グッドハートの法則は、「ある数字を目標にしたとたん、その数字は、ものを測る役に立たなくなる」という法則です。数字を良くすることが目的になると、人は、中身を良くするより先に、数字のほうを良くする方法を見つけるからです。
この記事では、定義と、よく一緒に語られるコブラ効果を先に説明します。そのあとで、私自身の例を書きます。柱は、「期日までに目標を達成しなければ、先のコンテンツを渡さない」という売り方をしたときの話です。達成者は、大量に出ました。そして、弁護士を通して、返金を請求されました。
1. グッドハートの法則とは
名前のもとは、イギリスの経済学者、チャールズ・グッドハートです。1975年に、金融政策について、こう指摘しました。統計の上で安定して見える関係は、それを使って何かを操作しようとしたとたんに、くずれる。
いまよく引用される形にまとめたのは、人類学者のマリリン・ストラザーンです。「尺度が目標になると、それは良い尺度ではなくなる」。
近い言葉を並べます。
| 言葉 | 中身 |
|---|---|
| グッドハートの法則 | 数字を目標にすると、その数字は、もとの意味を測れなくなる |
| キャンベルの法則 | 数字が大事な決定に使われるほど、その数字はゆがめられ、測っていた活動そのものもゆがむ。社会学者キャンベルの指摘で、中身はほぼ同じ |
| コブラ効果 | 問題を減らすために作ったごほうびが、問題を増やしてしまう。グッドハートの法則の中でも、結果が逆向きに出た場合 |
大事なのは、数字を追う人が、ずるい人とは限らないことです。数字で評価されると決まれば、だれでも、数字に向かって動きます。それは、ふつうの反応です。壊れるのは人ではなく、数字と中身のつながりのほうです。
2. コブラ効果とは
名前のもとは、イギリスが治めていた時代のインド、デリーの話として伝えられているものです。毒ヘビのコブラを減らすために、役所が、コブラの死がいに報しょう金を出しました。すると、報しょう金のために、コブラを育てる人が出てきました。役所が制度をやめると、育てていた人たちは、値打ちのなくなったコブラを放しました。コブラは、前より増えました。ドイツの経済学者ホルスト・ジーベルトが、この話から名前をつけました。
デリーの話は、どこまで本当かが、はっきりしていません。記録がしっかり残っているのは、1902年の、フランス領だったハノイの話です。ネズミを減らすために、ネズミのしっぽに報しょう金が出ました。町には、しっぽのないネズミが走るようになりました。しっぽだけ切って放せば、ネズミはまた子を産み、しっぽが増えるからです。
役所が欲しかったのは、「ネズミが少ない町」です。お金を払った相手は、「しっぽの数」です。この2つは、報しょう金を出すまでは、つながっていました。出したとたんに、切れました。
3. 私の例①|「達成しなければ、先を渡さない」講座
3-1. 仕組み
教材を買っても、読むだけで、手を動かさない人がいます。これは、教える仕事をしている人なら、だれでもぶつかる問題です。
私は、買った人の達成率を上げたくて、こういう売り方をしました。
- 講座の中に、期日と、目標を決める
- 期日までに目標を達成した人にだけ、その先のコンテンツを渡す
- 達成しなければ、先のコンテンツは渡さない。このことは、販売ページに、はっきり書いておく
3-2. 起きたこと
起きたことは、3つです。
1つ目。達成者が、大量に出ました。ねらいどおりです。期日があり、その先に欲しいものがあると、人は動きます。
2つ目。達成したと、いつわって申請する人が、いたと思います。申請の中に、つじつまの合わないものがありました。
3つ目。達成できなかった1人から、弁護士を通して、返金を請求されました。言い分は、こうです。販売ページに書いてあるコンテンツが、提供されていない。これは詐欺だ。
販売ページには、達成しなければ先は提供されない、と書いてありました。それでも、請求は来ました。私は、返金しました。そして、この売り方を、やめました。
法律の上でどちらが正しかったのかを、ここで論じるつもりはありません。書きたいのは、1つだけです。ページに書いてあることと、買った人が「約束された」と感じていることは、同じではありませんでした。相手から見れば、払ったお金は、全部のコンテンツの代金です。条件は、読んでいても、自分が引っかかる側になるまでは、自分のこととして読まれません。
3-3. いつわりの申請を、私は止めませんでした
つじつまが合わないことに気づいても、私は、何も言いませんでした。いまでも、それでよかったと思っています。先に進むために、頭を使った。それは、工夫です。
関門を置いた目的は、取りしまることではなく、動いてもらうことでした。いつわりの申請を書くためにも、講座を読み、何を達成すればいいのかを理解し、つじつまを考える必要があります。何もしない人よりは、前に進んでいます。
ただし、その代わりに、失ったものがあります。「達成者が大量に出た」という数字の意味です。この数字の中には、本当に達成した人と、申請だけ通した人が、まざっています。どちらが何人なのかは、私にも分かりません。この形を、しくみの側から説明したのが、モラルハザードの記事です。
3-4. 何が起きていたのか
| 私が欲しかったもの | 実際に関門にしたもの | |
|---|---|---|
| 中身 | 買った人が、手を動かして、できるようになること | 期日までに、達成の申請が通ること |
| 数字の動き | — | 大きく伸びた |
| わきで起きたこと | — | いつわりの申請。返金の請求が1件。売り方の廃止 |
これは、グッドハートの法則そのものです。申請が通ることを関門にしたので、申請を通すことが、目標になりました。
