「個人貿易商」で検索すると、月商や年収の景気のいい数字が並びます。月30万円、年商2,000万円、年収1,000万円。
その数字が本当かどうかを判定する方法は、ひとつしかありません。その人が何日拘束されて、いくら手元に残したのかを見ることです。売上でも粗利でもなく、拘束日数あたりの利益。ここを出していない数字は、比較のしようがありません。
この記事では、2025年から2028年にかけて起きている制度変更を整理したうえで、個人貿易商の年収を計算で出します。結論を先に書くと、制度の隙間や為替の追い風で稼ぐフェーズは終わりつつあり、残るのは自分の作業単価だけです。
結論:2026年の個人貿易商の年収は「制度の隙間」ではなく「拘束日数あたりの利益」で決まる
個人が国境をまたいで稼げた理由は、突き詰めると3つでした。
- 為替差(円安局面での輸出)
- 制度差(少額輸入の免税枠、デミニミス)
- 情報差(海外相場を国内の人が知らない)
このうち制度差は、日米ともに閉じる方向で動いています。情報差も、相場データが誰でも引ける現在ではほぼ消えました。残る為替差は、あくまで売上の押し上げ効果であって、後述するとおり利益とイコールではありません。
ただし、制度差が全部同じ方向に動いているわけではありません。国内の中古品売買には、逆に開いたままの隙間があります。古物市場は許可がないと参加できませんし、インボイス制度には古物商だけの特例が用意されています。古物商は儲からないのかで、その2つを整理しました。制度で稼ぐという発想を捨てる前に、どこが閉じてどこが残っているかは見ておく価値があります。
そうすると、年収を決める変数は次の式に収束します。
年間利益 = 1件あたり粗利 × 年間処理件数 - 固定費
実質時給 = 年間利益 ÷ 年間拘束日数
面白みのない式ですが、この2本以外に年収を語る方法はありません。以下、なぜそう言い切れるのかを制度の側から説明します。
1. 輸出で稼げた時代が終わった経緯
1-1. 2025年8月29日、米国のデミニミスが止まった
米国では、少額貨物の輸入に対する非課税基準額(デミニミス)ルールの適用が、東部時間2025年8月29日午前0時1分以降に通関する貨物から停止されました。それまで免税対象だった800ドル以下の少額貨物にも関税がかかります。
これを受けて、日本郵便は2025年8月27日から、内容品価格が100USドルを超える米国宛ての販売品・贈答品の引き受けを一時停止しました。
その後、米国税関・国境警備局(CBP)が「米国宛てに国際郵便物を送る場合は、到着前にCBP認証事業者を通じて関税等を支払う」というルールを示し、2026年4月14日以降、事前に関税を納付することを条件に、指定郵便局で米国宛ての全ての郵便物の引き受けが再開されています。書類と100USドル以下の個人間贈答品は従来どおり免税で、事前登録なしに差し出せます。
ここで見るべきは税率ではありません。1件ごとに増えた手続きです。事前納付の登録、指定郵便局への持ち込み、内容品価格の管理。少額の商品を多品種で回す従来のeBay輸出モデルでは、この工数が1件あたりの粗利を直接削ります。
1-2. 発送手段の名前も中身も変わっている
輸出系の記事で「国際eパケットが基本」と書かれているものを見かけたら、その記事は3年以上更新されていません。
| サービス | 現状(2026年8月時点) |
|---|---|
| 国際eパケット | 2023年9月30日の引受をもって取扱終了 |
| 小形包装物 | 2025年12月末で終了 |
| 国際eパケットライト | 2026年6月1日に「国際エアパケット」へ名称変更。取扱国・地域を全世界へ拡大 |
さらに、米国向けには新しい申告義務が加わりました。CPSC(米国消費者製品安全委員会)の適合証明電子申告、いわゆるeFilingです。
| 区分 | 義務化の時期 |
|---|---|
| 一般輸入(消費・保税蔵置エントリー) | 2026年7月8日 |
| 外国貿易地帯(FTZ)からの引き出し | 2027年1月8日 |
