「賃貸は資産にならない」の答えは出ています|問題は、買ったあとに何を確認するかです

「賃貸は資産にならない」の答えは出ています|問題は、買ったあとに何を確認するかです 資産運用・ポイ活

この記事は全面的に書き直しました。前の版は「賃貸を選んで、浮いた資金を運用すれば2億円を作れる」という記事でした。そのシミュレーションは全部削除しました。

理由は2つあります。

1つ目 「あなたが2億円になります」という書き方だったからです。前提を置いた計算であっても、主語が読者になっている数字は出しません
2つ目 買うか借りるかの話は、別の記事で書ききったからです。同じことを2回書く意味がありません

だからこの記事は、もう買った人だけに向けて書き直します。

先に、私の立場を書きます

持ち家に住んだ期間 42年です。いま賃貸に出ています
親が買った家 2軒。どちらも新築で買って、20年前後住んで売りました。結果は正反対でした(8章)
買うつもりで見た数 新築のモデルルーム20件以上、中古5件
管理組合の側 区から表彰を受けるほど管理体制が優秀な物件に住んでいました。そこで何が起きたかを3章に書きます
売っていないもの 不動産も、金融商品も売っていません。当サイトは投資助言・代理業の登録をしていません

買えとも、売れとも書きません。書くのは、自分で確認できることの並べ方だけです。

1. この記事は、もう買った人に向けて書きます

買う前の人と、買ったあとの人では、使える手がまったく違います。

買う前 買ったあと
選べること 物件、立地、築年数、契約の形 選べません
できること やめる 直す、待つ、売る
知るべきこと この物件でいいのか この物件で、何が直せて何が直せないのか

買ったあとの人に「賃貸のほうが有利でした」と言っても、何も起きません。だからこの記事では、その話をしません。

買ったあとにできることは、直せる範囲を正確に知ることです。

そして、この範囲は感覚では分かりません。規約と構造と、管理組合の状態で決まっています。全部、今日確認できます。

2. 価格の上下は、どちらも予測です

先に、この記事が扱わないものを外しておきます。

買ったあとの人がいちばん気にするのは「これから上がるのか、下がるのか」です。ここは、意見を書きません。数字を3つ並べます。

公表されている数字
マンションの価格指数 219.0(2010年平均=100、令和7年7月・季節調整値)。前年同月は201.6で、上がっています
人口 2020年の1億2,615万人が、2070年には8,700万人へ。「総人口は50年後に現在の7割に減少」
空き家 900万2千戸・13.8%。どちらも過去最高

人は減ることが分かっていて、住宅は増え続けていて、それでも価格は上がっています。

つまり、価格は人口では説明できていません。だから、次の2つはどちらも予測です。

よく聞く話 実際は
人口が減るから、いずれ下がる 予測です。いまは上がっています
ここまで上がってきたから、これからも上がる 予測です

2-1. だから、予測でないものから決めます

この記事が扱うのは、こちらです。

予測になるもの 今日、事実として確認できるもの
5年後の価格 管理規約で、どこが専有部分でどこが共用部分か
10年後に売れるかどうか 長期修繕計画に、何をいつやると書いてあるか
金利の行方 修繕積立金が、いつ、いくらに上がる計画か
この街が発展するかどうか 決議に必要な賛成の数(2026年4月に変わりました)

右の列は、全部いま手元で確認できます。そして、右の列のほうが生活に直接効きます。

3. 管理が優秀でも、直せないものは出ました

ここは、私が実際に住んでいた物件の話です。

都心の300世帯規模のタワーマンションでした。管理体制が優秀な物件として、区から表彰を受けています。

それでも、20年目の大規模修繕で、直せない箇所が出ました。

これが、この記事でいちばん伝えたいことです。

3-1. 「良い管理組合を選べば大丈夫」は、成り立ちません

買う前の記事には、たいていこう書いてあります。「管理状態の良いマンションを選びましょう」。

正しいアドバイスです。そのうえで、限界があります。

私が住んでいた物件
管理体制 区から表彰を受けています
規模 300世帯規模のタワー
価格帯 1億円を超える部屋がある物件です
20年目の大規模修繕 工事費が不足し、見送られた項目が出ました

