せどりの確定申告|自分でやる工程を増やすほど費用は下がります

確定申告 せどり

まだ大きく稼げていない段階で、確定申告のことを調べている。この記事に来る方の多くは、その状態だと思います。

先に結論を書きます。いま買うべきものはありません。ただし、いま作っておくべき形はあります。

そして2027年から、その形を自分で作れる人と作れない人で、控除額に最大65万円の差がつきます。国税庁が制度を変えるからです。この記事は、そこまで含めて「誰がどの工程をやるか」を決めるための記事です。

税額の計算方法や、何が経費になるかはせどりの税金完全ガイドに分けてあります。この記事は金額の計算ではなく、作業の分担とその費用を扱います。

1. 結論:費用は利益の大きさではなく、誰がどの工程をやるかで決まります

1-1. 確定申告は、5つの工程に分かれています

「確定申告を税理士に頼むといくら」という聞き方をすると、答えが出ません。申告はひとかたまりの作業ではなく、5つに分かれているからです。

# 工程 内容 外注できるか
1 証憑の収集と保存 領収書、請求書、プラットフォームの取引明細を集めて残す(メルカリで買ったものはメルカリの領収書) できません。自分の手元にしかない
2 記帳 取引を日付・相手・金額で帳簿に起こす できます(記帳代行)
3 仕訳 勘定科目を決めて、借方と貸方に振り分ける できます(記帳代行・税理士)
4 決算 棚卸、減価償却、決算書の作成 できます(税理士)
5 申告と納税 申告書を作って提出し、納める できます(税理士)

費用が決まるのは、このうち何番目から外に出すかです。1番は誰にも外注できません。2番から先が、お金で買える範囲です。

1-2. 分業には3つのパターンがあります

パターン 組み合わせ 自分がやる工程 外に出す工程
A 仕訳 + AI + 会計ソフト 1〜5すべて なし
B 記帳代行 + AI + 会計ソフト 1、4、5 2、3
C 記帳代行 + 税理士 1のみ 2〜5

Aが最も安く、Cが最も高くなります。当たり前に見えますが、実際にはこの3つを比較せずに「税理士に頼むか、自分でやるか」の2択で考えている人がほとんどです。間が抜けています。

1-3. まだ利益が出ていないなら、答えはAです

理由は2つあります。

理由 内容 本記事の該当章
取引件数が少ないから 記帳の手間は利益額ではなく件数に比例します。件数が少ないうちは外注する対象がありません 8章
自分でやると、国が対価を払うから 2027年分の申告から、青色申告特別控除は最高75万円になります。ただし自分で電子申告することが条件です 4章

1-4. この記事で扱わないこと

論点 扱っている記事
いくらから申告が必要か、何が経費になるか、税額の計算 せどりの税金完全ガイド
不用品を売った場合との違い、20万円の線の正体 家の不用品はいくらの現金になるか
事業所得と雑所得、帳簿との関係 地味に儲かる副業の見つけ方
開業届、青色申告承認申請書、消費税の課税事業者 個人貿易商の年収は本当に1,000万円か
古物商許可が要るかどうか 古物商許可はせどりに必要か

確定申告が必要かどうかと、古物商許可が必要かどうかは別の問題です。混ぜないでください。

2. まず、自分に何が起きる確率かを数字で見ます

2-1. 税務署が来る前に、文書と電話が来ます

国税庁は毎年、所得税の調査の状況を公表しています。以下は令和6事務年度(2024年7月1日から2025年6月30日まで)の数字です。

区分 件数 前年比 1件当たり追徴税額 1件当たり申告漏れ所得金額
実地調査 46,896件 98.7% 241万円 1,240万円
簡易な接触 689,440件 123.7% 4万円 51万円
合計 736,336件 121.7% 19万円 127万円

国税庁は「簡易な接触」を、原則として納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡または来署依頼による面接を行い、申告内容を是正するもの、と定義しています。

読み取れることは2つです。

読み取れること 数字の根拠
接触の大半は、実地調査ではなく文書と電話です 736,336件のうち689,440件(93.6%)が簡易な接触
そして簡易な接触は増えています 前年比123.7%。55万8千件から68万9千件へ

なお、追徴税額の総額は1,431億円で過去最高です。国税庁は資料の冒頭に「選定にAIを活用するなど、効率的かつ的確に調査等を行った結果」と書いています。選ぶ側もAIを使っています。

