合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)とは、1人ひとりにとっては正しい行動を、全員がやると、全体では、悪い結果になることです。「1人にとって正しいことは、全員にとっても正しい」という考えの、まちがいを、指します。
この記事では、まず、意味と、よく知られた例を、説明します。次に、計算機で、「同じ方法をやる人がふえると、1人あたりの利益が、どう減るか」を、出します。最後に、教える側にいる私が、この仕組みを、どう見ているかを、書きます。
1. 合成の誤謬とは
1-1. 意味
「合成」は、部分を足して、全体を作ることです。「誤謬」は、まちがいです。部分で正しいことを、そのまま全体に当てはめると、まちがえる。これが、合成の誤謬です。経済学で、よく使われます。
1-2. よく知られた例
| 1人にとっては、正しい | 全員がやると |
|---|---|
| 将来にそなえて、お金を使わずに、ためる | 物が売れなくなり、会社の売上がへり、給料がへる。全体の貯金は、ふえない(貯蓄のパラドックス) |
| 劇場で、立ち上がると、よく見える | 全員が立つと、だれも、よく見えない。つかれるだけ |
| 値下げをすると、自分の店に、客が来る | 全部の店が値下げをすると、客の数は変わらず、全部の店の利益が、へる |
| 銀行があぶないと聞いたら、早く、お金を引き出す | 全員が引き出すと、健全な銀行も、つぶれる |
どの例でも、1人ひとりは、まちがった判断を、していません。それぞれが得なほうをえらんだ結果、全体が、悪くなります。だから、「みんな、もっと考えて動こう」と言っても、なおりません。
1-3. なぜ、起こるのか
理由は、1つです。自分の行動が、ほかの人の結果を、変えるからです。1人だけが立ち上がるとき、うしろの人の見え方が、悪くなります。1人なら、その影響は、小さい。全員がやると、影響が、自分にも、もどってきます。「自分1人がやっても、全体は変わらない」という前提が、全員がやったときには、成り立ちません。
2. 計算機:同じ方法をやる人がふえると、1人あたりは、どう減るか
いまの、1人あたり:
人がふえたあとの、1人あたり:
へった割合:
はじめに入っている数字は、100万円、10人、90人、30%です。例の数字です。答えは、いまが1人あたり10万円、人がふえたあとが0.7万円、へった割合が93%です。
この計算は、利益を、人数で、同じに分けています。実際は、うまい人が多く取り、あとから入った人は、もっと少なくなります。それでも、式の形は、変わりません。分母は、人数です。「この方法で、月10万円かせげた」という話が、本当でも、聞いた人が90人入ったあとの数字は、べつの数字です。
3. 私の例:教える側から見た、合成の誤謬
3-1. 売り出した直後が、天井になる
私は、いま、知識と、個別の指導を、売る側に、います。利害のある立場です。その上で、書きます。
世の中の、かせぎ方の教材や、スクールの多くは、うまくいった人の結果を、もとに、作られています(生存者バイアスの記事に、書きました)。そして、売り出した直後が、天井です。参加する人が、ふえるほど、その方法で取れる利益は、減っていきます。2章の計算機の、形です。
こういう形で人を集めている所に参加して、結果が出なかった人の多くが、私に、連絡をしてきます。1人ひとりは、「かせげた人がいる方法を、習う」という、正しい判断を、しています。全員がそれをやった結果、その方法が、かせげなくなります。私は、これを、こう言っています。最大瞬間風速は、再現性を、担保してくれない。
3-2. だから、私は、広げるのを、やめた
私は、この形が、いやでした。だから、下の人をやとって、スクールとして、規模を大きくすることを、やめました。「だれでも、かんたんに、かせげる」という、申しこみが取りやすい言葉で、人を集めることも、やめました。教える人数をふやせば、私の売上は、ふえます。けれど、教わった人の1人あたりは、減ります。分母をふやしているのは、教えている私だからです。
かせげる話を、人に言うかどうかの判断は、「儲け話は人に言わない」の記事に、書きました。
3-3. 中国からの輸入:「知っている人が少ない」は、いつか、終わる
同じ形を、私は、中国からの輸入でも、見ました。以前は、中国から安く買えることを、知っている人が、少なかった。だから、仕入れて、日本で売れば、売れました。いまは、クレジットカードがあれば、日本の通販と変わらない感覚で、だれでも、中国から、直接、買えます。転売の人から買う理由が、ありません。売っていた私も、そう思います(中国輸入の記事に、くわしく書きました)。
「知っている人が少ない」ことで成り立つ利益は、知る人がふえると、消えます。これも、分母の問題です。
3-4. 残ったのは、全員には、まねができないもの
私は、いまも、修理に使う部品は、中国から、仕入れています。これは、つづいています。個人が、「部品は、中国から買える」と知っても、直す技術がなければ、使えないからです。私は、この優位性は、これからも、つづくと、見ています。
ここからは、私の見立てです。合成の誤謬が起きやすいのは、「知れば、だれでも、すぐ、まねできる方法」です。起きにくいのは、知っただけでは、まねできない方法です。技術、信用、時間のかかる準備が、いるものです。入ってくる人数が、かってに、しぼられます。
4. 合成の誤謬に、まきこまれないために
- 「かせげた」という話を聞いたら、分母を、聞く。いま、何人がやっているか。この話を、何人が聞いているか。計算機に、入れてみます。
- 「知れば、だれでもできる」は、長所ではなく、弱点として、見る。自分にとってかんたんなら、あとから来る90人にとっても、かんたんです。
- 人がふえても、へらないものを、持つ。技術や、取引先との信用は、ほかの人が入ってきても、減りません。競争のはげしい場所をさける考え方は、レッドオーシャンの記事に、書きました。
- 売り場や、市場が少ない数に集まる仕組みも、知っておく。1人ひとりが得なほうをえらんだ結果、全体の形が決まる点は、寡占の記事と、同じです。
5. まとめ
- 合成の誤謬は、1人にとって正しい行動を、全員がやると、全体では悪い結果になること。
- 例は、貯蓄のパラドックス、劇場で立ち上がる、値下げ競争、銀行の取り付け。
- 1人ひとりは、まちがっていない。だから、「考えて動こう」では、なおらない。
- かせぎ方の教材は、売り出した直後が天井で、参加者がふえるほど、1人あたりが減る。10人で100万円を分けていた所に90人が入り、値下げで3割へれば、1人あたりは、10万円から0.7万円になる。
- 残るのは、知っただけでは、まねができないもの。

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