大学院の学費はいくら?修士・博士の総額、奨学金の返済と免除、博士課程の給料(学振・SPRING)と院卒の生涯賃金(計算機つき)

大学院の学費はいくら?国立の修士2年135.4万円、学振DC月22.7万円・SPRING・BOOST、奨学金の返還免除と院卒の生涯賃金 生き方・キャリア

「大学院 学費」「大学院 奨学金」「博士課程 給料」「学振 手取り」「大学院 お金」で調べて来られた方に、先に結論を書きます。

国立大学の大学院は、入学料282,000円・授業料 年535,800円が国の標準額で、修士2年なら1,353,600円(約135.4万円)、博士後期3年なら入学料をもう一度払って1,889,400円です(計算)。ただし大学によって違い、東京科学大学(理工学系)の授業料は年635,400円、東京大学の博士課程は年520,800円です。私立は、文部科学省の調査で令和7年度入学者の初年度の平均が修士1,090,714円(理・工・農学は1,152,740円)、博士後期854,978円で、大学の実例では修士2年で明治大学 経営学研究科の1,446,000円から慶應義塾大学 理工学研究科の2,465,100円まで開きがあります。JASSO(日本学生支援機構)の奨学金は、第一種(無利子)の修士が月50,000円か88,000円で、88,000円を24か月借りると、毎月約12,571円(端数調整あり)を168回(14年)、総額2,112,000円を返します(JASSOの返還例)。第二種(有利子)は、令和8年9月に貸与が終わった人の利率が固定方式で年3.000%(上限)です。第一種には「特に優れた業績による返還免除」があり、2025年度に修士課程で貸与が終わった21,381人のうち7,039人(32.9%、計算。過去の実績で、個人の免除確率ではありません)が全額か半額を免除されました。博士課程の学生は、大学院に在籍するだけでは給与は出ません(TA・RAや大学独自の雇用制度で給与を受け取る博士学生もいます)。生活費に当たるお金は、学振(日本学術振興会 特別研究員)DCに採用されると令和9年度採用から月227,000円(約22.7万円。税法上は給与所得)、SPRINGは大学が年180万〜240万円で決める研究奨励費(雑所得)です。DCの採用率は令和8年度でDC1 11.2%・DC2 11.9%でした(計算)。院卒と学部卒は、学歴別・年齢別の所定内給与(令和7年)で仮想の累積額を比べると、修士24〜64歳が学部卒22〜64歳より約5,089万円多い計算ですが、これは賞与・在学中の生活費・税を含まない、2025年に働く人の平均を並べた数字で、院に行けば給料がこれだけ上がるという意味でも、進学の純利益でもありません。学費の総額・奨学金の返済と免除・院卒と学部卒の仮想の累積額・博士の1年の収支を出す計算機を6章に置きました。

知りたいこと 答え 章
国立の修士2年でいくらか 1,353,600円(入学料282,000円+授業料535,800円×2。標準額で計算)。東京科学大学(理工学系)は1,552,800円(計算) 2章
博士後期3年でいくらか 国立の標準額で1,889,400円(入学料をもう一度払う場合、計算)。東京大学の博士は授業料 年520,800円で1,844,400円(計算) 2章
私立はいくらか 文部科学省の平均(令和7年度入学者の初年度):修士1,090,714円、理・工・農学1,152,740円、博士後期854,978円。修士2年の実例は1,446,000円〜2,465,100円 2章
奨学金はいくら返すか 第一種 修士88,000円×24か月=2,112,000円を、毎月約12,571円(端数調整あり)・168回(14年)で返す(利息なし)。第二種は令和8年9月に貸与が終わった人で利率 年3.000%(固定方式、上限) 3章
返さなくてよくなるか 第一種と授業料後払い制度に業績による返還免除。2025年度は修士の貸与終了者の32.9%、博士の38.4%が全額か半額(計算。過去の実績で、個人の免除確率ではない)。第二種は対象外 3章
博士課程の学生は給料をもらえるか 在籍するだけでは給与は出ない(TA・RAや大学の雇用制度で給与を受け取る学生もいる)。学振DCは令和9年度採用で月227,000円(税法上は給与所得、雇用契約による給与とは別)、SPRINGは年180万〜240万円(雑所得)。DCとSPRING・BOOSTは重ねて受けられない 4章
院卒と学部卒の差 学歴別・年齢別の所定内給与(令和7年)による仮想の累積額で、修士24〜64歳と学部卒22〜64歳の差は約5,089万円(計算)。賞与・生活費・税を含まず、同じ人の生涯ではなく、進学の純利益でもない 5章
自分の場合 学費の総額、奨学金の返済と免除、院卒と学部卒の仮想の累積額、博士の1年の収支を計算機で 6章

