グレシャムの法則は、「悪貨は、良貨を駆逐する」という法則です。質の悪いお金と、質の良いお金が、同じ額面で出回ると、人は、良いほうを手もとにしまいこみ、悪いほうから先に使います。その結果、世の中を回るのは、悪いお金ばかりになります。
もとは、お金の話です。いまは、「質の悪いものが、質の良いものを、市場から追い出す」という意味で、広く使われます。
私は、物の売り買いのやり方を教える業界に、長くいます。はじめは、教わる側として。いまは、教える側として。この業界は、グレシャムの法則が、教科書のように働いている場所です。そして私は、追い出される側を、くさるほど経験してきました。この記事では、法則の中身と、なぜそうなるのか、そして、良いほうが生き残るための条件を書きます。
1. グレシャムの法則とは
名前のもとは、16世紀のイギリスで、王室の財政を助けた商人、トーマス・グレシャムです。当時のイギリスでは、金や銀のまぜものを増やした、質の悪い硬貨が作られていました。グレシャムは、女王エリザベス1世に、質の良い硬貨が国の外へ流れ出ていることを、進言しました。「グレシャムの法則」という名前がついたのは、ずっとあとの19世紀です。同じことは、もっと前に、コペルニクスも指摘していました。
日本にも、例があります。江戸時代、元禄のころに、幕府は、金のふくまれる量を減らした小判を、新しく出しました。人びとは、金の多い古い小判を、しまいこみました。出回ったのは、新しい、質の落ちた小判でした。
大事なのは、この法則が働く条件です。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| 質のちがう2つのものが、同じ値打ちとして扱われる | 金の多い小判も、少ない小判も、「1両」として通用する |
| 受け取る側は、質のちがいで、受け取りをこばめない | 法律で、どちらも同じ1両と決められている |
この2つがそろうと、悪いほうが勝ちます。逆に、受け取る側が、質を見て、値段を変えられるなら、法則は働きません。質の良いほうが、高い値段で選ばれます。悪貨が良貨を駆逐するのは、買う側が、質を見分けられないとき、または、見分けても値段に反映できないときです。
2. 教材の業界では、買う前に、質が見えない
稼ぎ方を教える教材や講座は、買う前に、中身を確かめられません。買う人に見えるのは、販売ページだけです。販売ページには、質の良い教材も、悪い教材も、同じように「稼げます」と書いてあります。
つまり、1章の条件が、そろっています。質のちがう2つのものが、買う人からは、同じに見える。
すると、何が起きるか。教材を作る側の費用を、くらべます。
| 時間をかけて、作りこむ | 作りこまずに、売ることに力を使う | |
|---|---|---|
| 作る費用 | 高い | 低い |
| 売るために使えるお金と時間 | 少ない | 多い |
| 販売ページの見た目 | 書けることしか、書けない | 大きな数字を、いくらでも書ける |
| 買う前の人から見た差 | ほとんど、見えない | |
買う人から見て同じなら、費用の低いほうが、広告にお金を回せます。派手なほうが、目に入ります。売れるのは、右の列です。
3. 私が見てきた、4つの形
固有の会社や、人の名前は、出しません。形だけを書きます。
3-1. 短い期間で売り切る、大がかりな売り出し
何本かの動画を、順番に公開して、期待を高める。最後に、期間をかぎって、高額の商品を売る。売り方の技術としては、よくできています。ただ、力が入っているのは、売るところまでです。売ったあとの中身に、同じだけの力が入っているものを、私は、ほとんど見たことがありません。
3-2. スクール
人を集めるほど、もうかる形です。だから、集めることに、お金が使われます。教える人の数と質は、集めた人の数に、追いつきません。スクールの収益のしくみは、物販・せどりスクールの闇に、売っている側から書きました。
3-3. 教材の販売サイトで売られている、「私は稼げました」の教材
いちばん多い形です。ある人が、ある時期に、あるやり方で、稼げた。それを、そのまま教材にする。うそでは、ありません。本当に、稼げたのでしょう。ただ、その時期だから稼げたのか、その人だから稼げたのか、やり方が良かったのかを、切り分けていません。これは、生存者バイアスのかたまりです。そして、稼げたやり方は、教材にして広めたぶんだけ、稼げなくなります。こちらは、共有地の悲劇の記事に書きました。
正直に書くと、私の最初の教材も、これでした。自分が稼げたやり方を教材にして、達成者は、出ませんでした。私が持ちこたえられた理由は、やり方ではなく、家賃がかからない生活のほうにありました。くわしくは、ロングテールの記事に書いています。
3-4. SNSで、名前を出さずに売る人たち