対象は米国へ輸入される消費者製品のうち、CPSCの強制安全基準等に該当し適合証明(CPC/GCC)が必要なものです。玩具、子供向け製品、繊維・衣類、特定の家電やバッテリー搭載製品などが含まれます。通関時にCBPのACEを通じて、適合証明の情報を電子的に送信する必要があります。
ここで見落とされやすいのが、少額貨物でも例外にならないという点です。規制対象品目であれば、金額の大小にかかわらず電子申告の対象になります。
つまり、扱う品目次第では「発送する前に、その商品が対象かどうかを調べる」という工程が新たに発生します。1件あたりの粗利が小さい商品ほど、この工程の重さが効いてきます。
1-3. 私自身が「横流し」をやめた理由
私はかつて、社外ナビを扱っていました。5万円前後で仕入れて8万円前後で売る。ただ右から左へ流すだけで粗利3万円が出た時期があります。
これが成立していたのは、為替が今ほど動いていなかったからです。仕入れ側と販売側の価格差が、自分の作業を挟まなくても残っていた。価値を足していないのに利益が出るというのは、要するにその差が制度や相場の側から供給されていたということです。
そして供給が止まれば、モデルごと消えます。私の場合は為替が動いた時点で数字が合わなくなり、横流しから撤退しました。ここから、部品を輸入して自分で交換し、価値を足して売る方向へ切り替えています。
この切り替えが正しかったかどうかは、感覚ではなく計算で確かめられます。利益額ではなく、利益を拘束日数で割った数字で比べる方法は修理転売は儲からないのかを検算した記事にまとめました。横流しは分子が大きく見えますが、価値を足していない分だけ、供給が止まったときに何も残りません。
この転換は、今まさに輸出で起きていることと同じ構造です。デミニミスという制度が差益を供給していた。それが止まった。供給された差益に乗っているモデルは、供給元の都合で終わります。
1-4. 私の輸出の最高実績と、その再現性のなさ
私が輸出で出した最も大きな数字を書きます。
きっかけは、eBayでルイ・ヴィトンのバッグを560ドルで売ったことでした。購入者から「あなたは日本のセラーか。もっと日本のブランド品が買いたい」と連絡が来たので、欲しいものリストにまとめてくれと返信しました。
送られてきたのは、シャネルやヴィトンの型番が並んだリストです。しかも状態は不問という条件でした。1ヶ月かけて国内でまとめて仕入れ、前金として30万円ほどを受け取り、最終的な販売額は150万円程度になりました。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 仕入(1ヶ月かけて調達) | 約80万円 |
| 販売額 | 約150万円 |
| 粗利 | 約70万円 |
| 関税 | 購入者負担 |
| 期間 | 約1ヶ月 |
クレームは一度もありませんでした。良い顧客でした。
さて、この数字を切り出せば「月商150万円、月利70万円達成」という実績になります。そういう見出しの記事を、あなたは検索結果で何度も見ているはずです。
この取引が成立した条件を分解します。
- 日本のブランド品を大量に欲しがる個人が、たまたま現れた
- その人が状態不問という条件を出してくれた
- 面識のない海外セラーに前金を払う信用をくれた
- 一度もクレームをしてこなかった
4つとも、私がコントロールできる変数ではありません。そして2回目はありませんでした。同じことは、その後一度も起きていません。
付け加えると、この取引の一部は当時の運用によるもので、現在のeBayの規約では認められていません。制度面でも、デミニミス停止前と後では前提が違います。仮に同じ顧客が現れたとしても、今は同じ手順を踏めません。
私がこの話を書いているのは、成功談としてではありません。物販の「年収」として語られる数字の相当部分は、一回性の出来事によって作られています。大口の顧客がつく、たまたま相場が跳ねる、規制の変わり目に在庫を持っていた。それらは起きた人にとっては事実ですが、これから始める人にとっては再現できない前提です。