理由は、管理の質ではありません。工事費が上がったからです。

積立の計画は、計画を立てた時点の工事費で組まれています。その後に資材と人件費が上がれば、同じ金額で同じ工事はできません。管理組合が優秀かどうかとは、別の話です。

3-2. 見送られたのは、この2つです

見送られた項目
エレベーターの更新
共用廊下の塩ビシートの交換

ここで、大事な断りを入れます。

「20年目に見送った」という事実だけでは、良いとも悪いとも言えません。

エレベーターの更新時期は、機種と、保守用部品の供給状況で変わります。部品の供給が続いているうちは動かし続けて、供給が切れる時期に合わせて更新する——これは、合理的な判断としてあり得ます。25年目、30年目を想定していた可能性があります。

それどころか、メーカーの目安そのものを短すぎると見ている専門家がいます。一級建築士の建山晃氏は、著書でこう書いています。

「まず前提として、各材料の耐久年数表示は、基本的にメーカーが一番短く、次に国交省で、実際はそれよりももっと長いのが現実である。」

「機械はきちんと法定点検すれば30年、40年は問題なく動くそうである。」

これは著者の見解であって、公的な基準ではありません。そう分かるように書いておきます。ただし、「メーカーの目安を過ぎている=危ない」と単純に読むべきではない、という立場が専門家の側にあることは事実です。

実際、私はエレベーターの性能に不満を持っていませんでした。LED化も済んでいました。

性能 不満はありませんでした。LED化も完了していました
台数 300世帯規模で、荷物搬送用の大型を含めて4機です。これは私が「少ない」と感じた点で、公的な基準があるわけではありません

だから、区分所有者が読むべきは「見送られた」という事実ではありません。

「では、いつやる計画になっているのか」です。

これは、長期修繕計画に書いてあります。見送りが判断なのか、不足なのかは、そこを読めば分かります。読み方は4章に書きます。

3-3. 一方、こちらは目安を超えていました

同じ物件で、もう1つ気になっていたものがあります。インターホンです。

メーカーが更新の目安を公表しています。

「インターホンの更新目安は15年です。24時間365日、休みなく働くインターホン設備。インターホンにも家電製品と同じように寿命があります。設置から15年が経過すると、経年変化により修理が必要になったり、最悪の場合、システムダウンにつながる恐れがあります。」(アイホン)

「24時間働くインターホン設備は、15年目を過ぎていたらお取り替えをおすすめします。」(パナソニック)

メーカーの更新目安 15年
私が住んでいた物件 20年の時点で、更新されていませんでした

インターホン本体は、エレベーターほど高額なものではありません。だから、なぜここまで後ろに置かれたのかが分かりませんでした。

ここからは、私の仮説です。

オートロックの認証システムと連動していたので、そちらの工事費が高いと判断されたのかもしれません。インターホンだけを替えるのではなく、エントランスの認証まで含めた工事になるからです。

ただし、これは私の推測であって、管理組合に確認したわけではありません。そう分かるように書いておきます。

3-4. 「判断」と「不足」を分ける2つの例

3-2と3-3は、見た目は同じ「やっていない」です。中身が違います。

エレベーター インターホン
公表された目安 機種と部品供給で変わります メーカーが15年と公表しています
20年時点の状態 更新なし 更新なし
判定できるか できません。計画を見ないと分かりません 目安は超えています

「やっていない」を全部まとめて不安がるのは、意味がありません。

やることは2つです。目安が公表されているものは目安と比べる。目安が一律でないものは、自分の物件の計画を読む。

3-5. 設備の状態は、物件の値段に連動していません

ここが、私がいちばん驚いた部分です。

私は3つの建物のエレベーターを、住む側として見ています。

建物 築年数 エレベーターの状態
区から表彰を受けたタワー(1億円を超える部屋がある物件) 20年 速度も明るさも問題なし。LED化も完了。更新は見送り
買うつもりで内見した中古(5,000万円を超える値がついていました) 30年近く 狭くて暗い。LED化すらされていません。未交換
いま私が借りている部屋(家賃12万円台) 28年 交換済み。明るくて、速度も速い

