「働きアリの法則」で調べて来られた方に、先に結論を書きます。
働きアリの法則は、集団は「よく働く2割、ふつうに働く6割、働かない2割」に分かれ、働かない2割を外しても、残りからまた2割が働かなくなる、という話です。研究で確かめられているのは、その一部です。北海道大学の長谷川英祐准教授らは、シワクシケアリというアリで、よく働く個体だけで集団を作り直しても働かない個体が現れ、働き度合いの分布が元の集団と同じようになることを実験で示しました(2012年発表)。働かない個体もいる集団のほうが長く続くことも、シミュレーションで示しています(2016年)。ただ、2:6:2という比率は、どちらにも出てきません。別の種のアリでは、働かないアリを取り除いても、働かないアリは元に戻らなかった、という研究もあります(2017年)。人間の組織で「外してもまた2割」を言うなら、順位ではなく、決まった線で測る必要があります。順位で分けると、下位2割は何をしても必ず出るからです。
私は店舗せどりを約300人に教えてきて、受講生はだいたい2:6:2に分かれました。一方で、自分で雇った人や外注で、働かない人を外したら、残りからまた働かない人が出た、ということはありませんでした。理由は6章の「私の見方」に書きました。チームの数字を順位と線の両方で分けてみるツールは7章にあります。
1. 働きアリの法則とは
働きアリの法則は、2:6:2の法則とも呼ばれます。よく言われる中身は、次の2つです。
| よく言われること | 中身 |
|---|---|
| 2:6:2に分かれる | アリの集団は、よく働く2割、ふつうに働く6割、働かない2割に分かれる。人間の組織も同じだ |
| 外してもまた出る | 働かない2割を外しても、残りの中から、また2割が働かなくなる |
この2つは、別々に確かめる必要があります。2章で研究に書かれていることを、3章で人間の組織に当てはめるときの測り方を見ます。
2. 研究で確かめられたこと
2-1. 働くアリだけにしても、働かないアリが現れた(2012年)
北海道大学の長谷川英祐准教授と石井康則さんは、シワクシケアリの集団を飼い、1匹ずつ見分けて働き度合いを調べたうえで、よく働く個体だけ、あるいは働かない個体だけで集団を作り直しました。
結果は、働く個体だけにしても働かない個体が現れ、働かない個体だけにすると働く個体が現れ、集団全体の働き度合いの分布は、いつも元の集団と同じようになった、というものです。論文は日本動物行動学会の国際誌『Journal of Ethology』に載り、北海道大学が2012年12月7日に発表しています。
これは、順位をつけ直して下位を数えた話ではありません。1匹ずつの働き度合いを測って、分布が元に戻ったことを見ています。この種のアリについては、「外してもまた出る」に当たる現象が、実験で確かめられているということです。ただ、北海道大学の発表に、2割や2:6:2という比率は出てきません。
2-2. ほとんど働かないアリは2〜3割。ただし数字はばらつく
長谷川准教授らの研究グループは、アリやハチなどの社会性昆虫の集団には、ほとんど働かない個体が常に2〜3割いる、としています。2016年に英国の科学誌『Scientific Reports』に載った論文では、シワクシケアリ(Myrmica kotokui)の集団を8つ作り(働きアリ150匹と女王、卵・幼虫)、32日間、行動を記録しました。
| 論文の数字 | 値(平均±標準偏差) |
|---|---|
| 観察した行動のうち、「休んでいる」だった割合 | 66.0±9.8% |
| 巣のための仕事をしていた時間が、観察時間の10%未満だった働きアリ | 26.3±19.9% |
| 同じく、5%未満だった働きアリ | 12.3±11.0% |
ここでいう「仕事」は、仲間の毛づくろい、卵や幼虫の世話、口移しでの餌やり、餌集めです。休む、歩く、自分の毛づくろいは、仕事に入っていません。
ほとんど働かないアリの割合は、平均で2〜3割ですが、標準偏差が19.9%あり、集団によってかなりばらつきます。論文は、ほかの研究では働かないアリの割合が平均で約50%と見積もられてきた、とも書いています。長谷川准教授の本『働かないアリに意義がある』の出版社の紹介文は、「働きアリの約7割は常に休んでおり、1割は生涯働かない」です。何を数えるかで、数字は変わります。
2-3. 働くアリが休んでいるとき、働かないアリが働く