1. 先に、この記事の数字と、書いている人について

私は大学院に行っていません。この記事は、公式の資料にある数字を並べて計算する記事で、私の経験や考えは入れていません。

学費は、国立大学等の授業料その他の費用に関する省令(e-Gov法令検索、2026年10月24日時点の現行版)、文部科学省「私立大学等の令和7年度入学者に係る学生納付金等調査結果」、各大学の学費のページ(東京大学・東京科学大学・早稲田大学・慶應義塾大学・明治大学)から取りました。授業料の免除は東京大学・京都大学・九州大学・東北大学の案内です。奨学金は日本学生支援機構(以下 JASSO)の案内、博士課程の支援は日本学術振興会(以下 学振)の特別研究員の募集要項とよくある質問、科学技術振興機構(以下 JST)のSPRING・BOOSTの公募要領と資料です。賃金は厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」、院生の収支はJASSO「令和6年度学生生活調査(大学院各課程(試行))」です。賃金構造基本統計調査の表、学振の募集要項、学生生活調査の表、JASSOの免除の結果と利率、東京科学大学の授業料は、PDFやページを見て確かめました。

数字の書き方:原文にある数字はそのまま、出典の数字を足したり割ったりしただけの値は「計算」、決まりや資料を組み合わせた読み取りは「当てはめ」と書きます。確かめられなかったものは「確かめていない」「見つからなかった」と書きました。

2. 修士・博士の学費:国立・私立の総額

2-1. 国立大学:入学料282,000円・授業料535,800円が標準額

国立大学の大学院の授業料・入学料・検定料は、国立大学等の授業料その他の費用に関する省令2条が標準額を決めていて、大学院の研究科は授業料 年535,800円、入学料282,000円、検定料30,000円です(法科大学院の授業料は804,000円)。国立大学は「特別の事情があるとき」、この標準額の「百分の百二十を乗じて得た額を超えない範囲内」で額を決められます(省令10条)。上限は535,800円×1.2=642,960円です(計算)。

国立の例 修士(博士前期)2年 博士後期3年 根拠
標準額(授業料535,800円) 1,353,600円 1,889,400円 省令2条(計算)
東京科学大学 理工学系(635,400円) 1,552,800円 2,188,200円 2019年9月以降の入学者の額(計算)
東京大学(修士535,800円・博士520,800円) 1,353,600円 1,844,400円 東京大学「入学料・授業料」(計算)
上限(642,960円) 1,567,920円 2,210,880円 省令10条(計算)

※ どれも入学料を全額払い、授業料の免除がない場合です。博士後期の欄は入学料282,000円をもう一度払う計算です。

東京大学は2024年9月24日に、修士・専門職学位課程(法科大学院を除く)の授業料を2029年4月入学者から年642,960円に改定すると公表しました(現行535,800円。「※博士課程は現行どおり」)。同じ資料で、学生支援として、2029年4月入学者から「世帯収入 600 万円以下の日本人学生は全額授業料免除」とするとしています。

在学中に授業料が変わったときの扱いは大学ごとです。大阪大学は「在学中に授業料が改定された場合は、改定時から新授業料が適用されます」と書いています。東京科学大学のように、入学した時期で額が分かれる書き方の大学もあります。

2-2. 私立大学:平均と実例

文部科学省の調査では、令和7年度入学者の初年度(授業料・入学料・施設設備費。入学定員で加重平均)の平均は次のとおりです。

私立(令和7年度入学者、初年度) 授業料 入学料 施設設備費 合計
博士前期課程(修士課程を含む) 811,006円 208,987円 70,721円 1,090,714円
うち理・工・農学 884,047円 209,095円 59,598円 1,152,740円
博士後期課程 610,798円 191,055円 53,125円 854,978円

この調査は初年度だけで、2年目以降の平均は出ていません。2年目以降も授業料と施設設備費が初年度と同じだと仮定すると、修士2年は1,972,441円、理・工・農学は2,096,385円、博士後期3年は2,182,824円です(計算)。これは初年度の平均から作った仮想の総額で、2年・3年の実際の平均ではありません。