2-2. ネット通販とネットオークションは、名指しで対象に入っています

国税庁は「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動」という区分を設けており、その定義に含まれるものを注記で列挙しています。

区分 国税庁が挙げている例
シェアリングビジネス 民泊、カーシェアリング、クラウドソーシング、配達代行業など
デジタルコンテンツ アプリ作成・配信、有料メルマガなど
ネット通販等 ネット通販、ネットオークション、ドロップシッピングなど
ネット広告 アフィリエイトなど

せどりは3番目に入ります。「そのうち見られるようになるかもしれない」ではなく、すでに区分として存在しています。

2-3. ただし、選ばれているのは規模が大きい人です

区分 実地調査(特別・一般)の件数 1件当たり申告漏れ所得金額 1件当たり追徴税額
シェアリングエコノミー等新分野 1,155件 1,595万円 305万円
実地調査(特別・一般)全体 36,404件 1,486万円 299万円

年間1,155件です。そして1件当たりの申告漏れ所得金額は1,595万円で、実地調査全体の平均(1,486万円)を上回っています。

この区分で実地調査に選ばれている人は、申告漏れが1,500万円規模の人です。月に数万円の利益で悩んでいる段階の人が、この母集団に入る確率は高くありません。

2-4. いちばん重いのは、規模ではなく無申告です

同じ資料に、無申告者に対する調査の数字があります。

無申告者への実地調査(特別・一般) 実地調査(特別・一般)全体 倍率
件数 4,812件 36,404件 ―
1件当たり申告漏れ所得金額 2,992万円 1,486万円 2.0倍
1件当たり追徴税額 524万円 299万円 1.8倍

国税庁は、この524万円という数字について「過去最高」と書いています。

2-5. だから、順番が決まります

優先順位 やること 根拠
1 申告が必要な状態なら、申告する 無申告は1件当たり追徴が1.8倍(2-4)
2 帳簿を残す 申告が不要でも義務。出せないと加算税が加重(3章)
3 控除を取りに行く 2027年分から最高75万円(4章)
4 件数が増えたら、記帳を外に出す 手間は件数に比例(8章)
5 それでも足りなければ、税理士 7章

多くの人が5番から考え始めます。順番が逆です。

3. 申告が不要でも、帳簿は義務です

3-1. 対象は「申告の必要がない方も含む」と書かれています

ここは、まだ利益が小さい人ほど見落とすところです。国税庁の説明を引きます。

記帳・帳簿等の保存制度の対象となるのは「事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき業務を行う全ての方」であり、そこに「所得税及び復興特別所得税の申告が必要ない方も、記帳・帳簿等の保存制度の対象となります」という注記が付いています。

パンフレットでは、さらに直接的にこう書かれています。「個人で事業や不動産貸付け等を行う全ての方(所得税及び復興特別所得税の申告の必要がない方も含みます。)は、記帳と帳簿書類の保存義務があります」。

つまり「20万円以下だから何もしなくていい」は成立しません。申告の要否と、記帳の義務は別の話です。

3-2. 保存する期間

申告の区分 保存が必要なもの 保存期間
白色 収入金額や必要経費を記載した帳簿(法定帳簿) 7年
白色 業務に関して作成した上記以外の帳簿(任意帳簿) 5年
白色 決算に関して作成した棚卸表その他の書類 5年
白色 業務に関して作成し、又は受領した請求書、納品書、送り状、領収書などの書類 5年
青色 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳など 7年
青色 損益計算書、貸借対照表、棚卸表など 7年
青色 領収書、小切手控、預金通帳、借用証など 7年(前々年分の事業所得等が300万円以下なら5年)
青色 請求書、見積書、契約書、納品書、送り状など 5年

あわせて、前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超える方は、その業務に係る現金預金取引等関係書類を5年間保存する必要があります。

3-3. 帳簿を出せないと、加算税が加重されます

ここが本記事で最も実務的な一次情報です。国税庁は次のように書いています。

「令和5年分の確定申告に対する修正申告等から、売上げに関する帳簿を保存していなかったことや帳簿の売上げについて記載が不十分であったことなどが税務調査において把握された場合には、帳簿に記載すべき事項に関する申告漏れに対して通常課される加算税(過少申告加算税・無申告加算税)の割合に5%又は10%が加重されることとなりました」。

無申告加算税についても、同じ趣旨の加重が定められています。

状態 加重される割合
調査で帳簿の提示または提出を求められたのに、提示等をしなかった +10%
帳簿への売上金額の記載等が、本来記載すべき金額の2分の1未満だった +10%
帳簿への売上金額の記載等が、本来記載すべき金額の3分の2未満だった +5%