だから年収を知りたいなら、当たった年の数字ではなく、当たらなかった年の数字を見る必要があります。
2. では輸入はどうか——2028年に向けて変わる3つの制度
輸出が難しくなった以上、目は輸入に向きます。ただし輸入側も、静かに前提が変わりつつあります。
2-1. 1万円以下の少額輸入に消費税が課税される(2028年4月)
現行制度では、課税価格の合計額が1万円以下の輸入貨物は、原則として関税・消費税が免除されます。ただし全品目が対象ではありません。革製のバッグ、パンスト・タイツ、手袋・履物、スキー靴、ニット製衣類などは、個人的な使用に供されるギフトとして贈られたものである場合を除き、1万円以下でも免除されません。
関税と消費税が実際にどう計算されるかは、中国輸入にかかる関税の計算方法に手順を書いています。
2025年12月19日に決定された与党の2026年度税制改正大綱では、この1万円以下の少額輸入品への消費税課税が盛り込まれました。国境を越えて行われる通信販売のうち、1万円以下の少額輸入貨物の販売を消費税の課税対象とするもので、施行は2028年(令和10年)4月1日とされています。
あわせて、国外事業者や、取引の合計額が50億円を超えるECプラットフォーム事業者に納税義務を転換する仕組みも示されています。
背景は数字を見れば明らかです。2024年の輸入許可件数は約1億9,000万件で前年比約35%増、このうち少額貨物が約1億7,000万件と全体の約9割を占めています。少額貨物の輸入件数は2019年から2024年で約5倍に増えました。
2-2. 「0.6掛け特例」の廃止は2026年ではなく2028年——ここは誤情報が流通している
個人使用目的の輸入では、課税価格を海外小売価格の6割として計算できる特例がありました。海外小売価格16,666円前後の商品なら課税価格が1万円前後になるため、「16,666円ルール」として紹介されることがあります。
この特例は廃止されます。根拠法は「関税定率法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第5号)です。
ただし、施行日を間違えている情報がかなり流通しています。
令和8年度の関税改正は、原則として2026年4月1日施行です。そのため「0.6掛け特例も2026年4月に廃止された」と書いている記事や解説が複数あります。これは誤りです。
財務省の税制改正の解説では、この特例は令和10年(2028年)3月末をもって廃止とされています。つまり新しいルールが適用されるのは2028年4月1日以降です。越境ECに係る消費税制度の見直しと、施行日が揃えられています。
ここを取り違えると、価格設計を2年早く間違えることになります。
2-3. 何が消えて、何が残るのか
この2つの改正を整理すると、次のようになります。
| 制度 | 2028年4月以降 |
|---|---|
| 関税の少額免税(課税価格1万円以下) | 残る |
| 0.6掛け特例(個人使用貨物) | 廃止 |
| 1万円以下の少額輸入貨物に係る消費税 | 販売時課税へ移行 |
つまり免税枠そのものが消えるわけではありません。「海外小売価格16,666円まで免税」だったものが、「課税価格1万円まで免税」に縮小するというのが正確な理解です。0.6という係数がなくなる分だけ、判定のハードルが下がります。
2-4. 誰が影響を受けるのか——ここも最も誤解されている
結論から言うと、0.6掛け特例は、そもそも販売目的の輸入には適用されません。あくまで個人使用目的の輸入を前提とした制度です。
ところが輸入せどりの解説記事の多くが、この2つを混同したまま「16,666円までは無税で仕入れられる」と書いています。事業として仕入れているのに個人使用として申告していれば、それは特例の適用範囲外です。
したがって今回の改正でコスト構造が変わるのは、次の順です。
| 層 | 影響 |
|---|---|
| 個人使用として申告して転売していた層 | 大きい。前提そのものが失われる |
| 免税事業者として輸入している層 | 中。輸入消費税が直接コストになる |