いま、いちばん増えている形です。名前も、顔も、会社も、出さない。SNSのアカウントだけで、教材を売る。評判が悪くなれば、アカウントを消して、別の名前で、また始められます。
これは、悪い商品を売ったときの損が、売る側に、もどってこないしくみです。ふつうの商売では、悪い物を売れば、評判が落ちて、次が売れなくなります。名前を捨てられるなら、その歯止めが、ありません。モラルハザードの記事に書いた、「結果が悪くても、自分は損をしない」の形そのものです。
4. 物の売り買いでも、同じことが起きる
中古品でも、同じです。
ヤフオクで、偽物をつかまされたことがあります。出品者に伝えると、こう言われました。「評価を消してくれたら、返品を受けつけます」。その出品者は、そのあとも、偽物を売り続けていました。
評価は、買う人が、質を見分けるための、ほとんどゆいいつの手がかりです。それを、返品と引きかえに消させることができるなら、悪い出品者の評価は、きれいなままです。買う人からは、良い出品者と、見分けがつきません。1章の条件が、また、そろいます。
反対の例が、業者向けの古物市場です。私が使っていた市場は、偽物だった場合、100%返品できました。偽物を出した側に、かならず損がもどります。だから、偽物は、残りにくい。同じ中古品でも、しくみがちがえば、悪貨が勝つ市場と、負ける市場に分かれます。市場の選び方は、オンライン古物市場は2社で足りるに、偽物の話は、メルカリ偽物の見分け方に書きました。
5. 良いほうが、生き残るには
1章に書いたとおり、この法則は、買う側が質を見分けられないときに、働きます。だから、良いほうが生き残る道は、1つです。買う前に、質が見えるようにする。私がやっていることを、書きます。
- 買う前に読めるものを、大量に、無料で出す。このサイトの記事と、無料のメール講座が、それです。中身の水準は、買う前に、確かめられます
- うまくいかなかったことを、書く。達成者が出なかった教材。逆ザヤだった仕事。やめられていないFX。作りこんでいない教材には、書けないことです。失敗を書けることが、質の目印になります
- 名前と、会社と、古物商の許可を、出す。逃げられない、ということを、先に見せます。顔は出していませんが、そのことも、プロフィールに書いています
- 大きくしない。人を集めるほどもうかる形にすると、集めることに、お金を使うようになります。私は、個別の指導を、月に2人、年に24人までと、決めています
- 広告ではなく、紹介で来てもらう。メール講座の読者に、どこで私を知ったかを聞いていた時期があります。「友人が登録していた」「同僚が学んでいる」という答えが、何度も来ました。買った人の口から伝わる評判は、売る側が、お金で作れません
これで、勝てるとは、言いません。派手な売り方のほうが、短い期間では、売れます。それは、いまも変わりません。ただ、アカウントを消して逃げる人は、積み上げができません。時間がたつほど、差が出る勝負に、持ちこむ。良いほうにできるのは、それだけです。私がなぜ発信を始めたのかは、なぜ情報発信をするのかに書きました。
6. 買う側のときの、見分け方
- 売っている人は、名前を捨てられるか。会社名、運営者の名前、所在地、許可の番号。どれも出ていないなら、その人は、いつでも逃げられます
- 買う前に、中身の水準を確かめられるか。無料で読めるものが、販売ページと同じ調子の、あおり文句だけなら、中身も、そうです
- うまくいかなかった話が、書いてあるか。成功の話しか書いていない人は、失敗を知らないか、かくしています
- その人が稼げた理由を、時期・その人の条件・やり方に、分けて説明しているか。分けていないなら、本人にも、分かっていません
- 評価が、きれいすぎないか。物を買うときも、同じです。悪い評価が1つもない出品者は、消させている可能性があります
7. まとめ
- グレシャムの法則は、「悪貨は良貨を駆逐する」。質のちがうものが同じ値打ちで扱われると、質の悪いほうが出回る
- 働く条件は、買う側が質を見分けられないこと、または、見分けても値段に反映できないこと
- 稼ぎ方の教材は、買う前に中身が見えない。だから、作りこまずに売ることへ力を使う側が、勝ちやすい
- 私が見てきた形は4つ。大がかりな売り出し、スクール、「私は稼げました」の教材、SNSで名前を出さずに売る人たち。最後の形は、アカウントを消せば逃げられるので、歯止めがない
- 物でも同じ。評価を消させる出品者がいる市場では、悪貨が勝つ。100%返品できる古物市場では、負ける。しくみで決まる
- 良いほうが生き残る道は、買う前に質が見えるようにすること。無料で大量に出す、失敗を書く、名前を出す、大きくしない、紹介で来てもらう

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