帳簿がないこと自体に、価格がついています。これが「記帳をどこまで自分でやるか」を考える出発点です。安く済ませる話ではなく、帳簿がない状態のコストが可視化されている、という話です。

3-4. 参考:申告しなかった場合の加算税

比較のために、無申告加算税の割合も並べておきます。令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するもの(令和5年分以降)についての割合です。

いつ申告したか 50万円までの部分 50万円超300万円までの部分 300万円超の部分
調査の事前通知の前に、自主的に期限後申告 5%
事前通知の後、決定を予知する前の期限後申告 10% 15% 25%
調査を受けた後の期限後申告、または決定 15% 20% 30%

なお、法定申告期限から1か月以内に自主的に期限後申告を行い、かつ期限内申告をする意思があったと認められる一定の要件をすべて満たす場合には、無申告加算税はかかりません。

3-5. ただし、白色なら記帳の方法は簡易でよいと書かれています

ここで安心してほしい部分も引いておきます。国税庁は、記帳に当たって「一つ一つの取引ごとではなく日々の合計金額をまとめて記載するなど、簡易な方法で記載してもよいことになっています」と説明しています。

白色申告の事業所得については、さらに具体的に認められている簡略化があります。

認められている簡易な記帳(白色・事業所得の例)
少額な現金売上については、日々の合計金額のみを一括記載する
小売その他これに類するものを行う者の現金売上については、日々の合計金額のみを一括記載する
保存している納品書控、請求書控等により内容を確認できる取引については、日々の合計金額のみを一括記載する
棚卸資産の家事消費等については、年末に種類別の合計金額を見積もって一括記載する

「帳簿」と聞いて想像するものより、要求水準は低い場面があります。ただし後述のとおり、青色申告特別控除を取りに行くなら複式簿記が要件になります。ここは目的で分かれます。

4. 2027年から、自分でやることに国が値段をつけます

4-1. 青色申告特別控除の区分が変わります

国税庁は令和8年(2026年)に公表したパンフレットで、令和9年分(2027年分)の確定申告からの変更を告知しています。

令和8年分まで 令和9年分以後
最高額 65万円 75万円
区分 10万円 / 55万円 / 65万円 10万円 / 65万円 / 75万円
書面で申告した場合 55万円まで可能 上限10万円

パンフレットの表現をそのまま引きます。「令和8年分の確定申告までは、書面申告でも55万円の青色申告特別控除が適用可能でしたが、令和9年分以降は、書面申告の場合の控除上限額は10万円となりますので、この機会にぜひe-Taxをご利用ください」。

4-2. 55万円という区分が、実質的になくなります

これまでは「複式簿記で記帳して書面で出す=55万円」「そこにe-Taxを足す=65万円」という段になっていました。令和9年分からは、書面で出した時点で10万円です。

やっていること 令和8年分まで 令和9年分以後
簡易な記帳 10万円 10万円(※)
複式簿記+書面提出 55万円 10万円
複式簿記+e-Taxで期限内送信 65万円 65万円
上記+優良な電子帳簿またはデジタルシームレス保存+届出 ― 75万円

※ 事業所得または不動産所得を有し、これらの所得に係る前々年分の収入金額が1,000万円を超える方は、簡易な簿記による10万円の控除が適用できなくなります。

4-3. 75万円の要件

65万円の要件(正規の簿記の原則による記帳+e-Taxで確定申告書と青色申告決算書のデータを期限内に送信)に加えて、次のいずれかを満たし、確定申告期限までに届出書を提出する必要があります。

選択肢 要件
① 優良な電子帳簿の保存 仕訳帳と総勘定元帳について、課税期間の最初から優良な電子帳簿の要件(訂正・削除・追加等の履歴が残る/帳簿間で相互関連性がある/日付・金額・相手方で検索できる)を満たして電子データで備付け・保存
② デジタルシームレス保存 デジタル庁が管理する仕様に従ったデジタルインボイス、または預貯金口座における決済データを、国税庁長官が定める基準に適合するシステムで送受信・保存

