事なかれ主義とは、問題があっても、波風を立てずに、何ごともなくすませようとする態度のことです。見て見ぬふりをする。決めるべきことを、決めない。前の年と、同じにする。どれも、事なかれ主義の、形です。
先に、書いておきます。私は、事なかれ主義を、悪だとだけは、思っていません。私自身、お客との争いで、事を荒立てずに、お金を返して終わらせたことが、あります。逆に、目先の売上が下がると分かっていて、事を起こす側を、選んだこともあります。この記事は、事なかれ主義を、性格の話ではなく、損得の形の話として、書きます。
この記事では、意味としくみを先に書いて、そのあとで、計算機、私の例、対策を書きます。
1. 事なかれ主義とは
1-1. 意味
「事なかれ」は、「事が、ないように」という意味です。問題を解決することより、問題が表に出ないことを、先にする。これが、事なかれ主義です。
| 場面 | 事なかれ主義の、動き |
|---|---|
| 会議 | おかしいと思っても、言わない。決定を、次回に回す |
| 苦情 | 原因を調べずに、あやまって、終わらせる |
| 不正や、ミス | 見なかったことにする。上に、あげない |
| 新しい提案 | 「前例がない」で、止める |
1-2. 近い言葉との、ちがい
| 言葉 | 中身 |
|---|---|
| 事なかれ主義 | 波風を立てないことを、先にする「態度」 |
| 現状維持バイアス | 変えることの損を、大きく見つもる「心のくせ」 |
| 不作為バイアス | 「やって起きた害」を、「やらずに起きた害」より、重く感じる「心のくせ」 |
| 日和見主義 | 形勢を見て、有利なほうにつく「態度」 |
心のくせは、だれにでも、あります。事なかれ主義は、そのくせに、組織のしくみが、重なったときに、強く出ます。
2. なぜ、事なかれ主義になるのか
2-1. 減点で、評価されるから
動いて失敗したら、減点。何もしなければ、0点。この形の評価だと、いちばん点が高いのは、「何もしない人」です。事なかれ主義は、なまけでは、ありません。減点の評価に対する、正しい答えです。数字が目標になると、人は、その数字にだけ、正しく動きます(グッドハートの法則)。
2-2. 費用は自分が払い、得は全員が受け取るから
問題を指摘すると、時間を取られます。人間関係も、悪くなるかもしれません。その費用は、指摘した人が、1人で払います。問題が直って得をするのは、全員です。「だれかが言うだろう」と全員が思えば、だれも、言いません。これは、フリーライダーと、同じしくみです。
2-3. やらなかった害は、見えにくいから
やって失敗した害は、だれがやったかが、はっきり残ります。やらずに起きた害は、だれのせいかが、ぼやけます。人は、やって起きた害のほうを、重く感じます(不作為バイアス)。だから、「やらない」が、安全に見えます。
2-4. 小さな見のがしが、基準になるから
1回、見のがされた問題は、「このくらいは、いいのだ」という合図になります。次は、もう少し大きな問題が、見のがされます。これは、割れ窓理論の、形です。事なかれ主義は、1回1回は小さくても、つみ重なります。
3. 計算機:「言う人」の損得と、組織の損得
同じ1つの指摘を、組織から見たときと、指摘する本人から見たときで、損得を、くらべます。
問題をほうっておいたときの損失 円
その損失が、実際に起きる確率 %
指摘が通って、問題が直る確率 %
指摘する人が払う費用(時間、人間関係を、お金に直して) 円
指摘が通ったときに、本人が受け取る得(評価、手当) 円
組織の損得(指摘があった場合):
指摘する本人の損得:
本人が損をしないために、いる得:
はじめの数字だと、組織は、期待値で、50万円の得です。指摘する本人は、10万円の損です。本人が損をしないためには、指摘が通ったときに、20万円ぶんの得が、いります。いまは、0円です。この差が、事なかれ主義の、正体です。「勇気を出せ」と言っても、この差は、1円も、うまりません。
4. 私の例:事を荒立てなかったとき、荒立てたとき
4-1. お金を返して、終わらせた
以前、私は、お客の達成率を上げるために、期日を決めて、目標を達成しなければ、先の教材をわたさない、という売り方を、していました。販売ページにも、そう、書いていました。達成する人は、たくさん出ました。けれど、達成できなかった1人から、弁護士を通して、「ページに書いてある教材が提供されないのは、詐欺だ」と、返金を求められました。私は、返金して、この売り方を、やめました。
外から見れば、これは、事なかれ主義です。争わずに、お金で、終わらせています。ただ、私は、返金だけで終わらせずに、その売り方そのものを、やめました。事なかれ主義が害になるのは、「その場をおさめて、原因を、そのままにする」ときです。その場をおさめることと、原因をなくすことは、べつの作業です。前だけをやるのが事なかれ主義で、両方やれば、ただの、撤退です。
