モラトリアムとは、大人としての役割を引き受けるのを、社会から、しばらく待ってもらっている期間のことです。もとは、お金の言葉で、「支払いの猶予」を意味します。心理学者のエリクソンが、これを、青年期の説明に、使いました。
この記事では、まず、意味と、心理学での位置づけを、説明します。次に、道具で、自分がいまどの場所にいるかを、たしかめます。最後に、就職をせずに、5つのことを試して、1つだけが残った、私の例を、書きます。
1. モラトリアムとは
1-1. もとの意味は、「支払いの猶予」
モラトリアム(moratorium)は、もともと、お金の言葉です。災害や、恐慌のときに、国が、借金の支払いを、しばらく待たせることを、言います。支払いは、なくなりません。待ってもらっているだけです。
1-2. 心理学での意味
心理学者のエリクソンは、この言葉を、青年期に、使いました。青年は、「自分は何者か」を決めるまでのあいだ、働く、家族を持つ、といった大人の役割を、待ってもらっています。このあいだに、いろいろな役割を、試します。エリクソンは、これを、「心理社会的モラトリアム」と、よびました。悪い意味では、ありません。自分を決めるために、必要な期間です。
日本では、精神科医の小此木啓吾が、1978年の本『モラトリアム人間の時代』で、この言葉を、広めました。いつまでも決めずに、猶予の中にとどまる人が、ふえた、という指摘です。日本で、この言葉に、少し悪い響きがあるのは、このためです。
1-3. 4つの場所
心理学者のマーシャは、エリクソンの考えを、2つの問いに、分けました。「さがしたか」と、「決めているか」です。組み合わせで、4つの場所が、できます。
| 決めている | 決めていない | |
|---|---|---|
| さがした | 達成 | モラトリアム |
| さがしていない | 早期完了 | 拡散 |
- 達成:いろいろ試した上で、決めている。
- モラトリアム:試している途中で、まだ、決めていない。
- 早期完了:試さずに、決めている。親や、まわりが決めた道を、そのまま、歩いている形です。
- 拡散:試しておらず、決めてもいない。
この表で見ると、モラトリアムは、「何もしていない」では、ありません。何もしていないのは、拡散です。モラトリアムは、「さがしている」ほうに、入ります。
2. 道具:自分は、いま、どの場所にいるか
当てはまるものに、チェックを入れてください。これは、考えを整理するための道具です。正式な心理検査の尺度では、ありません。
さがす
決める
数:
いまの場所:
それぞれ、4つのうち、2つ以上に当てはまれば、「さがした」「決めている」と、数えます。2つという線は、私が、この道具のために引いた線です。研究で決まった数では、ありません。
「拡散」と出た人は、「決める」より先に、「さがす」のチェックを、1つ、ふやすことを、考えてください。「早期完了」と出た人は、いまの道が、自分でえらんだものかを、1回、たしかめる価値が、あります。
3. 私の例:5つ試して、1つだけ、残った
3-1. 大学3年:面接に、落ちつづけた
大学3年のころ、私は、研究室に、受け入れてもらえませんでした。就職活動では、面接に、落ちつづけました。ほかの大学の学生と会って、レベルの高さに、絶望しました。
そのころ、就職活動の帰りに、たまたま入った古本屋で、数日前に、ネットで買ったばかりの本が、100円で、売られていました。買って、出品したら、30分で、売れました。「同じことを、くり返せるのでは」と、気づきました。
3-2. 内定は出たが、確信が、持てなかった
内定は、取れました。けれど、会社員になる確信が、持てませんでした。そこで、たのんで、インターンを、させてもらいました。ホームページの更新を、まかされましたが、3時間から4時間かけても、まったく、できませんでした。となりでは、1年先に入った、年下の先輩が、上司に、ずっと、怒られつづけていました。
インターンが終わったあと、留年が、決まりました。私は、内定を、辞退しました。
3-3. 証券会社、友人との起業、そして、古本
次に、証券会社をめざして、もう1回、就職活動を、しました。志望の理由は、前より、すらすら、話せました。けれど、三次面接や、最終面接で、落ちました。友人と起業する話も、ありました。しっくりこなくて、やめました。
「行きたい会社がないなら、自分で、作るしかない」。私は、古本を売る仕事で、やっていくと、決めました。先輩に弟子入りして、言われたことを、全部、やりました。収入は、月に50万円まで上がり、就職する必要が、なくなりました。
3-4. 数えると、5つ試して、残ったのは、1つ
数えてみます。会社への就職活動、インターン、証券会社への就職活動、友人との起業、古本を売る仕事。5つです。残ったのは、1つです。4つは、残りませんでした。落ちたものも、自分からやめたものも、あります。
ここからは、私の見立てです。1-3の表でいえば、この時期の私は、「モラトリアム」の場所に、いました。さがしていて、まだ、決めていない。まわりから見れば、留年して、内定を辞退した学生です。けれど、表の上では、「拡散」とは、ちがう場所です。ちがいは、試した数です。
3-5. 猶予の支払いは、自分で、していた
もとの意味にもどると、モラトリアムは、「支払いの猶予」です。猶予には、お金が、かかります。学費、生活費、そして、そのあいだに働いていれば、もらえたはずの給料です(機会費用の考え方です)。
私は、古本を売る仕事で、学費、教科書代、定期代、就職活動のスーツ代を、自分で、はらっていました。アルバイトは、していません。猶予の長さは、その費用を、だれが、いつまで、はらえるかで、決まります。
学歴の使い方については、学歴ロンダリングの記事に、私の通った道を、書きました。
4. モラトリアムを、ぬける方法
- 考える数より、試す数を、ふやす。私は、インターンをやってみたあとで、内定を、辞退しました。インターンのように、短く、小さく試せる形を、さがします。
- 期限と、費用を、数字で書く。猶予は、いつまでか。月に、いくら、かかっているか。だれが、はらっているか。書くと、「あと何回、試せるか」が、わかります。
- 決めるのを、先にのばしているだけなら、別の問題。試す元気はあるのに、手がつかない場合は、先延ばしの記事の式が、使えます。完全な答えが出るまで決めない、という形なら、完璧主義の記事を、見てください。
- 何をやっても、むだだと感じるとき。落ちつづけると、試すこと自体を、やめたくなります。この仕組みは、学習性無力感の記事に、書きました。
受診の目安
進路のなやみは、病気では、ありません。けれど、次のような状態が、2週間以上つづくときは、進路の問題として考える前に、心療内科や、精神科、または、大学の学生相談室に、相談してください。
- ねむれない、または、ねむりすぎる日が、つづく
- 食欲がない、または、食べすぎる日が、つづく
- 前は楽しかったことが、楽しくない
- 朝、起き上がれず、学校や、仕事に、行けない
5. まとめ
- モラトリアムは、もとは「支払いの猶予」。心理学では、大人の役割を引き受けるまでの、待ってもらっている期間。
- マーシャの4つの場所では、モラトリアムは、「さがしているが、まだ決めていない」。何もしていない「拡散」とは、ちがう。
- 私は、5つ試して、1つが残った。ちがいを作ったのは、試した数。
- 猶予には、費用がある。期限と費用を、数字で書くと、あと何回試せるかが、わかる。

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