大学の実例(学費のページ・PDFの額)は次のとおりです。

私立の例 修士2年 博士後期3年 メモ
早稲田大学 文学研究科(2025年度の額) 1,890,000円(早稲田大学の出身者は1,550,000円) 1,953,000円(同 1,753,000円) 入学金300,000円(博士は200,000円)。修士は1年目より2年目の授業料が高い(622,000円→922,000円)。他大学出身者は2年次の秋に校友会費40,000円
慶應義塾大学 経済学研究科(2026年度) 2,298,300円 2,457,400円 入学金の欄はなく、在籍基本料70,000円を毎年。スライド制で毎年の額が変わることがある
慶應義塾大学 理工学研究科(2026年度) 2,465,100円 2,437,600円 同上
明治大学 経営学研究科(2026年度入学者) 1,446,000円 1,769,000円 入学金200,000円。明治大学の学部卒業生は博士前期の入学金が2分の1
明治大学 理工学研究科(2026年度入学者) 2,046,000円 2,759,000円 教育充実料・実験実習料を含む

※ 慶應義塾大学の2年目以降は、2026年度の在学生の額で計算しました。明治大学は他大学出身・入学金全額の場合です。早稲田大学の演習料は含みません。2年・3年の合計はどれも計算です。

公立大学は、文部科学省の資料に学部の平均(令和7年度 授業料536,520円、入学料は地域外382,806円・地域内224,369円)がありますが、大学院の平均の公表は見つかりませんでした。志望先の大学のページで確かめてください。

2-3. 内部進学の入学金と、博士後期の入学料

この記事の計算は、修士から博士後期に進むときに入学料をもう一度納める場合です。内部進学者の入学料の免除・半額の条件は大学・研究科で違い、たとえば明治大学は自校の博士前期の修了者の博士後期の入学金を免除、自校の学部の卒業生の博士前期の入学金を2分の1にしています。早稲田大学は「正規の課程で本大学学部および大学院に入学金を納め在籍した者が入学する場合は、入学金が免除となります」と書いています。東北大学は、2026年度から、日本人の博士課程の学生で学振の特別研究員などの対象プログラムに採用された人の入学料を全額免除にすると案内しています。

2-4. 授業料の免除

国立大学の授業料の免除は、家計と成績をもとに、予算の範囲内で全額か半額が決まります。東京大学は「予算の範囲内で半額又は全額免除が許可されます」、京都大学は「家庭の経済状況等により困窮度の高い人から、全額免除、半額免除、不許可の順に行います」と書いています。基準の中に入っても、半額や不許可になることがあります。

京都大学の「出願のしおり」には、給与収入の限度額の目安(給与所得控除前、単位:万円)が載っています。

世帯人数 修士・専門職 自宅 修士・専門職 自宅外 博士 自宅 博士 自宅外
3人 494 557 637 686
4人 565 628 701 745

東京大学は、標準修業年限を超えて在学する人を原則として免除の対象にしていません。留年・休学で在学が延びるときの授業料の扱いは研究室に行きたくない・つらいに書きました(東京大学・京都大学・大阪大学は休学中の授業料を免除する決まりですが、大阪大学は、前期は4月末、後期は10月末までに休学の許可がないと、その期の授業料がかかります)。

博士後期への進学を後押しする免除もあります。九州大学 大学院人間環境学府は、博士後期への進学を強く希望し研究力を認められた修士1年生などに、令和8年度後期の授業料を全額免除する(全学で100名以内、1期分)と案内しています。博士後期の学生全員の授業料を取らない国立大学の例は、今回見た公式資料では見つかりませんでした。

院試に落ちて1年遅らせるときの学費(研究生・卒業延期・留年)は院試に落ちたら人生終わり?に、入った後に途中で辞める場合の学費(学期の途中で退学したときに払う授業料)は大学院を辞めたい・中退したら就職は?に分けて書きました。

3. 奨学金:借りたら返す総額と、返さなくてよくなる場合

3-1. 第一種・第二種の月額

JASSOの大学院の貸与奨学金は、利息のない第一種と、利息のある第二種があります。

種類 修士課程相当 博士課程相当
第一種(無利子) 月50,000円・88,000円から選ぶ 月80,000円・122,000円から選ぶ
第二種(有利子) 月50,000円・80,000円・100,000円・130,000円・150,000円から選ぶ(法科大学院は150,000円に40,000円か70,000円を足せる)