4-2. 見ぬいても、言わなかった
同じ売り方の中で、達成したように見せかけて、申請してくる人も、いたと思います。矛盾に気づいても、私は、言いませんでした。それも工夫だ、と、考えたからです。
これも、形は、「見て見ぬふり」です。ちがいは、理由を、自分で、言えるかどうかです。「言うと、めんどうだから」しか出てこないなら、事なかれ主義です。「言わないほうが、目的に合うから」と言えるなら、判断です。外からは、見分けが、つきません。自分にしか、分かりません。
4-3. 売上が下がっても、事を起こす
逆の例です。私は、オークションで、落札したのに支払わない相手と、受け取ったあとで難くせをつけてくる相手は、ブラックリストに、入れます。相当な理由がなければ、入れません。けれど、入れたら、見直しません。
ブラックリストを使うと、入札できる人がへるので、落札の金額には、ひびきます。ただ、それは、短い期間の話です。参加する人は、ふえ続けるので、しばらくすれば、また、相場どおりに、売れます。短く見れば損で、長く見れば、自分のストレスと、お金の流れを、守る行為です。
支払いも、同じです。落札から24時間たっても支払いがなければ、私は、落札者の都合として、削除します。待てば、払う人も、いるかもしれません。けれど、待つ、というのは、決めない、ということです。決めないあいだ、その商品は、売ることも、出し直すことも、できません。何もしないことにも、費用は、かかっています。
4-4. 反対する側は、何も失わない
もう1つ、昔の話です。私は、高校のとき、東京理科大学の二部(夜間)に、行きたいと思っていました。推薦の資格は、満たしていました。けれど、担任と親に反対されて、進学できませんでした。いまの私なら、理科大の二部、一択です。世の中の評価は、そちらが、明確に高いと、見ています。
だれが事なかれ主義だったかを、ここで決めるつもりは、ありません。見てほしいのは、形です。「やめておけ」と言う側は、やめさせても、何も、失いません。やらせて、うまくいかなかったら、責められます。3章の計算機の、「本人の損得」と、同じ形です。そして、やめた結果の費用は、言った側ではなく、言われた側が、払います。
だから、「やめておけ」と言われたときは、その人が、どちらに転んだら損をするのかを、先に、見てください。反対の中身が正しいかどうかは、そのあとで、考えます。
5. 対策
5-1. 組織の側:損得の形を、変える
- 「動かなかったこと」も、評価にのせる:減点だけの評価を、やめます。問題を見つけて上げた数、直した数を、点にします。3章の「本人が受け取る得」を、0円から、動かす手です。
- 指摘の費用を、下げる:名前を出さずに上げられる窓口。上司を通さない道。指摘した人が、その後始末まで、やらされないこと。「言った人が、やることになる」組織では、だれも、言わなくなります。
- 決めないことにも、期日をつける:「次回に回す」は、1回まで。2回目は、「やらない」と、決めたことにします。決めないことの費用を、見える形にします。
- 小さな見のがしを、早く直す:2章の4つ目に、きく手です。ただし、しめつけすぎると、マイクロマネジメントに、なります。
5-2. 個人の側:全部と、たたかわない
- たたかう場所を、選ぶ:全部の問題に声を上げると、3章の費用を、毎回、払うことになります。損失が大きく、自分が言えば通る確率が高いものに、しぼります。
- 記録だけは、残す:言わないと決めたときも、いつ、何に気づいたかは、書いておきます。あとで問題が表に出たとき、自分を守る、いちばん安い道具です。
- 理由を、自分に言ってみる:4章の2つ目の、見分け方です。「めんどうだから」しか出てこないなら、それは、判断ではありません。
- 出ていくことも、選択肢に入れる:損得の形が変わらない組織で、1人だけ声を上げ続けると、まわりに合わせすぎるのと、同じくらい、すりへります(過剰適応の記事)。
6. まとめ
- 事なかれ主義とは、問題の解決より、波風を立てないことを、先にする態度です。
- 原因は、性格ではなく、損得の形です。減点の評価、指摘の費用は1人が払い得は全員が受け取る形、やらなかった害の見えにくさ、小さな見のがしのつみ重ね。
- 計算すると、組織には得でも、指摘する本人には損、という差が、はっきり出ます。
- 私は、返金して終わらせたことも、売上が下がるのを分かって、ブラックリストを使うことも、あります。分かれ目は、原因までなくしたか、理由を自分で言えるか、です。
- 「やめておけ」と言う側は、やめさせても、何も失いません。費用を払うのは、言われた側です。

コメント