マタイ効果は、「持っている人は、さらに与えられる。持っていない人は、持っているものまで失う」という現象です。努力や実力の差ではなく、最初の小さな差が、しくみによって、自動的に広がることを指します。
私は、ブランド品の仕入れのために、オンラインの古物市場に、片っぱしから入会したことがあります。残ったのは、ほぼ1つでした。出品の数が、けた違いに多い市場です。そして、私がそこを選んだことで、その市場は、さらに少しだけ、強くなりました。
この記事では、意味と由来を先に書いて、そのあとで、しくみ、シミュレーション、私が見た例、持っていない側の戦い方、この言葉の注意点を書きます。
1. マタイ効果とは
アメリカの社会学者、ロバート・K・マートンが、1968年に、科学誌の論文で名づけました。もとは、科学者の世界の話です。
- 同じ内容の発見でも、有名な科学者の名前がついていると、その人の功績として、記憶される。
- 共同研究では、いちばん有名な人に、評価が集まる。
- 評価が集まった人に、研究費と、優秀な学生が集まる。次の成果も、その人から出やすくなる。
名前は、新約聖書の「マタイによる福音書」の一節から来ています。「持っている人は、さらに与えられて豊かになる。持っていない人は、持っているものまで取り上げられる」という趣旨の言葉です。
その後、この言葉は、ほかの分野に広がりました。
| 分野 | 何が起きるか |
|---|---|
| 教育 | 早く読めるようになった子は、たくさん読むので、語彙がふえ、さらに読めるようになる。読むのが苦手な子は、読まないので、差が広がる(心理学者スタノヴィッチの1986年の論文)。 |
| お金 | 元手が大きいほど、同じ利回りでも、ふえる金額が大きい。複利の計算は、72の法則とはに書きました。 |
| ネットワーク | リンクの多いサイトほど、新しいリンクを集める。利用者の多いサービスほど、新しい利用者を集める。 |
| 市場 | 出品の多い市場に、買い手が集まる。買い手の多い市場に、出品が集まる。 |
2. しくみ:なぜ、差は自動で広がるのか
共通しているのは、「いま持っている量に比例して、次の1つが配られる」というルールです。
新しい客が、「いちばん出品が多い市場」をえらぶ。新しい読者が、「いちばんレビューが多い本」をえらぶ。えらぶ側にとっては、合理的です。調べる手間が、はぶけるからです。だれも、悪いことは、していません。それでも、結果として、差は広がります。
もう1つ、大事な性質があります。序盤の運が、固定されることです。はじめの数回で、たまたま多く取った側が、その後もずっと有利になります。これは、次の計算機で、確かめられます。
2-1. シミュレーション:同じルールで、何回もやり直す
A店とB店が、あります。新しい客は、1人ずつ来て、「いまの客の数に比例した確率」で、どちらかをえらびます。店の実力は、まったく同じです。
A店のシェア(最初 → 今回の結果):—
200回やり直したときの、A店のシェアの幅:—
200回のうち、A店が半分より多く取った割合:—
ボタンを、何回か押してください。分かることは、2つです。
- 最初に2対1だったA店は、多くの回で、勝ちます。1人の差が、1,000人のあとまで、残ります。
- それでも、結果の幅は、とても広いです。実力が同じでも、A店が9割を取る回と、3割に終わる回が、あります。決めているのは、序盤の数人です。
このモデルは、「客が、数だけを見てえらぶ」という、極端な仮定です。実際の市場では、品質も、値段も、見られます。数字は、しくみを理解するためのもので、予想では、ありません。
3. 私が見た、マタイ効果
3-1. 古物市場:出品数が、けた違いの1社だけが残った
ブランド品を仕入れていたころ、私は、入れるオンラインの古物市場に、ぜんぶ入会して、くらべました。結果は、はっきりしていました。毎週5,000〜1万点が出る市場が、1つ。ほかの多くは、1,000点にも、とどきません。
出品が少ない市場では、ほしい商品が少ないので、同じ商品に入札が集まります。利益が、取れません。そのうえ、参加費がかかる市場では、1点だけ落札しても、手数料で赤字です。私は、小さい市場を、やめました。ほかの買い手も、同じ計算をします。買い手がへった市場には、出品する側も、出さなくなります。
