テールリスクは、めったに起きないけれど、起きたときの損が、とてつもなく大きいリスクのことです。値動きの分布をグラフにすると、まん中が高くて、両はしが、すそのように、うすく伸びます。この「すそ」が、テール(しっぽ)です。すその、はしのほうで起きる出来事、という意味です。
やっかいなのは、ふだんの数字には、出てこないことです。何年も、何も起きない。だから、「このリスクは、ない」と、受けとめてしまう。そして、1回で、それまでの利益の、ぜんぶを失います。
私は、これに近いことを、3回、経験しました。FXの口座が、1日で、なくなりました。書きためた記事が、1回の侵入で、ぜんぶ消えました。販売サイトのアカウントを、止められました。この記事では、しくみと、有名な例を先に書いて、そのあとで、私の例と、そなえ方を書きます。特定の商品を、すすめる記事では、ありません。
1. テールリスクとは
身長や、テストの点数は、つり鐘の形に、分布します。平均から大きくはなれた値は、ほとんど、出ません。身長が5メートルの人は、いません。
値動きも、同じ形だと考えて、多くのリスクの計算は、作られています。ところが、実際の相場では、つり鐘の形なら「何万年に1回」のはずの大きな動きが、何年かに1回、起きています。すそが、計算よりも、ずっと、ぶ厚い。これを、「ファットテール(太いしっぽ)」と呼びます。
| 出来事 | 何が起きたか |
|---|---|
| 1987年10月 ブラックマンデー | アメリカの株価指数が、1日で、約23%下がった |
| 1998年 LTCMの破綻 | ノーベル賞を受けた学者が加わっていた運用会社が、高いレバレッジで運用していて、ロシアの危機をきっかけに、数か月で、ほぼすべてを失った |
| 2000年〜2002年 | ナスダック100指数が、高値から、約83%下がった |
| 2015年1月 スイスフランショック | スイスの中央銀行が、為替の上限をやめると、とつぜん発表した。フランが、数分のうちに、対ユーロで、数十%動いた。損切りの注文が、その値段では通らず、口座の残高をこえる損を出した人が、多く出た |
作家で、もとトレーダーのナシーム・タレブは、こうした出来事を、「ブラックスワン(黒い白鳥)」と呼びました。白鳥は白い、とだれもが思っていた。黒い白鳥が1羽見つかっただけで、その常識は、くずれた。起きる前は、だれも予想していない。起きたあとは、だれもが、「予想できたはずだ」と言う。あとから説明がつくように感じる働きについては、後知恵バイアスの記事に書きました。
1-1. 近い言葉との違い
| 言葉 | 中身 |
|---|---|
| テールリスク | めったに起きないが、起きると、損がとても大きいリスク |
| ブラックスワン | 予想されていなかった、影響のとても大きい出来事。テールリスクが、実際に起きたもの |
| ファットテール | 大きな動きが、つり鐘の形の計算よりも、ずっと多く起きる、という分布の性質 |
| ボラティリティ | ふだんの値動きの大きさ。テールリスクは、これが小さいときにも、かくれている |
| 破産確率 | 勝負をくり返したときに、お金が尽きる確率。テールリスクは、その確率を、計算よりも、高くする |
2. いちばんあぶない形|小さく勝ちつづけて、まれに、ぜんぶ失う
テールリスクを、自分から、取りに行ってしまう形が、あります。
| ふだん | まれに | |
|---|---|---|
| 値が下がるたびに、買い増す売買 | もどるたびに、小さく勝つ | もどらなかった1回で、ぜんぶ失う |
| 保険を、売る側に回る取引 | 保険料が、毎月、入る | 大きな事故が起きると、保険料の何年ぶんもの支払いが、1回で出ていく |
| 高いレバレッジで、小さな値ざやを、何度も取る | 毎日、少しずつ、ふえる | 値がとんだ日に、口座が、なくなる |
| 1つの取引先、1つの販売サイトに、売上をぜんぶ集める | 効率が、いちばん良い | 相手の都合ひとつで、売上が、ゼロになる |
どれも、成績のグラフは、なめらかな、右肩上がりになります。ぶれが小さいので、安全に見えます。リスクあたりのリターンをはかる数字も、高く出ます(シャープレシオの記事)。「道に落ちている小銭を、ひろいつづける。うしろから、ロードローラーが来ている」。トレーダーのあいだで、昔から、こう言われている形です。
3. よくある例
- 売上の8割を、1社の取引先に、たよっている。その会社の担当者が、かわる
- 集客の大半を、1つの検索エンジン、1つのSNSに、たよっている。しくみが、変わる
- 会社の仕事が、1人のベテランの頭の中にしか、ない。その人が、とつぜん、来なくなる
- バックアップを、取っていない。10年、何も起きなかった
- 家計が、1人の収入と、その人の健康に、ぜんぶ、かかっている
どれも、ふだんは、「効率が良い」状態です。1社にしぼれば、手間が、へります。1人に任せれば、早い。効率を上げるほど、すそのリスクは、太くなります。そして、それは、月ごとの数字には、出てきません。
4. 私の例①|口座が、1日で、なくなった
2010年から2014年ごろ、私は、FXの自動売買をやっていました。海外の業者で、レバレッジは500倍です。ドルと円が、ある幅の中で動く、という前提で、下がるたびに買い増すプログラムを、動かしていました。
幅の中で動いているあいだ、成績は、きれいでした。幅をぬけた日に、口座は、なくなりました。2章の表の、1行目と3行目を、同時にやっていたことになります。