いちばん安い建物のエレベーターが、いちばん新しいです。

3件しかない観測なので、これで一般化するつもりはありません。それでも、次のことは言えます。

連動していそうなもの 実際は
物件の価格 連動していませんでした
築年数 連動していませんでした(28年で交換済み、30年で未交換)
管理組合が、いつやると決めたか これだけが効いていました

買った金額は、設備の状態を保証しません。

2行目と3行目の違いも見てください。片方は30年近く経ってLED化すらされていない。もう片方は28年で交換済みで、明るくて速い。築年数はほぼ同じです。

だから、自分の物件が高かったことは、判断材料になりません。3-2で書いたとおり、見るのは計画です。

3-6. 国土交通省が、同じことを書いています

私が経験したことは、特殊な例ではありません。国のガイドラインに、そのまま書かれています。

「既存のマンションでは、経年とともに給排水管、エレベーター、機械式駐車場等の大がかりな修繕工事が増加する一方、2回目・3回目の大規模修繕に向けた適切な長期修繕計画の見直しが行われていない等の例も見られます。その結果、必要な修繕積立金が十分に積み立てられず、修繕工事費が不足するといった問題が生じているとの指摘もあります。」

エレベーターは、名指しで挙がっています。

そして、積立額そのものについても書かれています。

「修繕積立金の当初月額が著しく低く設定される等の例も見られます」

もう1つ、時間の話があります。長期修繕計画作成ガイドラインには、こう書かれています。

「計画期間は30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とします。」
「長期修繕計画は一定期間(5年程度)ごとに見直していくことを前提としています。」

5年ごとに見直す前提の計画です。つまり、いま手元にある計画が古い可能性があります。

ここが、買ったあとの人にとっての入口です。計画が5年以上見直されていないなら、書いてある工事費はその時点の価格です。私の物件で起きたことと、同じ形になります。

3-7. そして、逆方向のリスクもあります

ここまでは「工事費が足りない」という話でした。逆があります。

3-2で引いた一級建築士は、同じ本の冒頭でこう書いています。

「マンションの大規模修繕を巡って、悪徳業者や詐欺師が管理組合を騙すときの一番多い手口は、無用な工事をさせて工事費を上げ、業者からバックマージンを受け取るというものである。」

積立金が減る理由は、2つあります。足りないことと、要らない工事に使うことです。

方向 起きること 見え方
不足 やるべき工事が見送られます 設備が古いまま残ります
過剰 まだ要らない工事が実施されます きれいになるので、問題に見えません

下の行が厄介です。過剰なほうは、見た目では気づけません。そして、次の大規模修繕のときに原資が減っています。

同じ著者は、保証の存在にも触れています。

「新しく工事を行ってから10年間は、新築マンションでも築20年マンションの防水工事でも『瑕疵担保責任』があり…保証の範囲内で修繕可能なものに余計にお金を使うのは避けたいところだ。」