学部生向けの給付型奨学金や、親の資産と所得による基準の話は給付型奨学金は親のNISAで外れる?に書きました。

3-2. 第二種の利率は、貸与が終わった月で決まる

第二種の利率は、借り始めた時ではなく、貸与が終わった月の利率が適用されます。在学中は「利子はかかりません(無利子)」。利率の決め方は、返し終わるまで同じ利率の「利率固定方式」と、「おおむね5年ごとに見直します」という「利率見直し方式」から選びます。上限はどちらも年3.0%です。

令和8年度の利率(基本月額、年利%)は、JASSOの「貸与利率の推移」で次のとおりです。

貸与が終わった月 4月 5月 6月 7月 8月 9月
利率固定方式 2.722 2.922 2.922 3.000 3.000 3.000
利率見直し方式 1.874 2.000 1.900 2.000 2.200 2.400

令和8年7月から9月に貸与が終わった人の利率固定方式は、上限の3.000%でした。修士を修了する3月の利率は、その月にならないと分かりません。

3-3. 返す年数と毎月の額

定額で返す場合、返す年数は、借りた総額をJASSOの「奨学金返還年数算出表」の額で割った年数(小数点以下切り捨て)です。たとえば借りた総額が2,100,001〜2,300,000円なら150,000円で割り、3,400,001円以上は20年です。JASSOの大学院の返還例は次のとおりです。

第一種の例 借りた総額 毎月の返還額 回数(年数)
修士 月50,000円×24か月 1,200,000円 8,333円 144回(12年)
修士 月88,000円×24か月 2,112,000円 12,571円 168回(14年)
博士 月80,000円×36か月 2,880,000円 15,000円 192回(16年)
博士 月122,000円×36か月 4,392,000円 18,300円 240回(20年)
第二種の例(年利3%の欄) 借りた総額 毎月の返還額 返す総額 回数(年数)
月50,000円×24か月 1,200,000円 10,055円 1,448,002円 144回(12年)
月100,000円×24か月 2,400,000円 16,769円 3,018,568円 180回(15年)
月150,000円×24か月 3,600,000円 20,185円 4,844,592円 240回(20年)
月80,000円×36か月 2,880,000円 19,125円 3,672,102円 192回(16年)

第一種の毎月の額は、2,112,000円÷168回=12,571.4円のように割り切れないので、端数はどこかの回で調整されます(当てはめ)。第二種を月100,000円で2年借りると、JASSOの返還例の年利3%の欄では利息だけで618,568円です(計算)。第一種と第二種を両方借りた場合は、2つを並行して返します。修士と博士で別々に借りた場合も、それぞれの年数で返します。

第一種は、定額のほかに「所得連動返還方式」を選べます。前年の課税総所得金額から子ども1人につき33万円を引いた額の9%を12で割った額が毎月の返還額で、2,000円未満なら2,000円です。JASSOは「年収が300万円で、子どもがいない場合、月額は約8,600円」と例を出しています。返還を始めた年度は定額返還方式の半分です。

3-4. 返さなくてよくなる「特に優れた業績による返還免除」

大学院で第一種(と授業料後払い制度)を借りた人は、在学中の業績で、貸与が終わるときに全額か半額の返還が免除されることがあります。第二種は対象外です。評価する業績の例は「学問分野での顕著な成果や発明・発見」などで、「各大学が具体的な評価項目を設定し、総合的な評価を行います」。2025年度の結果は次のとおりです。

2025年度 貸与終了者 推薦者 免除者 うち全額 うち半額 免除者÷貸与終了者(計算、過去の実績)
修士課程 21,381人 7,043人 7,039人 1,684人 5,355人 32.9%(全額7.9%・半額25.0%)
博士課程 1,303人 504人 500人 213人 287人 38.4%(全額16.3%・半額22.0%)
計(専門職学位課程を含む) 24,354人 8,441人 8,383人 2,576人 5,807人 34.4%

2025年度は、大学の推薦後の認定率が非常に高く、修士は推薦7,043人中7,039人、博士は504人中500人が認定されました。ただし、大学の推薦と、JASSOの業績優秀者奨学金返還免除認定委員会の認定は別の手続きです。32.9%・38.4%は貸与終了者を分母にした過去の実績で、個人の免除確率ではありません。大学ごとに推薦できる割合が決まっているかは、JASSOの案内では確かめられませんでした。

注意が一つあります。令和5年度以降に博士課程で第一種に採用された人が、SPRING・大学フェローシップ・BOOSTの支援を受けると、この免除の対象から外れます。支援の期間と貸与の期間が重ならなくても対象外です。