| 簡易課税・2割特例を選択している層 | 中。実額での仕入税額控除を行わないため回収できない |
| 本則課税の課税事業者 | 小さい。輸入消費税は仕入税額控除の対象 |
最後の行が重要です。本則課税の課税事業者にとって、輸入消費税は最終的なコストではなく、資金繰り上の立替に近いものです。払った分は仕入税額控除で回収されます。
つまり「増税で輸入が終わる」という話ではなく、個人使用の建て付けで運用していた領域が、事業としての建て付けに寄せられるというのが改正の実質です。
2-5. 1個ずつ買う小口の事業者こそ、免税枠の中にいる
少額免税の判定基準は、1回の輸入申告における課税価格の「合計額」です。商品1個あたりではなく、運賃・保険料も含めた合計(CIF価格)で見ます。
ここから「ロットで仕入れれば1万円をすぐ超えるので、事業者は元々免税の対象外」という説明がされることがあります。ですが修理部品の調達では、それが当てはまりません。必要な部品を、必要になったときに1個だけ買うからです。
私が実際に調達している部品で見てみます。
| 部品 | 部品代 | 現行の扱い | 2028年以降の追加負担 |
|---|---|---|---|
| SIMトレイ | 300円 | 免税 | 約30円 |
| 背面パネル | 1,000円 | 免税 | 約100円 |
| バッテリー | 1,500円 | 免税 | 約150円 |
| 液晶ディスプレイ(スマホ) | 5,000円 | 免税 | 約500円 |
| 液晶(ノートPC) | 13,000円(送料込) | すでに課税対象 | 変化なし |
※部品代は発注時点の実績値です。送料が別途かかる場合は、その分が課税価格に加算されます。
つまり小口で回している私のようなモデルは、現行制度では免税枠の内側にいます。2028年の改正は、まさにこの層を直撃します。「ロット仕入れなら関係ない」という説明は、少なくとも修理部品の調達には当てはまりません。
そもそも「必要な部品が1個だけ確定する」という状態は、商材によって成立したりしなかったりします。部品の供給がいつまで続くかも、商材ごとに違います。プリンターの場合は、メーカーの部品保有期間と廃インク吸収体という2つの条件で、直せるかどうかが先に決まってしまいます。この線引きは壊れたプリンターは直せるのかに書きました。
ただし、影響の大きさは別問題です。追加負担は1件あたり30円から500円。ノートPC用の液晶に至っては、13,000円が現行ですでに1万円を超えているため、変化はありません。
2-6. 影響が小さい理由は、付加価値率にある
なぜ数百円の増税が問題にならないのか。仕入原価が、粗利に対して小さいからです。
私が実際にやってきた2つのモデルで比べます。片方は前章で書いた社外ナビの横流し、もう片方が現在の修理転売です。どちらも実績値です。
| 社外ナビ(横流し) | ノートPC(修理転売) | |
|---|---|---|
| 課税対象になる仕入原価 | 50,000円 | 13,000円(交換用液晶) |
| 粗利 | 30,000円 | 25,900円 |
| 仕入原価に10%課税された場合の負担 | 5,000円 | 1,300円 |
| 粗利に対する比率 | 16.7% | 5.0% |
粗利額はほぼ同じなのに、税の効き方が3倍以上違います。理由は単純で、横流しは粗利の出どころが仕入原価そのものだからです。原価が大きければ、原価に乗る税も大きくなる。
仕入原価に対する課税の重さ = 仕入原価 ÷ 粗利
これは税制の話ではなく、単に割り算の話です。自分の作業で価値を足しているほど、仕入原価に乗る税の影響は薄まる。制度変更に対する耐性は、ここから生まれます。
逆に言えば、価格差だけで稼ぐモデルは、この種の改正に対して構造的に脆いということでもあります。
3. 年収を分解する
3-1. 年商と年収を混同しない
「年商2,000万円」と書かれていたら、まず粗利率を確認してください。物販の年商は、仕入原価がそのまま乗った数字です。粗利率20%なら粗利400万円、そこから国際送料・プラットフォーム手数料・決済手数料・梱包材・外注費・通信費を引いた残りが利益です。
