リンゲルマン効果は、「いっしょに作業する人数が増えるほど、1人あたりが出す力が、下がっていく」現象です。「社会的手抜き」とも呼ばれます。綱引きを1人でやると、全力で引きます。8人でやると、1人ずつの引く力は、半分くらいまで落ちます。だれも、さぼろうとは思っていません。それでも、落ちます。
私は、学ぶ人たちでチームを作って、毎日、やったことを書きこんでもらう仕組みを、作ったことがあります。ふたを開けると、書きこむのは、いつも、決まった数人でした。
人数が多すぎるせいだと思って、少人数にしました。それでも、書きこまない人が、出ました。原因は、人数では、なかったのです。この記事では、リンゲルマン効果の中身を説明したあとで、その話を書きます。
1. リンゲルマン効果とは
名前のもとは、フランスの農業工学者、マクシミリアン・リンゲルマンです。19世紀の終わりごろ、綱を引く力を、人数を変えて、測りました。1人で引いたときの力を100%とすると、人数が増えたときの、1人あたりの力は、こうなりました。
| 人数 | 1人あたりが出した力 |
|---|---|
| 1人 | 100% |
| 2人 | 93% |
| 3人 | 85% |
| 8人 | 49% |
力が落ちる理由は、2つに分けられます。
| 理由 | 中身 |
|---|---|
| 息が合わない | 引くタイミングや向きが、少しずつ、ずれる。やる気とは関係のない、調整のむだ |
| やる気が下がる | 自分ひとりの力が、結果にどれだけ効いたのか、見えなくなる。手を抜いても、ばれない。がんばっても、自分の手がらに、ならない |
2つ目のほうを、アメリカの心理学者ラタネたちが、1979年に「社会的手抜き」と名づけました。目かくしをして、「みんなで大声を出している」と思いこませただけで、実際には1人で声を出しているのに、声は小さくなりました。息が合わないせいではなく、「集団の中にいる」と思うだけで、力は落ちるのです。
近い言葉と、くらべます。
| 言葉 | 中身 |
|---|---|
| リンゲルマン効果(社会的手抜き) | 人数が増えると、1人あたりの出す力が下がる |
| 傍観者効果 | まわりに人が多いほど、「だれかがやるだろう」と思って、だれも助けに動かない |
| フリーライダー問題 | 費用を出さずに、成果だけを受け取る人が出る。経済学の側からの呼び方 |
| 社会的促進 | 反対の現象。人に見られていると、成績が上がる。かんたんな作業で、自分の成績が見えるときに起きる |
いちばん下の行が、大事です。人がいると力が落ちる場合と、上がる場合がある。分かれ目は、自分の出したものが、自分のものとして、見えるかどうかです。
2. 私の例|毎日書きこむ仕組みを作ったら、決まった人しか、書かなくなった
学ぶ人たちでチームを作り、毎日、その日にやったことを、書きこんでもらう。そういう仕組みを、作ったことがあります。ねらいは、2つでした。毎日書くと決まっていれば、手が動く。ほかの人の動きが見えれば、刺激になる。
始めてみると、こうなりました。毎日書きこむのは、決まった数人。残りの人は、読んでいるだけか、読んでもいないか、です。書きこんでいる人に、遠慮しているようにも、見えました。
私は、人数のせいだと考えました。リンゲルマンの綱引きと、同じだ。人が多いから、「自分が書かなくても、だれかが書く」と思うのだろう。そこで、少人数のチームに、分けました。
結果は、同じでした。少人数にしても、書きこまない人は、出ました。
3. 原因は、人数ではなかった
人数をへらしても直らなかった。ということは、原因は、人数ではありません。
では、何だったのか。私は、自分が反対の立場にいたときのことを、思い出しました。
私も、ほかの人が運営するコミュニティに、入ったことがあります。はじめは、書きこんでいました。そのうち、書かなくなりました。理由は、はっきり覚えています。書きこんでも、自分に、何も返ってこないと感じたからです。
書くには、時間がかかります。まとめる手間も、かかります。書いたものが、だれかの役に立っているのかも、分かりません。返事も、ほとんど来ません。それなら、その時間を、自分の作業に使ったほうが、いい。これは、手抜きではなく、まともな計算です。
こう考えると、私のチームで起きたことは、おかしなことでは、ありませんでした。
