。在庫の持ち方の配分は、横積みと縦積みに、お金が残らなくなるしくみは、せどりでお金が残らない本当の理由に書きました。
いくつ売れば固定費が消えるのかは、損益分岐点の記事の計算機で、自分の数字を入れて確かめてください。固定費が小さいほど、待てる期間は、長くなります。
7. まとめ
- ロングテールは、めったに売れない商品をたくさん並べると、合計で売れ筋に並ぶ、という考え方。広めたのはクリス・アンダーソン
- 成り立つ前提は、「置いておく費用が、ほぼゼロ」であること
- 私は、ランキングがついていない古書と、1年に1回だけ売れるクリスマスのCDで、しっぽを食べていた。競争相手がいないので、値段がくずれなかった
- それを教材にしたら、達成者は出なかった。少ない資金でロングテールをやると、お金が在庫の形で止まり、キャッシュフローが持たない
- 私が持ちこたえられたのは、親のマンションで家賃がかからず、固定費が少なく、倉庫も家賃より安かったから。腕より、待てる条件のほうが大きかった
- 資金の少ない人は、先にすぐ売れる商品でお金を回し、しっぽは、あとから少しずつ混ぜる
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