手数料の水準はプラットフォームとカテゴリで変わるため、必ず自分の扱う条件で計算してください。「年商」を見て「年収」と読み替えた時点で、判断を誤ります。
粗利率をいくらで置くかは、扱う業態で変わります。せどりの利益率と回転率を20年3業態の実測値で出した記事に、自分で回してきた範囲の目安を並べました。他人の粗利率ではなく、自分が入る業態の数字を入れてください。
3-2. 円安は利益を生まない。売上を押し上げるだけ
2026年8月時点でドル円は約159円です。輸出には有利な水準に見えます。
ただし、輸出系の記事でよく見る「1ドル100円時代は粗利ゼロ、150円になったら粗利5,000円」という比較には、前提のごまかしがあります。1ドル100円時代に粗利ゼロで出品する事業者は存在しません。ベースラインを不自然にゼロへ置いているから、差額の全部が新たな利益に見えるだけです。
実際に円安局面で起きるのは、次の3つが同時進行することです。
- 円換算の売上が増える(+)
- 海外バイヤーの参入で国内の仕入れ相場も上がる(−)
- 出品者が増えてドル建ての販売相場が下がる(−)
正味の効果は、この3つを差し引いた後にしか出ません。円安は追い風ではありますが、「何もしなくても利益が生まれる」性質のものではありません。
3-3. 拘束資金と回転数
物販の利益は、次の3つの掛け算です。
年間粗利 = 拘束資金 × 粗利率 × 年間回転数
拘束資金50万円、粗利率25%、年12回転なら、年間粗利は150万円。ここから固定費を引きます。
輸入で回転数を上げにくい理由は、リードタイムです。発注から到着まで2〜4週間かかれば、それだけで年間回転数の上限が決まります。国内仕入れなら年24回転できる資金が、輸入だと年8回転になる。粗利率が高くても、回転が落ちれば年間粗利は増えません。
3-4. 利益÷拘束日数で見る
最後に、時間で割ります。
リサーチ、発注、代行業者とのやりとり、検品、不良品対応、出品、梱包、発送、問い合わせ対応、確定申告。これらに費やした日数で年間利益を割った数字が、この仕事の実質的な単価です。
年間利益150万円を、実働120日で割れば日給12,500円。副業として悪くないと見るか、時給換算で割に合わないと見るかは、その人の代替選択肢によります。ただ、この数字を出さずに「年収1,000万円が目指せます」と言うのは、単に計算していないだけです。
4. 部品輸入+修理という選択肢
ここまでの整理から、2026年以降に成立しやすい輸入モデルの条件が出てきます。
- 仕入原価が小さい(課税・関税の影響が希釈される)
- 付加価値が自分の作業から生まれる(価格競争に巻き込まれにくい)
- 販売先が国内(言語・決済・物流・規制のコントロールが効く)
- リードタイムの長さが致命傷にならない(在庫として部品を持てる)
この4つを満たすのが、補修部品を輸入し、修理で価値を足して国内で売るモデルです。「商社ごっこ」ではなく、技術で差益を作る形の個人貿易です。
4-1. 実際の調達方法——ロットも代行業者も使っていない
中国輸入の解説記事は、ほぼ例外なくこう書きます。輸入代行業者を使え。ロットで仕入れてコストを下げろ。検品を徹底しろ。不良率を織り込んで利益計算しろ。
私の調達方法は、そのどれとも違います。
| 部品 | 部品代 | 用途 |
|---|---|---|
| 液晶ディスプレイ(スマホ) | 5,000円 | 画面割れ端末の再生 |
| バッテリー(スマホ) | 1,500円 | 劣化端末の再生 |
| 背面パネル | 1,000円 | 外装の補修 |
| SIMトレイ | 300円 | 欠品・破損の補修 |
| 液晶(ノートPC) | 13,000円(送料込) | 画面割れ機の再生 |
ロット数は常に1個です。直す対象の端末が手元に来て、必要な部品が確定してから、その1個だけを発注します。代行業者は使っていません。AliExpressで直接買っています。