大きい市場が、サービスで圧倒的にすぐれていたわけでは、ありません。「数が多い」ことが、次の「数」を、呼んでいました。くわしい比較は、ブランド品の仕入れルートに書きました。
3-2. 海外ブランドの買い付け:買っている人ほど、安く買える
海外のブランド品を買い付けて売る仕事を、ためしたことがあります。安く買うには、メーカーや卸の、上位の会員になる必要がありました。上位の会員になる条件は、たくさん買うことです。たくさん買うには、安く買えていないと、利益が出ません。
入口で、輪が閉じています。後から来た人を受け入れてくれるメーカーは、ありました。ただ、そういうメーカーの商品は、需要が浅く、かせげませんでした。私は、ここで、止めました。この話は、バイマ副業は稼げる?の記事に書きました。
3-3. ネットショップ:同じ記事でも、上がる場所と、上がらない場所がある
同じ商品を、3種類のネットショップで、売ったことがあります。いちばん売れたのは、WordPressで作った店でした。理由は、店の機能では、ありません。検索で、人が来たからです。同じ質の記事を入れても、検索で上がりやすい土台と、上がりにくい土台が、ありました。
検索エンジンも、リンクや評価が集まっている場所を、上に出します。上に出た場所には、さらに人が来て、さらに評価が集まります。これも、同じ形です。この話は、Shopifyで売れないのは店のせいではないに書きました。
4. 持っていない側の、戦い方
マタイ効果は、「あきらめろ」という話では、ありません。しくみが分かれば、えらべる手が、あります。私が実際にやったことを、3つ書きます。
- 大きい側に、乗る:買い手としては、いちばん大きい市場を使うのが、合理的でした。マタイ効果は、乗る側にとっては、味方です。
- くらべられる場所を、変える:有名なブランド名では、大きな店に勝てません。私は、ブランド名ではなく、「オマージュウォッチ」のような、商品の種類をあらわす言葉で記事を書いて、人を集めました。新しいドメインでも、2〜3週間で、検索に上がりました。大きな相手が、まだ数を積んでいない場所では、序盤の数人を、自分が取れます。
- 小さく、しぼる:私が教えた人で、伸びた人は、腕時計だけの店のように、1つの種類にしぼっていました。しぼると、その小さな範囲の中では、「いちばん品ぞろえが多い店」に、なれます。
3つとも、やっていることは、同じです。「自分が、序盤の多数派になれる大きさまで、土俵を小さくする」。そこで積んだ数が、次の数を呼びます。
5. この言葉の、注意点
5-1. 「勝っている人は、運だけ」という意味では、ない
マタイ効果は、差が広がる「しくみ」の説明です。最初の差が、実力から来たのか、運から来たのかは、別の話です。成功した人の話の読み方は、生存者バイアスとはに書きました。
5-2. いつまでも、広がりつづけるわけでは、ない
大きくなった側にも、天井があります。大きい市場には、競争相手も、集まります。利回りは、下がります。飛びぬけた成績は、長くは続きません。この反対向きの力は、平均への回帰とはに書きました。
5-3. 自分の不調の、説明に使わない
「持っていないから、勝てない」と言うのは、かんたんです。でも、それでは、次の手が出ません。使いどころは、「どこで戦えば、序盤の数人を取れるか」を考えるとき、だけです。
6. まとめ
- マタイ効果は、最初の小さな差が、しくみによって、自動で広がる現象です。社会学者マートンが、1968年に名づけました。
- 原因は、「いま持っている量に比例して、次の1つが配られる」というルールです。
- 実力が同じでも、序盤の運が、固定されます。
- 私が入会した古物市場では、出品数がけた違いの1社だけが、残りました。
- 持っていない側は、大きい側に乗る、くらべられる場所を変える、小さくしぼる、の3つが使えます。
- 差は、いつまでも広がるわけでは、ありません。平均への回帰が、反対向きに働きます。

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