そのプログラムは、過去の値動きで検証して、成績の良かったものです。ただ、過去の値動きでの検証は、その期間に起きた動きしか、教えてくれません。「検証で、起きなかった」は、「これからも、起きない」では、ありません。くわしくは、ギャンブラーの誤謬の記事と、破産確率の記事に書きました。
私が失ったのは、口座に入れていたお金でした。借りたお金は、入れていません。ただ、FXでは、値がとんだときに、口座の残高をこえる損が出ることが、あります。それを、あとから請求されるかどうかは、業者と、契約の決まりで、ちがいます。1章の、スイスフランショックのときには、残高をこえる損を請求された人が、多く出ました。レバレッジをかける取引では、「最悪で、いくら失うか」が、入れた金額で止まるのかどうかを、先に、確かめておく必要があります。
5. 私の例②|記事が、1回の侵入で、ぜんぶ消えた
過去に、このサイトは、侵入されました。原因は、私が使っていた、改造されたプラグインです。マルウェアを仕込まれて、迷惑メールを送る踏み台に、されました。データを消すように求められて、私は、それまでに書いた記事を、ぜんぶ、捨てました。
何年も、何も起きていませんでした。だから、バックアップから、もとにもどす手順を、考えたことが、ありませんでした。侵入は、めったに、起きません。起きたら、積み上げたものが、ぜんぶ、なくなります。形は、FXの口座と、同じです。正常性バイアスの記事と、エックスサーバーとWordPressを選ぶ理由に書きました。
6. 私の例③|アカウントを、止められた
私は、販売サイトで、アカウントの利用の制限と、停止を、受けたことがあります。規約に反する売り方を、していたからです。いまは、やっていません。
販売サイトを借りて商売をしている人にとって、アカウントの停止は、いちばん大きな、すそのリスクです。売上が、その日から、ゼロになります。売上金が、止められることも、あります。規約を守っていても、相手の判断ひとつで、起きます。規約そのものが、変わることも、あります。
私が、人に教えるときに、「1つの販売サイトに、たよりきらない形」を、くり返し言うのは、これを、経験しているからです。自分のサイトと、自分のメールの読者を持つ。これは、集客の工夫である前に、すそのリスクへの、そなえです。考え方は、なぜ情報発信をするのかに書きました。
7. そなえ方|当てようとしない。起きても、終わらない形にする
テールリスクは、いつ起きるかを、当てられません。当てられるなら、それは、テールリスクでは、ありません。できるのは、起きたときに、続けられなくならない形に、しておくことです。
7-1. 失う上限を、先に、決めておく
- 借りたお金で、投資をしない。入れた金額より多くは、失わない形にする。私は、借金をして投資をしたことが、一度もありません。信用取引も、やっていません
- 口座に入れるのは、なくなっても、暮らしが変わらない額まで。私のFXの口座は、いま、5万円です
- レバレッジ型の商品は、全体の中の、持つ割合で、調整する(ケリー基準の記事)
7-2. 1つに、集めない
- 販売する場所、仕入れる先、集客の入口を、1つにしない。効率は、少し、落ちます。それが、保険料です
- 売上の大半を、1社、1人に、たよらない
7-3. もどせるように、しておく
- バックアップを、2か所に持つ。私は、サーバーの自動バックアップとは別に、自分でも、持っています
- 仕事の手順を、頭の中だけに、置かない。動画、マニュアル、テンプレートにして、外に出す(知識の呪いの記事)
7-4. 固定費を、小さくしておく
大きな出来事が起きたとき、生き残れるかどうかは、「売上がゼロの月を、何か月、たえられるか」で、決まります。私は、毎月かならず出ていくお金が145万円だった時期と、4,400円のいまを、両方、経験しました。同じ出来事が起きても、意味が、まったく、ちがいます。損益分岐点の記事に書きました。
7-5. なめらかすぎる成績を、うたがう
何年も、ぶれなく、勝ちつづけている運用や、商売を見たら、「負けるときは、どんな形で、負けるのか」を、先に、聞きます。答えが、「負けたことが、ない」なら、それは、まだ、すそが来ていないだけかもしれません。
まとめ
- テールリスクは、めったに起きないが、起きると、損がとてつもなく大きいリスク。ふだんの数字には、出てこない
- 実際の相場では、計算上は「何万年に1回」の動きが、何年かに1回、起きている
- いちばんあぶないのは、小さく勝ちつづけて、まれに、ぜんぶ失う形。成績は、なめらかで、安全に見える
- 私は、FXの口座、サイトの記事、販売サイトのアカウントで、経験した。どれも、何年も、何も起きていなかった
- 効率を上げるほど、すそのリスクは、太くなる。1つに集めることは、効率が良くて、もろい
- 当てようとしない。失う上限を決める。1つに集めない。もどせるようにする。固定費を小さくする
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【免責】この記事は、公表されている出来事と、筆者自身の経験にもとづく、情報の整理です。特定の金融商品や、業者、手法を、すすめるものでは、ありません。筆者は、金融商品取引業者ではなく、投資助言・代理業の登録も、受けていません。口座の残高をこえる損を請求されるかどうかは、業者と、契約の内容によって、ちがいます。かならず、ご自身で、確認してください。投資の判断は、ご自身の責任で行ってください。

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