不良品にも当たっていません。iMacの液晶を割ってしまったときの交換にも同じ経路で調達しましたが、問題なく動作しました。仮に不良だった場合もプラットフォーム側の購入者保護が働くため、感覚としては日本のAmazonで買うのに近いというのが正直なところです。
ただし、これは数を積んだうえでの統計値ではありません。私が扱った範囲では初期不良に当たっていない、という以上のことは言えません。数量を増やせば不良に当たる確率は上がるはずですし、部品カテゴリによっても違うでしょう。
それでも言えることがあります。「1個だけ必要」という買い方が成立するなら、ロット仕入れに伴う在庫リスクも、代行手数料も、検品工数も、そもそも発生しません。修理部品というカテゴリでは、中国輸入の定番とされる論点の多くが最初から論点になりません。
4-2. 本当の変動費は部品代ではなく、機種ごとの学習コスト
では何がコストなのか。作業時間です。
ノートPCの液晶交換で、私の場合は1台あたり1時間程度かかります。ここで重要なのは、その1時間の内訳です。相当部分が「その機種の開け方を調べる時間」に消えています。
ノートPCは機種ごとに分解手順が違います。ネジの位置、ツメの外し方、ケーブルの取り回し。この調査から始まるため、初めて触る機種は必ず時間がかかります。私は数をこなしていないので、毎回この調査が発生している状態です。
逆に言えば、同一機種を繰り返し扱えば、この時間はほぼゼロに近づきます。2台目以降は調査が要らないからです。
ここから、このモデルの経済性を決める変数がはっきりします。
実質時給 = (販売価格 - 本体仕入 - 部品代) ÷ 作業時間
そして作業時間は、同一機種を何台こなしたかで決まる
「利益率の高い商品を探す」より先に、「同じ機種を繰り返し仕入れられるか」を考えるべきだ、というのがこのモデルの結論です。機種が毎回ばらけると、いつまでも1台1時間から下がりません。
4-3. 実例:ノートPC1台の損益
実際に扱った1台の数字を全部出します。
| 項目 | 金額 | 調達元 |
|---|---|---|
| 本体(液晶割れ) | 12,000円 | 国内 |
| 交換用液晶 | 13,000円(送料込) | AliExpress |
| 互換バッテリー | 2,100円 | 国内Amazon |
| 原価合計 | 27,100円 | |
| 販売価格 | 53,000円 | |
| 粗利 | 25,900円(粗利率48.9%) |
※販売手数料と送料を引く前の数字です。販売チャネルによって、ここからさらに1割前後が引かれます。
部品をすべて中国から取っているわけではない点にも注意してください。バッテリーは国内のAmazonで買っています。輸入したほうが安くなるとは限らないし、1台のために発注して待つ時間のほうが高くつくこともあります。「輸入だから安い」ではなく、その都度どちらが安いかを見るだけです。
本体の調達先は国内です。ジャンク扱いのノートPCをどこで拾うかは、ネットと実店舗で別のルートがあります。整理はパソコン転売の仕入れ先(ネット編)と秋葉原の中古PC・ジャンク店に書きました。液晶交換以外に手を入れるなら、HDDをSSDに交換する手順も同じ工程に入ります。
4-4. この数字を「時給25,900円」と書いてはいけない
粗利25,900円を、前節で書いた作業時間1時間で割ると、時給25,900円になります。
これが、物販系の記事で見かける景気のいい時給の正体です。そして、この割り算は間違っています。
1時間というのは、分解して液晶を交換した時間だけです。実際に1台を売り切るまでには、次の作業が発生します。
- 条件に合う故障品を探す(相場チェック、出品監視)
- 落札・購入と受け取り
- 部品の選定と発注
- 部品の到着待ち(この間、本体は在庫として資金を拘束している)
- 動作確認とクリーニング
- 撮影、説明文の作成、出品
- 問い合わせ対応
- 梱包、発送
私はこれらの合計時間を計測していません。ただ、交換作業の1時間より大幅に長いことは確かです。仮に付帯作業を含めて合計4時間なら時給は約6,500円、8時間なら約3,200円まで下がります。