3-5. 修士だけの「授業料後払い制度」

授業料後払い制度は、修士課程(博士前期を含む)と専門職学位課程の在学者が、在学中は授業料を払わず、修了後に所得に応じてJASSOに返す制度です。博士課程では使えません。申込資格・学力基準・家計基準は第一種と同じで、文部科学省のQ&Aでは、令和6年(2024年)秋以降に修士課程などに入学し、本人の年収が300万円程度以下など第一種と同じ基準を満たす人が対象です。授業料支援金は1年間で国公立「最大535,800円」、私立「最大776,000円」、生活費奨学金は月0円・2万円・4万円から選べます。

返し方は所得連動返還方式だけで、「年収が300万円程度になるまで最低返還月額(2,000円)での返還となります」。返還を始めた年度(最初の9月まで)は一律2,000円で、扶養されている人でも扶養者の所得は足されません。授業料後払い制度も業績による返還免除の対象です。

3-6. 途中で辞めたとき

JASSOの案内では、退学すると奨学生の資格がなくなり、返還は貸与が終わった翌月から数えて7か月目に始まります。退学と奨学金・学振の扱いは大学院を辞めたい・中退したら就職は?にまとめました。

4. 博士課程の「給料」:学振DC・SPRING・BOOST

4-1. 博士課程の学生は給料をもらえるか

博士課程の学生は、大学院に在籍するだけでは給与は出ません。ただし、TA・RAや大学独自の雇用制度で給与を受け取る博士学生もいます。学振DCの研究奨励金は税法上給与所得とみなされますが、雇用契約による給与とは別のものです。生活費に当たるお金を得る方法は、学振の特別研究員(DC)、JSTのSPRING・BOOST、TA・RAの報酬、アルバイト、奨学金です。学振DCの研究奨励金は、令和9年度新規採用者の支給予定額が月227,000円(募集要項)で、それより前に採用された人の令和9年度以降の額は確かめていません。

4-2. 学振DC:令和9年度採用から月227,000円

学振の「令和9(2027)年度 特別研究員-DC 募集要項」では、令和9年度新規採用者の研究奨励金の支給予定額は、DC1・DC2とも「月額227,000円」です(年2,724,000円、計算)。令和8年度採用分の募集要項では月額200,000円でした。令和8年度以前に採用された人の令和9年度以降の月額は確かめていません。採用期間はDC1が3年、DC2が2年です。採用期間の最終年次に優れた研究成績を上げた人には、月額30,000円(上限12か月)の特別手当を付けることがあります。博士の学位を取ってPDに資格を変えると、令和9年度の支給予定額は月額362,000円です。

税と保険の扱いは次のとおりです。研究奨励金は「税法上給与所得とみなされ課税の対象とされています」。学振が源泉徴収します。学振は特別研究員を社会保険に入れられないので、国民健康保険・国民年金には自分で入ります。研究費として別に特別研究員奨励費(科研費)があり、研究期間3年で240万円以下などの区分で申請します。学振のよくある質問では、特別研究員奨励費は所得税のかからない非課税所得です。

採用の状況は、令和8年度の新規採用でDC1が5,637人中634人(11.2%)、DC2が8,609人中1,026人(11.9%)、PDが1,544人中354人(22.9%)でした(割合は計算)。

4-3. SPRING:年180万〜240万円を大学が決める

JSTの「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」は、大学が選んだ博士後期の学生に、生活費相当額(研究奨励費)と研究費を出す事業です。令和9年度の公募要領では、研究奨励費は「180 万円~240 万円/年・枠で設定」し、研究奨励費と研究費の合算は区分1で220万円/年以上です。支援期間は最大3年(4年制は4年)です。

令和9年度以降に支援を始める学生は3つの区分に分かれ、在留資格「留学」の学生(区分2)と、年240万円以上の安定した収入がある学生(区分3)は、研究奨励費(生活費)の対象外です。区分2・3の学生も、生活費相当の研究奨励費の対象外というだけで、研究費など区分に応じた支援は受けられます。公募要領は大学が出す事業計画の条件で、個人が選ばれるか、いくら支給されるかは大学の選抜と運用によります。JSTのQ&A(令和7年度公募)では、研究奨励費は「雑所得として扱われるので、所得税、住民税の課税の対象となります」とされ、確定申告が要ります。社会保険・年金も本人の手続きです。

4-4. BOOST:AI分野で年390万円

JSTの「次世代AI人材育成プログラム(博士後期課程学生支援)」(BOOST)は、AI分野と、AI分野の新興・融合領域の博士後期の学生が対象で、学生一人あたり年390万円、うち生活費相当額は180万円以上です。生活費相当額は雑所得として扱われます。令和7年度以降の対象の条件(在留資格など)は確かめていません。