②の「基準に適合するシステム」については、国税庁が「法的要件を満たした会計ソフトをお探しの際は、JIIMA認証情報リストをご確認ください」と案内しています。

4-4. 差額を、手元に残る金額に直します

控除額の差は、そのまま税額の差になるわけではありません。控除額に税率を掛けた分が、税額の差になります。

所得税の税率は課税所得で変わります(国税庁 No.2260)。住民税の所得割は一律10%です。以下は所得税と住民税だけで計算したもので、復興特別所得税は含んでいません。

課税される所得金額 所得税+住民税の合計税率 控除10万円と65万円の差(55万円) 控除65万円と75万円の差(10万円)
195万円以下 15% 82,500円 15,000円
195万円超330万円以下 20% 110,000円 20,000円
330万円超695万円以下 30% 165,000円 30,000円
695万円超900万円以下 33% 181,500円 33,000円

ここが本記事の中心です。

複式簿記で記帳してe-Taxで出す、という作業を自分でやると、年に8万円から18万円が手元に残ります。これは節税テクニックではありません。自分で工程をやったことに対して、国が控除という形で対価を払っている、という構造です。

7章で私の実例を出しますが、税理士に年間で払っている金額とほぼ同じオーダーです。つまり「自分でやるかどうか」は、好みの問題ではなく金額の問題になります。

5. 5つの工程と、外に出せる単位

5-1. 工程ごとに、誰がやれるか

工程 自分 会計ソフト AI 記帳代行 税理士
1 証憑の収集と保存 やるしかない 取込は補助できる 読み取りを補助 渡す作業は残る 渡す作業は残る
2 記帳 できる 連携で自動化できる 下書きを作れる できる できる
3 仕訳 できる 候補を出せる 候補を出せる できる できる
4 決算(棚卸・減価償却) できる 計算は支援できる 手順の確認に使える 範囲外のことが多い できる
5 申告と納税 できる 作成を支援できる 代行はできない 範囲外 できる

1番は誰にも渡せません。領収書と取引明細は、あなたの手元にしか存在しないからです。外注しても、集めて渡す作業は残ります。ここを見落とすと「丸投げしたのに毎月時間を取られる」ことになります。フリマの売上を1件ずつアプリに付けている場合も、その記録は帳簿や取引の証拠の代わりにはなりません。売上管理アプリのセラーブックでどこまでできるかはセラーブックの使い方に書いています。

5-2. 外注の単価は、工程で決まります

金額は事業者ごとに違うので断定しません。ただし単価の順番は構造で決まります。

工程 単価が決まる要素 件数が増えると
記帳・仕訳 取引の件数 比例して上がる
決算 年1回。事業の複雑さ あまり変わらない
申告 年1回。申告する税目の数 あまり変わらない

件数に比例するのは記帳と仕訳だけです。だから件数が少ないうちに記帳を外注しても、単価は下がりません。逆に件数が増えたときは、記帳だけを外に出すのが最も効きます。

5-3. 記帳代行が必要になるのは、件数が増えたときだけです

記帳代行という選択肢が出てくるのは、大量に仕入れて大量に売るからです。取引の行数が増えて、入力そのものが時間を食うようになったときに意味があります。

件数が少ないうちに記帳代行を頼むと、こうなります。

起きること 理由
証憑を集めて渡す時間は変わらない 工程1は外注できない
自分の帳簿の中身が分からなくなる 入力していないので、数字の出どころを追えない
控除の要件を自分で満たせない e-Taxでの送信や電子帳簿の要件は、結局自分側の話
費用だけが固定費として残る 月額は件数が少なくても発生する

6. 3つの分業パターン

6-1. パターンA:仕訳 + AI + 会計ソフト

項目 内容
自分がやる工程 1〜5すべて
外に出す費用 会計ソフトの利用料のみ
向いている人 取引件数が少ない。厚利少売。まだ利益が小さい
得られるもの 青色申告特別控除(4-4の金額)、自分の数字が読める状態
失うもの 自分の時間。学習の期間
行き詰まる場面 棚卸と減価償却。ここは1年目に必ず引っかかります

6-2. パターンB:記帳代行 + AI + 会計ソフト

項目 内容
自分がやる工程 1、4、5
外に出す工程 2、3(記帳と仕訳)
向いている人 取引件数が多い。薄利多売。入力が時間を食っている
得られるもの 入力時間。決算と申告は自分に残るので控除の要件は自分で満たせる
失うもの 記帳代行の月額。数字の細部の把握
注意点 証憑を集めて渡す作業は残ります。渡し方が整理されていないと、外注しても速くなりません