コブラ効果とくらべると、半分だけ当たっています。達成率は、逆向きには動いていません。上がりました。逆向きに出たのは、別の場所です。買った人の結果を良くするために作った仕組みが、買った人との争いを生みました。そして最後は、仕組みごと、なくなりました。
いまの有料講座は、買った人の全員に、72通すべてが届きます。個別の指導では、約束するのは指導の提供だけで、成果は約束しない、と契約書に書いています。こちらの中身は、個人コンサルの記事に書きました。
4. 私の例②|アメブロのランキングと、ペタ
アメブロをやっていたころ、ランキングを上げるサービスと、ペタを自動でつける道具を、使ったことがあります。
ランキングは、上がりました。ペタも、増えました。成約には、1件もつながりませんでした。来たのは、同じように数字を売りたい業者ばかりです。
ランキングの順位は、もともと、「読まれている」ことの目印でした。順位そのものを買えるようになった時点で、順位は、読まれているかどうかを、教えてくれなくなります。アメブロについての私の判定は、アメブロはオワコンかに書きました。
5. 私の例③|文字数の多い順に選んだ、20本
このサイトの記事を手入れする順番を決めるときに、文字数の多い順で、「最優先の20本」を選んだリストがありました。長い記事ほど、力が入っていて、大事なはずだ、という考え方です。
サーチコンソールで、その20本の、直近28日間のクリックを数えました。41回。サイト全体の、0.58%でした。
文字数は、書く側が、いくらでも増やせる数字です。AIに書かせれば、なおさらです。増やせる数字は、増えます。そして、読まれているかどうかとは、関係がなくなります。いまは、手入れの順番を、文字数ではなく、直近のクリックで決めています。
6. 壊れにくかった物差し|「メール講座に登録されるか」
逆に、長く使えている物差しもあります。
記事を、ライティングの会社に外注していたときのことです。月に20万円から30万円を、半年ほど払いました。納品された記事は、ふつうの出来でした。ただ、メール講座に登録される記事には、なりませんでした。だから、やめられました。くわしくは、コンコルド効果の記事に書いています。
この物差しが壊れなかった理由は、はっきりしています。
- 書き手が、自分では動かせない。登録するかどうかを決めるのは、読者です。文字数や本数とちがって、書く側の努力だけでは、増やせません
- 欲しい結果に、近い。私が欲しいのは、記事の本数ではなく、読者との関係です。登録は、その入口そのものです
- 書き手への、ごほうびにしていなかった。私が、判断のために見ていただけです。「登録1件につき、いくら払う」としていたら、登録だけを増やす方法を、だれかが見つけていたと思います
7. 数字が壊れる条件
私の例を並べると、壊れた数字と、壊れなかった数字の差が見えます。
| 数字 | 測られる側が、自分で動かせるか | 欲しい結果との近さ | 結果 |
|---|---|---|---|
| 達成の申請 | 動かせる(申請は自分で書ける) | 中くらい | 伸びたが、意味がうすまった |
| ランキング、ペタ | 動かせる(お金で買える) | 遠い | 伸びたが、成約はゼロ |
| 文字数 | 動かせる(いくらでも足せる) | 遠い | クリックと無関係だった |
| メール講座への登録 | 動かせない(決めるのは読者) | 近い | いまも使えている |
条件は、2つです。測られる側が、中身を変えずに、数字だけを動かせること。そして、その数字に、ごほうびか、罰が、ついていること。2つがそろうと、数字は、中身から、はなれていきます。
8. 守り方
8-1. 数字を決める側にいるとき
- 目標にする前に、「中身を変えずに、この数字だけを上げる方法」を、自分で3つ考える。3つ出てくるなら、相手も見つけます
- ごほうびをつける数字と、判断のために見る数字を、分ける。見るだけの数字は、壊れにくいままです
- 関門にするなら、通れなかった人がどうなるかを、先に決める。私は、ここを決めていませんでした。通れなかった人は、お金を払ったのに、先を受け取れない人になります。ページに書いてあっても、その人が納得するとは限りません
- 数字が急に良くなったら、喜ぶ前に、中身を見に行く。達成者が大量に出たとき、私が見るべきだったのは、人数ではなく、申請の中身でした
8-2. 数字で測られる側にいるとき
- その数字が、もともと何を測るためのものだったかを、思い出す。フォロワーの数、記事の本数、出品の数。どれも、増やすこと自体は、目的ではなかったはずです
- 自分で自分に決めた数字にも、同じことが起きます。「毎日1本書く」と決めると、1本書くことが目的になって、だれにも読まれない1本が増えます。上司がいなくても、この法則は働きます
9. まとめ
- グッドハートの法則は、数字を目標にすると、その数字がもとの意味を測れなくなる、という法則。コブラ効果は、その中でも、ごほうびが問題を増やしてしまう場合
- 私の例の柱は、「期日までに達成しなければ、先を渡さない」売り方。達成者は大量に出た。いつわりの申請もあったと思うが、工夫だと考えて止めなかった。達成できなかった1人から、弁護士を通して返金を請求され、返金して、この売り方をやめた
- 販売ページに書いてあることと、買った人が「約束された」と感じていることは、同じではなかった
- アメブロのランキングとペタは、伸びたが成約ゼロ。文字数の多い順に選んだ20本は、クリック全体の0.58%
- 壊れなかったのは、「メール講座に登録されるか」。測られる側が動かせず、欲しい結果に近く、ごほうびにしていなかった
- 数字が壊れる条件は、中身を変えずに数字だけ動かせることと、その数字にごほうびか罰がついていること

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