ケリー基準は、「長い目で見て、資金をいちばん速くふやすには、1回の勝負に、資金の何%を賭ければいいか」を出す、計算の式です。ケリーの公式、ケリー基準法とも呼ばれます。
この式が教えてくれる、いちばん大事なことは、「何%賭ければ、もうかるか」では、ありません。「これ以上賭けると、勝てる勝負でも、資金がへっていく」という、上限です。優位性のある勝負でも、賭けすぎると、負けます。
私は、FXで、この上限を、何倍もこえた賭け方をして、口座を飛ばしました。いま持っている、指数の2倍で動く投資信託も、計算してみると、上限をこえている可能性があります。この記事では、式と計算機を先に出して、そのあとで、私の話を書きます。特定の商品や賭け方を、すすめる記事では、ありません。
1. ケリー基準とは
考えたのは、アメリカのベル研究所にいた、ジョン・ケリーです。1956年の論文で、発表しました。もとは、通信の理論の研究です。これを、カードの勝負と、株の運用に持ちこんで、実際に大きな成果を出したのが、数学者のエドワード・ソープでした。
1-1. 式
賭ける割合 =(勝率 × 損益比 − 負ける確率)÷ 損益比
損益比は、勝ったときの利益が、負けたときの損の、何倍か、です。分子は、1回あたりの期待値です。
| 勝率 | 損益比 | 期待値 | ケリーの割合 |
|---|---|---|---|
| 60% | 1.0 | +0.20 | 20% |
| 50% | 1.2 | +0.10 | 約8.3% |
| 40% | 2.0 | +0.20 | 10% |
| 50% | 1.0 | 0 | 0%(賭けない) |
| 45% | 1.0 | −0.10 | マイナス(賭けない) |
期待値がゼロ以下なら、答えは、「賭けない」です。ケリー基準は、勝てない勝負を、勝てるようにする式では、ありません。
1-2. 賭けすぎると、ふえ方が、落ちる
勝率60%・損益比1.0の勝負で、賭ける割合を変えたときの、1回あたりの資金のふえ方です。
| 賭ける割合 | 1回あたりの、資金のふえ方 |
|---|---|
| 10%(ケリーの半分) | +約1.5% |
| 20%(ケリーの割合) | +約2.0%(いちばん大きい) |
| 40%(ケリーの2倍) | −約0.2%(へっていく) |
6割勝てる勝負です。それでも、資金の4割を賭けつづけると、長い目では、資金が、へっていきます。勝ったときに増えるぶんより、負けたときに失う割合のほうが、あとに効くからです。50%を失うと、もとにもどすには、100%の上昇が要ります。ケリーの割合の、おおよそ2倍が、「ふえ方がゼロになる線」です。それをこえると、勝てる勝負で、負けます。
1-3. 計算機
① 勝負の形で計算する
| ケリーの割合(上限) | 20% |
| その半分(ハーフケリー) | 10% |
| ケリーの割合で賭けたときの、1回あたりのふえ方 | 2.01% |
| 半分で賭けたとき | 1.5% |
| 2倍で賭けたとき | -0.24% |
② 投資の形で計算する(何倍まで、レバレッジをかけてよいか)
| 理論上の、最適なレバレッジ(上限) | 1.65倍 |
| その半分 | 0.83倍 |
②の式は、「(期待リターン − 金利)÷ 値動きの大きさの2乗」です。はじめに入っている数字は、説明のための、仮のものです。期待リターンに、何%を入れるかで、答えは、大きく変わります。そして、その数字は、だれにも、分かりません。
2. ケリーの割合でも、資金は、大きくへる
ケリー基準は、「長い目で、いちばん速くふえる」割合です。「安全な」割合では、ありません。理論の上では、ケリーの割合で賭けつづけると、途中で資金が半分になる確率が、50%あります。10分の1になる確率も、10%あります。
| ケリーの割合 | その半分(ハーフケリー) | |
|---|---|---|
| 資金のふえ方 | いちばん速い | その約4分の3 |
| 途中で、資金が半分になる確率 | 50% | 約13% |
| 途中で、資金が10分の1になる確率 | 10% | 約0.1% |
半分にすると、ふえ方は、4分の1しか落ちません。大きくへる確率は、何分の1にも、下がります。実際に運用している人の多くが、ケリーの半分か、それ以下で使っているのは、このためです。
3. もっと大きい問題|本当の勝率は、分からない
式に入れる勝率は、どこから持ってくるのでしょうか。たいていは、自分の過去の結果です。
20回やって、12回勝った。見かけの勝率は、60%です。損益比が1.0なら、ケリーの割合は、20%と出ます。でも、20回の結果から言える本当の勝率は、およそ39%から81%のあいだです(大数の法則の記事の計算機で、出せます)。
| 本当の勝率が… | 正しいケリーの割合 | 20%を賭けつづけると |
|---|---|---|
| 60%だった | 20% | いちばん速くふえる |
| 55%だった | 10% | ケリーの2倍。ふえ方は、ほぼゼロ |
| 50%だった | 0% | へっていく |
| 45%だった | マイナス | 速く、へっていく |