6-3. パターンC:記帳代行 + 税理士

項目 内容
自分がやる工程 1のみ
外に出す工程 2〜5すべて
向いている人 法人。事務作業に時間を使いたくない。税目が増えた
得られるもの 時間。判断の責任を分担できること
失うもの 年間の固定費。自分の数字を読む機会
私の場合 これを選んでいます。金額は7章に書きます

6-4. 3つを1枚で

A:全部自分 B:記帳だけ外注 C:全部外注
外に出る費用 ソフト代のみ ソフト代+記帳代行 顧問料+決算料
自分の時間 最も長い 中 最も短い
控除の要件を満たせるか 自分で満たす 自分で満たす 依頼先が対応
数字が読めるようになるか なる ある程度 なりにくい
件数が増えたとき 破綻する 耐える 耐える
件数が少ないとき 最も合理的 費用が浮く 費用が浮く

6-5. AIをどこに使うか

AIが効く工程と、効かない工程があります。ここを混ぜると事故になります。

使ってよい場面 理由
勘定科目の候補を出させる 候補を見てから自分が決めるなら、判断は自分に残る
制度の条文や国税庁のページを探させる 出典に当たれる形なら検証できる
棚卸の手順を整理させる 手順は公開されている
取引明細のフォーマットを揃える 形式の変換であって判断ではない
使ってはいけない場面 理由
「これは経費になりますか」を最終判断にする 個別の事実関係で変わる。答えを鵜呑みにすると、根拠を説明できない
税率や控除額を暗記から答えさせる 制度は変わります。この記事で扱った75万円のように、直近の改正ほど誤りやすい
申告書の数字を検算せずに使う 説明する責任は申告した本人にあります

2-1で書いたとおり、国税庁は選定にAIを活用していると自ら書いています。選ぶ側がAIを使っている以上、こちら側でAIを使う目的は「ごまかす」ではなく「説明できる形を安く作る」になります。

7. 私の実例:法人で全部外注すると、年38万円でした

7-1. 内訳を公開します

この記事で唯一、私の実額を出せる部分です。

項目 金額
月額の顧問料 15,000円弱
年間の顧問料 18万円前後
決算処理 20万円
年間の維持費 38万円ほど

依頼している範囲は、仕訳の段階からすべてです。確定申告と納税処理も一任しています。パターンCそのものです。

7-2. なぜこうしたか

理由は単純で、私が事務作業を苦手としているからです。節税の設計を頼みたかったわけでも、税務調査に備えたかったわけでもありません。自分でやると止まるので、止まらないように外に出した、というだけです。

当サイトでは事業を「利益 ÷ 拘束日数」で見ています。この式に照らすと、私にとって記帳と仕訳は分母を大きく膨らませる作業でした。年38万円で分母が縮むなら合う、という判断です。

7-3. この数字を、副業の判断に使ってはいけません

ここははっきり書きます。

私の条件 副業で始める人との違い
法人である 個人事業とは申告する内容も税目も違います
決算処理が必要 法人は決算と申告が必ず要ります
取引件数が多い 件数が少なければ、記帳の外注に意味がありません
事務作業が苦手 これは私の個人的な事情です

法人目線の数字なので、副業で参入する人の参考にはなりません。私がこの数字を出すのは、「全部外注したときの上限がこのあたり」という目盛りとして使ってもらうためです。

7-4. しかも10年前に選んだ水準です

この契約を決めたのは10年ほど前です。現在はAIを使って管理コストを下げている事務所も出てきているので、いま同じ範囲を探せば、もっと安い選択肢はいくらでも見つかると考えています。

私がこの水準のままにしているのは、比較していないからです。見直せば下がる可能性は高いと思っています。相場として使わないでください。

7-5. 4-4の金額と並べると

金額 方向
全部外注(私の法人の場合) 年38万円 出ていく
複式簿記+e-Taxを自分でやった場合の控除の効果 年8万円〜18万円(4-4、課税所得と税率による) 残る

この2つは同じ土俵ではありません。片方は法人、片方は個人です。ただし桁は同じです。まだ利益が小さい段階で全部外注すると、控除で戻る額より外に出る額のほうが大きくなります。これが「まだ稼げていないなら買うものはない」の中身です。