2016年の論文では、活動量で上位10%のアリの活動が低いときほど、下位10%のアリの活動が高い、という関係が、8つの集団すべてで見られました。
論文は、この種の働かないアリは「反応閾値」の個体差から生まれている可能性が高い、と論じています。反応閾値は、仕事への腰の軽さのことです。閾値の低いアリはすぐ働き始め、閾値の高いアリはなかなか働きません。働き者が疲れて休み、片づかない仕事がたまると、閾値の高いアリも働き始める、という考え方です。論文は、働くアリを集団から全部取り除くと、働いていなかったアリの一部が働き始めた、という先行研究も紹介しています。
2-4. 働かないアリもいる集団のほうが、長く続く(シミュレーション)
研究グループは、コンピューターの中で、75匹の集団を2通り作って比べました。1つは、全部のアリの反応閾値を同じ値にそろえた集団。もう1つは、すぐ働くアリからなかなか働かないアリまで混ぜた集団です。仕事が1つも片づかない時点が出たら、その集団は終わり、という決まりです。
疲れを入れた条件では、閾値をばらつかせた集団のほうが、いくつかの仕事の出方の条件で、より長く続きました。全員が同じように働く集団は、一斉に疲れがたまるからです。短い期間の効率は下がりますが、長く続く。論文はこれを、先の読めない環境への備え(リスクの分散)ではないか、としています。これはモデルの中の結果で、実際の巣の寿命を比べたものではありません。
2-5. 別の種では、働かないアリを外すと、戻らなかった(2017年)
米国アリゾナ大学などの研究チームは、Temnothorax rugatulus というアリで、よく働くアリと、ほとんど動かないアリを、それぞれ取り除く実験をしました。2017年に科学誌『PLOS ONE』に載っています。
よく働くアリを取り除くと、1週間以内に、それまで働いていなかったアリが働き始め、取り除く前の活動の水準に戻りました。一方、ほとんど動かないアリを取り除くと、動かないアリの割合は下がったままで、2週間たっても戻りませんでした。研究チームは、集団には働くアリの数を保つしくみはあるが、働かないアリの数を保つしくみはないようだ、としています。
2-6. 研究の資料に書かれていないこと
| よく言われること | 研究の資料では |
|---|---|
| 2:6:2に分かれる | ここで紹介した研究の資料に、2:6:2という比率は出てきません。2016年の論文は、分析のために、働きアリを活動量で下位10%・中位80%・上位10%に分けています |
| 働かない2割を外しても、また2割が働かなくなる | シワクシケアリでは、働く個体だけにしても働かない個体が現れ、分布が元に戻りました(2012年)。別の種では、働かないアリを外しても戻りませんでした(2017年)。種によって結果が違い、2割という数字も示されていません |
| 人間の組織も同じ | 研究の対象はアリです。長谷川准教授は、人間の組織についても、短い期間の効率を求めすぎると大きなダメージを受けるので、長く続くことも含めて考えることが重要だ、と話しています |
3. 人間の組織で「外してもまた2割」を見るなら、順位ではなく線で測る
アリの実験は、1匹ずつの働き度合いを測っています。人間の組織でよくあるのは、それとは違う数え方です。いちばん下から2割を「働かない人」と呼ぶ、順位による決め方です。
この決め方だと、下位2割を外して、残った人をもう一度並べれば、また下位2割ができます。全員がどれだけ働いていても、順位をつける以上、誰かが下に来るからです。
10人の成果が、100、90、80、70、60、50、40、30、20、10だったとします。
| 見方 | 外す前 | 下位2割(20と10)を外したあと |
|---|---|---|
| 平均 | 55 | 65 |
| 順位で分けた下位2割 | 20と10 | 40と30(また2人出る) |
| 最初の平均の半分(27.5)より下の人 | 2人 | 0人 |
順位で見ると、外したあとにも「下位2割」がいます。最初の平均の半分という、決まった線で見ると、外したあとは0人です。新しく下位2割になった40と30は、最初の平均の54.5〜72.7%で、外した2人とは中身が違います。
全員がよく働く集団でも同じです。10人の成果が85〜100の間にそろっていても、順位で分ければ下位2割は出ます。その2人の成果は、最初の平均の96.7〜97.8%でした(7章のツールで出した数字です)。
