返報性の原理は、人から何かをしてもらうと、お返しをしないと落ち着かなくなる、という心の働きです。「返報性の法則」「返報性のルール」とも呼ばれます。ロバート・チャルディーニの『影響力の武器』で、7つの原理の最初に出てきます。
この記事では、原理の中身と、よく使われる2つの形を説明します。そのあとで、私が無料のメール講座でこの原理をどう使っているか、そして無料で渡してもお返しが起きなかった経験を書きます。先に結論を言うと、返報性は「先に渡せば、買ってもらえる」という便利な道具ではありません。渡すものが本物で、しかも、お返しを求めないときに、いちばんよく働きます。
1. 返報性の原理とは
『影響力の武器』に出てくる代表的な実験があります。実験の協力者が、休憩中に、頼まれてもいないコーラを1本、相手に買ってきます。そのあとで、くじを買ってくれないかと頼みます。コーラをもらった人は、もらっていない人より、多くのくじを買いました。しかも、相手を好きかどうかは、ほとんど関係がありませんでした。好きでない相手からでも、もらったら返す。それくらい強い働きです。
この原理が強いのは、人間の社会がこれで回ってきたからです。先に渡した人が損をしない、と分かっているから、人は安心して分け合えます。お返しをしない人は、「もらいっぱなしの人」として嫌われます。私たちは、そう呼ばれたくないのです。
2. よく使われる2つの形
| 形 | やり方 | 身近な例 |
|---|---|---|
| 先に渡す | 頼みごとの前に、小さなものを渡す | 試食、無料の見本、無料の相談、無料のメール講座 |
| 先にゆずる(ドア・イン・ザ・フェイス) | 大きな頼みを先に出して断らせ、そのあとで小さな頼みに下げる。相手は「ゆずってもらった」と感じ、自分もゆずる | 高い見積もりのあとの「では、こちらのプランなら」 |
2つ目は、返報性の中でも気づきにくい形です。最初の大きな頼みは、断らせるために出されていることがあります。
3. 私は、どこで使っているか
私が動かしているのは、無料のメール講座(14通)と、そのあとに案内する29,800円の講座です。全体はステップメールの作り方に書いてあります。
| 渡しているもの | 中身 |
|---|---|
| 無料の14通 | 案内の前の10通は、それだけで持ち帰れる内容にしている。買ってはいけない商品の条件、利益の計算のしかた、やめどきの基準 |
| 買わなかった人への、その後のメール | 有料の講座の中身を、抜粋ではなく全文で、週に1通送っている |
| このサイトの計算機と記録シート | 登録なしで使える。メールアドレスと引きかえにしていない |
2つ目の形(先にゆずる)は、使っていません。私の販売ページは、値段をいちばん上に書いています。高い値段を先に見せてから下げる、ということをしていません。
お返しは要りません、と先に書く
登録ページのよくある質問には、こう書いてあります。
無料部分だけを受け取って配信解除していただいても、まったく構いません。
返報性を売るために使うなら、これは損な一文に見えます。お返しの気持ちを、自分で消しているからです。それでも書いているのは、返報性が取り立ての道具になった瞬間に、相手はそれに気づくからです。「無料でここまでしたのだから」という空気は、文章のはしばしに出ます。それを感じたとき、人は、お返しをするのではなく、離れます。
お返しを求めないで渡したものは、別の形で働きます。「この人は、出し惜しみをしない」という判断の材料になります。買うかどうかを決めるときに効くのは、恩義よりも、こちらのほうです。
渡すものは、本物でなければ意味がない
無料の部分を薄くして、肝心なことは有料で、という作りがあります。これは、返報性を使っているようで、使えていません。中身のないものをもらっても、人は恩を感じないからです。
私の29,800円の講座の販売ページには、こう書いてあります。
ここで利益を出すつもりがないからです。(中略)だから、ここでは出し惜しみをしません。
入口の講座の売上は、広告費でほぼ消えます。事業が成り立つのは、その先です。だから、入口では、実際に動かしているサイトの設定まで、そのまま渡しています。中途半端に渡して、だれも先へ進まないほうが、私にとって損だからです。先に渡すことが、善意ではなく、計算として合っている。返報性を長く使えるのは、この形のときだけだと考えています。
4. 無料で渡しても、お返しが起きないとき
ここからは、この原理の限界です。
無料で教えると、相手が本気になりません。私は、人に教えるときは、少ない金額でもお金をもらうようにしています。極端に言えば、500円でもかまいません。無料で教えた相手は、やりません。やらないので、結果も出ません。返報性は、渡したものを相手が使ったときに、はじめて働きます。受け取っただけで棚に置かれたものには、働きません。
もらうことだけを目的にしている人には、働きません。中身を見てから返金を求める人が、この業界には一定の割合でいます。食事をしてから「思っていた味と違うので、お金を返してほしい」と言うのと同じです。私は、返金の保証をつけていません。理由は商品の作り方に書きました。返報性は、相手がふつうの人であることを前提にした原理です。前提の外にいる人には、しくみで備えるしかありません。
お返しは、売上の形で来るとは限りません。以前のメールマガジンで「どこで私を知りましたか」と聞いていたとき、「友人が登録していた」「同僚が学んでいる」という答えが、何度も返ってきました。私の知らないところで、紹介が起きていました。買ってはいないけれど、人に話してくれる。これも、お返しの1つの形だと思っています。数えていないので、どのくらいの割合かは分かりません。
5. 受け取る側のときに、気をつけること
私のところには、投資や、ネットワークビジネスで失敗してから来る人が少なくありません。返報性は、そういう場面で、いちばん最初に押される原理です。無料の説明会、無料の個別相談、無料のプレゼント。
- もらったものと、頼まれていることの大きさを比べる。コーラ1本と、数十万円の契約は、つり合いません。つり合わないお返しをしようとしているときは、原理に押されています
- 「ゆずってもらった」と感じたら、最初の頼みを思い出す。最初の高い提案は、断らせるために出されたものかもしれません
- 策略として渡されたものに、恩義を感じる必要はありません。『影響力の武器』が勧めている守り方です。好意として渡されたものは受け取り、売るための仕掛けだと分かった時点で、それは贈り物ではなく、販売の道具だったと考え直します
私のメール講座も、この原理を使っています。だから、同じ目で見てください。無料の部分だけで使えるか。解除はすぐにできるか。お返しを求める空気があるか。
6. まとめ
- 返報性の原理(返報性の法則)は、もらったら返したくなる働き。相手を好きかどうかに関係なく働く
- 形は2つ。先に渡す。先にゆずる(大きな頼みを断らせてから、小さな頼みに下げる)
- 私は、無料の14通と、買わなかった人への全文のメールで使っている。「解除していただいても構いません」と、お返しを求めないことを先に書いている
- 渡すものが本物でないと、働かない。入口で利益を出さない設計だから、出し惜しみをしないで済む
- 無料で教えた相手は、やらない。使われなかったものに、返報性は働かない
- 受け取る側のときは、もらったものと、頼まれていることの大きさを比べる
7つの原理の全体と、私が使っている原理・あえて使っていない原理は、『影響力の武器』要約に書きました。

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