8. 必要な体制は、利益額ではなく取引件数で決まります

8-1. 記帳の手間は、件数に比例します

ここが多くの解説記事で抜けているところです。「利益が一定額を超えたら税理士」という言い方をしますが、記帳の作業量は利益額と連動していません。

1件の利益 年間の件数 記帳の行数 年間の利益
薄利多売 小さい 多い 多い 同じ
厚利少売 大きい 少ない 少ない 同じ

同じ年間利益でも、記帳の負担が桁で違います。だから「いくら稼いだら外注か」ではなく「何件になったら外注か」で考えます。

8-2. 修理を挟むモデルは、自己管理のハードルが低くなります

私が続けているのは、壊れた中古品を仕入れて直して売るモデルです。1件あたりの粗利が大きく、そのぶん件数が少なくなります。

このモデルは、税務の管理という点でも有利です。

項目 薄利多売のせどり 修理を挟むモデル
仕入れの行数 多い 少ない
売上の行数 多い 少ない
年末の棚卸の点数 多い 少ない
1件あたりに使える確認時間 短い 長い
記帳代行の必要性 高い 低い

大量仕入れをするから記帳代行が要るのであって、逆ではありません。仕入れの設計を変えれば、必要な体制も変わります。

8-3. 年末の棚卸だけは、件数がそのまま効きます

1年やってみると分かりますが、記帳より重いのは年末の棚卸です。12月31日時点で手元にあるものを数えて、金額を出す作業だからです。

棚卸で数える場所 見落としやすい理由
自宅の在庫 置き場所が分散していると漏れる
外部の倉庫・トランクルーム 物理的に見に行かないと数えられない
倉庫サービスに預けている在庫 管理画面の数字と実数がずれることがある
出品中でまだ売れていないもの 出品=売却ではない
発送済みで、まだ着いていないもの どの時点で自分の在庫から外れるかを決めておく

ここは記帳代行の範囲外になることが多い部分です。外注しても、数えるのは自分です。だから在庫の置き場所を分散させないことが、そのまま年末の作業時間を決めます。

9. 無料で使える公的な支援があります

9-1. 税務署が記帳の説明会と指導をやっています

「税理士に頼むか、独学か」の2択で考えている方が多いのですが、間に公的な選択肢があります。国税庁のパンフレットに書かれているものを挙げます。

支援 実施主体 内容(国税庁の記載)
記帳・決算説明会 税務署 個人事業者を対象に、具体的な記帳のしかた等についての説明を無料で実施。決算や消費税に関する説明会もあり
外部委託による記帳指導 各国税局が事業者に委託 記帳のしかたのほか、一般的な決算における帳簿の処理や確定申告書等の作成に至るまでの一貫した指導。希望する場合は所轄の税務署に問い合わせ
青色申告会 青色申告会 記帳方法等について継続的な伴走支援。会員向けのサービス
商工会・商工会議所 商工会・商工会議所 記帳方法だけでなく、補助金等に係る計画策定支援や経営相談にも対応。一部会員向け
動画とパンフレット 国税庁 帳簿の記帳のしかた、決算のしかたに関する動画とパンフレットを公開

記帳指導については、国税庁が「申込状況により、ご希望に沿えない場合があります」と注記しています。定員があるということなので、必要なら早めに問い合わせることになります。

9-2. 会計ソフトの導入に補助金があります

これも国税庁のパンフレットに書かれています。「会計ソフトの導入に当たっては、デジタル化・AI導入補助金が活用できます。小規模事業者の場合、導入費用の最大80%が補助されますので、是非活用をご検討ください」。

詳細と対象は補助金側の制度なので、申請の前に必ず補助金の公式サイトで最新の要件を確認してください。ここでお伝えしたいのは、複式簿記に移る費用が、想定より下がる可能性があるということです。

9-3. 何を持っていけばよいか

相談窓口に行くときに、手ぶらで行くと一般論しか返ってきません。持っていくものが決まっていると、話が具体的になります。

持っていくもの 何のために
プラットフォームごとの売上明細(ダウンロードしたもの) 売上の計上時期と手数料の扱いを確認する
仕入れの明細と領収書 売上原価に入るものと、経費に入るものを分ける
12月31日時点の在庫リスト 棚卸の金額の出し方を確認する
会計ソフトの入力途中の画面 どこで詰まっているかを見せる
質問を書き出したメモ 限られた時間で聞く順番を決めておく

「どうすればいいですか」ではなく「この処理で合っていますか」と聞ける状態にしておくと、返ってくるものが変わります。作った書類とパソコンを持っていって、自分の処理を見てもらう。これができれば、税理士に依頼しなくても根拠を説明できる申告になります。