人間の組織で「外しても、また働かない人が出た」と言えるのは、アリの実験と同じように、決まった線で測って、外したあとに、その線より下の人がまた出たときです。順位で分けているかぎり、下位2割が出るのは数え方の結果です。
4. パレートの法則(ニッパチの法則)との違い
働きアリの法則と並べてよく出てくるのが、パレートの法則(2:8の法則、ニッパチの法則)です。
| 法則 | 比率 | 何を分けているか |
|---|---|---|
| 働きアリの法則 | 2:6:2 | 集団の中の人(アリ)を、働き方で3つに分ける |
| パレートの法則 | 2:8 | 結果を、それを生んだ要素で分ける。2割の要素が8割の結果を生む |
前者は人を、後者は結果を分けています。どちらの比率も、研究で決まった値ではありません。パレートの法則の由来と、自分の数字での確かめ方はニッパチの法則とはにまとめました。
5. 人間の組織に当てはめるときに見ること
| 見ること | 理由 |
|---|---|
| 順位で分けているか、決まった線で分けているか | 順位なら、下位2割は必ず出る。決まった線なら、0人もありうる |
| 何を「働く」と数えているか | 売上、件数、作業時間で、順位は入れ替わる。アリの研究でも、何を仕事と数えるかを決めてから測っている |
| 人数 | 5人より少ないと、上位2割・下位2割に1人ずつも入らない |
| その人が、交代要員になっているか | 研究の「働かないアリ」は、働き者が休んでいるときに働く。人間の組織で同じことが起きているかは、別に確かめる必要がある |
なお、上の表のうち人数の行は、算数の話です。2割がちょうど1人以上になるのは、5人からです(5人の2割が1人。5人なら1:3:1)。
6. 私の見方
私はこれまで、店舗せどりを約300人に教えてきました。そのうち、月利20万円以上を報告してくれたのは52名(約17%)です。受講生を「結果を出す2割、ふつうの6割、動かない2割」で見ると、実感としては、だいたい2:6:2でした。数字の分母や中身は物販ビジネスの成功率に書いています。
一方で、自分で雇った人や外注については、働かない人を外したら、残った中からまた働かない人が出た、という経験はありません。そのうえで、働きアリの法則の言い方については、こう考えています。
「私が就職した時に下位20%は毎年自動で解雇するというアメリカの会社があり、凄い経営だと思ったが、その後の研究でそれをやっても意味がないことがわかって一律でクビにするのはやめたと聞いた。私の場合は自分で雇用した人と自分が教える人に分かれるが、全員に向き合う意思は持っていてもそもそもスタート地点で実力がそれぞれ違うので、実力が低すぎる人や学ぶ意思がない人に時間を割いても無意味というインセンティブが確立されてしまっている。視座を下げて頭の弱い人に合わせても報われることはなかったし、意味がないと今は考えている。」
順位で下位2割を外す仕組みと、決まった線より下の人を見る仕組みは、3章のとおり、結果が違います。上司の仕事を「仕組みを作ること」と考える立場は、ピーターの法則は間違い?に書きました。
7. チームの数字を、順位と線の両方で分けてみるツール
1人ずつの成果を入れると、順位で分けた2:6:2が、成果の合計の何%ずつを占めているかを出します。あわせて、最初の平均の何%未満を「働いていない」と見るかの線を決めて、その線より下の人数を出します。最後に、下位2割を外したらどうなるかを、順位と線の両方で出します。入れた数字は、このページの外には送られません。
チームの数字を、順位と平均の両方で分けてみる
3章の10人の例(100、90、80、70、60、50、40、30、20、10)を入れると、上位2割が成果の合計の34.5%、中位6割が60%、下位2割が5.5%を占め、下位2割を外したあとも、順位で分けた下位2割はまた2人出る一方、最初の平均の半分より下の人は0人、と出ます。
8. よくある質問
働きアリの法則とは何ですか?
集団は、よく働く2割、ふつうに働く6割、働かない2割に分かれ、働かない2割を外しても、また2割が働かなくなる、という話です。2:6:2の法則とも呼ばれます。
働きアリの法則は本当ですか?嘘ですか?
一部は本当です。シワクシケアリでは、よく働く個体だけで集団を作り直しても働かない個体が現れ、働き度合いの分布が元に戻ることが、実験で確かめられています。ただ、2:6:2という比率は研究の資料に出てこず、別の種では、働かないアリを外しても戻らなかったという研究もあります。
働きアリの法則の、よくある間違いは何ですか?