4-5. 重ねられない組み合わせ

  • 学振DCとSPRING・BOOSTは、重ねて受けられません(JSTの案内、BOOSTのFAQ)。
  • 学振DCとJASSOの貸与奨学金も、重ねて受けられません(JSTの案内)。
  • SPRING・BOOSTとJASSOの奨学金は、貸与型・給付型とも「併給は基本的に可能」です(JSTのQ&A。給付型はJASSO側で併給を認めていない可能性があるので、JASSOにも確かめるよう書かれています)。ただし、令和5年度以降に博士課程で第一種に採用された人がSPRING・BOOSTを受けると、業績による返還免除の対象から外れます(3-4)。
  • SPRINGの公募要領は、国費による同じ趣旨の支援(特別研究員など)を受ける学生を支援の対象外にしています。

4-6. 院生の実際の収入と支出

JASSOの令和6年度学生生活調査(大学院各課程(試行))では、一般の学生(社会人学生以外)の1年の平均は次のとおりです。試行の調査で、回収率は修士22.4%・博士23.5%と2割台です。

一般の学生(年) 修士 博士
授業料 572,700円 321,900円
学費の計(授業料・納付金・通学費・勉学研究費) 760,100円 542,100円
生活費の計 977,300円 1,535,800円
支出の合計 1,737,400円 2,077,900円
収入:親・親戚からの支援 851,600円(45.0%) 313,600円(11.8%)
収入:アルバイト・パートタイム 418,300円(22.1%) 366,000円(13.7%)
収入:JASSOの貸与奨学金 383,000円(20.2%) 228,300円(8.6%)
収入:JASSO以外の経済的支援 79,700円(4.2%) 1,382,100円(51.9%)
収入:TA・RAの報酬 114,400円(6.0%) 268,800円(10.1%)
収入の合計 1,893,200円 2,665,100円

修士は親からの支援が収入の45.0%で、アルバイトをしている一般の学生は75.9%です。博士は「JASSO以外の経済的支援」(学振・SPRINGなどを含む平均と読める。当てはめ)が51.9%で、アルバイトをしている一般の学生は47.6%です。博士の授業料の平均321,900円が標準額535,800円より低いのは、免除を受けた人を含む平均だからと読めます(当てはめ)。どの数字も平均どうしで、同じ人の収支ではありません。

5. 院卒と学部卒:学歴別・年齢別の所定内給与を使った仮想の累積額の比較

5-1. 年齢ごとの月給(令和7年)

厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査の概況(第3表)では、一般労働者の所定内給与(6月分の平均、男女計)は次のとおりです(単位:千円)。

年齢 大学 大学院
年齢計 396.3 517.4
20〜24歳 263.9 298.8
25〜29歳 296.4 335.0
30〜34歳 340.3 406.1
35〜39歳 382.2 466.6
40〜44歳 425.3 553.7
45〜49歳 458.4 617.8
50〜54歳 494.9 648.3
55〜59歳 529.1 676.2
60〜64歳 420.2 589.8
65〜69歳 367.5 571.3

「大学院」は修士と博士を分けていません。所定内給与は時間外手当や賞与を含みません。

5-2. 仮想の累積額を比べる

この月給を、その年齢階級の5年に当てはめて12倍し、働く年数分足すと次のようになります(すべて計算)。2025年の横断面の平均を当てはめた試算です。

進み方(64歳まで働く) 所定内給与の仮想の累積額 学部卒との差 学費のみを差し引いた仮想の差額 学費を差し引いた累積の差がゼロになる年齢(試算)
学部卒(22歳から) 約21,031万円 — — —
修士(24歳から) 約26,120万円 約5,089万円 約4,953万円(学費1,353,600円) 35歳
修士+博士(27歳から) 約24,957万円 約3,926万円 約3,602万円(学費3,243,000円) 45歳

修士の2年間に学部卒が得る所定内給与は約633万円、修士+博士の5年間なら約1,661万円で、差にはこの「院にいて働かなかった分」がすでに入っています。「ゼロになる年齢」は、学費(国立の標準額)を差し引いたうえで、院卒と学部卒の所定内給与の累積の差がゼロになる年齢です。2025年の横断面の平均を当てはめた試算で、実際に学費を回収できる年齢ではありません。博士の行は「大学院」(修士と博士の合計)の平均を当てているので、博士に進むかどうかの採算を判断する根拠にはなりません。