10. 判定:あなたはどのパターンか

10-1. 3つの質問

質問 確認方法 答えの読み方
①年間の取引は、仕入れと売上を合わせて何行になりますか プラットフォームの明細をダウンロードして行数を数える 行数が少ないなら、記帳の外注に払う理由がありません
②いま、e-Taxで申告書を送れますか マイナンバーカードとスマホ、または利用者識別番号があるか できないなら、2027年分から控除の上限が10万円になります(4-2)
③12月31日時点の在庫を、金額で言えますか 在庫リストがあるか、置き場所が把握できているか 言えないなら、外注しても決算で詰まります(8-3)

10-2. 判定表

いまの状態 選ぶパターン 先にやること
利益がまだ小さい。取引の行数も少ない A 会計ソフトを入れて、記帳を1か月分だけ通してみる
利益は出ているが、行数はまだ多くない A 青色申告承認申請書の提出期限を確認する
行数が増えて、入力が週の作業時間を圧迫している B 証憑の渡し方(形式と頻度)を先に決める
行数も税目も増えた。法人化を考えている C 複数の事務所に、同じ範囲で見積もりを取る
去年の分を申告していない ― 期限後申告を検討する。事前通知の前かどうかで加算税の割合が変わります(3-4)

10-3. 移るタイミングの目安

AからB、BからCへ移る判断は、金額ではなく症状で決めます。

症状 移る先 理由
入力が溜まって、月末にまとめてやるようになった A→B 溜めた記帳は精度が落ちます
入力のために仕入れや出品の時間を削っている A→B 分母を増やして分子を減らしています
消費税の課税事業者になった B→C 扱う税目が増えると、判断の量が増えます
従業員を雇った B→C 給与と社会保険が乗ります
法人化した C 法人は決算と申告が必ず要ります

10-4. 法人化の話を、一行だけ

法人化するラインについては別で扱っているので繰り返しませんが、選択肢として合同会社があります。設立の費用と維持の手間が株式会社より軽いので、せどりで月に数十万円の利益という規模なら、まずここで足りると考えています。

ただし法人にすると、7章のとおり決算と申告が必ず発生します。パターンCが実質的に固定費になる、ということです。そこまで含めて計算してください。

11. よくある質問

11-1. まだほとんど稼げていません。何かしなければいけませんか

申告が必要な水準かどうかは別記事で判定してください。そのうえで、申告が不要な場合でも記帳と帳簿の保存は義務です。国税庁は対象を「所得税及び復興特別所得税の申告の必要がない方も含みます」と明記しています(3-1)。

やることは、領収書と取引明細を残すことと、売上・仕入れ・経費を帳簿の形にしておくことです。白色なら簡易な方法が認められています(3-5)。お金を払って買うものは、この段階ではありません。

11-2. 税理士に頼むと、いくらかかりますか

依頼する範囲で変わるので、相場という形では答えられません。私の場合は法人で、仕訳から申告まで全部を任せて年38万円ほどです(7-1)。ただしこれは10年前に決めた水準で、個人の副業には当てはまりません。

見積もりを取るときは、5-1の工程表を見せて「どこからどこまでか」を揃えてください。範囲を揃えずに金額だけを比べると、比較になりません。

11-3. 会計ソフトは必要ですか

青色申告特別控除の55万円以上を狙うなら、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)による記帳が要件になります。手書きでも要件は満たせますが、現実的にはソフトを使うことになります。

国税庁自身も「会計ソフトを利用すると日々の取引内容の入力だけで簡単に記帳ができ便利です」と案内しており、導入費用に補助金が使えることにも触れています(9-2)。

11-4. 記帳代行と税理士は何が違いますか

担当する工程が違います。記帳代行は工程2と3(記帳と仕訳)、税理士はそこに4と5(決算と申告)が加わります。5-1の表が対応関係です。

費用の性質も違います。記帳代行は件数に比例し、決算と申告は年1回で件数にあまり左右されません(5-2)。だから件数が少ない段階では、記帳代行を頼んでも単価が下がりません。

11-5. 20万円以下なら本当に何もしなくていいのですか

所得税の確定申告が不要になる場合でも、記帳と帳簿保存の義務は残ります(3-1)。また住民税の扱いは所得税と別です。この線の正体は家の不用品はいくらの現金になるかで整理しています。

11-6. 税務調査は来ますか

令和6事務年度の実地調査は46,896件、簡易な接触は689,440件です(2-1)。ネット通販等を含む「シェアリングエコノミー等新分野」への実地調査は1,155件で、1件当たりの申告漏れ所得金額は1,595万円でした(2-3)。