1つは、2:6:2が研究で決まった比率だと思うことです。働かないアリの割合は、研究や集団によって2〜3割とも、約5割とも見積もられ、ばらつきます。もう1つは、人間の組織で順位で分けた下位2割が、外してもまた出てくることを、法則の証拠だと思うことです。順位で分けているかぎり、それは必ず起きます。
アリの2割は、なぜ働かないのですか?
研究では、仕事への腰の軽さ(反応閾値)の個体差で説明されています。閾値の高いアリはなかなか働き始めませんが、働き者が休んで仕事がたまると働き始めます。研究グループは、こうした個体がいる集団のほうが長く続くことを、シミュレーションで示しています。
働かないアリを取り除くと、どうなりますか?
種によって違います。シワクシケアリでは、よく働く個体だけで集団を作り直しても、働かない個体が現れました(2012年)。Temnothorax rugatulus というアリでは、ほとんど動かないアリを取り除いても、動かないアリの割合は2週間たっても戻りませんでした(2017年)。
「7割は休んでいる」と「2〜3割は働かない」は、どちらが正しいですか?
数えているものが違います。2016年の論文では、観察した行動のうち休んでいたのが66.0%、仕事の時間が観察時間の10%未満だった働きアリが26.3%でした。前者は行動の割合、後者はアリの数の割合です。
働きアリの法則とパレートの法則の違いは何ですか?
働きアリの法則(2:6:2)は、集団の中の人を働き方で分ける話です。パレートの法則(2:8)は、結果を、それを生んだ要素で分ける話です。
働きアリの法則は、人間にも当てはまりますか?
ここで紹介した研究の対象はアリで、人間の組織で2:6:2を確かめたものではありません。人間の組織で見るときは、順位で分けているのか、決まった線で分けているのかを先に確かめてください。
働きアリの法則は、何人からですか?
2割がちょうど1人以上になるのは、5人からです(5人の2割が1人。5人なら1:3:1)。
働きアリの法則で、いじめは説明できますか?
研究が扱っているのは、アリの仕事の分担です。いじめは扱っていません。「1人がいなくなると、別の人が下に置かれる」という話は、順位で誰かを下に置くかぎり、必ず誰かが下になる、という3章と同じ構造です。
働きアリの法則の本はありますか?
研究者の長谷川英祐さんの本に、『働かないアリに意義がある』があります。出版社の紹介文は、「働きアリの約7割は常に休んでおり、1割は生涯働かない」です。
9. まとめ
働きアリの法則のうち、研究で確かめられているのは、シワクシケアリで、よく働く個体だけにしても働かない個体が現れ、働き度合いの分布が元に戻ること、働き者が休んでいるときに働かないアリが働くこと、そして、そういう個体がいる集団のほうが長く続くというシミュレーションの結果です。2:6:2という比率は研究の資料になく、別の種では、働かないアリを外しても戻りませんでした。人間の組織で使うなら、順位ではなく、決まった線で測ってください。7章のツールで、自分のチームの数字を両方の見方で確かめられます。
10. 参考にした公式の情報
- 北海道大学「働くアリだけのグループにしても働かない個体が現れることを証明」(2012年12月7日)(2026年10月7日確認)
- Hasegawa E. ほか「Lazy workers are necessary for long-term sustainability in insect societies」Scientific Reports 6, 20846(2016年)、北海道大学学術成果コレクション(2026年10月7日確認)
- 科学技術振興機構 サイエンスポータル「働かないアリも集団維持に必要 北大研究者が興味深い研究成果」(2026年10月7日確認)
- 北海道大学「Clarification that inactive ants are necessary for the long-term sustainability of colonies」(2026年10月7日確認)
- University of Arizona「Who needs ‘lazy’ workers? Inactive workers act as a ‘reserve’ labor force replacing active workers, but inactive workers are not replaced when they are removed」(PLOS ONE、2017年)(2026年10月7日確認)
- KADOKAWA『働かないアリに意義がある』(長谷川英祐、中経の文庫)(2026年10月7日確認)
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12. この記事について
この記事は、店舗せどりを約300人に教え、自分でも人を雇ってきた私の立場と、北海道大学の発表と論文、科学技術振興機構の記事、アリゾナ大学の公開情報、出版社の公開情報をもとに書きました。研究の対象はアリで、人間の組織にそのまま当てはまるとは確かめられていません。自分のチームの数字は、7章のツールで確かめてください。