勝率を5ポイント高く見積もっただけで、ケリーの2倍を、賭けていることになります。しかも、人は、自分の勝率を、高めに見積もります。うまくいった時期の数字を、ふつうだと思うからです(平均への回帰の記事)。ケリーの割合を、そのまま使っては、いけない、いちばんの理由は、ここです。
4. 私の例①|上限の、何倍も賭けていた
私が、FXで口座を飛ばした自動売買は、下がるたびに買い増して、もどったところで利益を取る形でした。負ける1回が来ると、口座のすべてを、失います。
ケリーの式に入れると、こうなります。勝率は、とても高い。損益比は、とても低い。勝ちは小さく、負けは、口座ぜんぶだからです。この形の勝負で、式が出してくる割合は、あっても、ほんの数%です。私は、その勝負に、口座の100%を、さらしていました。上限の、何十倍です。
当時の私は、ケリー基準を、知りませんでした。勝率が高いことを、安全だと思っていました。勝率と、賭ける割合は、別の話です。くわしくは、破産確率の記事に書きました。
5. 私の例②|いま持っている2倍も、上限をこえているかもしれない
私は、ナスダック100指数の、2倍で動く投資信託を、持っています。3倍で動くTQQQも、積立で買っています。
1章の計算機の②に、期待リターン12%、金利4%、値動きの大きさ22%を入れると、最適なレバレッジは、1.65倍と出ます。この前提が正しければ、私の2倍は、もう、上限をこえています。3倍は、はっきり、こえています。
3倍が、2倍よりも速くふえるためには、指数の期待リターンが、年に16%をこえている必要があります。過去10年あまりのナスダック100は、それをこえていました。2000年の下落をふくむ、もっと長い期間では、こえていません。どちらの数字を入れるかで、答えが、逆になります。計算のくわしい中身は、auレバナスからTQQQへは上位互換かの記事に書きました。
正直に書くと、私は、「これからの10年も、テックは伸びる」という見立てに、賭けています。ケリーの式は、その見立てが正しいかどうかを、教えてくれません。教えてくれるのは、「その見立てが、少しでもはずれていたら、自分は、賭けすぎの側にいる」ということです。それを分かったうえで、持っています。持っていられるのは、借りたお金でも、生活費でもないからです。経緯は、TQQQはやめとけ、は本当かの記事に書きました。
6. 私の例③|仕入れでも、同じ形が出てくる
ケリー基準は、相場だけの話では、ありません。仕入れの資金を、どう配るかも、同じ形です。
「これは、ぜったいに売れる」と思った1つの商品に、仕入れの資金の大半を、入れてしまう。読みが当たれば、大きくもうかります。はずれたら、次の仕入れが、できません。どれだけ自信があっても、1つの商品、1つの仕入れ先、1つの販売サイトに、資金と売上を、集めすぎない。これは、ケリーの式が言っていることと、同じです。自信が、はずれている場合にそなえて、割合を、下げておきます。商品の分け方は、横積みと縦積みの記事に書きました。
7. 使い方
- 先に、期待値を確かめる。ゼロ以下なら、賭ける割合は、ゼロです
- ケリーの割合を、「目標」ではなく、「これ以上は、だめな線」として使う。
- 実際に使うのは、その半分以下。勝率は、高めに見積もられているものだ、と考えて、割り引きます
- 勝率の高い手法ほど、損益比を見る。勝率が高くて、損益比が低い手法は、式に入れると、賭けてよい割合が、とても小さく出ます
- レバレッジ型の商品は、持つ割合で、全体の倍率を、調整する。全体の資金のうち、3倍型を2割、残りを1倍で持てば、全体では、1.4倍です
- 賭ける割合を決めるお金に、借りたお金と、生活費を、入れない。
まとめ
- ケリー基準は、長い目で資金をいちばん速くふやす、賭ける割合を出す式。(勝率 × 損益比 − 負ける確率)÷ 損益比
- 大事なのは、「上限」だということ。ケリーの割合の約2倍を賭けると、勝てる勝負でも、資金は、ふえなくなる
- ケリーの割合でも、途中で資金が半分になる確率が、50%ある。半分にすると、ふえ方は4分の3、半分になる確率は約13%
- 本当の勝率は、分からない。5ポイント高く見積もっただけで、賭けすぎになる。だから、半分以下で使う
- 私は、FXで、上限の何十倍も賭けていた。いま持っている2倍の投資信託も、穏当な前提では、上限をこえている
- 仕入れでも、同じ。どれだけ自信があっても、1つに、集めすぎない
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【免責と、利益相反の開示】この記事は、確率の計算と、筆者自身の取引の記録にもとづく、情報の整理です。特定の金融商品や、賭け方、配分を、すすめるものでは、ありません。筆者は、金融商品取引業者ではなく、投資助言・代理業の登録も、受けていません。筆者は、この記事でふれたレバレッジ型の商品を、自分の口座で保有しています。計算機の数字は、前提を置いた理論上の計算で、実際の結果を、保証するものでは、ありません。投資の判断は、ご自身の責任で行ってください。

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