買ったあとの人が管理組合に対してできることは、賛成か反対かを決めることだけではありません。

「なぜ、いま、これをやるのか」を聞くことです。不足の側にも、過剰の側にも、同じ質問が効きます。

4. 今日、自分の管理組合を採点できます

3章で「計画を読め」と書きました。何を見ればいいのかを、ここに書きます。

物差しは、自分で作る必要がありません。国が作っています。

マンション管理計画認定制度の「認定基準」です。

4-1. この制度は、たいてい売り手の側から説明されます

この制度が紹介されるときは、ほぼこの文脈です。「認定を受けると、住宅ローンの金利が優遇されます」。

それはそのとおりです。そして、買ったあとの人には関係がありません。

関係があるのは、認定そのものではなく、認定の「基準」のほうです。

認定を取るかどうかは管理組合が決めることですが、基準に照らして自分の管理組合を採点することは、区分所有者なら今日できます。

4-2. 基準を、確認できる形に並べます

認定基準(国土交通省) 何を見れば分かるか
長期修繕計画が7年以内に作成または見直しされている 計画書の日付。3-6のとおり、5年程度ごとの見直しが前提です
計画期間が30年以上で、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれている 計画の最終年度と、大規模修繕の予定年
将来の一時金の徴収を予定していない 計画の中に「一時金」の行があるかどうか
計画期間の最終年度において、借入金の残高のない計画となっている 計画の最後の年に、借入残高が残っていないか
修繕積立金の平均額が著しく低額でない 自分の㎡単価と、国のガイドラインの目安額
管理費と修繕積立金の区分経理がされている 収支報告書
修繕積立金会計から他の会計への充当がされていない 同上
修繕積立金の滞納に適切に対処されている 滞納額と、その処理の記載
長期修繕計画と積立額が総会で決議されている 総会の議事録
管理者等および監事が定められている/集会が定期的に開催されている 規約と、総会の開催実績
組合員名簿、居住者名簿が適切に備えられている 管理会社への確認

上から4つが、いちばん効きます。

3行目と4行目を見てください。「将来の一時金の徴収を予定していない」「最終年度に借入金の残高がない」。この2つが満たされていない計画は、いまの積立で足りていないことを、計画自体が認めています。

4-3. 積立額の目安は、公表されています

5行目の「著しく低額でない」は、比べる相手が必要です。国土交通省がガイドラインで目安を出しています。

建物の階数・延べ面積 専有面積あたりの修繕積立金の額(平均値)
20階未満/5,000㎡未満 335円/㎡・月
20階未満/5,000〜10,000㎡ 252円/㎡・月
20階未満/10,000〜20,000㎡ 271円/㎡・月
20階未満/20,000㎡以上 255円/㎡・月
20階以上 338円/㎡・月

自分の専有面積を掛けると、目安が出ます。70㎡で20階未満・5,000㎡未満の建物なら、335円×70㎡です。

これはあくまで平均値であって、正解ではありません。

機械式駐車場があるかどうか、外壁の仕上げが何か、給排水の方式が何かで、必要額は変わります。目安を大きく下回っているときに「なぜ下回っているのか」を聞くための数字です。

4-4. 私が内見で見たものは、この基準で説明がつきました

私は買うつもりで中古も見て回りました。築30年前後の物件で、こういうものを見ています。

見たもの
築30年近く経っているのに、エレベーターが交換されていません(3-5の2行目です)
地下駐車場のシャッターが壊れたまま。直せないので、鎖が前後するだけのゲートに交換されていました
駐車場の機械式パレットが、壊れたまま放置されています
共用の廊下が汚れています(沿岸のエリアで、潮の影響を受けやすい場所でした)
排水まわりの鉄の部品が錆びて、抜け落ちていました

そして、その部屋には5,000万円を超える値段がついていました。

当時の私は「なんとなく嫌だ」と思っただけでした。いま基準に当てると、言葉になります。

直せないので下位の設備に置き換える、というのは、判断ではありません。3-2で書いた「時期を後ろに置く」のとは違います。置き換えた時点で、その設備は元の水準に戻りません。

5. 直せるものと、直せないもの

ここからは、部屋の中の話です。

私は、直せると思っていたものが直せない、という経験を何度かしました。共通点は1つです。

どれも、買う前には見えませんでした。

5-1. 規約で決まっている境目

いちばん有名なのが窓です。マンション標準管理規約(令和7年10月改正・単棟型)には、こう書かれています。

第7条第2項第3号
「窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。」

自分の部屋の窓が、自分の部分ではありません。だから、勝手に交換できません。

では誰がやるのか。同じ規約に書いてあります。

第22条第1項
「…管理組合がその責任と負担において、計画修繕としてこれを実施するものとする」

第22条第2項
「…あらかじめ理事長に申請して書面による承認を受けることにより…」

誰が決めるか
窓の交換 管理組合の計画修繕。自分だけでは決められません
自分でやりたい場合 理事長に申請して、書面による承認が要ります

ここは、生活に直接効きます。幹線道路沿いでうるさいから防音性能の高いサッシに替えたい——戸建てなら自分で決められます。マンションでは決められません。

5-2. 構造で決まっている境目

規約より手前に、構造で決まっているものがあります。

私が住んでいたタワーは高層階でした。高層階では、重量の関係で、隣との境の壁にコンクリートではなく石膏ボードが使われている部屋があります。

そして、構造としては二重床・二重天井のはずでした。

それでも、音は入ってきました。

ここは正直に書きます。どうすればよかったのか、私には分かりません。二重床・二重天井にしても入る音があった、という事実だけです。だから「二重床二重天井なら安心」とは、私は書けません。