5-3. この差の読み方

  • 2025年6月に働いている人の、年齢ごとの平均を並べたものです。同じ人が年をとるときの給料の推移ではありません。
  • 賞与・時間外手当を含みません。退職金も入っていません。
  • 在学中の生活費とその調達費用(奨学金の利息など)、税・社会保険料、卒業後に働いていない期間(求職中・離職など)を入れていません。差し引いているのは学費だけです。進学の純利益ではありません。
  • 大学院に行く人と行かない人は、分野・職種・大学・会社の規模が違います。この差は「院に行けば給料がこれだけ上がる」という意味ではありません。
  • 博士の道に「大学院」の平均(修士と博士を合わせた値)を当てているので、博士だけの差ではなく、博士進学の採算の根拠になりません。

研究職の年収の平均や、会社の規模による違い、大学院に行くと年収で得かという話は研究職の年収はなぜ低い?に書きました。

院卒の就職先は分野で大きく違います(令和7年3月の修士修了者の就職率は、工学87.8%、人文科学56.3%)。修士1年からの就活の日程と、研究との時間の配分は、大学院生の就活の記事に書きました。

6. 計算機:学費の総額・奨学金の返済と免除・院卒と学部卒の仮想の累積額・博士の1年の収支

4つは別々に使えます。

  • 1. 修士・博士の学費の総額:課程、大学院(国立の標準額・東京科学大学・東京大学・国立の上限・私立の平均・早稲田大学・慶應義塾大学・明治大学・自分の額)、在学年数、入学料(全額・半額・免除)、授業料の免除を選ぶと、年ごとの額と合計、国立の標準額との差を出します
  • 2. 奨学金の返済総額と免除:第一種・第二種の月額、授業料後払い制度、借りる月数、利率、返し方を選ぶと、借りる総額、返す年数、毎月の額、返す総額と利息、業績による返還免除の2025年度の割合と、全額・半額免除のときの額を出します
  • 3. 院卒と学部卒の仮想の累積額の比較:進む課程、働く最後の年齢、学費、返さなくてよいお金を入れると、5章の学歴別・年齢別の所定内給与で、仮想の累積額と差、学費のみを差し引いた仮想の差額、累積の差がゼロになる年齢(試算)を出します
  • 4. 博士の1年の収支:学振DC・SPRING・BOOST・なしを選び、授業料・生活費・税と保険料を入れると、1年の残りを出します。重ねて受けられない組み合わせは注意を出して数えません

大学院の学費の総額・奨学金の返済と免除・院卒と学部卒の仮想の累積額・博士の1年の収支

入れた数字は、このページの中で使うだけで、どこにも送られません。初めから入っている値は入力の例です。4つは別々に使えます。

1. 修士・博士の学費の総額

2. JASSO奨学金の返済総額と免除

3. 院卒と学部卒の仮想の累積額の比較(学歴別・年齢別の所定内給与)

4. 博士の生活費支援を入れた1年の収支

初めから入っている例では、1は国立の標準額で修士2年1,353,600円、2は第一種 修士88,000円×24か月で毎月約12,571円(端数調整あり)・168回、3は修士で仮想の累積額の差が約5,089万円・学費を差し引いた累積の差がゼロになる年齢が35歳(試算)、4は学振DC(令和9年度採用)で、国立の授業料と学生生活調査の博士の平均の生活費を引いた「税・社会保険料を引く前の残り」が1年652,400円です。手取りや実際に残る額ではなく、税と保険料を入れると差し引きます。

7. よくある質問

大学院に2年間通うと学費はいくらかかりますか?

国立の標準額で1,353,600円(入学料282,000円+授業料535,800円×2、計算)です。東京科学大学(理工学系)は1,552,800円(計算)です。私立は、文部科学省の平均で初年度が1,090,714円、2年目も同じ額を仮定すると約197万円(計算)、実例では1,446,000円〜2,465,100円です(2章)。

私立大学院の学費はいくらですか?

令和7年度入学者の初年度の平均は、修士1,090,714円(理・工・農学1,152,740円)、博士後期854,978円です。2年目以降の平均は公表されていません。大学・研究科でかなり違うので、志望先の学費のページで確かめてください(2-2)。

博士課程の学生は給料をもらえますか?

