自己奉仕バイアスとは、うまくいったことは自分の力のおかげ、うまくいかなかったことは運やまわりのせい、と考えてしまう心の動きです。「セルフ・サービング・バイアス」とも言います。自分を守るための、ごく自然な動きですが、強すぎると、自分がどんな条件の上に立っていたかが、見えなくなります。
この記事では、まず、自己奉仕バイアスの意味と、近い言葉との違いを、表でまとめます。次に、計算機で、「自分の成果のうち、自分で選んでいない条件(下駄)がいくらだったか」を、出します。最後に、20代から30代前半の私が、「勉強しないやつはバカ、努力できないのは甘え」と本気で思っていた話と、それが何の上に立っていたかを、書きます。
1. 自己奉仕バイアスとは
1-1. 意味
人は、結果の理由を、自分の中(実力、努力)か、自分の外(運、環境、ほかの人)に、置きます。自己奉仕バイアスは、この置き場所が、結果によって、都合よく変わることです。社会心理学で、1970年代から研究されてきました。
| うまくいったとき | うまくいかなかったとき | |
|---|---|---|
| 自分のこと | 「自分の実力と努力のおかげ」 | 「運が悪かった」「環境のせい」 |
| 他人のこと(よくある見方) | 「運がよかっただけ」「環境に恵まれた」 | 「本人の努力が足りない」「甘え」 |
下の行は、自分と他人で、理由の置き場所を入れかえる動きです。自分の成功を実力に、他人の失敗を本人のせいにする。両方がそろうと、「自分はできた。できない人は、努力が足りない」という考えが、できあがります。
1-2. 近い言葉との違い
| 言葉 | 中身 |
|---|---|
| 自己奉仕バイアス | 成功は自分のおかげ、失敗は外のせい |
| 公正世界仮説 | 世界は公正で、努力は報われ、悪い結果には理由がある、と信じる |
| 生存者バイアス | うまくいった例だけを見て、判断する |
| ダニング=クルーガー効果 | できない人ほど、自分の力を高く見つもる |
自己奉仕バイアスは、自分を守るためには、役に立ちます。失敗のたびに「全部、自分のせい」と考えていたら、動けなくなります(学習性無力感の記事)。困るのは、成功のほうです。成功の理由を、全部、自分の中に置くと、自分が立っていた条件を、他人も持っていると、思いこみます。
2. 計算機:成果のうち、「下駄」はいくらだったか
自分で選んでいない条件のうち、いちばん数えやすいのは、住まいの費用です。払わずに済んだ家賃を、成果の横に並べると、自分の力の分が、見えます。
下駄の合計:
残したお金のうち、下駄の割合:
下駄を引いた、自分の力の分:
はじめの数字は、計算のための例です。家賃8万円を5年払わずに済めば、下駄は480万円です。5年で1,000万円を残したとしても、そのうち48%は、家賃がかからなかった分です。自分の力の分は、520万円になります。
家賃は、お金の下駄の一部でしかありません。お金が回らなくなっても住む場所がある、という安心は、数字にしにくいのですが、長い目でものごとを続けられるかどうかを、大きく左右します。3章に、私の場合を書きます。
3. 私の例
3-1. 「勉強しないやつはバカ、努力できないのは甘え」
20代から30代の前半まで、私は、このバイアスが、特に強かったと思います。勉強しないやつはバカだ。努力できないのは、甘えだ。これを、本気で思っていました。
私は、学生のころから、古本を仕入れて売り、学費も、教科書代も、定期代も、自分で払っていました(公正世界仮説の記事)。努力して、結果が出た。だから、努力すれば、だれでも結果が出る。できないのは、やらないからだ。そう考えるのは、自然でした。
3-2. 実際に、立っていた条件
いまは、そう思っていません。私が安心して長い目のビジネスができたのは、住む家に困らないという、インフラがあったからです。私は、親が買った家に住んでいて、家賃が、かかりませんでした。売れない月があっても、住む場所は、なくなりません。だから、すぐにお金にならないやり方でも、続けられました。
もう1つは、若いうちに、努力が報われる経験を持てたことです。努力して、結果が出る。その経験があったから、努力を信じられた。努力できたのは、私が特別だったからではなく、努力が結果につながる場所に、たまたま、早くいたからでした。
FXの自動売買で、200万円以上を失ったときも、破綻しませんでした。事業の収益があったことに加えて、そのころも、親が買ったマンションに住んでいたことが、大きかったと考えています。
3-3. 下駄に気づかないまま、人に教えた
このバイアスの代償は、人に教えたときに、出ました。はじめて人に教えたやり方は、ランキングの低い本や、季節の商品を、長く持つやり方でした。教えた人からは、達成者が、出ませんでした。お金が、回らなかったからです(固定費の記事)。
私のやり方が回ったのは、家賃という、いちばん大きい固定費が、0だったからです。同じやり方を、家賃を払っている人がやると、回りません。私は、成功の理由を、自分のやり方の中にだけ置いて、自分が立っていた条件を、数えていませんでした。できなかった人は、努力が足りなかったのでは、ありません。下駄が、なかったのです。
4. 自己奉仕バイアスと、つき合う手順
- 成功の理由を書くときは、自分で選んでいないものを、先に書く。住まい、家族、時代、最初に入った場所。2章の計算機で、数えられるものは、数えます。
- 他人の失敗を見たら、「何がなかったか」を見る。「努力が足りない」と思ったら、その人に、自分にあった下駄があったかを、たしかめます。
- 自分のやり方を人に教えるときは、前提を、先に書く。「家賃が0なら回る」「手元に半年分の生活費があれば回る」。前提を書かないやり方は、同じ条件の人にしか、再現できません。
- 失敗の理由を外に置くのは、半分までにする。運や環境のせいにするのは、動けなくならないためには、必要です。ただし、自分で直せる原因は、残しておきます。
5. まとめ
- 自己奉仕バイアスは、成功は自分の力のおかげ、失敗は運やまわりのせい、と考えてしまう心の動き。
- 他人に向くと、他人の成功は運、他人の失敗は本人の努力不足、という見方になる。
- 家賃8万円を5年払わずに済めば、下駄は480万円。5年で1,000万円残しても、48%は下駄。
- 私は、20代から30代前半まで、「勉強しないやつはバカ、努力できないのは甘え」と本気で思っていた。実際は、住む家に困らないインフラと、若いうちに努力が報われた経験の上に、立っていた。
- 下駄に気づかないまま教えたやり方からは、達成者が出なかった。人に教えるときは、前提を先に書く。

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