分母をどこまで取るかで、同じ取引が「時給2万5千円」にも「時給3千円」にもなります。だから他人の時給を見るときは、その人が何を分母に入れたかを確認してください。ほとんどの場合、交換作業の時間しか入っていません。
4-5. このモデルの弱点——構造的にスケールしない
ここまで読んで「粗利率48.9%なら悪くない」と思われたかもしれません。ただ、このモデルには決定的な制約があります。
条件に合致した故障品は、安定的に出てくるわけではありません。
「この機種の、この故障で、この価格帯」という条件を満たす個体が、毎週都合よく市場に出てくることはない。1ジャンル1商品に絞れば、すぐに限界利益に到達します。月に何台扱えるかの上限が、自分の能力ではなく市場の供給側で決まってしまう。
売上を伸ばすには、扱うジャンルを開拓するしかありません。ところがここで、前節の話と正面からぶつかります。
時給を上げるには同一機種を繰り返す必要がある
しかし同一機種の故障品は安定供給されない
売上を伸ばすにはジャンルを開拓するしかないが、
開拓した瞬間に学習コストがリセットされ、時給が落ちる
この2つは同時に満たせません。これが、修理転売が構造的にスケールしない理由です。人を増やしても解決しません。技術と機種知識が移らないからです。
そして技術が移らないということは、教えれば移るようになった瞬間に、その技術の優位が終わるということでもあります。私はブランド品のリペアでも同じ構造に当たりました。教えた瞬間に代替可能になる技術の話に書いています。スケールしないことは弱点ですが、同時に、真似されにくいことの裏返しでもあります。
言い換えると、このモデルは「自分の時間を高く売る」ことには向いているが、「自分の時間から切り離して稼ぐ」ことには向いていない。年収1,000万円をこの方法だけで目指すなら、かなりの拘束日数を覚悟することになります。
4-6. バッテリーとPSE——確認できていないことは確認できていないと書く
リチウムイオン蓄電池は電気用品安全法(PSE)の規制対象に含まれます。ただし「リチウムイオン電池だからPSE対象」という説明は正確ではありません。経済産業省は機器ごとの対象・非対象の解釈例を公開しており、判断は電池単体か機器内蔵か、どういう機器なのかによって変わります。
大枠は次のように整理されています。
| 形態 | 扱い |
|---|---|
| 機器に組み込まれ、容易に取り外せない状態で流通 | その機器自体の輸入・販売として扱う。機器本体が直流駆動の非対象機器なら、内蔵電池に技術基準適合義務は課されない |
| 交換用バッテリーパックとして単体で流通・販売 | 規制の対象になり得る |
| モバイルバッテリー(外部給電が主機能) | 対象 |
| ACアダプター・充電器 | 特定電気用品として別途規制 |
そのうえで、私の実務について正直に書きます。
私が調達したバッテリーにはPSEの表記が入っていましたが、それが実際に適切な認証を経たものかどうかは確認できていません。表示があることと、認証実態があることは別です。また、Pixelやサムスンのメーカー純正品が購入できてしまうケースもありました。なぜ純正部品が流通しているのかについて、私は確かなことを知りません。憶測で書くべき部分ではないので、事実だけを記します。
そして、私自身の運用は上の表のどこにも綺麗に収まりません。交換用バッテリーを単体で輸入し、端末に組み込んだ状態で販売しているからです。輸入した時点では単体、販売する時点では機器内蔵。この場合に輸入事業者としてどこまでの義務が生じるのか、私は確認しきれていません。
制度の構造として押さえておくべきなのは、PSEの表示義務や届出義務を負うのは製造事業者または輸入事業者だということです。海外の売り手がマークを付けていても、日本に輸入するのは自分です。義務の所在が売り手側に移るわけではありません。
この線引きは条文の解釈が絡む領域です。中古家電全般の扱いも含めて、経済産業省の「対象非対象解釈例一覧」およびリチウムイオン蓄電池に関するFAQで、必ず自分の形態を確認してください。ここは記事の説明で済ませていい部分ではありません。