大学院に在籍するだけでは給与は出ません。TA・RAや大学独自の雇用制度で給与を受け取る博士学生もいます。学振DCに採用されると令和9年度採用から月227,000円(給与所得)、SPRINGに選ばれると年180万〜240万円の研究奨励費(雑所得)が出ます。DCの研究奨励金は税法上給与所得とみなされますが、雇用契約による給与とは別です。DCの採用率は令和8年度でDC1 11.2%・DC2 11.9%(計算)です(4章)。

学振DCの手取りはいくらですか?

研究奨励金は月227,000円(令和9年度採用)で、給与所得として学振が源泉徴収します。国民健康保険・国民年金は自分で入るので、その保険料と住民税を引いた額が手元に残ります。保険料と住民税は住んでいる市区町村と前年の所得で変わるので、計算機4に自分の額を入れてください。

博士課程の学費はきついですか?

国立の標準額なら博士後期3年で1,889,400円(計算)です。学生生活調査の博士・一般の学生の平均では、1年の支出が2,077,900円、収入が2,665,100円で、収入の51.9%が学振・SPRINGなどを含む「JASSO以外の経済的支援」です。支援を受けられるかで大きく変わります(4-6)。

大学院の奨学金は返さなくてよくなりますか?

第一種と授業料後払い制度には、在学中の業績で全額か半額を免除する制度があります。2025年度は、修士の貸与終了者の32.9%、博士の38.4%が免除されました(計算)。過去の実績で、個人の免除確率ではありません。第二種は対象外です。令和5年度以降に博士で第一種に採用され、SPRINGやBOOSTを受けた人も対象外です(3-4)。

院生のアルバイトで税金はかかりますか?

大学院は大学に置かれる(学校教育法97条)ので、院生は所得税法の勤労学生控除の「学校教育法第一条に規定する学校の学生」に当たると読めます(当てはめ)。控除額は27万円で、条件は、自分の勤労による所得(給与所得など)があること、合計所得金額が85万円以下(国税庁の案内では令和8年分から89万円以下)であること、勤労による所得以外の所得が10万円以下であることです。学振DCやSPRINGを受けている人は、合計所得がこの上限を超えると読めます(当てはめ)。SPRINGの研究奨励費(雑所得)が「自己の勤労に基づいて得た」所得に当たるかは確かめていません。

大学院に行くと生涯でいくら得ですか?

純利益は出せません。学歴別・年齢別の所定内給与(令和7年)で仮想の累積額を比べると、修士24〜64歳は学部卒22〜64歳より約5,089万円多い計算ですが、賞与・在学中の生活費・税と社会保険料を含まず、2025年に働く人の年齢ごとの平均を並べただけで、同じ人の生涯ではありません。院に行く人と行かない人の違いも入っています(5章)。

8. まとめ

  • 国立の大学院は入学料282,000円・授業料535,800円が標準額で、修士2年1,353,600円・博士後期3年1,889,400円(計算)。標準額の120%(642,960円)まで上げられ、東京科学大学(理工学系)は635,400円
  • 私立は令和7年度入学者の初年度の平均が修士1,090,714円・博士後期854,978円。実例の修士2年は1,446,000円〜2,465,100円
  • JASSOの第一種は無利子で、修士88,000円×24か月なら毎月約12,571円(端数調整あり)を168回、総額2,112,000円。第二種は貸与が終わった月の利率で、令和8年9月は固定方式で上限の3.000%
  • 業績による返還免除は第一種と授業料後払い制度が対象。2025年度は修士の貸与終了者の32.9%・博士の38.4%(計算。過去の実績で、個人の免除確率ではない)
  • 博士の学生は在籍するだけでは給与が出ず(TA・RAや大学の雇用制度で給与を受ける学生もいる)、学振DC(令和9年度採用で月227,000円、税法上は給与所得)、SPRING(年180万〜240万円、雑所得)、BOOST(年390万円、うち生活費180万円以上)が生活費の柱。DCとSPRING・BOOST、DCとJASSOの貸与奨学金は重ねられない
  • 院卒と学部卒の仮想の累積額の差は修士で約5,089万円、学費のみを差し引いた累積の差がゼロになる年齢は35歳の試算(賞与・生活費・税を含まず、同じ人の生涯ではなく、進学の純利益ではない)

金額は年度で変わります。志望先の学費のページ、JASSO・学振・JSTの最新の案内で必ず確かめてください。院試に落ちたときの選び方は院試に落ちたら人生終わり?、入った後に続けるか迷ったときは大学院を辞めたい・中退したら就職は?に書きました。

9. 出典

10. あわせて読む

 

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