5-3. 言えば直る音と、言っても直らない音があります

これが、住んでみて分かったことのなかで、いちばん実用的でした。

音 言ってみた結果
隣の部屋で、洗濯物のバーを倒すときの大きな音 指摘したら、直してくれました
隣の部屋の生活音 言っても直りませんでした。相手にも直せない種類のものでした
上階のスライドドアの音、ピアノの音 直せませんでした

境目は、音の大きさではありません。相手が意識して変えられる動作かどうかです。

洗濯バーを倒す動作は、意識すれば変えられます。だから言えば直りました。生活そのものから出ている音は、言っても変わりません。

そして、これも買う前には分かりません。内見の時間帯に、その音は鳴っていないからです。

5-4. リモコンでトイレを流したかった話

もう1つ、小さいけれど象徴的な例を書きます。

トイレをリモコンで流せるようにしたいと思いました。後から分かったのは、それをやるには便器ごと交換する必要がある、ということでした。

やりたかったこと リモコンで流せるようにする
実際に必要だったこと 便器の交換
分かったタイミング やろうとしたあと

「部分的に新しくする」ができない箇所があります。

これが、住まいの記事で書いた文明の後退の正体だと思っています。建物が壊れるのではありません。新しい機能が出たときに、それを載せられる形になっていないだけです。

5-5. 共通しているのは、買う前には見えないことです

直せなかったもの 理由 買う前に分かったか
窓 規約 分かります(規約に書いてあります)
隣との境の壁 構造 図面で分かる場合があります
生活音 相手の生活 分かりません
上階からの音 構造と生活の両方 分かりません
トイレの機能追加 設備の構成 調べれば分かりますが、普通は調べません

1行目だけ、買う前に分かります。しかも、規約を読むだけです。

買ったあとの人にとっての意味は、こうです。いま不満に感じているものが、どの行に属するのかを分けてください。規約の行なら、7章に書くとおり、2026年4月から状況が変わっています。

6. 建物のダメージは、感覚ではなく調査で分かります

ここは、私の実体験から始めます。

東日本大震災のあと、住んでいた部屋の壁に亀裂が入りました。そして、それまで入ってこなかった音が、近隣から入ってくるようになりました。

これは、私の部屋で起きたことです。全部の建物に同じことが起きた、という意味ではありません。

6-1. 中古市場では、震災を境に築年を切る買い方があります

私が観測している範囲では、中古を買う人の中に、震災より後に建った物件だけに絞る人がいます。

私も同じ考えを持っています。大きな揺れを受けた建物には、その時点で何かが入っている可能性があるからです。

ただし、これは私の見立てです。どの建物にどれだけ入ったかは、建物ごとに違います。

そして、ここが重要です。

入ったかどうかは、住んでいる本人の感覚では分かりません。

私の場合は、亀裂が目に見えて、音が変わったので気づきました。目に見えなければ、気づきません。

6-2. 調べる制度が、法律に用意されています

建物状況調査という仕組みがあります。宅地建物取引業法に定義が書かれています。

宅地建物取引業法 第34条の2第1項第4号
「…建物状況調査(建物の構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として国土交通省令で定めるものの状況の調査であつて、経年変化その他の建物に生じる事象に関する知識及び能力を有する者として国土交通省令で定める者が実施するものをいう…)を実施する者のあつせんに関する事項」

調査の対象
構造耐力上主要な部分 建物を支えている部分です
雨水の浸入を防止する部分 外壁や屋根まわりです

亀裂が関わるのは、まさにこの2つです。

6-3. そして、売るときには説明の対象になります

ここが、買ったあとの人に直接効く部分です。

宅地建物取引業法 第35条第1項第6号の2
「当該建物が既存の建物であるときは、次に掲げる事項
イ 建物状況調査(実施後国土交通省令で定める期間を経過していないものに限る。)を実施しているかどうか、及びこれを実施している場合におけるその結果の概要
ロ 設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類…の保存の状況」