5. 必要な手続き
5-1. 中古品を扱うなら古物商許可
中古品を仕入れて販売するなら、古物商許可が必要です。管轄の警察署で申請します。申請から許可までは標準処理期間として40日程度を見ておいてください。
取得手順と必要書類は古物商許可はせどりに必要かにまとめています。費用は19,000円と、書類を揃える手間です。許可を取ったあとに何が変わるのかは古物商は儲からないのかに書きました。
5-2. 開業届と青色申告承認申請書
事業として行うなら税務署に提出します。青色申告は複式簿記による記帳が前提ですが、会計ソフトを使えば実務上の負担は限定的です。
5-3. 消費税の課税事業者になるかどうか
前述のとおり、輸入消費税を仕入税額控除で回収できるのは本則課税の課税事業者だけです。ただし、課税事業者を選択すると一定期間は免税事業者に戻れない制約があります。輸入額と国内売上の規模によって有利不利が変わるため、ここは税理士に確認してください。
5-4. 無在庫でやろうとしている場合
eBayでの無在庫販売については、禁止されている形式と許容される形式の区別があります。整理はeBay無在庫転売の禁止ルールに、公式ポリシーに沿って書きました。
6. 現実的な年収レンジ
ここまでの式に数字を入れます。以下はモデルケースであり、実績の保証ではありません。
| 副業・立ち上げ期 | 副業・軌道期 | 専業 | |
|---|---|---|---|
| 拘束資金 | 10〜30万円 | 50〜150万円 | 300万円〜 |
| 年間回転数 | 4〜8回 | 8〜12回 | 10〜15回 |
| 粗利率 | 15〜25% | 20〜35% | 25〜40% |
| 年間粗利(目安) | 10〜60万円 | 80〜600万円 | 750万円〜 |
| 年間拘束日数 | 50〜80日 | 100〜150日 | 220日〜 |
※固定費(プラットフォーム月額、代行手数料、通信費、保管スペース)を引く前の粗利です。
この表で注目してほしいのは、専業のレンジに入っても、拘束日数が220日を超えるという点です。年収1,000万円は「通過点」ではなく、フルタイムで働いた対価です。副業のまま到達する数字ではありません。
同じ形の計算を、別の業態でもやっています。古本屋の年収はいくらかでは、1冊あたりの利益を実測で分解して、月30万円に必要な冊数を出しました。単価が低い商材ほど、必要な点数が現実的でない水準まで跳ね上がります。この記事の表と並べて見ると、粗利率の差が拘束日数にどう効くかが分かります。
そして粗利率のレンジ幅(15%〜40%)が、この仕事の実態をよく表しています。同じ資金、同じ時間を投じても、何を扱い、どれだけ価値を足せるかで結果が2倍以上変わる。ここが唯一、自分でコントロールできる変数です。
まとめ
2026年時点の状況を整理します。
- 米国のデミニミス停止により、少額多品種の輸出モデルは1件あたりの工数が増えた
- 2028年4月から、1万円以下の少額輸入にも消費税が課される予定
- 個人使用目的の0.6掛け特例は廃止される方針。もともと販売目的には適用されない
- 本則課税の課税事業者にとって、輸入消費税は仕入税額控除の対象
- 少額免税は1回の輸入申告における課税価格の合計額で判定される。部品を1個ずつ買う小口の運用は現行では免税枠の内側にあり、2028年の改正で新たに課税される
- ただし追加負担は1件あたり数十円から数百円。仕入原価に対する課税の重さは「仕入原価 ÷ 粗利」で決まるため、自分の作業で価値を足しているほど薄まる
制度の隙間で稼げた時期は終わりつつあります。それは悪いことばかりではありません。隙間が閉じれば、残るのは技術と作業単価だけになり、そこは制度改正で消えないからです。
年収を知りたいなら、誰かの成功事例ではなく、自分の式に数字を入れてください。拘束資金、粗利率、回転数、拘束日数。この4つが埋まれば、答えは自動的に出ます。出た数字が納得できるものかどうかは、あなたが判断することです。

コメント