確率の話をするなら、まず当たるのは文書か電話です。そして実地調査で選ばれているのは、申告漏れが1,500万円規模の層です。ただし無申告は1件当たりの追徴が全体の1.8倍になっています(2-4)。規模より、出していないことのほうが重く扱われています。

11-7. AIに聞いて申告しても大丈夫ですか

下書きを作らせるのは有効です。ただし最終判断を任せるのは危険です。制度は変わりますし、この記事で扱った令和9年分からの改正のように、直近の変更ほど誤りやすいからです(6-5)。

申告した内容を説明する責任は、申告した本人にあります。AIの出力をそのまま使うのではなく、国税庁のページに当たって確かめる形にしてください。

11-8. 2027年からの改正は、いま何をすればいいですか

令和9年分(2027年分)の確定申告から適用されるので、対応の期限はまだ先です。ただし優良な電子帳簿の要件は「課税期間の最初から」満たす必要があるため、始めるなら年の途中ではなく年の初めからになります。

いまできるのは、e-Taxで送れる状態を作っておくことです。書面で出すと上限が10万円になります(4-2)。

11-9. 古物商許可は確定申告と関係がありますか

関係ありません。税務上の申告義務と、古物営業法上の許可は別の制度です。どちらか一方を満たしていても、もう一方が不要になることはありません。許可の要否は古物商許可はせどりに必要かで扱っています。

11-10. 何年前まで遡って請求されますか

本記事では扱いません。個別の事情で変わる部分なので、税務署または税理士にご相談ください。ただし帳簿と書類の保存期間は3-2のとおり最長7年です。保存期間の長さが、そのまま遡られうる期間の目安になります。

12. 出典

内容 出典
実地調査・簡易な接触の件数、1件当たり追徴税額、シェアリングエコノミー等新分野と無申告者の調査状況、選定へのAI活用 令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(国税庁・PDF)
記帳・帳簿等の保存制度の対象と保存期間、簡易な方法による記帳、加算税の加重措置 個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について(国税庁)
記帳・帳簿保存義務、青色申告の特典、記帳指導の案内 事業所得や不動産所得等のある方には帳簿の記帳・保存義務があります!(国税庁・PDF)
令和9年分からの75万円の青色申告特別控除、書面申告の上限10万円、優良な電子帳簿とデジタルシームレス保存の要件 優良な電子帳簿の保存又はデジタルシームレス保存により75万円の青色申告特別控除を適用しましょう!(国税庁・PDF)
令和9年分からの10万円控除の要件変更、記帳指導の指導機関、会計ソフトと補助金 簡易簿記による10万円の青色申告特別控除を適用している皆様へ(国税庁・PDF)
現行の青色申告特別控除(10万円・55万円・65万円)の要件 No.2072 青色申告特別控除(国税庁)
無申告加算税の割合、帳簿の提示等がない場合の加重、1か月以内の自主申告 No.2024 確定申告を忘れたとき(国税庁)
所得税の税率 No.2260 所得税の税率(国税庁)

13. あわせて読む

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14. この記事について

私は税理士ではありません。本記事は税務相談ではなく、確定申告という作業を誰がどこまで担うかという分担の設計について書いたものです。個別の処理の可否については、税務署または税理士にご確認ください。

制度に関する記述は、2026年9月時点で国税庁が公表している資料に基づいています。調査等の件数は令和6事務年度(2024年7月1日から2025年6月30日まで)の集計で、年によって変動します。青色申告特別控除の75万円と、書面申告の上限が10万円になる変更は、令和9年分(2027年分)の確定申告から適用されるものとして国税庁が告知している内容です。適用の時期と要件は変わることがあるため、実行の前に必ず最新の内容をご確認ください。

4-4の税額は、所得税と住民税の所得割だけで計算しています。復興特別所得税は含んでいません。実際の税額は、所得控除や税額控除によって変わります。

7章の金額は、私が法人として実際に支払っている額です。10年ほど前に決めた契約であり、依頼している範囲も法人の申告を含むものなので、個人の副業における相場ではありません。同じ範囲の見積もりを複数の事務所から取ることをおすすめします。

会計ソフトや記帳代行の具体的なサービス名と料金は、本記事では扱っていません。私自身が仕訳の段階から税理士に委託しているため、これらを自分で使った実測がないからです。書けることと書けないことを分けています。

 

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