売買のときに、宅地建物取引士が説明しなければならない項目です。

意味
調査を実施していない場合 「実施していない」と説明されます。それ自体は違反ではありません
調査を実施している場合 結果の概要が説明されます
ロの書類 設計図書や点検記録が保存されているかどうかも、説明の項目です

つまり、いま自分が持っている建物の状態は、売るときに必ず話題になります。

だとすれば、順番を変えられます。売ると決めてから調べるのではなく、売るかどうかを決める前に調べる。

順番 起きること
先に調べる 直すか、直さずに売るか、住み続けるかを、事実の上で選べます
売ると決めてから調べる 結果が悪ければ、価格の話が先に動きます

調査には費用がかかりますし、調べたからといって直せるとは限りません。ここで書けるのは、「感覚で不安がる」以外の選択肢が法律上用意されているという一点だけです。

7. 2026年4月から、決議のハードルが下がりました

5-1で「窓は自分では替えられない」と書きました。その前提が、動いています。

老朽化したマンションの管理と再生を進めるために、区分所有法などが改正されました。国土交通省と法務省の資料によれば、主要な部分の施行日は令和8年4月1日です。

この記事を書いている時点で、すでに施行されています。

7-1. 何が変わったか

決議 改正前 改正後
共用部分の変更(耐震性不足やバリアフリー化等の特定の事由がある場合) 4分の3 3分の2
建替え・敷地売却等の再生(客観的な事由が認められる場合) 5分の4 4分の3
再生(被災時) — 3分の2
決議の母数 区分所有者の全体 出席者の多数決による決議が創設されました
所在等不明の区分所有者 母数に残ります 決議から除外する制度が新設されました

いちばん効くのは、下の2行だと思っています。

7-2. 「賛成が集まらない」の中身が変わりました

古いマンションで工事が進まない理由は、反対が多いからだけではありません。

これまで起きていたこと
連絡がつかない区分所有者が、母数に残り続けます
総会に出てこない人が多いと、賛成の数が足りません
結果として、反対されたわけでもないのに決まりません

反対で否決されたのではなく、無関心で止まっていた、という状態です。

出席者の多数決と、所在不明者の除外は、そこに効きます。

この記事が言えるのはここまでです。具体的にどの決議がどの要件になるかは、事由の種類と物件の状況で変わります。自分の管理組合で確認してください。

7-3. 買ったあとの人にとっての意味

「規約があるから無理」と5年前に言われたことが、いま同じ答えとは限りません。

5-5の表をもう一度見てください。いちばん上の「窓」は、規約と決議の行です。ここは、動いた可能性があります。

下の3行——生活音、上階からの音、設備の構成——は、変わっていません。法律が変わっても、隣の生活は変わりません。

8. 親は同じ買い方を2回して、結果が正反対でした

最後に、買った側の実例を1つ書きます。

私の親は、家を2回買いました。どちらも新築で買って、20年前後住んで、売っています。

1軒目 2軒目
買い方 新築で購入 新築で購入
住んだ期間 約20年 約22年
売った結果 買値とほぼ同額 大幅にプラス

同じ人が、同じ買い方を2回して、結果が正反対になりました。

8-1. 違ったのは、買った人でも、買い方でもありません

1軒目のあった場所では、20年のあいだにコンビニとファストフード店ができました。それだけです。

2軒目のあった場所は、そのあいだに街の側が変わりました。

変数 親がコントロールできたか
買うかどうか できました
新築か中古か できました
何年住むか できました
その20年で、街がどう変わるか できませんでした

8-2. これは、買ったあとの人にとっては良い知らせです

結果が悪かったとしても、それは判断が下手だったからではない可能性が高い、ということです。

私は、自分を責めなくていいという話をしているのではありません。逆です。

自分の判断のせいだと思っていると、次も自分の判断で取り返そうとします。そして、街の変化は自分の判断では動かせません。

動かせないもの 動かせるもの
これからの価格 長期修繕計画を読むこと(4章)
街がどう変わるか 建物の状態を調べること(6章)
20年前の自分の判断 総会で「なぜ、いま、これをやるのか」を聞くこと(3-7)