| 私が考えていたこと | 実際に起きていたこと | |
|---|---|---|
| 書かない理由 | 人が多いので、だれかがやると思っている | 書いても、自分に返ってくるものがない |
| 打った手 | 人数をへらす | — |
| 結果 | 変わらなかった | 人数をへらしても、返ってくるものは、増えていなかった |
書きこみは、綱引きとちがって、だれが書いたかが、名前つきで、見えます。1章の話でいえば、力が落ちにくいはずの条件です。それでも、書かない人が出た。見えるだけでは、足りませんでした。見えたうえで、本人に、何かが返ってくる必要がありました。
毎日書いていた数人には、返ってくるものが、あったのだと思います。私からの返事。ほかの人からの反応。書くことで、自分の考えがまとまる、という実感。その人たちにとっては、書く手間より、返ってくるもののほうが、大きかった。書かない人にとっては、小さかった。それだけの、ちがいです。
そして、決まった人ばかりが書く状態が続くと、あとから書く人の手間は、さらに上がります。すでにできあがった輪の中に、入っていく形になるからです。遠慮が生まれます。これは、同調圧力の記事に書いた、空気の話と、つながっています。
4. 学んだこと|「全員に、同じことを、やらせる」仕組みは、働かない
この経験から、私が学んだことです。
- 書かない人を、やる気がない人だと、決めつけない。私自身が、ほかの場所では、書かない側にいました。書かないのは、その人にとって、割に合わないからです
- 人数をへらすのは、息が合わない問題には効く。割に合わない問題には、効かない。私は、原因を取りちがえて、効かない手を打ちました
- 全員に、同じ形で出させる仕組みは、その形が合う人にしか、働かない。毎日、みんなの前で書く、という形が合う人と、合わない人がいます。合わない人は、1対1なら、よく話します
- 出したものに、かならず、返す。返す手間を、運営する側が出せないなら、出させる仕組みを、作ってはいけません。出させるだけで返さない仕組みは、出す人から順に、つかれていきます
いまの私は、大人数のコミュニティを、運営していません。個別の指導は、月に2人まで。教材のサポートは、1対1のメールです。全員の前で書かせる形を、やめました。1対1なら、その人が出したものは、かならず、その人に返ります。綱を引いているのは、その人ひとりです。力は、落ちようがありません。指導の中身は、個人コンサルの始め方に書きました。
「達成しなければ先を渡さない」という、別の仕組みで失敗した話は、グッドハートの法則の記事に書いています。人を動かす仕組みは、作った側の思ったとおりには、動きません。
5. 仲間と、何かを始める人へ
リンゲルマン効果は、仲間と商売を始めるときにも、出ます。
- 「みんなでやる」仕事を、作らない。仕事は、1つずつ、名前をつけて、1人に渡します。2人で持った仕事は、2人とも、相手がやると思います
- それぞれの出したものが、それぞれの取り分に、つながる形にする。がんばっても、がんばらなくても、取り分が同じなら、1章の表のとおりに、力は落ちます
- 人数は、足りないくらいで、始める。人を足すのは、あとからでも、できます。へらすのは、むずかしいです
仲間と会社を作って、離れた話は、「友達と起業はやめとけ」に書きました。人を増やすほど、1人あたりの費用が上がっていく話は、規模の経済の記事にあります。
6. まとめ
- リンゲルマン効果(社会的手抜き)は、人数が増えるほど、1人あたりの出す力が下がる現象。綱引きの実験では、8人で、1人あたり49%まで落ちた
- 理由は2つ。息が合わないこと。そして、自分の出したものが見えなくなって、やる気が下がること
- 私は、毎日書きこむチームを作ったが、書くのは決まった数人だった。人数のせいだと考えて少人数にしても、変わらなかった
- 原因は、人数ではなく、書いても本人に返ってくるものがないことだった。私自身、ほかのコミュニティでは、同じ理由で、書かなくなっていた
- 書かないのは、手抜きではなく、まともな計算。出させる仕組みを作るなら、運営する側が、かならず返す手間を出す
- 私は、全員の前で書かせる形をやめて、1対1に移った。1対1なら、出したものは、かならず本人に返る

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