右の列は、全部いまからできます。そして、右の列だけが自分の手の中にあります。

9. 売るなら、費用と時間がかかります

ここは、売ることを勧める章でも、止める章でもありません。金額の出ていく順番を並べるだけです。

9-1. 仲介手数料には、上限の計算式があります

不動産会社が受け取れる報酬には、国土交通大臣が定めた上限があります。

売買代金の区分 報酬の上限(消費税別)
200万円以下の部分 5%
200万円を超え400万円以下の部分 4%
400万円を超える部分 3%

段階ごとに率が違うので、まとめて計算するときは速算式が使われます。400万円を超える物件なら「売買代金×3%+6万円」です。これは上の3段を足し込んだ結果であって、別のルールではありません。

売買代金 報酬の上限(消費税別)
3,000万円 96万円
4,000万円 126万円

これは上限であって、決まった額ではありません。

9-2. 出ていくものを、全部並べます

売るときにかかるもの
仲介手数料(9-1の計算式)
抵当権抹消の登記費用
譲渡所得への課税(利益が出た場合)
売れるまでの期間。その間もローン、管理費、修繕積立金、固定資産税は止まりません
売値がローン残債を下回った場合、その差額

最後の行が、いちばん重い項目です。売りたくても、残債を下回っていれば差額を用意しないと売れません。

9-3. 買ったあとの人だけが使える制度もあります

逆に、こちらは買った人にしか関係がありません。

制度 内容
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除 マイホームを売ったときに、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例です(国税庁 No.3302)。要件があります
住宅ローン控除 年末残高等×0.7%。合計所得金額2,000万円以下、床面積50㎡以上などの要件があります(国税庁 No.1211-1)

要件は細かく、年によって変わります。金額の判断は税理士か税務署に確認してください。この記事で書けるのは、制度が存在するというところまでです。

買ったあとの人にとって、これは数少ない「持っているほうが有利なもの」です。

10. 判定表|6つで確認する

確認すること 該当したら 対応する章
長期修繕計画の日付が、7年より古い 書いてある工事費は、その時点の価格です 3-6・4-2
計画の最終年度に、借入金の残高が残っている いまの積立で足りていないことを、計画自体が示しています 4-2
計画のどこかに「一時金の徴収」が入っている 同上。時期と金額を確認してください 4-2
修繕積立金の㎡単価が、国の目安を大きく下回っている 下回っている理由を聞く材料になります 4-3
いま不満に感じている点が、どの行に属するか分けていない 規約の行なら動く可能性があります。生活音の行なら動きません 5-5・7-3
総会の議案に「なぜ、いま、これをやるのか」の説明がない 不足の側にも、過剰の側にも、同じ質問が効きます 3-7

6つとも、価格の話ではありません。全部、いま手元の書類で確認できることです。

11. 明日からの1手

1つだけ挙げます。

長期修繕計画の表紙を開いて、日付を見てください。

それだけです。手元になければ、管理会社か理事会に請求してください。区分所有者が見られない書類ではありません。

日付を見ると 分かること
5年以内 いまの工事費で組まれている可能性が高いです
7年より前 認定基準を満たしていません。工事費は当時の価格です
そもそも存在しない ここがいちばん重い状態です

私が住んでいた物件で起きたことは、この1点に集約されます。計画を立てた時点の工事費と、実際に工事をする時点の工事費が違いました。管理体制は優秀でした。

12. まとめ

この記事で書いたこと
2章 価格の上下はどちらも予測です。予測でないものから決めます
3章 区から表彰を受けた管理組合でも、工事費が上がれば直せないものが出ます
3-5 設備の状態は、物件の価格にも築年数にも連動していませんでした
4章 国の認定基準が、そのまま自己診断のリストになります
5章 直せないものには、規約の行・構造の行・相手の生活の行があります
6章 建物の状態は、感覚ではなく調査で分かります。売るときには説明の対象です
7章 2026年4月から、決議の要件が下がりました。規約の行は動いた可能性があります
8章 親は同じ買い方を2回して、結果が正反対でした。効いたのは街の側です

全体を1行にすると、こうなります。

買ってしまったあとにできるのは、価格を当てにいくことではありません。自分が直せる範囲を、規約と計画と構造から正確に知ることです。

前の版に書いてあった「賃貸を選んで運用すれば2億円」というシミュレーションは、全部削除しました。すでに買った人にとって、そこに書いてあることは1つも実行できないからです。

13. あわせて読む

記事 どちら向けか
「家賃がもったいない」という話 まだ買っていない人向けです。買うか借りるかの判断と、文明の後退について書きました
賃貸を探すときに見ているもの 借りる側の話です。やり直しコストで判断します
利益 ÷ 拘束日数 当サイトの判断基準です

14. 出典

出典 この記事で使った箇所
国土交通省「マンションの管理計画認定の基準」 認定基準の全項目(4-2)
国土交通省「マンション管理計画認定制度」 制度の全体(4-1)
国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」(令和6年6月改定) 計画期間30年以上・大規模修繕2回以上、5年程度ごとの見直し(3-6)
国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」等の見直しについて 修繕積立金の目安額、当初月額が著しく低い例、経年に伴う修繕工事の増加(3-6・4-3)
国土交通省「『マンション標準管理規約』を改正します」 第7条第2項第3号(窓枠及び窓ガラス)、第22条(計画修繕・理事長の承認)(5-1)
国土交通省「令和7年マンション標準管理規約改正の概要」 決議要件の変更(3/4→2/3、4/5→3/4)、出席者の多数決、所在等不明区分所有者の除外(7-1)
国土交通省「令和7年マンション関係法改正とこれからのマンション管理」 施行日(主要な部分は令和8年4月1日)(7章)
法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」 改正法の成立・公布と施行(7章)
e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」 第34条の2第1項第4号(建物状況調査の定義)、第35条第1項第6号の2(重要事項の説明)(6-2・6-3)
アイホン「インターホンには、寿命があります」 更新目安15年(3-3)
パナソニック「設備の寿命|リニューアルが必要な理由」 15年目を過ぎたら取り替えを推奨(3-3)
建山晃『[新装版]マンションの大規模修繕でダマされない方法』(彩図社)/THE GOLD ONLINE 掲載分 メーカーの耐久年数表示が短いという見解、法定点検での稼働年数、無用な工事の手口、瑕疵担保責任(3-2・3-7)。公的資料ではなく、著者の見解です
国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」 3,000万円の特別控除(9-3)
国税庁「No.1211-1 住宅の新築等をし住宅借入金等特別控除を受ける方へ」 年末残高等×0.7%、所得と床面積の要件(9-3)
国土交通省告示「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」 売買の媒介の報酬の上限(5%・4%・3%)(9-1)
国土交通省「不動産価格指数」 マンションの価格指数219.0(令和7年7月・季節調整値)(2章)
総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」 総住宅数、空き家900万2千戸・13.8%(2章)
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」 2070年に8,700万人、「総人口は50年後に現在の7割に減少」(2章)

制度も基準も改定されます。日付と金額は、必ず原典で確認してください。

15. この記事について

立場 持ち家に42年住み、いまは賃貸です。親が買った2軒の売却も見ています。買うつもりで新築20件以上・中古5件を回りました
売っていないもの 不動産も、金融商品も、リフォームも売っていません。当サイトは投資助言・代理業の登録をしていません
専門家ではない部分 弁護士でも、税理士でも、建築士でもありません。条文と公表資料の範囲までしか書いていません
物件を特定していない理由 いま住んでいる方と管理組合に影響が出るためです。数字と事実だけを書きました
推測だと明記した箇所 3-3(インターホンが後回しになった理由)、6-1(震災を境にした築年の切り方)
前の版との違い 「2億円を作る」シミュレーション、老後に地方でタワーマンションを現金購入する試算、配当で年360万円という記述、出典のない年利と利回り——全部削除しました
本文中の宣伝 0本です

売れとも、住み続けろとも書いていません。書いたのは、いま手元の書類で確認できることの並べ方だけです。

 

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